韓国・釜山で開催される国際広告祭「MAD STARS」は、世界中の優れたマーケティング・広告・デジタルコンテンツ作品を表彰する祭典です。社会を変える創造的ソリューションの共有を掲げており、クリエイティブ業界の最新動向を映し出す舞台とも言えます。
2025年のMAD STARSはテーマを「AI-vertising: AI Advertising Marketing Era(AI時代の広告マーケティング)」と定め、人間の想像力と人工知能のコラボレーションが広告にもたらす未来を探究しました。
また、従来の「PIVOT」カテゴリーはAI技術を活用したクリエイティブ作品を中心とする部門へと再定義され、イノベーティブなAI活用事例の顕彰に重点が置かれました。
本記事では、2025年MAD STARSで注目を集めた受賞作品6点を紹介し、そのクリエイティブのポイントを解説します。さらに、今年の受賞作から見える広告表現のトレンドを分析し、その潮流に対応するためのポイントについて考察します。
Design部門グランプリ受賞 ほか
広告主:Samsung Electronics Iberia
出典:@MADSTARS_festival/[MAD STARS 2025 Winners] Grand Prix: IMPULSE
SamsungのGalaxy Watch向けアプリ「IMPULSE」は、発話に困難を抱える人々をサポートするために開発されました。ユーザーの会話をリアルタイム解析し、言葉をリズミカルな振動に変換して提供する、いわば「見えないメトロノーム」。話者の手首で振動するリズムに合わせて発話を促すことで、スムーズな会話をサポートしてくれる「袖口のAIスピーチコーチ」です。従来、吃音症などの治療で用いられてきたリズム療法を日常生活のあらゆる場面で実践できるようにした点が革新的で、治療機器ではなく誰もが使える無料アプリとして提供されており、テクノロジーと創意工夫で人々の生活の質を高める好例となりました。本作はデザイン部門のグランプリを含む複数の賞を獲得し、AI活用による社会的インクルージョンの可能性を示す作品として高く評価されています。
Design部門シルバー受賞 ほか
広告主:Samsung Electronics Iberia
出典:@estudiopegrande/The Mind Guardian
「The Mind Guardian」は、一見するとシンプルなタブレット向け3Dゲームですが、その裏側でAIを活用しプレイヤーの記憶力や判断力を解析することで、アルツハイマー型認知症の初期兆候を検知するヘルスケアプロジェクトです。プレイヤーは都市空間を冒険し、ゲームを進める中でAIが操作の選択や反応時間などを評価します。従来、認知症リスクの評価は専門医による検査に頼る部分が大きかった中、本作は誰もが気軽にセルフチェックできる手段を提供しました。「楽しみながら早期発見」というアプローチは啓発に留まらず実際の介入につながる点で画期的です。広告表現というより実用的なソリューションそのものを提示したことで、カンヌライオンズ2025 ヘルス部門でも銀賞を受賞するなど国際的に評価されています。
Design部門シルバー受賞 ほか
広告主:日産自動車(パートナー:赤ちゃん本舗)
出典:@NissanJapan/日産 & アカチャンホンポ INTELLIGENT PUPPET イルヨ
日産自動車が「ゼロ事故社会」に向けたビジョンのもと開発した世界初の「車内ベビーシッターロボット」です。「Iruyo(いるよ)」は大小2体のぬいぐるみロボットから構成され、運転席側にいる小さなロボットと後部座席そばの大きなロボットが連携して動作します。例えば運転中に赤ちゃんが泣き出した際、ドライバーが発する「あやし言葉」や声のトーンを小型ロボットが検知すると、後部座席の大型ロボットが連動して「いないいないばあ」などのアクションで赤ちゃんをあやしてくれます。さらに大型ロボットは赤ちゃんの表情もモニタリングし、赤ちゃんが眠ってしまった場合にはその情報を前方の小型ロボットに伝達、小型ロボットの瞼がゆっくり閉じて運転者に「赤ちゃんが寝付いた」ことを優しく知らせます。これらリアルタイムの双方向コミュニケーションにより、運転者は前を向いたまま愛児の様子を把握できるようになりました。プロダクト発売後には1,400以上のメディアで紹介され、約4.3億円相当のPR効果を生み出すなど大きな注目を集めています。
Innovation部門ゴールド受賞 ほか
広告主:OUI Inc.
