vol.29
なぜ宝島社のムック本は売れ続けるのか?
ミレニアル世代の心をつかむヒットメイキング術
インターネットやスマートデバイスの登場により訪れた出版不況。そんな中、好調な売れ行きを見せるのが宝島社です。「モノが売れない時代」に、最先端のトレンドを読み解きヒットを連発させる秘訣はどこにあるのでしょうか。同社のヒットメイキングの中核を担う若手カリスマ編集長・皆川祐実さんにお話を伺いました。
皆川祐実(宝島社マルチメディア編集部 編集長/以下、皆川):宝島社でムック本をつくっていますが、「ムック(mook)」とは「マガジン(magazine)」と「ブック(book)」をひと言にまとめた造語です。そのなかでも、私はマルチメディアと呼ばれる、バッグやステーショナリーなどの「付録付きムック本」を手がけています。
タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):では実際にこれまで皆川さんがどんなムック本をつくってきたのか、いくつか事例のご紹介をお願いします。
皆川:付録を主とするムック本は、約10年前に登場しました。たとえば、以前つくったイタリアのブランド「イル ビゾンテ」のバッグを付録にしたムック本は15万部を約2週間で売り上げました。
タジリ:15万部というとかなりの部数ですね。
皆川:ヒットと言われる書籍でも2〜3万部が最近の相場です。2000円で売り出したこのムック本は、2016年の書店売り上げランキングのファッション部門で1位になりました。
このように大変ヒットしたムック本がある一方、母校の多摩美術大学の授業に参加したとき、30人ほどのクラスに「本屋さんで雑誌買ったことある?」と質問すると、全員が「ここ1年間雑誌を買っていない」と答えたんです。
タジリ:それは驚きですね。僕らが学生だったころは、まだ雑誌は強かった印象があります。
皆川:美大生でしかも雑誌的なものをつくろうとしているゼミの学生なのに驚きました。書店に行く人たちが減っていて本や書籍が売れないのであれば、「物を付けて売ろう」と付録つきムック本にチャレンジしたのが宝島社です。
タジリ:ムック本の購買層の男女比はどんな感じでしょう?
皆川:ものによりますが、約8割が女性です。
タジリ:ファッション系の他にも、さまざまなジャンルのものを制作していますよね?
皆川:8割くらいはファッション系が主軸ですが、それ以外にキャラクターなども商品化しています。ふなっしーのムック本は10冊担当しました。
他にも地方のPR系で、『LOVE! 佐賀』という有田焼の小皿を付録にしたものや、アルフォンス・ミュシャの作品集とバッグをセットにしたもの、インフルエンサーとして人気の高いゆうこすさん監修のコスメが付いたムック本などをつくりました。
タジリ:メインとしてファッション、キャラクターあたりが強いようですが、それは単純に編集部の興味の範囲がこの分野だからなのでしょうか?
皆川: 購買の8割を占める女性は男性よりもトレンドに敏感で、流行り物を好む傾向にあると思います。男性はどちらかというと付録というよりも、長く使えるものを良いブランドで買いたいというスタンスですよね。だから基本的にはF1層(20~34歳)からF2層(35~49歳)の女性が欲しいと思うものを狙っています。
タジリ:やはり、よく売れるものは付録として付くブランドやキャラクターの知名度が大きいのでしょうか?
皆川:知名度が高いほうが売れやすいというのはありますね。
タジリ:企画はどのようにしてつくっていくのでしょうか?
皆川:まず、週に一度編集部のみんなが企画を持ち寄って企画会議をします。そこで選ばれた企画を営業部会議に持ち込み、営業部で承認が降りると、該当ブランドさんとの交渉に臨みます。そしてブランドさんの承認を得てはじめて制作が開始するという流れなので、だいたい1冊に3~4カ月、長いもので1年かけてつくられます。
タジリ:企画会議では何案が出され、どのくらいが通るものなのですか?
皆川:私が所属するマルチメディア編集部は20数名おりますが、一人2〜3企画出し、そこからだいたい1〜3割程度が通ります。
タジリ:営業の会議では売れるか売れないかという点が議論の焦点になるのですか?
皆川:そうですね。編集者は展示会に足を運ぶなど、いろいろリサーチをしているので「これ、売れているよね」と普段の会話のノリで企画を精査できますが、営業部ではそうはいきません。営業部はある意味読者の代表でもあるので、誰にでも分かるようにプレゼンをする必要があります。だから数字が大事なんです。ネットが発達する以前は数字を求めることがすごく難しかったのですが、最近はインスタグラムでの投稿件数やフォロワー数など、エビデンスを付けやすくなりました。
タジリ:推し出したいけど企画が通らないこともあるんですか?
皆川:編集者はつくりたいという熱量があります。どうしても企画を通そうとポジティブな情報を集めるのですが、営業部の方々は結構シビアなので、ヒットが見込めるものでないと企画は通りませんね。
タジリ:皆川さんでも、バッサリいくことも?
皆川:バッサリもありますね(笑)。
タジリ:ちなみに、皆川さんは年に何冊くらいの制作を担当されているんですか?
皆川:自分自身の企画に限ると、年に40冊ほどつくっています。それぞれ数万部から十数万部の企画だったりするので、年間計130万部ほど売りに出している計算ですね。
タジリ:出版業界の方なら分かると思いますが、40冊というとかなりの量ですね。
皆川:わたしは経歴が長いので、「こういうのが売れるんじゃないか」と企画を見つけるのが得意です。だから実際の制作はできるだけ編集部員に任せ、私は企画出しやディレクションに専念するようにしてやりくりしています。
タジリ:いろいろなヒットを飛ばしている皆川さん。では、いかにしてヒットさせているのか。ヒットを生み出すために必要な5つの要素としてアンテナ力、企画力、デザイン力、宣伝力、展開力が必要ということですが、これについてお伺いしていきます。
タジリ:まず、アンテナ力ですね。若者をターゲットに日々変わって行く時代のトレンドをどのようにつかんでいるのか教えてください。
皆川:スライドにある3つの心がけを毎日実行しています。
皆川:まず「街中ウォッチ」です。打ち合わせの合間に街を歩いて、女の子たちがどんなアイテムを持っているのか、何色が流行っているかなどをチェックします。ネットにおんぶにだっこにならないように、なるべく自分の目で直接見て感覚をつかむようにしています。
タジリ:見たものはメモして、どこかにストックしたりしているんですか?
皆川:バッグのロゴをよく見て、ブランドの件数などを数えています。例えば、今年はストリートファッションが大流行したので、去年や一昨年よりもロゴが大きいバッグがやたら多いなといったように。そういうことをさっとメモして、自分の会社アドレスにメールするようにしています。
タジリ:メールで送るのはなぜでしょう?
皆川:スマホのメモ機能は書き溜めたものを見返しても、新鮮味がなく、そのあと実行する気がなかなか起きないんです。思いついたことをメールで自分宛に送っておけば、出社時に確認して、もう一度新鮮な気持ちで取捨選択できるんです。
タジリ:なるほど、そんなやり方もあるんですね。「地方からの情報収集」もしているそうですが、これは?
皆川:付録のサンプルは1パターンではなく、2〜3パターン必ずつくります。それをLINEで地方の主婦やOLなどの一般女性に送り、感想を聞くようにしています。東京の出版社に勤める私は、東京のトレンドに目線を合わせがちなので、地方の友人と普段からコミュニケーションをして、あらゆる意見を取り入れないといけないと思っています。
タジリ:地方の人の意見を取り入れるということは、ムック本が地方でも売れているということですか?
皆川:「ムック本ってどこで売れるの?」とよく聞かれますが、日本全国で売れているんです。革のブランドだと九州で、豹柄だと関西で売れやすいといったなんとなくの傾向こそあれ、満遍なくいろいろな地域で売れますね。
タジリ:次の「ネットの定点観測」ではどのように情報をつかんでいますか。
皆川:起きてから寝るまでずっとスマホでネットサーフィンをしています。見たり見なかったりではダメで、毎日見ていないと意味がないんです。例えばランキング系ならAmazon、楽天、紀伊国屋書店、ZOZOTOWNのバッグランキングなど、毎日見ることで「1位にはならないけど、この商品は長いこと高位をキープしているな」という発見があります。
タジリ:なかなか骨の折れる習慣だと思いますが、こまめにチェックすることが性にあっているんですか? それとも仕事だからと割り切っているんですか?
皆川:視力が下がるのでそこは悩みですね(笑)。でも平日は寝ている時間以外はマックスで行動していたいタイプなので、苦ではないかもしれません。いまやランキングチェックで目を覚ますほど、ネット関係はよくチェックしていますね。
タジリ:チェックしたランキングも記録しているんですか?
皆川:エクセルにまとめたり、資料にする作業ってすごく無駄なことだと思っていて。本当は上司から「会議には、A4の企画書を持って来てください」と言われているのですが、それが苦手なんですよ(笑)。代わりに写真一枚出力していって、根拠やデータを頭に入れて口頭でプレゼンしています。
タジリ:資料作りがちな人にとってすごく耳が痛い話ですね。
皆川:重要なことは説明をしますし、必要であればその場でスマホを使って補填できるじゃないですか。
タジリ:皆川さんだからできる手法でもあると思いますが、ためになる考え方ですね。あとはSNSもチェックしているんですよね。
皆川:ツイッターとインスタグラムは毎日見ていますが、両者の見方は異なります。まずツイッターは新しい情報を具体的に届けてくれる優れものです。マニアの利用者が多く、「こんなものが出るよ」「これがおすすめだよ」と、最新情報を真っ先に教えてくれる人たちがいっぱいいるんです。
タジリ:一時期の盛り上がりが収まり、いまやインスタグラムなどに押されている印象のツイッターですが、実はそんなこともなかったということですか?
