2024年末に、リブランディングを実施したビースタイルホールディングス(以下、ビースタイル)。理念体系の整理、ロゴデザインの変更、ブランドガイドライン策定、コーポレートサイトのリニューアルなど、さまざまな施策を行いました。
そのパートナーとして伴走したのがアマナです。ビースタイルがIPOを控えたタイミングでどのようなリブランディングを実施したのか、田口一代さん(ビースタイルホールディングス/ビースタイルビジネス研究室 室長)、岩﨑亜希さん(ビースタイルホールディングス/人事本部 広報ブランディングユニット ユニット長 )、北原久司(アマナ/プロデューサー)、鈴木陸(アマナ/プランナー)に語っていただきました。
――リブランディングを行う前に、ビースタイルさんが感じていた課題について教えてください。
田口一代さん(以下、田口):2024年12月27日に上場しましたが、IPO前のタイミングで「当社はこういう会社です」ということをわかりやすく世の中に打ち出していく必要があると感じていました。自分たちの会社がどういう事業を行っていて、何を大事にしているかという理念はもちろんありましたが、今現在~未来を見据えたものではなく、祖業のブランディングの延長線上だったなと。今は時代が違いますし事業のバリエーションも増えています。創業時からの根本的な考え方や価値観は変わっていませんが、これからの私たちをどう表現していくかということにも変化が求められているような感覚がありました。
同時に、これまではトップ二人(代表取締役社長の三原邦彦さん、取締役会長の増村一郎さん)の牽引力で組織を拡大してきましたが、そこに依存するだけではなく、社内全体で共通言語を持ちたいしそれが仕組みとして回るような会社になりたいというトップ二人の意向があって、ブランディングをし直そうとなりました。
田口一代|Ichidai Taguchi
ビースタイルホールディングス/ビースタイルビジネス研究室 室長。2017年に新卒入社後、営業・新規事業・社長室での事業企画を経て、2021年に(株)ビースタイルスマートキャリア取締役に就任。2024年からは「ビースタイルビジネス研究室」を立ち上げ、全社戦略・既存/新規事業開発・DX等を推進する役割を担う。今回のリブランディングプロジェクトではPMを務めた。
――リブランディングの目的を教えてください。
田口:大きな目的は先ほどの通り、現在~未来を見据えたコーポレートイメージの刷新です。そのうえで、今回のリブランディングのポイントは、採用を強く意識したことです。採用というのは、担当する部署だけがやるような時代ではすでになく、社員が全員参加型でやっていくべきものだと私は考えています 。そこで発信するメッセージがブレてはいけません。2020年に当社がホールディングスになり、事業ごとに子会社を持つようになったことで、合わせて考え方や組織のカルチャーも事業に個別最適化された感じがあります。それもあって、グループとしての一体感をより強化し、グループ全体としてのコアな部分がきちんと伝わる状態になると採用にもポジティブに働くのではと考えました。
岩﨑亜希さん(以下、岩﨑):今までは当社と言えば「しゅふ」の人材サービス会社というイメージが持たれがちでした。今後は「しゅふ」だけではなくてDX・AIや外国人向け、シニア層など他のソリューションへの裾野を広げていくという狙いもあって、それもイメージした中で新しい軸を作ろうということになりました。
岩﨑亜希|Aki Iwasaki
ビースタイルホールディングス/人事本部 広報ブランディングユニット ユニット長。ビースタイルグループ内の広報全般を担当。 日々のメディア対応や情報発信に加え、上場を機に実施したリブランディングでは、広報の立場からブランドコンセプトの策定や、コーポレートサイトのリニューアルに携わる。現在も広報戦略の立案・実行を担っている。
――アマナをリブランディングのパートナーに選んだ理由を教えてください。
岩﨑:提案を拝見して、このクオリティのものが作れるんだという期待感がありました。作り上げるだけでなく、プロセスの中でディスカッションを密にすることも多く、事前に当社の情報をインプットしてこちらの思いを汲んだうえで進めてくれたのがアマナさんでした。
田口:ひと言で言うと、「ちょうどよかった」ですかね。こちらの希望を汲み取って、当社がわかっていないところはやんわりと指摘していただいたうえで目線が合うようにすり合わせをする、コミュニケーションや進め方がちょうどよかった、という印象。今回の案件に限らず、当社の大切にしている考え方の1つに「ちょうどいいコミュニケーション」というのがあると私は感じています。代表の三原はよく「アジャスト」と表現しますが、お客様に最適なコミュニケーションで最適なサービスを型にはまらずやっていきましょう、という概念がある。アマナさんはそういうマインドやスタンスを体現してくれたという印象があり、まさしく「ちょうどよかった」と感じました。
アマナさんへの声がけのきっかけとしては、コンペの前に、上場にあたっては、新しい雰囲気が感じられる、成長感が感じられるような打ち出し方をしたいとサンプルを見ていたところ、丸紅の「NEXT by Crossvalue」やDOAの「B.E.A.T」の事例があって。ビースタイルらしさをどう表現するかというところで、この2社のブランディングの雰囲気にマイルドさみたいなのが加わるといいねと話していて、調べたらアマナさんのクリエイティブだとわかったので、コンペにお声がけした、という流れでした。
――アマナからはどのような提案をしたのでしょうか。
北原久司(以下、北原):丸紅さんの事例は私と鈴木が関わっていたので、その体制でスタートしました。ブランド構築プロセスとして、ブランドガイドラインの策定、コミュニケーションツールの制作、情報発信の方針、と順を追って作っていき、それがビースタイルさんのやりたいことと目線が合ったのではないかと思います。皆さんの思いを引き出して形にしていくのは、プランナーの鈴木が得意としているところ。実際のアウトプットではコミュニケーションするものが必要になるため、アマナのケイパビリティ(ビジュアル、デサインツールの作成、コミュニケーションデザイン)も紹介できたのが刺さったのではないでしょうか。
鈴木陸(以下、鈴木):丸紅さんの事例を理解していただいていたので、どうやってブランディングをしていったのか、リアリティを感じてくださったのではと思います。
提案資料より。
――先ほど田口さんがコメントされた「ちょうどよかった」ポイントは何だと思いますか?
北原:皆さんの思いをどれだけ引き出せるかがポイントなので、一緒に作っていきましょうというスタンスで臨んでいました。アマナはビジュアライズや具体化といった、アウトプットまで作れるところが強みなので、そこが他社とは違う見え方ができたのではと思いました。
アマナのプロデューサー、北原久司。
田口:フレームワークの話じゃなかったのがポイントです。ブランディング論はそれが実態に合っていればいいんですけど、20年も企業を運営していればわかっている部分もあります。「フレームワークに当てはめると」といった話がファーストに来なかったのがよかったんですよね。
鈴木:私はフレームワークに頼らないスタイルなので、ビースタイルさんとはそういった価値観が共通していたんでしょうね。
――コンペを経て2024年初夏からスタートしたリブランディングは、どのように進めていったのでしょうか。
北原:ブランドガイドラインを作るにあたり、まずは言葉が乱立していたのでその整理をしていきましょう、と。資料なども大量にいただき、ビースタイルさんを理解するところから始めていきました。
岩﨑:ありったけの資料をお渡ししましたね。
北原:まずは御社への理解を深めないとお話になりませんからね。セッションを繰り返して、理念体系の整理を行いました。いただいた資料から言葉を洗い出していくと、内容がかぶっていたり、時代によって言い方が違っていたりも。存在意義、理想の未来、価値観といったキーワードで整理して、そこから言葉を紡いでいけばブランドストーリーを作ることができます。ビースタイルとは何なのか、が言葉で確立できればMVV(Mission、Value、Vision)にもつながりますから。
言葉が先にできあがったら、次はビジュアルでどう見せるか。その中で、整理されたワードに対してロゴが合致していないのではという話が出てきて、ロゴデザインをしましょうとなりました。アートディレクターの鳥居真雄(アマナ)がロゴをいくつか提案して、クローバーモチーフに決定しました。
岩﨑:ロゴは、クローバーでないモチーフもいいよねとの意見も出たのですが、一周回ってやっぱりクローバーだよね、と落ち着いたんです。
北原:クローバーモチーフに帰着してよかったと思います。クローバーは以前のロゴにも採用されていましたが、細かいチューニングで見え方も変わりましたし、社員の皆さんが納得することが大事。愛着の強さをあらためて感じました。
提案資料より。
――アマナは他にも企業のリブランディングを担当していますが、そうした案件において大事にしていることは何でしょうか。
鈴木:クライアントの思いに寄り添うことだと思います。資料を読み込むこともそうですし、ロゴを決定するのに一周回るのも当たり前だと受け止めています。まったく新しいロゴに変えるのはハードルが高いし、言葉の端々から「こういうことを望んでいるんだろうな」という思いをどれだけ汲み取れるか。そして、皆さんと同じ立ち位置でありつつも、他者であることの利を生かして、外から見たバランス感も大事にしています。
北原:リブランディングは「変えなくては」という意識に陥りがちですが、今回の案件を通して「変えないところ」を見つけるのが大事だと再認識しました。クローバーモチーフに対する思いや祖業の理念など「変わらない」ところがあったので、それは表現を時代に合わせればいいわけです。変えるところは変える、変えないところは変えない、その判断を的確に行えばより伝わりやすくなります。
鈴木:企業の資料を拝見するといろいろな言葉が出てきますが、似ているけどちょっと違う、でも言いたいことは同じ、という言葉があります。それはおそらく普遍的で大事なところ。外部の私たちが俯瞰で見た時に「やはりこうじゃないか」という大切な部分をすり合わせできたのがよかったなと感じました。
アマナのプランナー、鈴木陸。
――リブランディング後の反応はいかがですか?