出典:@ouiinc/250705_OUI Inc. Smart Eye Camera Movie
慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業であるOUI Inc.とTBWA HAKUHODOが共同企画・制作し、視覚障害の予防に挑むプロジェクトです。本製品はスマートフォンに装着する小型アタッチメント型の検眼デバイスで、誰でもどこでも専門的な眼科検査を可能にします。世界では失明者の約半数が白内障など治療可能な疾患によるものと言われますが、このデバイスにより発展途上地域などアクセスが限られた場所でも手軽な検診と遠隔診療が可能となります。広告色は薄くとも「社会課題の解決に直結するプロジェクト」として評価され、MAD STARS 2025では革新的テクノロジー活用によるSDGs貢献事例としてSDGs部門およびイノベーション部門の双方で金賞に輝きました。クリエイティブが社会にもたらす価値を体現した作品と言えるでしょう。
AI部門クリスタル受賞 ほか
広告主:IKEA
出典:@ADFESTOfficial/”IKEA Flooded Room” by VML Group (Thailand)
2024年にタイ北部を襲った過去30年で最悪規模の洪水災害を受けて、IKEAタイランドが被災者支援のために打ち出した社会性の高いキャンペーンです。IKEAが日頃展開するおしゃれで機能的なショールーム風ビジュアルを、泥水に浸かった“浸水部屋”のイメージに一変させた印象的な広告ビジュアルが目を引きます。IKEAはこのビジュアルを起点に、顧客に対して自宅で使わなくなったIKEA家具の寄付またはIKEAへの買い戻しを呼びかけています。集まった家具は必要に応じてIKEA側で補修・再生した上で、現地の有力NGOと連携して被災世帯に届けられる仕組みです。災害発生からわずか24時間以内にキャンペーンを立ち上げ即座に支援を開始したスピード感も特筆すべき点でしょう。広告クリエイティブが単なる商品PRに留まらず、社会の連帯と善意を喚起する力を示した事例です。
AI部門クリスタル受賞
広告主:ROBOROCK KOREA
出典:@roborock.korea.official/Saros Z70 | I HATE ROBOROCK 2, Full
ロボット掃除機ブランド「ROBOROCK(ロボロック)」が、新製品の発売プロモーションとして展開したユニークなキャンペーンです。タイトルは「私はロボロックが大嫌い」という意味で、実は掃除される側――つまり“ホコリ”の視点から描かれた物語になっています。前作の世界観を継承した続編であり、擬人化された親子のホコリキャラクター「パパほこり」と「娘ほこり」が登場。彼らにとってロボロック掃除機は日常を脅かす最恐のヴィラン(悪役)であり、家中のホコリ仲間が次々と吸い取られていく様子がコミカルかつシネマティックに描かれます。単なる機能紹介ではなくストーリーテリングを前面に押し出しつつ、最新モデルの吸引力やAI搭載の自動運転機能など製品の強みもしっかり表現。エンタメ性とプロダクトアピールを両立した内容が消費者の共感を呼び、YouTubeやテレビCMで公開直後から大きな反響を得ました。
2025年のMAD STARSで顕著だったのは、「テクノロジー×社会課題×クリエイティブ」の融合です。今年のテーマが示す通り、AIの存在感が飛躍的に高まっており、受賞作の多くにAI技術の活用やAI時代ならではの発想が取り入れられていました。
たとえばIMPULSEやThe Mind Guardian、Smart Eye Cameraといった作品は、AIを用いて人々の健康や生活上のハンディキャップを直接的に改善するソリューションを提示しています。単に広告メッセージで問題提起するのではなく、プロダクトそのものやサービス開発を通じて社会課題を解決に導く──そんな「実装型」のクリエイティブが主流になりつつあることを示しています。
また、ブランドの社会的責任や迅速なレスポンス力も重要な潮流として浮かび上がりました。FLOODED ROOMのように災害発生直後に企業がクリエイティブを通じて支援活動を展開するケースや、IKEA・Samsungのように自社の製品・サービスを社会貢献のプラットフォーム化する動きは、現代の生活者から共感を得やすく、評価も高い傾向にあります。広告賞においても、売上や話題性だけでなく社会へのインパクトや持続可能性が重視されていると言えるでしょう。
さらに、エンターテインメント性とメッセージ性のバランスにも変化が見られます。 I HATE ROBOROCK 2のように遊び心あふれるストーリーで商品特徴を伝える手法など、見る者の心を動かすクリエイティブ表現が各所で光りました。最新技術の活用ありきではなく「それを通じてどんな人間体験を創出するか」という視点が重要になってきています。
総じてMAD STARS 2025は、広告クリエイティブの役割が従来の枠を超えつつある現状を映し出しました。AIをはじめとする先端技術とクリエイティブ発想を掛け合わせ、人々の生活や社会課題に具体的な変化をもたらす──そんな「広告の実践的価値」が問われる時代に入っているようです。クリエイターとテクノロジストが協働し、人間中心の視点を忘れずにイノベーションを形にしていくことが、これからの広告・マーケティングに求められるのでしょう。
急速に進化する広告表現の潮流を受けて、自社のマーケティングにこれらのトレンドをどう取り入れるべきか悩む企業も多いでしょう。AI技術の活用ひとつ取っても、戦略設計から具体的なクリエイティブ制作、法的・倫理的リスクの管理に至るまで検討事項は多岐にわたります。
重要なのは、テクノロジーとクリエイティブを両輪に、ブランドの価値を高めるストーリーを描くことです。その実現には専門的な知見と総合的な支援が不可欠と言えます。
アマナでは、こうした課題に対しワンストップでサポートできる体制を整えています。たとえば、企業ビジョンの整理から発信内容の設計まで包括的に支援する「ブランディング」サービスでは、徹底したリサーチと戦略策定を経て、最先端のクリエイティブで新たな世界観を創出します。社内外の多様なプロフェッショナル人材がチームを組み、論理と感性の両面からブランドの物語づくりをリードします。
また、先進的なキャンペーンを形にするコンテンツ制作力も重要です。アマナの「ムービー撮影」サービスでは、TVCMからWeb動画、イベント用映像まで幅広いニーズに対応可能です。撮影・編集・ポストプロダクションまで一貫してお任せいただける体制を持ち、クオリティと表現力を両立させています。
さらに、生成AIの活用に伴う著作権や権利の問題に対しても備えが必要です。アマナでは長年のクリエイティブ現場で培った知見を生かし、「amana著作権勉強会」を通じてコンテンツ制作にまつわるトラブル防止のノウハウを提供してきました。最近では特にニーズが高まる「amana AI権利勉強会」も開設し、AI生成コンテンツの権利処理やリスクについて事例を交えながら学べる場を提供しています。
このようなサービス体制の中で、アマナのフォトグラファー松栄憲太が撮影を担当した作品「【MAZDAドキュメンタリー】RX-7と過ごした25年間、最後の3日間 ~クルマが残してくれたもの~」が、MAD STARS 2025のFilm Stars部門においてクリスタル賞を受賞しました。
本作では、80歳の女性が愛車であるマツダ RX-7と共に過ごした25年間と、その“最後の3日間”を、静かで丁寧なドキュメンタリータッチで描いています。
出典:@MazdaOfficial/【MAZDAドキュメンタリー】RX-7と過ごした25年間、最後の3日間 〜クルマが残してくれたもの〜
この受賞は、広告表現だけでなく映像美や被写体への倫理的配慮が評価された結果であり、「ドラマ性」や「感動」を狙って大仰に見せるのではなく、「リアルな人間を真摯に描く」ことが国際的な舞台でも通用する創造性であることを示しています。こうした作品力は、アマナが長年培ってきたフォトグラファーや映像制作者の現場力と、企画段階からの丁寧なディレクションが結びついた成果と言えるでしょう。
アマナはこのように、技術革新・社会課題への対応・倫理・人間性を重視する創造性を「価値」として企業のコミュニケーションに取り入れるための体制を備えています。先端技術をただ使うのではなく、「どのように使うか」「誰にどう伝えるか」を深く考えることで、表現はより豊かに、そして受け手に響くものになります。ブランドのストーリーを未来につなぐために、私たちのサービスが御社のクリエイティブの可能性を拡げるお手伝いができれば幸いです。
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ビジュアル/TVCM -ムービー撮影
プランニング&デザイン/amana 著作権勉強会/amana AI権利勉強会
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文:小林拓美
amana BRANDING
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共感や信頼を通して顧客にとっての価値を高めていく「企業ブランディング」、時代に合わせてブランドを見直していく「リブランディング」、組織力をあげるための「インナーブランディング」、ブランドの魅力をショップや展示会で演出する「空間ブランディング」、地域の魅力を引き出し継続的に成長をサポートする「地域ブランディング」など、幅広いブランディングに対応しています。
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TVCMやWeb用の動画、企業紹介ビデオなど、幅広い動画の撮影に対応。長年培ってきたスチル撮影の経験とノウハウを活かして、クオリティの高い動画を制作します。撮影スタジオはもちろんのこと、動画の編集・合成を中心に、ナレーション収録も可能な動画編集スタジオを完備。撮影、編集、ディレクションなど、専門性の高いスキルを持ったスタッフが、動画の制作をサポートします。
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昨今、SNSやオウンドメディアなどでさまざまな情報コンテンツの発信が増えている中、それに比例してコンテンツにかかる権利トラブルのリスクも高まっています。アマナでは長年のクリエイティブ制作の中で培った著作権に関するナレッジを、セミナーコンテンツ『amana著作権勉強会』としてご提供。 さまざまなトラブル事例をもとに、情報発信を行う際、注意しなければならないポイントを解説します。