アサヒグループジャパン|企画段階の新商品の世界観をPoCで可視化

LIKE MILK

アレルギー・健康の観点などの身体的な理由や、宗教・ヴィーガンなどの思想的な理由などで、人によっては口にできない食材が世の中にはたくさんあります。すべての人が、楽しく同じ食卓を囲むことができたら――そんな夢を叶える一歩として、アサヒグループジャパンが新開発したのが、酵母からできた非動物性ミルク「LIKE MILK(ライクミルク)」です。

このブランド開発(コンセプト、キービジュアル、ロゴ、パッケージデザイン、ブランドサイトなど)をアマナが担当しました。クライアントの思いをどのように可視化していったのか、アマナのプロデューサーの瀧野哲史、プランナーの高橋みずき、コンセプト開発を行ったコンスタンス・リカに聞きました。

プロトタイプを提案し、商品の世界観を絞り込む

アサヒグループジャパンの新商品ブランド開発がスタートしたのは、2023年のこと。アサヒグループジャパン、アサヒグループ食品、アサヒクオリティーアンドイノベーションズの3社で構成されたチームによる新価値創造のプログラムが始まり、食物アレルギーに着目した取り組みから、酵母由来のミルクが生まれました。この商品が一般の消費者に受け入れられるのかの調査を行うために、調査用のビジュアル制作をしてほしいとの依頼がアマナにありました。そこから約1年半をかけ、

Phase1:調査用のパッケージ制作
Phase2:デザインブラッシュアップ
Phase3:商品化のためのアセット制作

の3段階で、ブランド開発を進めていきました。

LIKE MILK

通常の広告制作の場合、発売する商品の大まかなターゲットなどはクライアント側ですでに決まっていることが多く、それに合わせてコンセプトやビジュアルの方向性を決めていくプロセスがあります。今回は、アサヒグループジャパン初のカテゴリー商品であり、一般販売するかどうかは調査の結果次第。酵母由来であること、非動物性(牛乳ではない)ミルクであること、アレルギー特定原材料等(28品目)不使用であることなど、さまざまな商品特性をどのよう打ち出していくかなど、暗中模索の状態からのスタートでした。

「商品が持つ世界観をどのように表現するか、というところで、クライアントも迷っているようでした。ヴィーガン志向の方に向けるのか、ヘルシー志向の方に向けるのか、だとしたらこうしたビジュアルの傾向でしょうか?と、マーケターやプランナーの視点でさまざまな提案をしたほうがいいかなと。たとえば植物性やヘルシーを意識するなら、シャンプーのような日用品のデザインをお見せして、その方向性がいいかどうかを判断していただく。そうやって具体と抽象を行き来することで、漠然と思い描いている世界観が少しずつ焦点を結んでいくように、いくつものイメージを提案して一緒にセッションしていきました」(高橋)

「ヘルシー志向、ナチュラル志向など、方向性がたくさんありました。一枚のビジュアルで世界観を表すには、プロトタイプを作ったほうがわかりやすいと考え、AIを使って制作。シズル感、親しみがある感じ、キャラクターを強調する、洗練された感じ、と4つのベクトルに分け、共にコンセプト開発をしたアマナの堀口高士と一緒にプロトタイプをいくつか作りました」(コンスタンス)

LIKE MILKプロトタイプの方向軸

「ベクトルにマッピングしてプロトタイプをお見せしたおかげで、どの方向性で考えればいいのかという議論が進みました。ビジュアルを見つつクライアントさんとアマナとで何回もセッションを行ったことで、アウトプットを作る前の方向性の確認作業ができましたし、ビジュアル化という具体性を伴ったことで双方の納得感が深まりました」(瀧野)

こうしたプロセスを経て、調査用のパッケージデザインの方向性が決定しました。

LIKE MILK

AIを使った高クオリティのビジュアルが、方向性を決める手助けに

世界観の方向性が決まったところで、Phase2へ。バナーとブランドサイト(LP)のデザインを作っていきます。

「『LIKE MILK』という商品名が決まったので、さまざまなツールをどう作っていくか、とアウトプットに関して具体的な作業に入っていきました。ブランドサイトについては、デザインも大切ですし、消費者とのコミュニケーションをどう取っていくかについても考える必要があります。『LIKE』の『E』はいいね!のマークのようにしたいとご要望があり、さまざまなロゴデザインを提案しました」(瀧野)

ポイントとなったのは、コンセプト作り。コンスタンスは自身が乳アレルギーを持っており、牛乳はもちろんチーズやクリームなどの乳製品を食べることができません。

「乳製品を使っている洋菓子を食べることができないので、友達と食事に行っても私だけはデザートなしです。乳製品に対してポジティブな気持ちで食べられなかった経験を踏まえて思いついたのが、コンセプトをミルクにフォーカスするよりも、みんなが楽しく食事できる世界観でした。そこで生まれたのは、『Everything Under The Sun(アレルギーを持つ人も持たない人も、太陽の元では全ての人が平等でありあらゆる食を楽しめるようにしたい。)』でした。クライアントの反応からも『いろいろな人たちが平等に同じ食卓で同じものを食べられるようになるといいよね』というメッセージ性を強く感じました。

酵母でできたあたらしいミルクのおいしさをどう伝えるか、また私のように「ミルク」に対して生まれつきのアレルギーや、宗教・信条によって摂取できない人にとっては、そのものよりも酵母でできたミルクを使った料理のほうが受け入れやすそうだなと思い、プロトタイプ制作の際にはカフェラテを作っている画像を入れ込んだり、ブランドサイトには『LIKE MILK』の料理レシピを載せたりと、さまざまな工夫ができたと思います」(コンスタンス)

LIKE MILK

Phase3ではパッケージデザインの確定と、ブランドサイトの構築(キービジュアル制作、レシピ開発、デジタルパッケージなど)を行いました。ここで威力を発揮したのは、またもコンスタンスによるイメージビジュアルの提案です。

「パッケージにはイラストを使っていますが、実写にするかどうするかはだいぶ議論しました。
最初はAIで制作したビジュアルを提案しましたが、AIのままでは本番の画像として使用できないので、イラストレーターさんに描いてもらう必要がありました。AIが作ったニュアンスをキープしてもらいつつ、作業を進めていただきましたが、おいしく見えるための色味を出すのが難しくて。ミルクの影になっている青には少しだけ黒が入っていて、その度合を間違えるとおいしそうに見えなくなってしまうので、微妙な加減を調整しながら描いていただきました」

キービジュアル制作では、商品を置く角度、ミルクが入ったグラスの位置、背景となる部屋や景色の見え方など、AIによっていくつかのパターンを制作。角度やグラスの位置などを決定してから、撮影に臨みました。

LIKE MILK

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撮影中の様子。

アサヒグループジャパン「LIKE MILK」ブランドサイト

LIKE MILK

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キービジュアルを大きく載せたブランドサイトは、登場感のあるインパクトの大きなデザインに。「LIKE MILK」を使った料理レシピも掲載されました。

「なんとなく」な概念を具現化するためのプロセスがポイント

2025年4月にMakuakeにてテスト販売を開始した「LIKE MILK」は、6月に受付をいったん終了。当初の目標を大きく上回る738%の達成率で、話題となりました。2026年の一般発売を目指し、プロジェクトはまだ進行中です。

今回のブランド開発のポイントとなったのが、PoC(Proof of Concept:概念実証)によるプロセス。クライアントが「なんとなく」抱いているイメージをどう具現化するか、その際にアマナが持つクリエイティビティがわかりやすい道筋をつけるのに役立ったと考えられます。

「まだ見たことのない新商品の開発段階から伴走させていただき、そのビジュアライズまでをサポートすることができました。ビジュアルを使ったプロセスを作り上げ、いろいろな概念を検証して1つずつ決めていけたのは、プランナーとビジュアルディレクター/アートディレクターのおかげ。アウトプットはもちろんですが、そのプロセス自体も高評価でした」(瀧野)

「クライアントとのセッションに大きな意味がありました。具体と抽象を行き来しながらいろいろなルートを検証して、いちばんいいものをみんなで決めていくのに必要なクリエイティブ力が、アマナにはあります。そのプロセスを行うことで、企業の方は自分たちがやっていること(商品開発)の意味をより深く具体的に理解することができますし、アマナとしては、企業の思いをどうビジュアライズすればいいかの根幹を感じることができる。セッションの時間は本当に価値あるものでした」(高橋)

「今はいろいろなところでAIを使うことができるようになって、そのメリットは制作スピードが速いとか、大量生産ができるといったことが語られます。そのうえで、クオリティを落とさないのと、伝えたいことを具現化し、きちんと伝わる形に持っていくのがアマナの強みだと思います」(コンスタンス)

クオリティが高いクリエイティブを使い、ビジュアル化、言語化のプロセスそのものの価値を知る。クライアントの課題に寄り添うPoCを、そのクリエイティブ力でより効果的に進めることができました。『LIKE MILK』は単なる牛乳の代替品ではなく、みんなが安心して食卓を囲める商品であるという本質を引き出した発想のプロセスが、このブランド開発の大きなポイントとなりました。


<スタッフクレジット>(スポンサー以外、すべてアマナ)
スポンサー:アサヒグループジャパン株式会社
プロデューサー:瀧野哲史、兼子丈太
プランナー:高橋みずき、日色菜々子
アートディレクター:コンスタンス・リカ
WEBデザイナー:田口未結
フォトグラファー:大手仁志
レタッチャー:桜井なおみ
コンセプト開発:堀口高士、コンスタンス・リカ

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取材・文:大橋智子

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PROFILE

株式会社アマナ
高橋 みずき

株式会社アマナ
高橋 みずき

プランナー。制作会社での営業としてキャリアをスタート。印刷会社へ転身後は大手メーカーのプロモーションプランニングを担当。アマナでは飲料・食品・アパレル・通信・流通・医療など幅広い業種において、コミュニケーション戦略策定・ブランド開発を担当する。

コンスタンス・リカ

株式会社アマナ
コンスタンス・リカ

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コンスタンス・リカ

イメージングディレクター・ビジュアルコラボレーター。ダイナミックなビジュアルデザインスキルとグローバルな感性で、インパクトと意味のある体験を生み出す。既成概念に新しい視点と変化を与える事で、新たな価値を創造することを目指し、デジタルブランディングとビジュアルプロトタイピングを中心に様々なプロジェクトに取り組んでいるクリエイティブ錬金術師。 

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