パルコ|クリエイティブは時代を写す──クリエイターは「共創」パートナー

パルコ|クリエイティブは時代を写す──クリエイターは「共創」パートナー

AIが浸透する現在も、パルコの広告クリエイティブは一貫して「クリエイターの感性」を中心に据えています。2023年にはフル生成AIによるクリエイティブが話題を呼んだことは記憶に新しいですが、2025年のシーズン広告では気鋭の海外クリエイターを迎えています。パルコはどのようにAIやクリエイターと向き合っているのでしょうか? 時代を写すと言われる広告クリエイティブへのアプローチを伺いました。

パルコのクリエイティブ・フィロソフィー

—— パルコが一貫して大切にしているクリエイティブの姿勢は何でしょうか。

草刈洋さん(以下、草刈。敬称略):私たちが何よりも大切にしているのは「クリエイターを信じる」という姿勢です。年齢やキャリア、知名度といったことは重要ではありません。クリエイターを最大限にリスペクトし、その才能を発揮いただける場を用意したいと考えています。新しい才能と出会い、世の中に紹介していく。そうした姿勢は開業した1969年から変わっていません。

草刈洋さん

株式会社パルコ 宣伝部 エキスパート 草刈洋(くさかり・よう)さん。

—— 社外のクリエイターを起用することも継続していますよね。

草刈:パルコには社内デザイナーはおらず、プロデューサーとしてクリエイターとタッグを組む形は変わっていません。才能あるクリエイターが活躍するためには、やはり機会、場をつくることが大切だと思っています。我々はそこをしっかりやっていくという考えを持っています。

—— パルコ社内では、どのようなチーム体制で進めているのでしょう。

甲藤夕佳さん(以下、甲藤。敬称略):宣伝部の20人が4チーム体制で活動していますが、中でも広告クリエイティブを担当するのは5名ほどです。みな、いくつかのプロジェクトを兼任しています。それぞれの興味範囲や詳しいジャンルはありますが「○○担当」「××担当」のように役割を固定せず、全員がプロデューサーとして関わっています。会社なので上長はいますし役職もありますが、シーズンのテーマやクリエイターの決定などはフラットにディスカッションしながら決めていきます。

—— 外部クリエイターとの打ち合わせもディスカッションして深めていくのでしょうか。

甲藤: はい。クリエイターと直接やりとりし、社内でディスカッションした共通認識を丁寧に共有しながら一緒につくり上げます。クリエイターとフラットに話し、共に発見し、コンセプトや意思決定に並走する関係がなければ、パルコが目指すクリエイティブは生まれません。私たちプロデューサーの役割は、スケジュールやコスト管理にとどまりません。クリエイターの「感性」を引き出し、課題を解きほぐし、アイデアを一段引き上げる“場”を整えることにあります。

甲藤夕佳さん

株式会社パルコ 宣伝部 マネージャー 甲藤夕佳(かっとう・ゆうか)さん。

AIの活用と現在地

—— 2023年「HAPPY HOLIDAYS」で生成AIを用いた狙いと、その後、御社内で変化があれば教えてください。

草刈:渋谷PARCO開業50周年を迎えるにあたり、2023年は「伝統と革新」をテーマに掲げた年でした。AIへの注目も背景にあり、革新の文脈でAIを活用するアイデアは早い段階からありました。ただAIを使うことが目的ではありません。ディスカッションを重ね、最終的にクリエイティブディレクターの木之村美穂さん、AI・デジタルクリエイターのAi-Editorial-Christian Guernelliに出会い、パルコらしい表現ができました。

——AIの活用をどのようなアプローチで進めたのでしょうか。

草刈:パルコがAIに舵を切ったわけではありませんし、AIを否定することもありません。クリエイティブ制作にかけた時間やコスト、進め方はこれまでと変わりません。何かを効率化するためにAIを採用したわけではないので当然なのですが、クリエイターと共創する姿勢は同じですね。

なによりAi-Editorial-Christian Guernelliが手がける作品自体が、非常にクオリティが高いことが依頼したポイントでした。新たな才能に出会えたと感じましたし、AIを用いた表現を通して新たなクリエイティブの現場に関わることができました。と同時に、膨大な量のビジュアルを前にし、いかに人間の審美眼が求められるか、人間の能力の素晴らしさを改めて実感させられました。

パルコ初の生成AI広告、2023年「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」クリエイティブ。グラフィック、音楽、動画、ナレーションなどすべてを生成AIにて制作した。

パルコ初の生成AI広告、2023年「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」クリエイティブ。グラフィック、音楽、動画、ナレーションなどすべてを生成AIにて制作した。

