カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)は、毎年6月に南フランスのカンヌで開催される世界最大規模の広告賞イベントです。受賞作品には思わず心躍る斬新な発想や表現が詰まっており、企業の宣伝・広告・ブランディング担当者にとっても最新の広告トレンドを把握し、自社のキャンペーンに活かすうえで大いに参考になります。
昨年、アマナインサイトでは「世界三大広告賞」からみる広告業界の最新トレンド2024と題して、カンヌライオンズを含む主要な国際広告賞の概要と2024年の受賞作品を紹介しました。今回はカンヌライオンズ2025の開幕を目前に、昨年のカンヌライオンズ受賞7作品から浮かび上がったクリエイティブトレンドを振り返ります。
出典:JCDecaux Spain receives 6 awards at Cannes Lions、@JCDecauxInside ‘Meet Marina Prieto’
OOH(アウトドア広告)の世界的大手JCDecauxによるキャンペーン。スペイン・マドリードの地下鉄で、100歳の一般女性・マリナさんがInstagram(当時フォロワー28名)に投稿した写真を未契約の広告枠に大量掲出する大胆な企画です。
多くの企業は地下鉄広告よりも路上看板を好み、地下鉄広告への投資は2023年に7%減少していました。そこでJCDecauxは無名の高齢女性の日常投稿にスポットライトを当て、「この地下鉄広告のおかげで一夜にして彼女が有名人になった」というストーリーを作り上げました。掲出後「このおばあちゃんは何者だ?」と口コミが広がり、SNSでも彼女の写真が次々とシェアされました。地下鉄構内に貼られたポスターは1週間で40万インプレッションを記録。マリナさんのInstagramフォロワーも1万人以上に激増しました。
JCDecauxは「地下鉄広告の到達力」を広告主たちにアピールすることに成功し、185社の広告主を新規獲得。地下鉄広告の媒体投資額は2倍に伸長する成果を上げました。
出典:We won a Grand Prix at Cannes Lions (Pedigree Adoptable)、@LLLLITL Pedigree – Adoptable
ペットフードブランドのPedigree(ペディグリー)が、保護犬の里親探しを目的に展開したアウトドア広告キャンペーンです。このキャンペーンでは、AI(人工知能)とプログラマティック広告の力を駆使し、全てのペディグリー広告枠を地元のシェルターで保護されている犬たちの“里親募集広告”に変えてしまいました。
このキャンペーンはカンヌライオンズにて「大手ブランドが大きなコミットメントを示し、AIを単なる流行でなく必要不可欠な手段として活用した点」が評価されました。その成果も圧倒的で、導入後わずか2週間で保護施設の来訪者数が6倍に増加。広告を見て来訪した人は通常より12%も高い確率で犬を引き取ったことが確認されました。さらに広告に登場した犬の50%に里親が見つかったとの報告もあり、クリエイティブとテクノロジーの融合で社会課題の解決に貢献した好例として称賛されました。
出典:Mercado Libre scoops Cannes Lions Media Grand Prix for idea that ‘delivers in the now’、@LLLLITL Mercado Libre – Handshake Hunt
南米発のECプラットフォームMercado Libre(メルカド・リブレ)は、自社ロゴに描かれた握手のアイコンにちなみ、テレビ放送内のあらゆる握手シーンを広告に変えてしまうキャンペーンを展開しました。例えばサッカー中継で試合開始時に選手同士が握手したらスポーツ用品のディスカウントQRコードを表示するといった具合に、番組内容と連動したお得情報を即座に提示しました。
この「握手大作戦」により、CM枠を購入せずともテレビ番組そのものを広告媒体化することに成功。従来の枠にとらわれないメディア活用として高く評価されました。結果、キャンペーン期間のMercado Libreの売上は過去最高を記録。テクノロジーとデータ分析を駆使しつつも、握手という誰もが知るシンプルな所作を起点にした点が秀逸で、「見逃せない楽しさ」と「即時参加型」の体験を融合させた好例と言えるでしょう。
出典:Heineken’s Pub Museums Wins Big at 2024 Cannes Lions、@Heineken | Pub Museums
ビールブランド大手Heineken(ハイネケン)による、アイルランドの伝統的なパブ(酒場)を仮想博物館に変えるというユニークなプロジェクトです。AR(拡張現実)技術を導入し、店内外の所定スポットにスマートフォンをかざすとそのパブにまつわる逸話や展示がバーチャルに浮かび上がる仕掛けです。現実の店そのものが博物館化することで、パブが文化遺産として行政の支援を受けられるようにする狙いもありました。
ブランドが自社の商品(ビール)を直接訴求するのではなく、取引先であるパブ(BtoB顧客)を支援し社会的価値を創出するという間接的アプローチでブランド価値を高めた点は注目に値します。最新技術を用いて文化遺産を守るという社会性と、ブランドのコアメッセージである「人々の豊かな社交を支える」という理念が見事に合致したキャンペーンでした。
出典:Pop-Tarts: The First Edible Mascot (Grand Prix)、@LLLLITL Pop-Tarts – The First Edible Mascot
