α世代のトレンドを生む、さまざまなプラットフォーム発のコンテンツ:STYLUS Trend Topics⑩

STYLUSTrendTopic

この連載では、世界中のマーケット潮流をリサーチ・レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の日本法人でカントリーマネジャーを務める秋元陸さんに、同社のグローバルレポートに基づき、企業の広報・マーケティング担当者が知っておくべきトレンド情報を解説していただきます。

第10回では、11月の大統領選挙に向けてさまざまなマーケティングコミュニケーションが繰り広げられている、アメリカの最新ポップカルチャーについて、紹介していきます。

アメリカ大統領選とポップカルチャー

アメリカでは、今、大統領選挙に向けていろいろなマーケティングコミュニケーションが繰り広げられています。その中で、民主党の大統領候補者であるカマラ・ハリスさんに関するミームがたくさん出てきていて、#Kamalacoreというハッシュタグも人気です。大統領選自体はアメリカ国内のものですが、実際には世界中にそうしたトレンドとか論争を巻き起こしているのです。

カマラ・ハリスさんが大統領候補者として民主党に指名されて以来、彼女が直接、あるいはSNSアカウントを通じて発信してきたことをミームっぽく切り取った動画や、そこから派生した動画が、ネットに多く拡散されるようになりました。こうした政治とポップカルチャーが交差した現象は「ポリティカル・ブラッド・サマー」などと呼ばれますが、これは「Brat」という反抗的で楽しい夏をテーマにしたアルバムを発表して若者に支持されているイギリスのポップスター・Charli XCXが、「カマラはブラットだ」と発言したことがきっかけでした。

ハリスさん陣営のキャンペーンではすぐにこの「Brat」を取り入れ、テーマカラーであるネオングリーンをビジュアルに採用するなどして若者たちにアピールしたのです。さらに支持者たちが勝手にカマラグッズを作ったり、他の人気動画とハリスさんを結びつけてInstagramでメッセージを発信したりしています。こうしたムーブメントが影響したのか、ハリスさんが候補者になった時に、トランプさんとの差が一気に20ポイントくらいに開いて、かなり話題になりました。ハリスさんは一定層の若い子たちに支持されているのです。

このように、ポップカルチャーの文脈の中で大統領選挙の話が出てくるというのは日本では少し違和感があるかもしれませんが、今、アメリカでは、それくらい大きなトピックとして扱われています。今後、ハリスさんを支持している若い子たちが、対抗馬であるトランプさんの支持者のような過激な人たちとバトルを繰り広げていくのか、あるいは、ここから改めていろいろな政治論争が始まったりするのかという点も興味深いです。

#Kamalacore
TikTokにおける#Kamalacoreのポスト。

Robloxの「Dress to Impress」とファッションムーブメント

最近のカルチャー関連の話題としては、Robloxで人気のゲーム「Dress to Impress」があります。このゲームからの切り抜き動画が、今、TikTokでバズっているのです。

「Dress to Impress」は2023年の11月にローンチされ、すでに何百万回もプレイされています。ファッションコーディネートを競うゲームで、それを他のプレイヤーに評価してもらったり、SNSにアップしたりすることがトレンド化しました。

このゲームは、自分のアバターに対して、たとえば「夏のビーチ」のような特定のテーマに沿ったスタイリングをしていくものです。コーディネートが完成したら、ファッションショーのようにキャットウォークを歩かせてポーズを取ります。ここで、誰が「夏のビーチ」のイメージに合っているかを周囲のユーザーが判定し、上位3人に選ばれるとゲーム内で使えるコインを獲得するという仕組み。オンラインゲームという特性を生かして皆で同じコーディネートをして楽しんだり、自分のアバターのコーディネートをSNSやTikTokにアップしてバズらせるということが、新たなムーブメントを発生させている印象があります。

Dress to Impress

Dress to Impress

Dress to Impress
「Dress to Impress」のサイトより。

これまでは、ファッション感度の高い人たちだけが、自分のコーディネートや有名人のファッションチェックなどをTikTokに投稿してエンゲージメントを集めていました。しかし、最近では、Robloxのゲームの中での体験や表現を切り取って、ゲームの外にあるTikTokなどのSNSで発信するようになりました。TikTokのユーザーは、もちろんリアルなファッションも好きだけれど、メタバース的な世界の中の動きやファッション性にも共感を抱き、人気を集めたりしているので、そういうところが新しいポップカルチャーのポイントかと思います。

また、「Dress to Impress」で流行ったアイテムやコーディネートがミーム化して、ユーザーはそれを欲しがります。そういう服やアクセサリーをRobloxの中で獲得するための「コード」があって、それを入力すると新たなアイテムをゲットできます。そうやって、独自のコーディネートによって「Dress to Impress」内で影響力を持つようになったユーザーが、DTI(Dress to Impress)インフルエンサーズというジャンルを生み出したのです。リアルな世界でのファッションやトレンドにはあまり興味がなかった人たちが、ゲームの世界ではアバターファッションの取り組みでリードしていくようなことが起こっていることが興味深いと言えます。

 

「Skibidi Toilet」現象から見えるα世代のトレンド

次にご紹介するのは、ちょっと意外なコンテンツ。「Skibidi Toilet」というYouTubeコンテンツで、人の顔が付いたトイレという謎のキャラクターが架空の世界で戦う、ショートアニメのシリーズです。