岩﨑:社内のアンケート評価がよくて、マイナスな意見は見当たりません。ストーリーにも共感できたという社員のコメントもあり、期待以上の成果につながったと思います。
田口:会社のことを説明しやすくなりました。当社は単純に表現すると人材サービス会社ですが、その枠に縛られたくないという思いもあって。何をしている会社かと問われた時の表現の粒度や内容については、経営者と現場のギャップが縮まってきたように感じます。
それと、会社から社員に向けてのメッセージに一貫性が出てきました。
岩﨑:共通言語ができたおかげですよね。ブランドストーリーの中に、創業者である二人があえて登場しないのもよかったと思います。「みんなの会社」という意識が会社全体に芽生えたのは、リブランディングの成果だなと思いました。
――リブランディングの今後の展開について教えてください。
岩﨑:リブランディングに伴ってコーポレートサイトをフルリニューアルしたのは、社外に対してインパクトがあったと思います。名刺や社員証も新しいロゴデザインを盛り込んでリニューアルしました。社員にもっと浸透させたく、今後はインナーブランディングにも役立てていく予定です。
――こうしたリブランディング施策において、アマナの強みはどんなところにあると思いますか。
鈴木:「なぜその課題があるのか」という根本を引き出せるかがポイント。それを踏まえてオーダーメイドのリブランディングを提案しますし、お仕着せの仕事はしないので、そこがビースタイルさんに共感していただいたのかなと思います。
北原:アマナはビジュアルやデザイン制作が強い会社という見え方があるかもしれませんが、私たちはコミュニケーションを軸に動いています。言葉を整理して理念体系を作り直し、それがどうやったら伝わるかを最終のアウトプットに落とし込む。そこを意識して、プロデューサー、プランナー、アートディレクターなどが首尾一貫してプロジェクトを担っています。「伝わり動かすコミュニケーションデザイン」を理念に掲げているから、ただカッコいいものを作って終わりというよりは、社内で共通言語を持ちながら本質を紡いでいくことができるし、今回もそれが発揮できたと思います。
田口:ブランドイメージのように何を誰にどう伝えたいかというのは、アジャイル的にやるのではなくて、最初からある程度、軸となるものを言語化してそれをしっかり伝えていくのが大事です。AIの進化はすさまじくて、ブレインワークはもはやAIにはかなわないなと。でも、AIは価値を届けません。ブレインワークなどが今後はどの会社も陳腐化するだろうから、そこに価値がない以上、何が大事かというとデリバリーであって、アマナさんが強いのはまさしくそこだと思います。
要は、感情を作るという仕事は人にしかできなくて、その仕事のレベルが高ければ高いほど価値があります。コミュニケーションをして情報を適切に提供して人の感情をポジティブに作っていく、ここのクオリティがとにかく高いのがポイントです。アマナさんと一緒に進めてよかったのは、感情を作るというところのレベル感がディレクションもアウトプットも掛け合わせて非常に強かった。私たちの期待の範疇を超えていたのが大きかったですね。
<スタッフクレジット>(すべてアマナ)
プロデューサー:大迫尚斗、北原久司
プランナー:鈴木陸
アートディレクター:鳥居真雄
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ビースタイルホールディングス IPO前リブランディング施策
アマナのブランディング事例
取材・文:大橋智子
撮影:大久保歩(アマナ)
株式会社アマナ
北原 久司
株式会社アマナ
北原 久司
プロデューサーとして大手企業のビジュアル、映像、WEB、イベントなどのコンテンツプロデュースを多数経験。現在はこれまでのクリエイティブとビジネスを掛け合わせる経験を活かし、企業のブランディング、コンテンツマーケティング、インナーコミュニケーション分野のプロジェクトを担当。
株式会社アマナ
鈴木 陸
株式会社アマナ
鈴木 陸
プランナー・ディレクター。BtoB / BtoC企業の社内コミュニケーション施策から、ブランドコンセプト開発、企画・制作ディレクションまで手がける。どんなモノ・コトにも背景には必ず人の想いがある。そうした本質を見いだして、ストーリーを紡ぐことを大切にしている。
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