ケロッグ社のトースト菓子ブランドPop-Tarts(ポップターツ)は、大学のフットボールの試合において、世界初となる「食べられるマスコットキャラクター」を制作し話題をさらいました。試合当日、フィールド上に登場したのは巨大なストロベリー味のポップターツ型マスコット。その着ぐるみをその場で分解して選手たちが実際に食べてしまうという前代未聞のパフォーマンスが展開されたのです。試合後8週間のポップターツ販売数は試合前と比べて2,100万個も多く売れたと報告されています。企業マスコットという古典的手法にユーモアとサプライズを掛け合わせ、ファンとのエンゲージメントと売上の双方で成功を収めた好例です。
出典:SIGHTWALKS – A Breakthrough in Inclusive Design、@CementoSolOficial CEMENTO SOL: SIGHTWALKS
南米ペルーのセメントメーカーが手がけた社会貢献型プロジェクト。視覚障がい者が白杖一本で安心して街を歩けるようにする都市デザイン施策です。ペルーの首都リマ市ミラフローレス区の協力のもと、市内の歩道に種類の異なる触覚タイルを埋め込みました。タイルには突起のパターンが施されており、隣接する店舗や施設の種別を触った感覚で識別できるようになっています。例えば突起の数や並び方によって「ここから数メートル先に薬局がある」などの情報が白杖で読み取れる仕組みです。
特許はオープンソースとして公開され、誰でもこのシステムを活用できるようになっています。BtoB企業であるセメントメーカーが、自社製品の新たな価値提案として社会課題の解決に挑んだクリエイティブは、多くの示唆を与えてくれるでしょう。
出典:LOEWE x SUNA FUJITA Artworks(コレクション紹介ページ)、@LLLLITL Loewe x Suna Fujita
スペインのラグジュアリーファッションブランドLOEWE(ロエベ)は、日本の陶芸スタジオ「Suna Fujita」とのコラボレーションによる限定コレクションを展開。Suna Fujitaは遊び心あふれる陶芸作品からインスピレーションを得て、LOEWEのバッグ、ニット、アクセサリーに独創的なデザインを落とし込みました。このコレクションはロンドン・上海・東京の3都市で3Dビルボードを使ったストップモーション映像で発表され、大きな注目を集めました。SNS上でのオーガニックリーチは1,740万件、エンゲージメント数160万件、キャンペーン動画の再生回数は1,110万回に達しています。
ブランドの伝統と革新性、社会的責任を両立させたブランディング戦略が高く評価されたケースと言えるでしょう。
これら7つの事例から、2024年の広告業界における3つの重要トレンドが浮かび上がってきます。
従来「地味」「堅い」と思われがちだったBtoBマーケティングで、極めてクリエイティブかつ社会的インパクトの大きい施策が次々と生まれています。JCDecauxの地下鉄広告のように自社のサービス価値を示すために一般人を起用して心温まるストーリーを作ったり、セメント会社のように自社プロダクトで社会課題を解決するインフラを創出するなど、BtoB企業が高度なクリエイティブで話題をさらうケースが増えました。
2023年頃から広告業界でも生成AIブームがありましたが、2024年はAIを手段として有効活用しつつ、あくまで目的(課題解決)を第一に据える姿勢が強まったように感じられます。AI活用はもはや特別なトピックではなく日常的なツールとなりつつあり、だからこそクリエイターの意図とアイデアが一層問われる時代になったと言えます。
ブランドが社会や文化とどう関わるかが、これまで以上に重視されています。LOEWEが職人との協業でクラフトマンシップと多様性を打ち出し成功したように、ブランドの伝統や価値観を現代の文脈で再解釈し発信する試みが増えました。また、Pedigreeの保護犬支援など、ブランドの行動がそのまま社会貢献やコミュニティ形成につながるケースも際立ちます。これらは単なるCSRではなく、ブランドの本質的なミッションと結びついたブランディング戦略として機能しています。
2024年は「自社の強み×社会性×クリエイティビティ」を巧みに融合させたキャンペーンが多く見られ、受賞作品を通じて「ブランドは文化を動かしうる」というメッセージが発信された年だったと言えるでしょう。
2024年のカンヌライオンズ受賞作品に見るトレンドは、BtoB企業からBtoCブランドまであらゆる企業にとって示唆に富むものです。自社の宣伝・PR・ブランディング施策にも、これらのエッセンスを取り入れてみたいと感じられたのではないでしょうか。とはいえ、実際に「心を動かすクリエイティブ」を形にするには高度な戦略立案と表現力が求められます。
アマナでは、企業のブランド価値を最大化するためのブランディング支援サービスと、多様な映像コンテンツをワンストップで制作するムービー制作サービスを提供しています。前者では市場調査やワークショップを通じたブランド戦略設計からビジュアル開発まで一貫してサポートし、論理と創造性を両立させたブランディングを実現します。後者では長年のスチル撮影で培ったノウハウを活かし、TVCMからWeb動画、企業VPに至るまで高品質な映像制作に対応します。社内外のトップクリエイターがチームを組み、企画・撮影・編集・CG制作まで一貫して行うことで、スピード感とクオリティを両立します。
今回ご紹介したカンヌライオンズの受賞トレンドをヒントに、自社のブランドストーリーやプロモーションにも新しい風を取り入れてみませんか? BtoBでもBtoCでも、AIを活用した施策でもブランディング戦略でも、アマナが誇るクリエイティブの力で御社のメッセージを最適な形で世の中に届けるお手伝いをいたします。ぜひお気軽にご相談ください。
アマナのサービス:
プランニング&デザイン|ブランディング
VISUAL|TVCM/ムービー撮影
関連記事:
宣伝・広告担当者必見!カンヌだけじゃない、「世界三大広告賞」からみる広告業界の最新トレンド2024
【完全ガイド:主要な海外広告賞まとめ】応募要項やスケジュールを一挙ご紹介!
【完全ガイド:主要な国内広告賞まとめ】応募要項や例年のスケジュールを一挙ご紹介!
文:小林拓美