——その後、AIはどのように活用されていますか。

草刈:私たちはAIを、フォトグラファー、イラストレーター、スタイリストと同様に、表現のための選択肢の一つと捉えています。静止画の一部生成やテキストからのイメージ展開、撮影前のサンプル作成など、使いどころは様々です。重要なのは「AIを使うことが目的ではない」こと、「AIができること」に企画を合わせないことでしょうか。

「時代のコンテクストを表現する」とは何か

—— 2025年の春夏シーズン広告ではレスリー・チャンさん、秋冬シーズン広告ではエージェイ・ドゥアンさんをクリエイティブディレクターに起用されました。その背景を教えてください。

本橋乃衣絵さん(以下、本橋。敬称略):シーズン広告は1年以上前から準備します。外部のリサーチャーに依頼することはなく、社内で「今はどんな時代なのか、次にどんな時代が来るのか」といったテーマでディスカッションします。それを私たちは「時代のコンテクストを表現する」と呼んでいます。

本橋乃衣絵さん

株式会社パルコ 宣伝部 本橋乃衣絵(もとはし・のいえ)さん。

本橋:2025年シーズンでは、「ありのままの姿」「自分を大切にするセルフラブ」「身近にある美しさ」「昭和・平成レトロブームから、明るく前向きな時代への憧れ」の4つをキーに、「日常を美しく描いた物語」をつくる結論に至りました。そこからクリエイター候補を検討するのですが、最終的に春夏はレスリー・チャンさん、秋冬はエージェイ・ドゥアンさんに依頼しました。候補を絞り込む局面では、チームの意見が一致することが多いですね。

2025春シーズン「春叙」(上2点)、同夏シーズン「夏遇」(下2点)の広告クリエイティブにはレスリー・チャンさんを日本企業として初起用した。1990年代の上海を舞台に、往復書簡でつながる男女二人の物語を描いたムービーが春(プロローグ)と夏(エンディング)に1本ずつ展開された。

2025春シーズン「春叙」(上2点)、同夏シーズン「夏遇」(下2点)の広告クリエイティブにはレスリー・チャンさんを日本企業として初起用した。1990年代の上海を舞台に、往復書簡でつながる男女二人の物語を描いたムービーが春(プロローグ)と夏(エンディング)に1本ずつ展開された。

2025春シーズン「春叙」(上2点)、同夏シーズン「夏遇」(下2点)の広告クリエイティブにはレスリー・チャンさんを日本企業として初起用した。1990年代の上海を舞台に、往復書簡でつながる男女二人の物語を描いたムービーが春(プロローグ)と夏(エンディング)に1本ずつ展開された。

——春夏と秋冬は別のクリエイターが手がけていますが、共通したキーワードはありますか。

本橋:ディスカッションであがったテーマは共有しますが、最もクリエイターに大事にしていただくのは “時代の気分”です。提案やクリエイティビティを最大限に発揮してほしいので、春夏・秋冬の表現を無理につなげるようなことはしませんし、4つのキーに合致しているかといったチェック項目を設けることはありません。クリエイターとキャッチボールを交わす中で、春夏は「日常の美しさ」を、秋冬は「内面へ耳を澄ます」をキーワードに表現してもらいましたが、私たちの考えは両シーズンを通して流れていると思います。

2025秋(上2点)、冬(下2点)シーズンの広告クリエイティブはエージェイ・ドゥアンさんが手がけた。こちらも日本企業として初の起用となる。“Echoes of self”をキーワードに、伊豆大島の自然の中で撮影された。

2025秋(上2点)、冬(下2点)シーズンの広告クリエイティブはエージェイ・ドゥアンさんが手がけた。こちらも日本企業として初の起用となる。“Echoes of self”をキーワードに、伊豆大島の自然の中で撮影された。

2025秋(上2点)、冬(下2点)シーズンの広告クリエイティブはエージェイ・ドゥアンさんが手がけた。こちらも日本企業として初の起用となる。“Echoes of self”をキーワードに、伊豆大島の自然の中で撮影された。https://parco.jp/style/

半歩先を、感性で進む

——これから挑戦したいことはありますか。

草刈:パルコらしさは、今の“半歩先”を感性で捉え、表現し、文化として残していくことだと思います。これからも、それを変わらずに続けること。トレンドをなぞるのではなく、まだ表現されていない違和感や期待感、言葉になる前の想い……そうした“時代の兆し”を丁寧に拾い上げ、クリエイターとともに表現していく。

私たちパルコは広告クリエイティブだけでなく、劇場や映画館、ライブハウスなどの運営、商業ディベロッパーとしての側面もあるので、プロデューサー的な視点は重要です。クリエイティブに対し影響や責任を持つべきだし、ただ口やお金を出し、発注する立場ではありません。これからも、クリエイターとともに時代を表現していきたいと考えています。

取材・文:桑原勲
取材撮影(ポートレート):大久保歩(アマナ)

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