グローバル企業の成功事例に学ぶ、顧客を掴んで離さない”ブランドストーリーテリング”とは

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目次:


ブランドのストーリーテリングは、商品やサービス以上の価値を伝え、消費者と感情的に深いつながりを構築するための強力な手法です。特に、商品機能の差別化が難しくなりコモディティ化が進む今の市場において、ブランドが持つ独自の歴史やストーリーが消費者の購買行動を左右する場面が増えてきているようです。

ストーリーテリングは海外で確立されたブランディング手法であり、多くの企業が業界や規模を問わず取り入れています。本記事では、効果的なストーリーテリングの基礎知識や方法を解説し、優れたブランド事例も交えながら、ブランドコミュニケーションに役立つヒントを提供します。

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ブランドのストーリーテリングとは

ブランドのストーリーテリングとは、製品、サービス、価値観などを、最古のコミュニケーション形式のひとつである「物語」に落とし込み、顧客に伝える手法です。これにより、顧客は商品そのものよりも、背景にあるブランドの信念や姿勢に共感し、購買行動を起こすようになります。またブランド側にとっても、長期的なブランドロイヤリティを築くことができるようになります。

ハーバード・ビジネス・レビューの研究によると、人間の脳はストーリーに自然と反応し、信頼を促すホルモンである「オキシトシン」を放出することがわかっています。スタンフォード大学経営大学院のジェニファー・アーカー博士も「ストーリーはファクトよりも約22倍記憶に残りやすい」と指摘し、各方面で人間の記憶力や感情への訴求効果を強調しています。

ブランドストーリーの重要性

ブランドストーリーは、競争が激しい市場で他社と差別化するために不可欠な要素です。巧みに作られたストーリーは顧客の感情を呼び起こし、強烈な印象を与えます。以下のデータも、ブランドストーリーが購買行動に与える影響の大きさを示しています。

・消費者は毎日約5,000件の広告やメッセージに触れるが、そのうち意識するのは約 86 件で、記憶に残るのは12件のみ(The Drum
・81%の消費者が商品購入時に「信頼できるブランド」であることを重要視している(EDELMAN
・55%の消費者は気に入ったブランドストーリーがあると将来その商品を購入する可能性が高く、44%がブランドストーリーを共有し、15%がすぐに製品を購入する(Headstream

さらに、優れたブランドストーリーはメディアやSNSでのシェアを通じて拡散されやすく、自然発生的なプロモーション効果を生み出すことにもつながります。

優れたブランドストーリーを作り上げるためのポイント

ブランドの存在意義を明確にする

単なる利益追求ではなく「なぜブランドが存在しているのか」を明確にするのがファーストステップです。顧客にどのような価値を提供するか、どのような問題を解決するのかを考えます。

ブランドのヒーローを決める

ブランドストーリーには常に「ヒーロー」が必要です。つまり、物語の中心に据えるべき存在のことで、ブランドそのものでも顧客や特定の商品やサービスでもかまいません。顧客の成功や変革をストーリーに組み込むことで、共感や信頼を得ることにつながります。

顧客の感情に訴えるストーリーにする

ブランドストーリーは、顧客の感情に働きかけることが重要です。喜び、インスピレーション、エンパワーメントなどのポジティブな感情を引き起こすのが、成功するストーリーの条件とも言えます。

シンプルさを追求する

ストーリーが複雑すぎると、伝えたいメッセージがぼやけてしまいます。それだけでなく、現代の消費者は短く簡潔なメッセージに強く反応する傾向があるため、極力シンプルにまとめることを意識しましょう。

一貫性のあるメッセージにする

ブランドストーリーは、すべてのマーケティングチャネルやコミュニケーションにおいて一貫性を保つことが重要です。オンライン、オフラインなどあらゆる接点でブレないストーリーを訴求する必要があります。

ブランドストーリーの代表的なタイプ

ブランドストーリーにはいくつかのタイプが存在し、企業の目的やターゲットオーディエンスに応じて適したものを選ぶことでより効果を発揮します。以下に、ブランディングにおける代表的なストーリーテリングのタイプを紹介します。

・創業ストーリー:企業やブランドの創業にまつわるストーリーは、その歴史・背景や創業者のビジョンを伝えるのに効果的です。構成のしやすさという意味でも、ブランディングにストーリーテリングをはじめて採用する際に取り入れやすいテーマと言えるでしょう。

・ミッション・ビジョンのストーリー:企業やブランドが目指す社会的なミッションやビジョンを打ち出します。自分たちが何者で、なぜ取り組むのかなどの価値観を伝えることで、顧客に共感と信頼を生み出します。

・顧客体験に基づくストーリー:実際の顧客がどのようにブランドや商品・サービスを体験したのかをストーリーに落とし込むことで、消費者がより自分ごととして捉えやすくなります。ブランドは、獲得できる可能性のある潜在顧客にリーチしやすくなるでしょう。

・社会的意義を重視したストーリー:社会問題や倫理的な価値観に触れるストーリーです。近年はSDGsやジェンダーにまつわる価値観を重視してブランドストーリーを構築している企業やブランドが増えてきています。社会貢献につながるかどうかに重きを置く消費者を呼び込むのに効果的です。

巧みなストーリーテリングで顧客の心を掴むグローバルブランド事例7選

Apple:シンプルさと革新性を軸にしたストーリーテリング

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Appleは、「革新性」「シンプルさ」「優れたデザイン」で強固なブランドを築いている、言わばブランドストーリーテリングの達人です。同社の広告も、エモーショナルな訴求が毎度注目されています。

例えば、1997年の広告キャンペーンのスローガン「Think different」は、創業者のスティーブ・ジョブズが当時社内でより強化されるべきだと考えていた哲学を反映させたものです。現在のAppleを支えていると言っても過言ではないこの言葉は、顧客に対しても、自社製品やサービスを通じて発信されています。あらゆる顧客接点においてストーリーテリングを巧みに使いこなし、自社製品が単なるデバイスではなく、どのように人々の生活にイノベーションを起こし、創造性を掻き立てているかということを一貫して強調してきました。

Appleのシンプルかつエレガントなデザインや感情的なつながりを重視するストーリーテリングは、揺るぎないブランドとしての地位を築く決定的な要因となっています。

Volvo:顧客体験中心のストーリーテリングで安全性を訴求

出典:Volvo

「安全性」というキーワードは、自動車メーカーのVolvoの代名詞とも言える言葉です。同社は、安全性に対するブランドの長年のこだわりをブランドストーリーの中心に据え、消費者に対して「家族を守る最も安全な選択肢」というメッセージを伝えています。

例えば、同社のYoutubeで公開されている「A Million More」は、Volvoが1959年に導入した3点式シートベルトにまつわる動画で、この製品によって命が助かった生存者へのインタビューを掲載しています。導入当初は批判の声が多かったという同社のシートベルトがこれまでに100万人以上の命を救い、今や車に欠かせない機能となりました。その長い歴史を伝えるストーリーは約2分という短尺ながらも人々の胸を打ち、2024年10月現在で1380万以上の再生回数を記録しています。

ユーザーの体験談や、事故から家族を守った事例を通じてVolvoが提供する「安全」を明確に打ち出すストーリーテリングは、顧客の共感を生み、信頼性を高めることにつながっているのです。

Dove:女性の「美しさ」の本質を捉え直し、多様性や自己肯定感を讃える

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出典:Dove

パーソナルケア製品のグローバルブランドであるDoveは、2004年の「Real Beauty(リアルビューティー)」キャンペーンで、美の基準を覆し、あらゆる女性の本来の美しさを祝福するメッセージを打ち出しました。従来の広告に登場するスーパーモデルではなく一般の女性たちを起用し、年齢、体型、肌の色に関係なく「本物の美しさ」を称賛することで、消費者の自己肯定感や多様性という価値観に訴えかけたのです。

このキャンペーンは単発のプロモーションにとどまらず、社会的なメッセージを強調することで、結果としてDoveを「美しさの基準を問い直すブランド」として際立たせることとなりました。特に、現代の消費者が各ブランドに期待する「社会的意義」を比較的早いタイミングで強く打ち出したことも功を奏し、感情的なつながりを永続的に築くことに成功しています。

スニッカーズ:「お腹がすくと、君じゃなくなる」。普遍的な経験をユーモラスに描く

出典:Snickers UK

チョコレートバーブランドのスニッカーズが2010年に展開した「お腹がすくと、君じゃなくなる(You’re Not You When You’re Hungry)」キャンペーンは、ユーモアを交えたストーリーテリングの成功例です。このキャッチーなスローガンは現在のスニッカーズの代名詞でもあり、同社のブランディングに欠かせない要素となっていることは言うまでもありません。

キャンペーンでは空腹が引き起こすネガティブな行動をコミカルに描きつつ、スニッカーズを食べることでその問題が解決するというシンプルな構成でメッセージを伝えています。かつてのTVCMでは、俳優のベティ・ホワイトがアメフトをしている最中にだんだんと荒くれ者になる様をユーモラスに描いたものや、ローワン・アトキンソンが彼の代名詞とも言える名キャラクターの「Mr. ビーン」を再演して話題になり、従来のブランドイメージを覆すことに成功しました。