2〜11歳のα世代の子どもたちは、ディズニーよりもYouTubeのコンテンツを3倍多く見ていると言われていますが、この「Skibidi Toilet」もYouTubeから生まれました。すでに累計何百億回も再生されて、「Skibidi Toilet」のミームも若い世代の子たちの間でバズっています。

日本では「かわいい」ものがトレンドになったりしますが、こちらは「かわいい」とはほど遠く、少し強面の男性のキャラが立っているところが特徴です。2023年2月にスタートして、すでに70本近くの動画が投稿され、トータルの再生回数は650億という、想像もつかない数になっています。

このシリーズの骨子は、人間の頭がついたトイレが監視カメラを擬人化したキャラと、ディストピアの世界を征服するために戦うというものです。そう言われても意味がわかりませんね。しかし、その謎に満ちたぶっ飛んだ世界観がおもしろいと話題になっています。

Skibidi Toilet

Skibidi Toilet

Skibidi Toilet
「Skibidi Toilet」のサイトより。

これまでは子ども向けのコンテンツというと、教育テレビの番組やディズニーアニメのような道徳心を育むものが多かったわけですが、YouTubeやRobloxのように自分たちの好きなコンテンツだけにずっと触れていられる環境がある今の若い世代は、「Skibidi Toilet」のように奇抜で、特に意味はなくてもなんとなくおもしろくてカッコいいみたいなものを支持しているところがあります。このコンテンツには、最近のゲーム「フォートナイト」や「リーグ・オブ・レジェンド」に代表されるオンラインバトル系のトンマナが含まれていることも特徴です。描写がグロかったりあちこちで爆発が起こったりと本当に意味のわからない世界観なのですが、ともかくそれが子どもたちの間では人気なんですね。

トランスメディアと新たなIPビジネスの台頭

こうしたトレンドが生まれた結果、いろいろなブランドやエンタメ系の企業が、ここから生まれたコンテンツをIP(知的財産)化して映画やキャラクターグッズを作ったり、キャンペーンで使ったりしている状況です。日本でいえば「ちいかわ」とか「おぱんちゅうさぎ」のような感じで、このような動きが過熱しています。すでに、ビデオゲーム「マインクラフト」でも「Skibidi Toilet」のキャラクターをモチーフにしたアバター服などが数多く出てきていますし、RobloxでもこのIPを生かしたコンテンツが大人気です。

日本から見ていると、YouTubeでバズったコンテンツやIPがトランスメディア的な流れを生み出して、それこそ一瞬でRobloxやTikTokなどのSNS、そしてまた別のゲームのプラットフォームへとどんどん拡散されています。すでに年末のクリスマス商戦にも、この「Skibidi Toilet」のオモチャが投入されることが公式にアナウンスされているほどです。

このように、インターネットやゲームから出てきたコンテンツが、若い世代の新たなアイコン的存在になっており、いわゆるコンテンツホルダーと呼ばれる大手の芸能事務所やプロダクションではなく、一般のユーザーが作ったものが世の中でひとり歩きする現象が、いろいろなところで同時多発的に起こっているところが特徴になっています。

IPビジネスに関して積極的に取り組んでいる日本としては、とりあえず「大人から見たら何がおもしろいのかわからないものが、若い世代の熱狂を生むカルチャーが育ちつつある」と捉えればわかりやすいかもしれません。これまでは任天堂やディズニー、ワーナー・ブラザース、ピクサー・アニメーション・スタジオなどが子どもたちのアイコンとなるようなIPを生み出してきましたが、今はいろいろなプラットフォームに目配りをして、そこから流行の種のようなものを見つけていくことがおもしろいでしょう。

実のところ、こういうことはエンターテインメント業界では少し特殊な流れであって、たとえばディズニーの映画『インサイド・ヘッド』のキャラクターがすぐにYouTubeの動画コンテンツになるかといえば、そうとも限りません。同じように、ディズニー公式の動きとしては、プロモーションやキャンペーンの一環としてキャラクターのコスチュームが作られたりはするでしょうけれども、それがRobloxのゲームになったりマインクラフトのアイテムになったりするようなことは考えられません。

今後のコンテンツビジネスやエンターテインメントカルチャーの領域では、そうした新しいプラットフォーム上で流行っていくコンテンツやトンマナをいち早くつかみ取って広げていくことが重要な考え方になってくるでしょう。そして、カルチャー的な流行り物を抑えるだけでなく、コンテンツビジネスの戦い方が変わってきているということを覚えておいてください。

その意味では「『Skibidi Toilet』がなぜ流行っているのか?」ということにはさほど意味がなくて、半年後や1年後にも大きなムーブメントであり続けている保証もありません。ただ、さまざまなプラットフォームから生まれた新しいIPやコンテンツが、一瞬で他のプラットフォームをジャックして大きなムーブメントを生んでいくという現象が起こっていることを、感覚としてつかんでおくことが大切なのです。

関連記事:過去のSTYLUS Trend Topicはこちら


文:大谷和利
編集:大橋智子
AD[top]:中村圭佑

メルマガ登録.jpg

お問い合わせ先.jpg

SOLUTION

STYLUS

STYLUS

ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。

KEYWORD キーワード

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる