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近年、私たちが学んだことがあるとすれば、それは 「想定外を想定せよ」 ということです。政治的対立や戦争、そして長引くCOVID-19の影響により、世界は混乱し、不安定な経済や生活費の高騰が深刻化しています。若い世代は、安定した経済を期待するどころか、先行きの見えない未来を受け継ぐことを余儀なくされています。
このような状況下で、Z世代やミレニアル世代が 「この混沌とした世界に対する解毒剤」 を求めるのは当然のことではないでしょうか?実際に、Z世代とミレニアル世代の10人のうち3人が経済的な不安を感じ、10人のうち6人が気候変動などの問題に頭を抱えていると言われています。そんな中、若年層は日々のニュースの憂鬱さから少しでも解放されることを強く望んでいます。こうしたニーズを理解しているブランドは、高い成果を上げています。
ここでは、 この混沌とした時代を逆手に取り、ユニークな視点で表現した7つのエキセントリックな若年層向けブランドキャンペーンを紹介します。
イギリスの家電量販店「Currys」は、ユニークな動画とジョークが話題を呼び、瞬く間にTikTokで人気者になりました。たとえば、馬がニワトリを蹴飛ばしたり、アヒルがCurrysの店舗に向かったり、従業員が床を転がりながらカレーを食べたりと、常識にとらわれないコミカルなショート動画が次々と投稿されています。
これらのユーモラスな動画は、Currysのキャンペーン 「Beyond Techspectations(テクノロジーへの期待を超えて)」 のひとつ。ちょっと奇妙でクセになる世界観を通じて、視聴者にちょっとした息抜きを提供しています。
Currys社はTikTokだけでなく、テレビやオンライン、YouTube、FacebookなどのSNSでもブランド紹介動画を公開しています。これらのコンテンツに共通するのは、「深刻になりすぎず、楽しさを大切にしながらも、顧客に最高の製品とサービスを提供するために常に期待を超える努力をする」というメッセージです。
たとえば、馬がニワトリを蹴飛ばすシーン。一見、ブランドとは無関係に思えますが、実は蹴られたニワトリがノンフライヤー調理器の中にぴったり収まるというオチになっています。この動画は370万回以上再生され、26万9,000もの「いいね」を獲得しました。
Currys社のコンテンツの中心には、従業員がいます。彼らはブランドに人間味を与える存在として、軽快でユーモラスなシーンにたびたび登場します。こうした親しみやすい描写を通じて、スタッフが「お客様と同じ目線」であることを伝えると同時に、専門知識とスキルを持っていることをアピールしています。
このコンテンツは、親しみやすさとユーモアを兼ね備えながらも、「顧客に最高のものを全力で提供する」というブランドの核となるメッセージを際立たせています。また、遊び心のあるストーリーを通じて、製品を実際のシーンに落とし込むことで、視聴者を楽しませるだけでなく、顧客満足への強いコミットメントを効果的に伝えています。
ケチャップの最後の一滴をすくうために、どこまで頑張れますか?Heinz社は「The Last Drop(最後の一滴)」キャンペーンで、この問いに挑戦しました。人々がソースの最後の一滴を出し切るために、思わず取ってしまうクレイジーな行動をユーモラスに描いたのです。
このキャンペーンは、屋外広告やソーシャルメディア、デジタルチャネルのほか、紙媒体でも展開されました。ケチャップを無駄にしないためにハンドルを舐める人、不格好に肘を舐めようとする人、さらには赤ちゃんの顔を舐めてしまう人まで登場します。
わずか5日間で制作されたこのキャンペーンは、Heinzのグローバルプラットフォーム「It has to be Heinz(Heinzでなくっちゃ)」の一環として展開されました。これは、「お気に入りのHeinz製品のためなら、人々はどんなことでもしてしまう」という消費者インサイトを見事に捉えた内容になっています。
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「The Last Drop」キャンペーンは、人々がHeinzケチャップに対して抱く異常なまでの愛を称えるものです。アイデアは、SNSで話題になった「母親が赤ちゃんの顔についたケチャップを舐めとる動画」から着想を得たとしています。
このキャンペーンは、顧客の声に耳を傾け、そこから学び、共感を生むマーケティングを素早く展開するHeinz社の柔軟な対応力を証明するものでもあります。
紙媒体を中心に展開されたビジュアルは、大胆で鮮やかなデザインが特徴。最小限の言葉と魅力的なビジュアルだけで、見る人に「ケチャップたっぷりのハンバーガーやポテトチップスが食べたい!」と思わせる仕上がりになっています。
犬の尻尾は、飼い主にとってペットの気分を知るバロメーターであり、一般的には尻尾を速く振るほど犬は幸せだと考えられています。では、犬を舞台の中央に立たせ、美味しいおやつで誘惑し、その尻尾の振る速さでオーケストラの生演奏を指揮したらどうなるでしょうか?