同社のストーリーテリングは、消費者の誰もが共感できる普遍的な経験に基づいています。遊び心あふれるユーモラスな展開で自らに起こりうる課題を想起させ、ブランドへの親しみを感じさせています。同時に、商品の解決策としての明確な役割を強調しています。

Patagonia:環境保護と持続可能性へのコミットメントを強調

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アメリカ発祥のアウトドアブランドとして知られるPatagoniaは創業以来、地球環境の保護や持続可能性の実践に積極的に取り組む姿勢をブランドストーリーのコアに据えてきました。2018年からは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッション・ステートメントを掲げ、環境保護に対するより一層強いコミットメントを打ち出しています。

Patagoniaのストーリーテリングで特徴的なのは、顧客に対して「同社の製品を買うことで、環境保護に貢献している」と強く意識づけ、行動を促している点にあります。不要な製品の買い取りプログラム「WORN WEAR」や製品の修理、サステナブル素材の使用の推進を強調することで、単にアウトドアウェアを購入する以上の社会貢献を顧客に体験させ、ブランドロイヤルティを高めています。

公式サイトのトップページに掲載されている創業者のイヴォン・シュイナードのメッセージからも、Patagoniaの社会的責任に対する揺るぎない信念が垣間見えます。企業としての利益を過度に追求しないという姿勢もまた、持続可能な社会の発展とモラルビジネスの実践を重視する消費者の熱狂的な共感を呼び、強固なブランドイメージを構築しているのです。

 Airbnb:世界中のユーザー体験がブランドストーリーを強固に

出典:Airbnb

民泊事業のパイオニアとして知られるAirbnbは、宿泊施設の提供という事業を超えて「旅を通じて世界中の人々とつながることができるプラットフォーム」を提供しています。地元のホストとの触れ合いや、旅行先でのユニークな体験をストーリーとして伝えることで、「世界をより居心地よく、誰もがどこにも所属できる開かれた場所にする」というビジョンを明確に打ち出しているのです。

Airbnbのブランド力をより強固にしたのは、ユーザー作成コンテンツ(UGC)を活用した「体験」を軸にしたストーリーテリングです。ホストもゲストも、既存ユーザーはAirbnbのサービス利用に対する熱量が非常に高く、自身の経験を自発的にシェアしていました。そこで、同社のあらゆるプラットフォーム上でも、彼らのストーリーを定期的に発信しています。

ユーザー体験に基づいた熱狂的なストーリーの共有が、Airbnbのコミュニティの強化とブランドアイデンティティ形成を加速させました。またたく間にグローバルブランドとして成長した同社はいまも、企業や顧客という概念を超えてブランドストーリーを伝え、彼らのビジョンを世界中に広げ続けています。

LEGO:創造力と家族のつながりをストーリーで紡ぐ

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デンマークの老舗玩具ブランドのLEGOは、その歴史や文化的背景から高いブランド力を誇り、今なお世界中で愛され続けています。同社がストーリーテリングにおいて一貫しているのは、子どもたちの創造力と想像力を引き出し、無限の可能性に満ちた世界を作ることを強調している点にあります。

LEGOブロックを「自由な世界を構築できるプラットフォーム」として提供し、子どもたちの学習と発達に不可欠である「遊び」の面から、創造性や探究心を育めるように設計されています。LEGOブロックで小さな町から空想の世界まで、想像できるあらゆるものをつくることで、子どもたちが遊びを通じて自分だけのストーリーを生み出すことができるという魅力を伝え続けます。

こうした同社の考えは世代を超えて、子どもたちだけでなく大人にも共感を与えるメッセージとなっています。同社は他者とLEGOを楽しむ時間を「一緒に創り上げる楽しさ」と捉え、親子の絆や友達との共有体験も与えているのです。

LEGOのブランドストーリーは、体験を通じて消費者とブランドの感情的なつながりを生み出しています。遊びの喜びや、1 つずつ夢の世界を組み立てていくカラフルなブロックの魅力は、後世にわたって幅広い世代に語りつがれていくでしょう。

魅力的なストーリーテリングでブランド価値を高めよう

これらの企業に共通するのは、製品そのものではなく、顧客がそのブランドを通じて得られる「体験」や「感情」に重きを置いている点です。消費者は商品そのもの以上に、その背後にある物語や価値観に共感し、長期的な信頼関係を築くことを期待していますブランド・マーケティング担当者は、これらの成功事例を参考に自社のブランドストーリーを見直し、顧客と感情的につながる方法を模索することで、より効果的なブランドコミュニケーションを実現できるでしょう。

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