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食とライフスタイルブランドが乱立する中、Grazaのオリーブオイルは、家庭で料理を楽しむ人からプロのシェフまで、アメリカ中のキッチンで独自の「おいしさ」の地位を築いてきました。
特徴的なスクイズボトルと、親しみやすく遊び心のあるブランドアイデンティティで知られるGrazaは、ニッチなスタートアップから、CostcoやWhole Foods(オーガニック食品に特化した米国の大手スーパーマーケット)でも展開される存在へと急成長。その背景には、カルチャー、コンテンツ、そしてコミュニティづくりへの強いこだわりがありました。
Grazaのブランドと製品は、使う人にワクワク感を与え、深い愛着を育んでいます。
— Kali Shulklapper(Graza社ブランドマーケティングディレクター)
本記事では、Grazaのブランドマーケティングディレクター、Kali Shulklapper氏にインタビューを実施。コンテンツ戦略やエンゲージメントを生み出すカルチャーの接点、そして成長を後押しする顧客との「本物のつながり」について、その舞台裏をひもときました。食品・飲料業界に限らず、あらゆるブランドに活かせるヒントを探っていきます。
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Grazaが2022年初頭にローンチした当時、同社は莫大な広告費をかけた施策や手の込んだインフルエンサー施策に頼ることなく、際立ったブランドボイスと洗練されたビジュアルデザインを武器に、4つのオーガニックチャネルに注力しました。具体的には、クリエイター向けの継続的なギフティングプログラム、エンゲージメントを維持するSNS運用、質の高いメールマーケティングキャンペーン、そして読みごたえのあるブログが挙げられます。
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同様の商品を扱う企業の中には、ブログを後回しにしがちなところもありますが、Grazaは、自社のコンテンツハブを洗練された読み物へと進化させてきました。食欲をそそるレシピ、カルチャー特集、オリーブオイルに関する学びの記事など、同社のブログ「The Glog」は、常にコンテンツ戦略の中核を担ってきたと、マーケティングディレクターのShulklapper氏は語ります。
Grazaのブログ「The Glog」には、料理意欲を刺激するレシピやシェフへのインタビュー、オリーブオイルの製造工程を掘り下げた記事などが多数掲載されており、ブランドの世界観を伝える場であると同時に、メールマーケティングへの効果的な導線としても機能しています。
Grazaは、コンテンツやSNS施策を通じて、「遊び心」と「本物らしさ」を掛け合わせた独自のブランド認知を築いてきました。
中でもメールマーケティングは、Grazaにとって最も安定した収益源のひとつです。実際、マーケター向け団体であるData & Marketing Associationの調査では、メールマーケティングの平均ROI(投資利益率)は、1ドルの投資に対して44ドルという調査結果も出ています。こうした業界全体の傾向をふまえると、Grazaがこのチャネルを重視するのも納得できます。
Grazaのメールには、すべてのチャネルに共通する「遊び心のある個性」が反映されています。会話調の親しみやすいトーンと、ユーザーの好奇心をくすぐるティザーコンテンツが特徴です。
とはいえ、「The Glog」の成功は、単なるトラフィック数やSEO、一般的なKPIでは測れない、コンテンツの長期的な価値を物語っています。Grazaが他社と一線を画すのは、オーディエンスの関心や価値観に耳を傾け、真にコミュニティを築くことに力を注いでいる点です。
同社にとって重要なのは、フードカルチャーへの共感、知識の共有、そして何より「料理を心から楽しむ」姿勢。こうしたスタンスが、Grazaのブランドを支える原動力となっています。
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グルメ向けの高品質オリーブオイルとしての評判が広がる中、Grazaのマーケティングチームは、メールや購入後アンケート、SNS上での会話などを通じて、消費者の声に耳を傾けてきました。そうした中で浮かび上がってきたのが、新たなニーズです。Grazaのリサイクル可能なプラスチック製ボトルに共感を示す声がある一方で、特に詰め替え時には、よりサステナブルな代替パッケージを求める声が高まりつつありました。
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そこで登場したのが、アルミ缶型の詰め替えボトルです。調理にも仕上げにも使える主力オリーブオイルのヒット以来、Grazaにとっては革新的なパッケージでした。
発売時には、大々的なプロモーションを展開。「新しいリフィル缶を詰めた特別パッケージを、多くのクリエイターやブランド関係者に先行で届けました。その結果、大きな盛り上がりと消費者の期待感を生み出すことができました」と、Shulklapper氏は振り返ります。
このキャンペーンでマーケティングチームが重視したのは、有名インフルエンサーに絞るのではなく、ニッチな料理系クリエイターから日々料理を楽しむ一般ユーザーまで、多様な層にリーチすることでした。
レストランのシェフからTikTokクリエイターまで、料理界の内外を問わず、できる限り多くの人にアプローチしようとしてきました。
「ギフティングに関しては、これといった“戦略”はありませんでした」とShulklapper氏は語ります。唯一明確だったのは、投稿内容について細かな指示を出さず、「これを紹介してほしい」といった依頼もしなかったこと。マーケティングチームは、オリーブオイルそのものの魅力が、自然なかたちでコンテンツとして広がると信じていたのです。そして実際、多くのクリエイターが自発的に動画などで紹介しました。