ペットフード会社のPedigreeは、まさにこの発想を形にしました。「Tail Orchestra(テイル・オーケストラ)」は、究極の顧客であるペット自身を舞台の主役に据え、Pedigreeのフードに対する“本音”を引き出すという、マーケティングの天才的アイデアです。
犬たちは指揮台に立ち、目の前のおやつにワクワクしながら尻尾を振ります。そのスピードに合わせて、後ろのオーケストラが生演奏。「犬が指揮するオーケストラ」というユニークな光景を実現させました。
最も優秀なブランド支持者は、顧客です。ペットフード業界で、「このフードが本当に愛犬に喜ばれている」と飼い主に納得してもらうにはどうすればよいでしょうか?
Pedigree社の 「Tail Orchestra」 は、その答えを見事に示しました。犬が喜びを表現する愛らしい描写は、世界中のペットの飼い主たちの心を掴んだのです。
さらにPedigree社は、キャンペーンの一環として、犬が指揮した10曲を詰め込んだオリジナル音楽アルバムをSpotifyでリリース。 犬のしっぽが生み出した音楽を、世界中の人々が楽しめるようにしました。
大手眼鏡チェーンSpecsavers社のスローガン「Should’ve Gone to Specsavers(Specsaversに行くべきだった)」 というスローガンは20年間にわたって使われ続けていますが、同社はこのメッセージを伝える新しいアイデアを常に模索し続けています。
2024年3月、Specsavers社はエディンバラ中心部の通りでユニークな広告スタントを実施しました。同社のバンを自動昇降式の車止めの上に駐車し、車体の半分が宙に浮いた状態にしたのです。バンの横には「ここに駐車しないでください」というドライバー向けの警告看板が設置され、さらに車の後部には「今日、視力検査を予約しましょう」というメッセージが掲げられました。
このOOHスタントは、「適切なメガネやコンタクトレンズを着用していれば起こらなかったかもしれない」という状況を描く、Specsavers社のブランドキャンペーンの一環です。ユーモアを交えながら、視力検査の重要性を強く印象づける演出となっています。
この「車止めスタント」は、シンプルかつ低コストでありながら、日常のちょっとした失敗をユーモアたっぷりに表現した優れたマーケティングの好例です。
混乱とユーモアが絶妙に融合したこの演出は、通行人の注目を瞬く間に集めました。目撃者たちは写真や動画をインターネット上で次々と共有し、「これは本当に起こった出来事なのか、それとも仕組まれたものなのか?」と頭を悩ませます。
このマーケティングの仕掛けは、その影響力を大きく広げ、インターネットだけではなく、各地のローカルニュースや全国ニュースで話題となりました。
トイレに関するユーモアは、愉快であれ不快であれ、注目を集めるビジュアルや見出しとして期待を裏切ることはほとんどありません。トイレットペーパーブランドのAndrex社は、これまでの「かわいい子犬」を使った広告から大きく方向転換し、排泄に関するタブーに切り込みました。そして、自宅以外のトイレを使うことに極度の気まずさを感じるシャイなイギリス人を解放しようとしたのです。
「The First Office Poo(オフィスでの初めての排泄)」はAndrex社の「Get Comfortable(楽になろう)」キャンペーンの立ち上げを象徴しています。同社の調査によると、イギリス人の約半数が、オフィスのトイレで大きい方は絶対にできないと感じており、2,300万人が公共のトイレでは用を足さないことが分かりました。このプラットフォームは、トイレに対する普遍的な恥ずかしさを巧みに活用し、誰もが経験する気まずい瞬間を、印象的で共感を呼ぶシーンへと昇華させています。例えば、「力を抜いて生きよう」といったユーモアの効いたフレーズとともに、トイレに座る人々の姿を思い浮かべてみてください。
#GetComfortableキャンペーンのユーモアの裏側には、腸の健康の重要性に関する真剣なメッセージが込められています。Andrex社は大腸がんに特化した慈善団体のBowel Cancer UKと提携し、イギリス人に腸の健康を重視させ、腸にまつわる偏見をなくすよう呼びかけました。ユーモアとAndrex社独自の調査に基づく親近感のあるシナリオにより、このキャンペーンは注目を集め、命を救う可能性のある会話を効果的に引き起こしています。
同キャンペーンはビル、新聞広告、車体など、デジタルと屋外広告を通じて展開されました。結果、ブランドの小売売上は320万ポンド増加し、SNSでの言及は1,694%、大腸がんの兆候に関する一般検索は122%増加しました。
