なぜAIは「最も間違えてほしくないもの」を間違えるのか?──製品ビジュアル生成の限界と突破口

なぜAIは「最も間違えてほしくないもの」を間違えるのか?──製品ビジュアル生成の限界と突破口

製品の広告ビジュアルやEC商品画像に画像生成AIを使いたい一方で、「ロゴや文字が崩れる」「素材感が違う」「形が微妙に変わる」といった課題に直面するケースは少なくありません。

本記事では、画像生成AIが“最も間違えてほしくない製品表現”を間違えやすい理由と、撮影・3DCGと組み合わせて品質を担保する突破口を整理します。


進化したAIでも越えられない壁:製品の“正確な再現” 

画像生成AIは、わずか1〜2年で風景・人物表現のクオリティを劇的に向上させました。
光や質感の描写は以前と比べものにならないほど精緻となり、まさに「撮影したかのようなリアル」を生成できるようになっています。

しかし、その急速な進化の中でも、まだ越えられていない領域があります。
それが、製品を“正確に再現すること”です。

企業が扱う製品は、ブランドの資産そのもの。形状・素材・色・ロゴの位置まで、1mmの違いも許されないケースも少なくありません。ところが生成AIは、それらを“似せて描くこと”はできても、製品固有のディテールを正確に再現することが極端に苦手なのです。

つまり生成AIの限界とは、技術不足ではなく、本質的に「推測」で描いてしまう構造そのものにあります。ブランドにとって絶対に誤差が許されない領域──製品再現におけるAIの弱点が、いま鮮明に浮かび上がっています。

なぜAIによる製品再現が難しいのか?

製品がAIで正確に再現しづらい理由は、AIの性能というよりも、製品という対象そのものが“細部の集合で成り立っている”ためです。わずかなズレが別物に見えてしまうほど、ディテールの情報量が高い領域といえます。

実際の制作現場でも、AI生成では次のようなズレが起きやすく、それが製品の正確性を損なう原因になっています。

①ロゴや文字情報が微妙に変わる

ロゴや刻印は極めて小さな形状差でも印象が変わります。AI生成では、文字のエッジが甘くなる/位置がズレるなど、ブランドの資産である要素が不安定になりやすい傾向があります。

②素材の質感が一致しない

金属・布・樹脂など、素材特有の光り方や反射はわずかな違いで“本物らしさ”が失われます。AI生成では、素材の特徴が均質化され、質感が変わって見えるケースがあります。

③形状やシルエットが歪む

製品はミリ単位の形状が認識に大きく影響します。しかしAI生成では、シーム(縫製ライン)が増える、曲線が変わるなど、製品の本質的な造形が別物になる場合があります。

こうしたズレは、小さな違いに見えても、製品ビジュアルの“正確性”を大きく揺るがす要因となります。AIが難しいのは、リアルを描くことではなく、“指定した製品をそのまま忠実に再現すること”。その前提を理解することが、次のアプローチにつながっていきます。

参考画像①:ロゴ・文字の再現性検証(使用ツール:nanobanana)

参考画像①:ロゴ・文字の再現性検証(使用ツール:nanobanana)

突破口:撮影と組み合わせることで壁を越える

こうした製品再現の課題に対して、私たちが採用しているアプローチは大きく2つあります。いずれも、AIを置き換えとして使うのではなく、「実在する情報」と組み合わせることで、AIが苦手とする“忠実性”を補う方法です。

アプローチ 1:実物を撮影し、その“正確さ”を基点にAI背景を生成する(撮影×AI)

製品そのものは実写で正確に捉え、その上で背景だけをAIで自由に生成する手法です。こうすることで、製品の形状・素材・ロゴなどの細部は“本物のまま”保持しつつ、背景はAIによって多様なパターンを短時間で作ることができます。

ポイントは、撮影画像を基準に光や色を合わせたAI背景を生成すること。これにより、モデル・製品・背景の三要素が自然に馴染み、仕上がりのリアリティが一段と高まります。

・製品の正確性 → 実写が担保
・世界観の拡張性 → AI背景が担保

双方の強みを掛け合わせることで、“製品の正確性を保ったまま自由に世界観を作れる” 制作が可能になります。

参考画像②:撮影した画像の製品部分だけを切り抜き、生成した人物と背景に合成する。

参考画像②:撮影した画像の製品を切り抜き、生成した人物・背景に合成する例。

アプローチ 2:CGで製品を精密に再構築する(3DCG)

もうひとつの方法が、CADデータを元にCGで製品を正確に再現するアプローチです。特に家電、家具、工業製品など、形状の精密さが不可欠な領域では非常に有効です。

・ミリ単位の形状をそのまま再現
・素材・反射・光の挙動までを制御
・目的の世界観に合わせたライティングが可能

CGは、AIと異なり「正確性を再現する」ことを前提にした技術のため、ブランドにとって重要な製品表現の基盤として高い信頼性を持っています。

参考画像③:3DCGによる製品画像制作のイメージ

参考画像③:3DCGによる製品画像制作のイメージ

まとめ:“AI単体では届かない領域”に、撮影とCGが橋をかける

AIは優れた柔軟性とスピードを持つ一方で、製品表現に必要な精度を完全に保証することは難しい。その弱点を、撮影やCGと組み合わせることで補完し、正確性と拡張性を両立した新しい制作プロセスが成立します。

これからの制作では、

・忠実性が必要な部分は実写/CGで正確に確保し
・拡張性・バリエーションが求められる部分をAIが担う

という役割分担が鍵になります。
このアプローチこそが、製品ビジュアル制作における“限界の突破口”になります。

文・画像:堀口高士(アマナ)


イベントのお知らせ

テーマ:AIでつくるクリエイティブに、私たちは本当に「愛着」をもてるのか?ー AI生成にブランドの意思を込める方法

生成AIは、クリエイティブ制作の生産性を劇的に押し上げました。大量に、速く、誰もが“それなりに整った表現”を手に入れられる時代が始まっています。
一方で2026年、企業は新たな問いに直面しています。AIでつくられたクリエイティブに、私たちは本当に「愛着」をもてるのか。即座に生成・消費される表現が増えるほど、ブランドの世界観は均質化していくリスクも顕在化しています。
本ウェビナーでは、 アマナの実践事例や世界のAIクリエイティブをもとに、AIと人間の役割分担、そしてブランドの意思を生成プロセスに組み込む方法を紐解きます。「AIの進化を、美意識の進化へ。」そのための考え方とワークフローを事例とともに共有します。
 

イベント申し込みはこちらから

登壇者:
林宏介  株式会社アマナ/Department Manager|Executive Producer
堀口高士 株式会社アマナ/Department Manager|Creative Director
 
開催日時:2026年1月14日(水)12:00〜12:50
申込締切:1月13日(火)15:00
料金:無料
定員:100名
 
この記事も読まれています
アサヒグループジャパン|企画段階の新商品の世界観をPoCで可視化
「カゴメらしさ」を昇華させた、デザインアイデンティティ策定プロジェクト
生成AIが広げるビジュアルコミュニケーションの可能性
生成AIとクリエイターの共存:プロ向けマインドセット【日光メープルシロップ制作事例】
 

メルマガ登録.jpg

お問い合わせ先.jpg

SOLUTION

A³ | amana AI Architects

A³ | amana AI Architects

A³|amana AI Architectsは、「AIの進化を、美意識の進化へ」というビジョンのもと、生成AIを“ブランドに最適化する”ソリューション「AI Creative Architecture」を核に、企業のブランド表現を次世代の制作基準へアップデートするプロフェッショナル集団です。

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる