長野県・御代田町を舞台に、屋内外でアート写真を体験できる「浅間国際フォトフェスティバル(PHOTO MIYOTA)」[8/2(土)〜9/30(火)]。2025年のテーマは「Unseen Worlds まだ見ぬ世界へ」。カメラが拡張してきた“人間の視覚”を手がかりに、見える/見えない世界の境界を横断する展示が並びます。
キュレーションや展示企画を担うのは、アートやデザイン、映像といったクリエイティブを軸にブランド支援を手がけているアマナ。自治体と共に主催する実行委員会体制(委員長=御代田町長)のもと、amana collection(アマナが日本の現代写真家の作品を収蔵する企業コレクション)と国内外の作家、町内回遊の仕掛けを束ね、来場者と企業の双方に価値を生むイベントづくりに挑んでいます。
2018年の初回以降、継続のなかで培われた企業協業(2023年のMAZDA、2024年のLOEWE)からの学びを踏まえ、2025年の狙いと可能性を、アートフォトメディア『IMA』編集長・太田睦子(エキシビションディレクター)、久保将育(ビジネスプロデューサー)、中西陽菜(アソシエイトプロデューサー)、そしてLOEWE担当の堀 学(ビジネスプロデューサー)に聞きました。
浅間山麓の景観と町の動線を活かした展示構成。主会場はMMoP(モップ)。
――今年のテーマや、これまでと異なる特徴があれば教えてください。
太田睦子(以下、太田):写真は現実と向き合う表現であり続けながら、例えば顕微・天体・赤外線やAIなど“見えないもの”を可視化する手段として拡張してきました。作家たちの多様なアプローチを通じ、来場者が「知らない世界」を発見する契機にしたいという基本的な思いは変わらずに続けています。
最近では、戦争やそれによる経済への影響など、世界情勢がいろいろと不安定です。戦争のニュースは日々流れてくるし、物価高や気候変動も実感しています。ですが、日本人は毎日普通に生活することはできるし、知らなくても生きてはいける。世界にはそのように知らないこと、出会えていないことで溢れているのではないでしょうか。写真作品を通してそれに気付き、世界と向き合うきっかけになればと思います。
2025年テーマ『Unseen Worlds まだ見ぬ世界へ』より。左; Luisa Dörr / 右;Sander Coers
――キービジュアルの狙いはなんでしょう?
太田:人物写真は強いフックになります。今年はルイーザ・ドア《Imilla/The Flying Cholitas》とサンデル・クース《POST》を用いました。前者はスケートボードを手にしたボリビアの少数民族の女性が民族衣装を着てたたずみ、後者はAIを取り入れた表現を用いています。見た人が「誰だろう?何だろう?」という問いが生まれるきっかけになればと考えました。展示全体は、アマナのコレクションと作家を屋内外に配置し、世界のどこかで起こっているけど知らなかった現実、日常生活の中では忘れていることなど「まだ見ぬ世界」を体験できるようにしました。
――過去には企業との協業による展示も見られましたね。
久保将育(以下、久保):2023年にMAZDA、2024年にLOEWEとの作品展示がありました。
中西陽菜(以下、中西):展示作品を企業とつくることも価値ある協業ですが、2025年は露出だけでなく、行動変容(回遊・滞在・撮影)に関連したタッチポイントを一緒につくる発想で、会場内外の導線を見直し、町を回遊しながら体験できることを意識しました。その一例として、サテライト会場のJA佐久浅間 御代田直売所ではアーティスト・石場文子さんの作品を展示し、来場者が地域を巡りながらアートを体感できるようにしています。もっと長く楽しんでいただく、SNSなどを通して体験を友人知人に伝えていただくなど、来場した方の次の行動に結びつくタッチポイントを増やしています。
サテライト会場 JA佐久浅間 御代田直売所における石場文子の展示。Time elapses (four apples)_point B, 2と3のあいだ [静物] #4, untitled(デコポン), 2と3のあいだ [静物] 緑
――2023年のMAZDAとの協業についてお聞かせください
太田:車体と壁面にイメージがランダム投影され、鑑賞者の動きに応じて映像や音が切り替わることが体験できる展示でした。「もしMAZDA2が都市だとしたら」をコンセプトに、柿本ケンサクさんの作品と車を統合し、さらにAIを活用するなど、アマナが培ってきたビジュアル表現の技術を用いて実現しています。車に関心が薄かった層への訴求や「アートに関心のある企業」という印象形成など、ブランドの“深み”を豊かにできたと思います。
MAZDA×柿本ケンサク展示風景(2023)。「MAZDA+柿本ケンサク」が見せたもの。企業がアートとコラボレーションする理由」より。
――2024年のLOEWE財団との取り組みはどうでしょう?
堀学(以下、堀):LOEWE財団が京都の釜師・大西清右衛門家を支援するプログラムの一環として、同家の日常や茶の湯釜を写真で紹介しました。横浪修氏の撮り下ろしを中心とした構成で、クラフト継承を現代の視点で伝える試みです。
太田:実物の茶釜と新作写真の並置は、物語の“手触り感”を強く印象づけます。展示作品単体ではなく空間の質までトータルに設計することで、ブランドと地域、来場者の良質な関係をつくれたのではないでしょうか。海外には財団を有している企業も多く、継続的にアートや文化と関わり支援することを企業活動の一環として当たり前のように取り組んでいます。それが企業の価値向上につながっていますが、日本の企業もそうした活動に対する意識が高まっていると実感しています。
LOEWE財団展示(2024)。クラフトの継承を“体験”へ昇華。展示空間を含めて企画された。出典:ロエベ公式サイト
――浅間国際フェスティバルは今年で6回目になりますが、運営体制の特徴はなんでしょうか?
太田:主催は「PHOTO MIYOTA 実行委員会」、委員長は町長になります。自治体(御代田町)が主体となり、積極的に推進しています。アマナが委託を受けるという形ではなく、企画・制作・キュレーション面でいっしょにつくりあげる形です。継続性と公共性を保ちながら、いろいろな表現の挑戦ができるのが特色ですね。また、御代田町の皆さんに被写体になっていただいた写真が展示されています。町民の皆さんに参加いただき、実際に足を運んでいただくなど、御代田町との協業も実現しています。
久保:オフィスにアートを飾ることでコミュニケーション量が増えた、ストレスが緩和された、といった事例も耳にします。企業は売り上げを上げることが重要ですが、それだけではない企業の姿勢が問われる社会になってきていると思います。そうした感性を大切にする活動が、もっと活発になる社会になればいいですよね。
浅間国際フォトフェスティバルが示すのは、アートと企業の企画が単なるスポンサーシップを超えて、新たな価値創造の場となり得るということです。アマナはこれまでに手がけたMAZDAやLOEWEとのコラボレーションをはじめ、アートを活用した企業ブランディングを多数プロデュース。企業ごとに最適なアプローチから企画を立案・提案し、企業のブランド価値向上と社会的意義の創出を実現してきました。
重要なのは、単なる展示会の企画やアート活動を一時的なマーケティング施策として捉えるのではなく、アーティストの視点やアートのもつ力を企業のブランド戦略に結びつけ、企画し、実行することしょう。浅間国際フェスティバルは、そうしたアマナがもつ強みを活かした事例であり、実績を象徴する取り組みのひとつです。
これからさらに重要なのは、アートを活用した活動を企業の社会的責任と文化的使命として位置づけることでしょう。企業がアートと真摯に向き合うことで、従来のビジネスモデルを超えた価値創造が実現するのではないでしょうか。
<スタッフクレジット>(すべてアマナ)
エキシビションディレクター:太田睦子 『IMA』編集部。キュレーションと展示編集を統括。
ビジネスプロデューサー:久保将育 企業協業・制作を担当。
アソシエイトプロデューサー:中西陽菜 現場実装、パートナー連携を推進。
ビジネスプロデューサー:堀学 LOEWE担当。クラフト継承プロジェクトの編集・制作を支援。
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ミキモト「Jeux de Rubans」
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取材・文:桑原勲
株式会社アマナ
太田 睦子
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太田 睦子
『IMA』エディトリアルディレクター。早稲田大学第一文学部卒業後、1991年サントリー広報部に入社。PR誌『サントリークォータリー』を担当した後、中央公論社(現・中央公論新社)『マリ・クレール』編集部を経て、『エスクァイア』『GQ』などに所属。その後、フリーランスの編集者となり、雑誌、書籍、アートブック、展覧会図録の制作やアートプロジェクトに携わる。2012年にアマナでアート写真雑誌『IMA』を創刊。エディトリアルディレクターとして、IMA photobooksのレーベルでの写真集刊行、イベントなどを手がけている。
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久保 将育
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久保 将育
プロデューサー。 素材メーカー、ロボティクス、不動産デベロッパーなどのBtoB企業からラグジュアリーブランドまで、さまざまな企業の幅広い領域でのクリエイティブ制作の営業・プロデュース業務を担当。
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中西 陽菜
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中西 陽菜
プロデューサー。スチールやムービー、イベント制作など幅広いプロジェクトの制作進行を担う。国内外のアーティストやブランドとのコラボレーションに携わり、近年はラグジュアリーブランド領域におけるビジュアル制作を中心に担当する。
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共感や信頼を通して顧客にとっての価値を高めていく「企業ブランディング」、時代に合わせてブランドを見直していく「リブランディング」、組織力をあげるための「インナーブランディング」、ブランドの魅力をショップや展示会で演出する「空間ブランディング」、地域の魅力を引き出し継続的に成長をサポートする「地域ブランディング」など、幅広いブランディングに対応しています。
amana EVENT
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魅力的な体験をもたらすイベントを企画・運営
展示会や商品発表、店舗やホールでの特別な催しなど、各種イベントの企画から設営・運営まで、幅広く対応しています。ブランドや商品価値の理解のもとに会場を設計・デザイン。ビジュアルを活かした空間づくりや、AR・VR技術を駆使した今までにない体験型のエキシビションなど、ビジュアル・コミュニケーションを活用したイベントを提案いたします。