近年、SNSを舞台に展開される動画広告は、企業のマーケティング戦略に欠かせない存在となっています。ユーザーはスクロールしながら膨大な情報に触れるため、広告に割かれる時間はわずか数秒。その短い時間で視線をとらえ、ブランドや製品の価値を印象づける必要があります。
とりわけ、テレビのように複雑なスペックを持つ製品では、機能説明だけでは視聴者の心を動かすのが難しく、直感的に「すごい」「美しい」と感じさせる映像表現が求められます。
この高いハードルに対し、アマナは欧州市場での展開を見据えたパナソニックのSNS広告映像制作に挑みました。長年にわたって同社のプロモーションを数多く手がけてきた経験をもとに、わずかな秒数の中に製品の魅力を凝縮し、記憶に残る映像表現の実現を目指しました。
本記事では、映像制作に携わったアマナのメンバーへの取材をもとに、SNS広告ならではの表現の工夫や制作プロセスをご紹介します。
今回のプロジェクトでは、アマナが持つ社内体制の強みが最大限に発揮されました。一般的に、映像制作の初期段階では、クライアントから寄せられる要望が「迫力を感じさせたい」「体感できるようにしたい」といった抽象度の高い表現で伝えられることがあります。具体的なカット指示や画面設計ではなく、感覚的なニュアンスをどのように映像に落とし込むかが制作側の課題となります。
CGディレクターの佐々木貴章はこう語ります。
「初回のヒアリングでは、クライアントからのご要望が感覚的かつ抽象的な表現にとどまっていたため、それを映像として具現化するには当社のVFXチームの知見が必要だと判断しました」
製品の形状や質感を忠実に再現する、製品CG専門のviaチームに加え、光や粒子、波紋などを駆使して抽象的な概念を表現するVFXチームが連携することで、クライアントの要望を映像として具体化する道筋をつけていきました。こうした分業体制により、「製品を正しく見せる映像」と「感覚的な体験を表現する映像」を高いレベルで両立させることが可能となりました。
今回の制作は立ち上がりから順調に進みました。プロデューサーの吉川和也はこう振り返ります。
「今回のプロモーション対象であるテレビは、以前に技術訴求を目的としたPR動画を制作した際に取り扱ったテレビと同一の製品でした。そのため設計データや製品の基本情報がすでに揃っており、最初の準備段階から円滑に着手できたのが大きかったと思います」
背景には、パナソニックとアマナが長年にわたって数多くのプロモーション案件を共に取り組んできた信頼関係もあります。既存資産を活かしつつ、新しい表現に挑戦できる基盤が整っていたことで、スピーディかつ柔軟な進行が可能となりました。
アマナは企画からCG制作、編集までを一貫して社内で手がけられる体制を整えています。そのため、各工程がバラバラに進むのではなく、ひとつの流れとして管理できるのが強みです。
進行管理を担った洗豪はこう語ります。
「社内に必要な体制が整っているので、制作の流れを途切れさせることなく進められます。結果としてスピードが上がるだけでなく、映像全体のトーンや表現の一貫性を維持できるのが大きなメリットです」
限られた時間の中で、計4本の映像作品を高品質に仕上げることができた背景には、こうした専門チームの連携、社内一貫体制、そして長年の信頼に基づいたスムーズな立ち上がりがありました。
それでは作品ごとに、テーマと映像表現の工夫を詳しく見ていきましょう。
本作では、目に見えない“音”の広がりをどのように映像化するか、というテーマに取り組みました。空間を満たす音の感覚を、視覚的にどう再構築するかが課題でした。
CGディレクターの前田昂は、次のように語ります。
「人間の虹彩が爆発するように広がるイメージをモチーフに、音が空間へと広がり、最後にテレビのスピーカーへ収束していく構成を設計しました。この演出によって、拡張と集中という二つの動きを一貫した表現として映像に組み込むことができました」
制作にあたっては、以前のテレビプロモーションで制作した静止画ビジュアルをリファレンスとして活用しました。過去に挑戦した「音に包まれる空間」の表現を基盤とし、既存のビジュアルデータをアニメーションとして再構築。動きや臨場感を加えることで、静止画では伝えきれなかった没入感を映像で表現しました。
以前のプロモーションで制作された静止画ビジュアル。映像化の際の参考として応用。
さらに、背景には水面を用い、波紋や反射を重ねて奥行きと高級感を演出。トーンは夕暮れをイメージし、映像全体のムードに統一感を持たせると同時に、細やかなエフェクトを際立たせています。
本作は、音そのものの広がりだけでなく、それが空間全体に与える印象や空気感を含めて視覚的に表現した事例です。短尺でありながらも豊かな世界観とテーマ性を備えた構成により、SNS広告としてのインパクトをしっかりと残す映像となりました。
本作のテーマは、階調を伴う豊かな黒を表現することでした。モチーフとして墨を選び、流体シミュレーションで自然な広がりと力強さを実現。その墨が形を変え、最後に金魚として姿を現すことで、短い秒数の中に鮮やかな展開をもたらしました。
映像構成の核となるのは、カメラワークです。視聴者を墨の世界へと引き込み、終盤で全体像を明かす流れによって、黒の奥行きと変化の妙を印象づけています。
さらに、黒だけでは画面が単調になるため、金粉を散りばめてコントラストを形成。黒の深みを際立たせ、映像に華やぎを与えました。
「墨の重厚さに金の輝きを添えることで、互いの存在感が引き立ち、黒の豊かさが一層強調されました」(前田)
ラストには枯山水と白いモノリスを配置し、日本的な静謐さと現代的デザインを融合。制作過程で提案されたこの意匠が加わることで、テーマを過不足なく表現する締めくくりとなりました。
「黒」という難易度の高い題材に挑みながら、墨の流動性、金粉の輝き、金魚への変化、空間デザインを一体化させた本作は、製品の存在感を強く刻み込んでいます。
本作では、クリスタルの花びらをモチーフに、透明感と鮮やかさを前面に出しました。短尺でも印象が残るよう、尺配分と動きのスピードを綿密に調整し、展開にメリハリをつけています。
クライマックスでは、色彩が集まりメジロへと変化。日本的で象徴性のある被写体を用いることで、単なる色の美しさにとどまらない“記憶に残る着地点”を設計しました。背景は、花びらが舞っても不自然にならず、テレビ画面が小さく見える尺でも鮮やかさが伝わる画として最適化しています。
「ピンクや緑を無作為に混ぜると画面が濁ってしまいます。そこでエリアごとに色のルールを設け、花びら一枚一枚の鮮やかさと画面全体の調和を両立させました」(前田)
花びらの挙動には流体シミュレーションを用い、目に見えない“気流”を設計。その流れに沿って花びらが舞うようにすることで、過剰にならない自然な奥行きとリアリティを生み出しています。
こうして本作は、緻密に設計された色の配置と動きの演出を融合させ、「短い時間でも強烈に印象を刻む映像表現」を実現しました。
本作では、テレビがどのような住空間にも自然に調和する存在であることをテーマとしました。舞台は「LA郊外の住宅(夕方)」「モダンなマンション(夜)」「森の中のヴィラ(昼)」の3種類。それぞれが連続的に切り替わり、テレビを中心に据えた世界観が途切れなく展開されます。
映像設計のポイントは、空間ごとに異なる光や色調、小物の配置を調整し、時間帯の変化を違和感なく見せることにありました。加えて、家具や部屋のスケール感を丁寧に設計することで、視聴者が自然に没入できる空間を形づくっています。
佐々木は制作を振り返り、次のように語ります。
「空間は大切ですが、あくまで主役はテレビです。家具や小物が製品にかぶらないように配置を工夫し、さらに影の動きを加えることで静止した空間にも空気感を持たせました」
今回の制作では、フルCGの強みを最大限に活用。これまでの制作で蓄積されたデータやナレッジを生かしつつ新規要素を組み合わせることで、効率性とクオリティを両立しました。また、動画と静止画を組み合わせる演出を導入し、テレビ画面に切り替わる瞬間を自然に見せることで、ループ映像ならではの没入感を強調しています。
こうして「インテリア」篇は、パナソニックらしい上質な空間デザインとテレビの存在感を同時に際立たせる映像表現となりました。
本プロジェクトの大きな特徴は、クライアントからの修正要望がほとんどなかったことです。制作進行の洗は「非常にスムーズに進行できた案件として印象に残っています」と語ります。
制作をスムーズに進行できた背景には、アマナとパナソニックが長年にわたって築いてきた信頼関係があります。加えて、パナソニックが大切にする「ウェルビーイング」というブランド理念を制作チームのメンバーがしっかりと共有していたことが、表現の方向性を自然と一致させる基盤となりました。
プロデューサーの吉川は「海外マーケット向けに、ここまでSNS広告に振り切った映像を手がけたのは初めてでした。『“これは何だろう”と思わせる映像をつくりたい』というクライアントからの投げかけに対して、しっかり応えることができたと感じています」と振り返ります。新しい挑戦に確かな成果をもたらしたことは、チームにとっても大きな手応えとなりました。
制作現場においても、役割分担が明確に機能しました。viaチームが商品や空間の正確な表現を整え、それをVFXチームが受け継ぎ、エフェクト表現を磨いていく。両者が同じ世界観を理解していたからこそ、トーンがぶれることなく一体感のある映像に仕上がったのです。
本プロジェクトの取り組みを通じて得られた学びも少なくありません。短尺映像では「一瞬で伝わる象徴的な変化」が大きな訴求力を持つことを再確認。また、音や空気感といった抽象的な要素であっても、CG表現によって魅力的なビジュアルへと再構築できることが明らかになりました。さらに、初期段階で合意点を丁寧に共有することが、組織や担当者が変わっても安定した進行を支える重要な要素であることも実感されました。
今回のプロジェクトは、単に製品を映すのではなく「体感を生み出す映像表現」に挑戦した事例でした。短尺ながらも豊かな世界観を描けたのは、アマナが持つ一貫体制と、各チームの専門性が噛み合ったからこそです。
SNS広告は数秒で判断される世界ですが、その短さがむしろ映像表現の可能性を広げます。視聴者を一瞬で惹きつけ、ブランドの価値を印象づける――その難題を解決するために、アマナは次の強みを提供しています。
1. 提案力
クライアントからの要望をそのまま再現するのではなく、「もっと伝わる」「もっと美しくなる」ための工夫を制作チームから自発的に提案します。結果として、映像全体の完成度と説得力を大きく引き上げます。
2. 組織力と進行力
プロダクト表現とエフェクト表現を担う専門チームが連携し、一貫した体制で制作を推進。長年の経験をもとに、短納期でも高品質を担保できる安心感があります。
3. SNS対応力
短尺映像やマルチフォーマットに最適化した設計で、数秒の中に強い印象を残します。グローバル市場におけるブランド訴求でも力を発揮します。
アマナは映像を「情報伝達」にとどめず、「体験として残る表現」へと昇華させます。SNS広告やブランディング動画で「短い時間でも確実に伝わる表現」をお求めの際は、ぜひご相談ください。貴社の課題に合わせた新しい映像体験を共につくりあげます。
スポンサー/クライアント:パナソニックエンターテインメント&コミュニケーション株式会社
<スタッフクレジット(すべてアマナ)>
CGディレクター:前田昴、佐々木貴章
CGクリエイター:佐々木紀子、本永千賀子
CG制作進行:洗豪
プロデューサー:吉川和也、森岡夏子
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文:小林拓美
株式会社アマナ
吉川 和也
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吉川 和也
2020年、アマナに入社。広告代理店での企画営業や飲食店経営を経験し、多角的な視点で事業とクリエイティブをつなぐ力を培う。アマナではプロデューサーとして、家電メーカーや、プロスポーツビジネスなど、多様な案件を手がけ、コンテンツを通じて認知拡大や課題解決に貢献している。
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洗 豪
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洗 豪
幼児英会話教室運営会社にて総務部員として2年間勤務。その後、CG業界への転身を決意し、デジタルハリウッドに入学。卒業後、同校にて1年間Teaching Assistantを務める。その後、株式会社ナブラに入社し、主にTVCMのCG制作を中心に3DCG制作に携わる。同社がアマナグループに参画後も、3DCGデザイナーとしてキャリアを重ね、2018年より現職のCG制作進行として活躍中。
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前田 昂
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前田 昂
CGスーパーバイザー / ジェネラリスト。広告業界での豊富な経験を通じて、クライアントの課題解決に貢献するビジュアル表現を追求。特に、最新技術と直感的なデザインを融合させ、視覚的インパクトと顧客体験を両立した表現に注力。いつの時代も心を動かすのは、優れた技術と感性が融合したクリエイティブであると信じ、受け手に届く価値を創出することを目指しています。
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佐々木 貴章
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佐々木 貴章
多摩美術大学卒業後、2006年よりレタッチャーとしてキャリアをスタート。2012年からはCG制作の分野へ活動領域を拡大。企業との直接取引による案件を数多く手がけ、現在はプロダクトのCGディレクションを主軸に活動している。製品の本質的な価値を引き出し、効果的に伝えるビジュアル表現を追求し、製品CGの大量制作、動画制作、プロダクトのキービジュアル制作を得意とする。
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amana cgxサイトでは、amanaのCG制作チームが手がけたTV-CMやグラフィック、リアルタイムCGを使ったWEBコンテンツなど、CGを活用する事で、クライアント課題を解決に導いた様々な事例を掲載。
CGクリエイターの細部にまでこだわる表現力と、幅広い手法によるソリューションサービスを紹介しています。