缶入り飲料水メーカーのLiquid Deathは、衝撃・ホラー・ユーモアを駆使しながら、反抗的でエッジの効いたコンテンツを発信することで知られているブランドです。常識を打ち破り、限界に挑戦し続けるその姿勢が、多くのファンを引きつけています。
同社が、若者に人気のメイクブランド「e.l.f Cosmetics」と組んだ今回のコラボは、一見すると意外な組み合わせです。しかし、メイクブランドと缶入り飲料水メーカーという異色の組み合わせこそが、このキャンペーンをより際立たせる要因となったのです。
両ブランドのコラボを記念した棺桶型のメイクアップセットを発売したところ、わずか1時間足らずで完売。このコラボレーションの宣伝のために、両ブランドはオンラインCMを公開したほか、女優のJulia Foxとのパートナーシップを締結。彼女がコープスペイント(ブラックメタルで用いられる、特殊な白黒メイク)を施してニューヨークの街を歩き回る姿は、多くの人々の注目を集めました。
Liquid Death社の一貫して製品よりも個性を優先する姿勢は、何を売るかが重要なのではなく、どう売るかが重要であることを示しています。安全策を取るのではなく、万人受けはしなくても、顧客やファンの心に深く響くマーケティングを追求し、率直なアプローチで限界に挑んでいます。
コープスペイント・キャンペーンで特に秀逸だったのが、その発表のタイミングでした。死者を連想させるハロウィンを待たず、同社がキャンペーンを展開したのは3月。その結果、他のハロウィン関連コンテンツに埋もれることなく、大きな注目を集めることに成功したのです。
クッキーブランドのNutter Butterはインターネット上でおかしな行動を取り、 視聴者を困惑させました。
Nutter Butter社のTikTokアカウントは、あまりにもカオスな投稿で話題となりました。そのきっかけは、2024年9月13日。TikTokユーザーのCassie Fitzwater氏が、ブランドの公式アカウントについて投稿した動画です。彼女は動画の中で、「Nutter Butterの投稿が怖すぎる!」とコメント。ブランドの奇妙な投稿が視聴者を震え上がらせていると語りました。この動画は290万回以上再生され、「悪夢を見る恐れがあるから、Nutter Butter社のページにアクセスしないように」とほかのユーザーに警告したのです。
その後、Nutter Butter社はTikTokアカウントでは奇妙でサイケデリックでシュールな投稿を連発。その異常さは、ユーザーはアカウントがハッキングされたのではと疑うほどです。同社はエイダンとナディアというキャラクターを作り出し、不気味でミステリアスな投稿に登場させました。結果、わずか数週間でNutter Butter社のTikTokのフォロワーは2倍以上に増えたのです。TikTok以外のSNSでも同じような奇妙な投稿を行い、例えばXでは「Help」とだけ何度も投稿しています。
目まぐるしく変化するデジタルの世界では、勢いのあるコンテンツが溢れ、人々の注意力はどんどん短くなっています。そんな中でブランドが注目を集めるには、大胆であることが不可欠です。
好き嫌いはともかく、Nutter Butter社のコンテンツが、とびきり奇妙な内容で人々の注目を集めたことは否定できません。
しかし、それ以上に興味深いのは、このブランドが一体どこに向かおうとしているのかについて、多くの議論が巻き起こっていることです。投稿には何かストーリーが隠されているのか? 暗号やメッセージが含まれているのか?どんな感情であれ、強い反応を引き出すコンテンツは話題になりやすいといえます。Nutter Butter社は型破りな広告アプローチで、それを実現しました。
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この記事は、SpringboardのLouise Downingが執筆し、Industry DiveがDiveMarketplaceを通じてライセンスを取得したものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
元記事「Delightfully Weird: 7 Best Absurdist Marketing Campaigns」は2025年1月14日にstudioID’s insights blog – springboardに掲載されました。
また、日本におけるIndustryDiveパブリッシャーネットワークに関してはamana Content Marketingまでお問い合わせください。
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