パナソニック | 機能訴求CGの制作のコツ:洗濯機ムービー事例

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パナソニックのグローバル向け洗濯機について、その機能訴求を目的とした映像のCG制作をアマナが担当しました。特にCGで表現するには難しいとされる水や泡、洗濯物(布)などを違和感なく見せるため、どのような工夫がなされていたのでしょうか。

この案件を担当したアマナのプロデューサー・由谷圭佑、CG制作進行・洗豪、CGスーパーバイザー・前田昂、デジタルアーティスト・本永千賀子に、CG制作のコツについて聞きました。

グローバルマーケットに向けた映像制作

アマナは、パナソニックのさまざまな製品の動画や静止画の制作において、長年、実績を積み重ねてきました。海外向けのテレビやイヤホン、ヘッドホン、カメラなどをはじめ、近年では白物家電(冷蔵庫、洗濯機)、美容アイテムなどのCG制作も行っています。2021年には、パナソニックの世界観を打ち出すCG映像も制作。その評価を受け制作件数も飛躍的に増えてきた中、今回のグローバル向け洗濯機機能訴求動画について制作の依頼がありました。

CG事例。

「クライアントが感じていたのは、CG映像表現のクオリティを高めることができないか、ということ。技術面では自信があり、その優位性を映像で伝え切ることができれば……特に水の表現がポイントとなる洗濯機の機能性をよりわかりやすく消費者に見せたいという課題を抱えていました。そのうえで、ウェルビーイングの気配を感じさせたいとのことで、健康的な生活のイメージをもたせつつグローバルなマーケットに向けた迫力ある映像を作ってほしい、というリクエストがあったのです」(由谷)

アマナが作成したのは、以下の6本です。

■グローバル向け洗濯機(2023年)
・Blue Ag+(銀イオンにUV照射する事で、除菌)
・AI ECONAVI(センサーによって、時間、水量、消費電力などを調整する)縦型洗濯機
・AI Smart Wash(AI ECONAVIの横型洗濯機版+3Dセンサーでドラムの回転を最適化)
・Active Foam(高濃度の泡で洗浄する)

■グローバル向け洗濯機(2024年)
・Cyclone Purification System(洗濯機内で汚れた水を、遠心分離機能で、汚れとキレイな水に分離し、キレイな水を再利用する機能)
・Fast and Efficient Drying(黄金回転による乾きムラのない乾燥で時短を実現)

このうち、4本のCG制作について、ピックアップします。


水や泡、布など、CGでは難易度の高い表現を作るポイント

①「Blue Ag+」

CGスーパーバイザー:前田昂、デジタルアーティスト:本永千賀子、CGアセットシニアエンジニア:志村祐輔、CG制作進行:洗豪、プロデューサー:由谷圭佑(すべてアマナ)

【注目ポイント】
・菌の破壊とカメラワーク
・銀イオンの石の見せ方・質感

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なめらかな水の動きと、迫力のあるカメラワーク。洗濯機の中で、技術的にどこが優れているかを、見た人がすぐに理解できるダイナミックな映像に仕上げています。

「制作時には、2点を意識しました。1つには、水がいかにキレイに見えるか、ということ。もう1つは、見ていて飽きない、シズル感のある表現を狙うこと。またそれに付随して、カメラワークも工夫しました。こうした家電ではカメラを固定して見せるのですが、今回はワンカットのロングショットでカメラをできるだけ動かし、パナソニックがこだわっているところを、映像を通じて伝わるようにしたのです。監督が、映画の『ゼロ・グラビティ』のようなカタルシスを表現したいと言っていたので、映画を何度も見てそのイメージを吸収してから制作に臨みました」(前田)

「水の表現と、シミュレーションを担当しました。シミュレーションはリアルスケールで動かすことが多くて、現実の世界と同じようなスケール感を意識していないと、水の動きが迫っているように見えません。CGのカメラは現実のカメラと設定が同じなので、その距離感を間違えないように気をつけました」(本永)

②「AI ECONAVI」

CGスーパーバイザー: 前田昂、佐々木貴章、デジタルアーティスト:本永千賀子、CGアセットシニアエンジニア:志村祐輔、CG制作進行:洗豪、プロデューサー: 由谷圭佑(すべてアマナ)