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コンテンツクリエイターが本当に気に入った製品であれば、その熱意はフォロワーにも自然と伝わります。だからこそ、製品の力を信じ、それ自体に語らせるブランドは、見込み顧客とより深く、意味のある形でつながることができるのです。
「私たちからクリエイターに、『こうしてほしい』『こう言ってほしい』といった指示を出すことは一切ありませんでした。多くの人が、自分のコンテンツの中でごく自然に商品を使ってくれた。その事実こそが、品質の高さを物語っています」と、Shulklapper氏は語ります。
見返りを求めずに商品を贈ることで、ブランド側の意図を押しつけるのではなく、クリエイターの自然な熱意を引き出すことができます。そうしたオーガニックな広がりこそが、無数の料理・ライフスタイル系コンテンツの中でも、Grazaのボトルがひと目でわかる存在となった理由のひとつです。
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Grazaの成長は、巧みなコンテンツ戦略だけに支えられているわけではありません。気取らず楽しい“料理”を軸に、カルチャーとコミュニティを意図的に育んできたことが、その成果を大きく後押ししています。TikTokやInstagramでの投稿から、参加型のコンテンツ企画に至るまで、Grazaは単なる商品PRにとどまらず、ファンやパートナーとの新しい関係性の構築に力を入れてきました。
たとえば、自社の世界観を多角的に伝える独自コンテンツシリーズでは、料理とカルチャーをテーマに、さまざまな切り口から魅力を発信しています。「Pantry Portraits(パントリーポートレート)」では、実際のキッチンと、そこで料理をする人々の姿を紹介。「Cookbook Club(クックブッククラブ)」では、書店を舞台に、おすすめ本やお気に入りの料理について語り合える場を提供しています。
中でも最も人気なのが、レストランにフォーカスした「Friends of Graza(Grazaの仲間たち)」シリーズです。「このシリーズを通して、本当に素晴らしくて才能のある人たちをたくさん紹介することができました」と、Shulklapper氏は語ります。
また、料理界ではまだあまり知られていないけれど、独自の視点で面白いことに取り組んでいる人たちにも光を当てることができました。
「Friends of Graza(Grazaの仲間たち)」のQ&Aシリーズのようなコンテンツでは、ブランドそのものだけでなく、Grazaのオリーブオイルを愛用する人々に光を当てています。こうしたアプローチが、顧客を単なる“購入者”から“ファン”へと引き上げているのです。
さらに、Grazaならではの軽快で親しみやすいトーンは、今なお格式張った印象が残る食品市場において、ブランドの個性と存在感を際立たせています。Grazaは、キッチンを「人が集うクリエイティブな空間」としてとらえています。この姿勢は、フードクリエイターたちの活動を後押しするだけでなく、ブランド自体をより親しみやすく、身近で、誰にでも開かれた存在として印象づける役割も果たしています。
「結局のところ、私たちはただのオリーブオイル好きなんです。そして、料理は楽しいものであるべきだと考えています」とShulklapper氏は語ります。「その思いが、遊び心があってワクワクするようなブランド精神につながり、多くの人々がそこに共感してくれているのだと思います」。その秘訣は、とてもシンプルです。
あれこれ作り込みすぎないこと。目指すのは、ただ人を笑顔にすることだけです。
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Graza社は今後も、これまで成果を上げてきた取り組みに引き続き注力していく方針です。作り込みすぎないSNSコンテンツ、読者の心をつかむメール配信、そしてコミュニティ主導の施策など、Grazaらしいアプローチをさらに磨いていきます。
「これまで成果を上げてきたあらゆる施策に、引き続き投資していきます」とShulklapper氏は語ります。「存在感のある魅力的なSNS運用、読むのが楽しいメールキャンペーン、美味しいレシピ、意外性のあるコラボレーション、そして心くすぐるブランド体験」。すべてが、Grazaらしさにつながっています。
Grazaのストーリーは、単なるオリーブオイルの物語ではありません。彼らが目指すのは、キッチンで頼れる友人のような存在です。料理のコツを教えてくれたり、おすすめのレストランをそっと紹介したり、かゆいところに手が届くブランドであることを大切にしています。
Grazaの成功から学びを得たいマーケターにとって、得られる学びは明確です。強い関係性を築き、心に響くコンテンツを一貫して届けること。それこそが、ブランドの本当の価値を伝える近道であり、自分たちのブランドが持つクリエイティブな力を決して過小評価しないことです。
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この記事は、SpringboardのAnastasia Dyakovskayaが執筆し、Industry DiveがDiveMarketplaceを通じてライセンスを取得したものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
元記事「Slick Influence: How Graza Built a Beloved Brand Through Culture + Connection」は2025年3月5日にstudioID’s insights blog – springboardに掲載されました。
また、日本におけるIndustryDiveパブリッシャーネットワークに関してはamana Content Marketingまでお問い合わせください。
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