本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
企業のクリエイティブは、広告、オウンドメディア、映像、SNSなど、一人の才能だけで完結するものではありません。プランナー、コピーライター、デザイナーなど多くの人が関わり、表現は共有され磨かれていきます。ですが現場では「個人のひらめき」に偏りがちで、集まってつくる価値が見落とされることもあります。『生きるための表現手引き』は、文学カフェやシネクラブのように、表現は”仲間が集う場”で育つと語ります。第3回では、クリエイティブを”集いの場”として捉え直し、チーム(複数人)で強くなる条件を考えます。
〜本コンテンツは、書籍『生きるための表現手引き』(渡邉康太郎著・ニューズピックス刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第3回/全3回)。
No.1:「ゼロからつくる」を疑え——既存資産を「ずらす」リブランディングの実践的視点
No.2:「捨てる」を疑え——引用と組み合わせから独自性が生まれるブランドの原理リレー”の視点
「複数人で」という考え方でいえば、スタジオ制や共同制作のかたちだけでなくとも、仲間がいること、コミュニティのような場があることで、互いに刺激を与え合ったり、激励し合ったりすることができます。
人の集いによって文化が加速する様については、文学カフェと呼ばれるパリの文化がよく知られています。特にサンジェルマン・デ・プレ広場は有名です。木製の一対の人形が置かれていることからレ・ドゥ・マゴ(二体の人形)と呼ばれるカフェには、1930年代ごろから多くの知識人が集いました。哲学者ではサルトルやボーヴォワール、作家ではジェイムズ・ジョイス、アルベール・カミュやヘミングウェイ、芸術家ではピカソやアンドレ・ブルトン、プレヴェールなど。ジャンルを超えた表現者たちが日々集い(ときにお隣のカフェ・ド・フロールと行き来しながら)、創作論を交わしていたのでしょう(※1)。
このカフェの常連13人が審査員となり設立されたドゥ・マゴ賞という文学賞があります。もともと権威主義的でアカデミックな文学賞と考えられていたゴンクール賞があるなかで、それと異なる、斬新さや独創性を評価する賞が必要だと立ち上げられたものです。ドゥ・マゴに集う知識人や作家たちが共有していた価値観が伝わるエピソードです。この賞は現在にも続いています。
芸術家たちがパリのお店に集う様子は、ウディ・アレン監督・脚本の映画『ミッドナイト・イン・パリ』でも描かれています。作中にも登場するポリドールというレストランには、実際にランボーやヴェルレーヌ、ヘミングウェイらが通っていました。映画では、主人公が1920年代のパリにタイムスリップしてしまい、ジャン・コクトーがポリドールで主催するパーティに紛れ込むところから始まります。このパリでも最古のひとつに数えられるビストロは、今日(こんにち)も営業しています。
さて、「フランス」と「映画」というキーワードに誘われるように、いまから100年ほど前から始まった、フランスのシネクラブに注目してみましょう。ここでもやはり仲間の存在が表現活動と密接に結びついています。
1920年代以降、第二次大戦以前から、パリではシネクラブの文化が花開いていました。シネクラブとは、通常の興行とは異なる価値観で上映会や討論会を催す自主的な集いのことです。戦禍を被りながらも隠れてアメリカ映画を上映したり、ミュージカル映画に特化したりと特徴を持ったクラブも生まれ、一時期はパリ市内に100以上もあったといわれています。
自然とシネフィル(映画愛好家)同士の交流の場としても機能していました。それぞれ好みのクラブに通うなか、複数のクラブを渡り歩く好事家や熱狂的な若者たちもいました。
一例として、「シネクラブ・デュ・カルティエ・ラタン」というクラブでは、当時教師で、後に映画監督になるエリック・ロメールが上映後の解説を務めていました。前列近くにはやはりほかのクラブでも目にする、同じような若者の顔が揃っている。それぞれにプライドの高い若者たちだから、お互いに声をかけづらい。でも年長者であるロメールが仲介役となって、のちに映画監督となるフランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールがここで出会うこととなります。トリュフォーは15歳のころ自らのクラブを立ち上げるほど早熟の映画好きです。またゴダールも20歳の若さで批評家としてデビューしている。このようなつながりが下地となり、あたらしい映画表現を追求する運動、ヌーヴェルヴァーグにつながっていきます。
若者たちは、シネクラブで浴びるように映画を観て、自らクラブを立ち上げたり、批評を交わしたり紙面上に発表したりする。そしてやがて自らも作品をつくるようになる――。映画のムーブメントの土台には、趣味や美意識で共通する人々の集いがあります。ここに、必ずしも言葉だけによらない、共通体験や共通言語があります。
一人称で始まる表現も、その後、複数形で成熟します。作品を生むためには、個の力だけでなく、共に観て語り批評する共同の場が大きな意味を持つ。そしてそれがムーブメントの基礎にもなりうる――。表現のエコシステムは「個」ではなく個の「あいだ」から立ち上がります。
※1:岡本太郎も10年以上のフランス生活で足繁くパリに通っていました。河岸は違いますが、よく「ル・ドーム」や「ラ・クポール」などに顔を出し、芸術家のジャコメッティや写真家のブラッサイらと顔を合わせていたと『自分の中に毒を持て〈新装版〉』(青春文庫)にあります。
(この記事は第3回/全3回)
No.1:「ゼロからつくる」を疑え——既存資産を「ずらす」リブランディングの実践的視点
No.2:「捨てる」を疑え——引用と組み合わせから独自性が生まれるブランドの原理リレー”の視点
▼書籍紹介
Takramのコンテクスト・デザイナーとして活動する渡邉康太郎氏が、「表現は一部の専門家だけのものではない」という視点から、つくることの意味を問い直す一冊です。芸術史やデザイン、文学、コミュニティ実践など幅広い題材を横断しながら、表現を“生き方の技法”として捉え直し、いまの時代に創造性をどう取り戻すかを考えます。
▼書籍情報
書名:生きるための表現手引き
著者:渡邉康太郎
出版社:ニューズピックス
発売日:2025年11月28日
リンク:https://www.amazon.co.jp/dp/4910063420
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