【注目ポイント】
・トップの基盤表現
・映画『GANTZ(ガンツ)』的な表現で登場するドラムと洗濯物
・センシング表現

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基盤についてはCADデータの共有が難しかったため、ゼロから作り上げました。ゴミ取りボックスやドラムの模様(ダイヤ型の金属質感)にも目がいかないようにし、ドラム内の正しい水位の調整や、センシングの色味(温かい水に見えないように)を整えるなど、細かな点でも工夫が光っています。

「最初に登場する基盤センサーの表現にはこだわりました。本物の基盤のようにしてしまうと意外とテクノロジー感が出ないので、ガラスの集合体にしてテクノロジー感を損なわないようにしたのがポイントです。データがラインを走っていくようなイメージを入れて、『なんだかスゴイことが起きているぞ』と消費者に思ってもらえるように仕上げました。パナソニックのデザイントーンからあまりはずれないよう、光は青を基調として、見ている人が飽きない表現を目指しました」(前田)

「給水部分の水が出るところは、滝のように迫力のあるものを、とのことでした。リアルスケールだと勢いが強すぎるので、見ている人が心地よさを感じるように、実際の水の流れよりは2分の1ぐらい遅くして、動きがわかるように調整しました」(本永)

③「Active Foam」

CGスーパーバイザー: 前田昂、デジタルアーティスト:本永千賀子、CG制作進行:洗豪、プロデューサー: 由谷圭佑(すべてアマナ)

【注目ポイント】
・泡の表現(細かさ・融合、分離など)
・泡が汚れを吸着し、吸い上げる表現
・水中感の表現

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「泡」という、CGにとって最高難度のお題を前に、クライアントや監督と細かくヒアリングを重ね、テストを作成しながら進めていきました。

「泡は水よりもCGでの表現が難しいです。種類もいろいろあるし、たとえばマイクロバブルのように細かい気泡がたくさん集まっていて、それをそのまま表現しても泡らしく見えません。また、布から汚れをくるんで浮き上がらせたり、そこから水中で泡をバラけさせたりと、テクニカルな表現が求められました。汚れが浮き上がってそれを手前に流し、さらに泡が分裂して流れ去っていく、連続性を保ちながら自然に見せることを意識しました」(前田)

「泡は、大きめの玉状からクリーミーなものまで多様で、泡同士が結合した見え方や、絹のようななめらかな見え方の場合もあります。機能訴求するのに必要なところを押さえつつ、どのような表現に着地させるかという課題の解決がいちばん難しかったと思います。もちろん技術的にも最大限に難しいCGでした」(洗)

④「Cyclone Purification System」

CG スーパーバイザー: 前田昂、佐々木貴章、デジタルアーティスト:本永千賀子、CG シニアアーティスト:鮫島直幸、CGアセットシニアエンジニア:志村祐輔、CG制作進行:洗豪、プロデューサー:由谷圭佑(すべてアマナ)

【注目ポイント】
・汚れとキレイな水への遠心分離機能を、いかにわかりやすく見せるか

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洗濯時、目に見えない水道水に混在している異物、洗濯物に付着していた泥等を遠心分離機によって取り除き、常にキレイな水で洗濯する、という機能を訴求しました。この部分をいかにわかりやすく伝えるかが課題でした。

「遠心分離のところは実験映像のデータをいただくことができたので、それを参考にして作っていきました。洗濯機の内部で機能訴求以外の構造が映り込まないようにカメラアングルを工夫しました」(前田)

「汚れている水の表現が難しかったです。あまりにリアルだと汚なく見えるので、水自体に少し色をつけて見ている人が不快にならないように気をつけました」(本永)

「遠心分離はリアルタイムスピードで作っていましたが、それだと分離している様子がわかりにくかったので、ハイスピードカメラで撮影したようなスローな動きにしました。
どの部分をつたって水が流れ、遠心分離機のどの部分までが汚れた水で、どこで分離されキレイになるのか、という理解にも苦心しました。汚れを分離した表現をわかりやすく見せたいというご要望もあり、遠心分離の表現を、リアルタイムスピード→ハイスピードカメラ・スロー→リアルタイムスピード、という変更を行った点も、技術的には大変だったと思います」(洗)

多様な技術とスキルの積み重ねが、グローバル案件に適用できるCGを生む

こうしたCGによる映像作成の際には、クライアントが求める世界観の演出のため、クライアントはもちろんクリエイティブに関わる監督やCGクリエイターの相互で確認しておきたいポイントがあります。

「目指すべき最終ルックのトーンがどんなものか、クライアントが伝えたい・訴求したい部分はどこになるのか、を共有しておきたいです。そのうえで、CG表現でのコスト感と難易度のレベルについては監督と共有できれば。それをクリアすることで、クライアントのやりたい事とコストと表現のバランスを探って、着地点を導き出すことができます」(洗)

「特に機能訴求においては、『どこをいちばん見せたいか?』がわかることが大事。言葉でもビジュアルでもいいので、事前のヒアリングで希望を伝えていただけると、そこから理想に向かって一緒に作っていけると思います」(前田)

「見せたいことがたくさんあるとポイントがわかりづらくなるので、特に伝えたい自社製品の強みは何かを教えていただけると、そこに注力して映像を作りやすくなります。修正の際にも、方針が固まりやすいですよね」(本永)

こうしたグローバル案件では、言葉がわからなくても万人に伝わる普遍的なわかりやすさや美しさが求められます。世界観やトーンを守って伝えたいことと映像のクオリティのバランスを取ることが、多くの人に受け入れてもらえる「わかりやすい、美しい」表現になるのもしれません。

「多くの商品群を正しく取り扱えるCADチームの強みと、前田を始めとしたハイエンドでエフェクティブな表現をかけ合わせて提案できるのは、アマナの特徴だと思います。他にも車CGに特化したチームがあり、それぞれの持っている履歴や特性を生かしてコラボレーションができます」(洗)

「私たちの部署は家電や美容などいろいろなCG制作をやっていて、経験の積み重ねと広いつながりができています。グローバル案件は言葉がなくても見ただけでわかるようにした方がいいですし、他国にひけを取らないようなクオリティを保つ必要があって、そこは今後も意識して作っていきたいですね」(前田)

「多種多様なリソースがあり、案件の際にはすぐに体制を整えることができる」とプロデューサーの由谷は言います。万全の体制を敷いたうえで望まれるクオリティを実現できるのが、アマナのCG制作の強みと言えるのかもしれません。

※この他の機能訴求映像も制作しています。こちらのリンクからご覧ください。
パナソニックグローバル向け洗濯機「Auto Tub Clean」「Gasket Clean」
パナソニックグローバル向け洗濯機「Fast and Efficient Drying」
パナソニックグローバル向け洗濯機 「Auto Dose」

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<記事制作>
取材・文:大橋智子
トップ画像:中村圭佑

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PROFILE

由谷 圭佑

株式会社アマナ
由谷 圭佑

株式会社アマナ
由谷 圭佑

プロデューサーとして、WEBサイト、ビジュアルデザイン、映像制作、イベントなど幅広いプロデュース業務を担当。 企業ブランディングや商品ブランディングを中心に、グラフィック、CG、映像コンテンツの開発やコミュニケーション施策を総合的にプロデュースしている。 企業が持つ様々な課題に対して、丁寧にリサーチやヒアリングを行い、本質的な課題や価値を理解した上で、プロデュースすることを大切にしている。

洗豪

株式会社アマナ
洗 豪

株式会社アマナ
洗 豪

幼児英会話教室運営会社にて総務部員として2年間勤務。その後、CG業界への転身を決意し、デジタルハリウッドに入学。卒業後、同校にて1年間Teaching Assistantを務める。その後、株式会社ナブラに入社し、主にTVCMのCG制作を中心に3DCG制作に携わる。同社がアマナグループに参画後も、3DCGデザイナーとしてキャリアを重ね、2018年より現職のCG制作進行として活躍中。

前田 昂

株式会社アマナ
前田 昂

株式会社アマナ
前田 昂

CGスーパーバイザー / ジェネラリスト。広告業界での豊富な経験を通じて、クライアントの課題解決に貢献するビジュアル表現を追求。特に、最新技術と直感的なデザインを融合させ、視覚的インパクトと顧客体験を両立した表現に注力。いつの時代も心を動かすのは、優れた技術と感性が融合したクリエイティブであると信じ、受け手に届く価値を創出することを目指しています。

本永 千賀子

株式会社アマナ
本永 千賀子

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本永 千賀子

CGデザイナー。沖縄県出身。新卒で環境保全センターに研究員として就職するも、クリエイティブ制作への憧れから上京し、東京のCG専門学校で学ぶ。専門学校卒業後、アマナに入社。化粧品をはじめとする商品の効能カット制作を中心に担当。現在もCGデザイナーとして日々奔走中。

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