皆川:学生に話を聞くと、日常的なやりとりはLINEではなくてツイッターだそうです。実はもう学生はインスタグラムをあまりやっていないので、若い子の情報を集めるのにツイッターはすごく役立ちます。
タジリ:そうなんですね。となると「インスタ映え」を訴える人はもう若くないってことですね(笑)。
皆川:大人がビジネスで使う言葉ですね(笑)。10代のマストアプリはツイッターとYouTubeで、インスタグラムを日常的にやっているのは少数派かと思います。
タジリ:ツイッターでは専門性のあるトレンドが分かるということですが、皆川さん的に引っかかるワードはありますか?
皆川:ツイッターにある「美容垢」ってご存知ですか?
タジリ:美容に関するアカウントということですか?
皆川:そうです。正体をあかさず、誰よりもかわいくなりたいというマインドを持つ方たちのアカウントで、みんな本気でリサーチしているので情報がすごく早いし的確で、なおかつ嘘がない。
タジリ:美のために、サブアカウントをつくって、共有し合っているんですね。
皆川:友だちがフォロワーに入ってくると、意識して格好つけ、素直なことが言えなかったりします。それがインスタグラムですよね。ツイッターなら自分の顔を明かさずにつぶやけるので、正直な意見が多いんです。コスメ付録を制作した際に参考にさせていただきました。
また、インスタグラムで同じことをしようとすると撮り方に凝らないといけないので大変です。ツイッターなら写真のクオリティを気にせずにアップロードできるので、続けやすい利点もあります。
タジリ:次は、どうやって隠れたブランドをヒットさせているのか、その秘密をお伺いしたいと思います。
皆川:これまで、北欧の雑貨ブランド「moz」のムック本をたくさんつくらせていただきました。
企画会議で通るのは編集者が太鼓判を押す人気ブランドですが、「moz」は特殊で、もともとお付き合いのある会社からの持ち込み企画だったんです。ただ、持ち込み企画は営業部の承認が下りにくいので、トレンドの形のバッグと掛け合わせることでなんとか企画を通し、商品化することができました。
タジリ:持ち込み企画が通らないのには、どういった理由があるのでしょうか?
皆川:編集部員が毎週50企画以上もの案を出しているので、そこで一度も上がらなかった企画がヒットするわけがないだろうという前提がなんとなくあるんです。
「moz」を人気ブランドにするためにいろいろな取り組みをしていますが、そのひとつにインスタグラムがあります。「moz」についての投稿数は多く、それは「#mozbook」で投稿していただくとプレゼントがもらえるというキャンペーンによる効果です。インスタグラムを活用したプロモーションを強化するために、「IGTV」用の縦長動画もつくりました。通常投稿のほうが再生回数は稼げますが、ちょっと新しいことをしているイメージ付けをしたくて縦長にこだわりました。
皆川:ほかにも、「アジョリー(a-jolie)」というブランドのアイコンバッグを付録にしたムック本もつくっています。「街中ウォッチ」をしていて、一昨年ぐらいからショーウィンドウでよく見るなと思っていたバッグでした。調べても特別な情報はなかったので様子を見ていたのですが、去年調べたところ楽天で即完売という情報が出ていました。誰もが知る有名ブランドというわけではありませんが、商品に魅力を感じたため企画会議に出しました。営業部のゴーサインをもらい、ブランドさんにお話に行きました。
フィリピンの職人さんがひとつひとつ手で編んでつくられるこの籠バッグを「もっと広めましょう」とブランドの責任者と意気投合し、約15000円で販売されているプロパー品をイメージしたミニ版を付録にしました。
タジリ:ムック本にするにあたって価格帯を下げなければいけませんよね? するとクオリティがプロパー品よりも劣ってしまう。そこにネガティブな印象を持つブランドもありそうですが、このあたりはいかがでしょう?
皆川:実際にブランドがやりたくないことを、私も実行したいとは思いません。しかし、踏み込んで聞いてみると「もっとブランドを知ってほしいし、売りたい」という声が出てくることが多いです。そこから、「ムック本を出した方がやはり効果的ではないか」という結論に達することも多いですね。
タジリ:ある種の宣伝ツールとして企業に受け入れられている面もあるんですね。
皆川:数年前までは、ムック本の発売がゴールでした。いまは宝島社の持つファッション誌13誌のなかで自社広告が打てたり、部数が多ければテレビCMも実施したり、SNSでの宣伝を強化したりと、単にムック本を出すだけでなく、それ以上のことまでブランドさんの持ち出しなくできる可能性があります。
タジリ:広告を出すのにもお金がかかりますから、商品アピールに加えてお金をかけずに宣伝までできてしまうということは、ブランドにとって相当なメリットですよね。
タジリ:ヒットを生むには当然、ムック本の見た目も重要だと思いますが、デザイン面ではどんな工夫をしているのでしょうか。
皆川:ムック本をつくるうえで最も重要なのが付録です。そして、次に大事なのが表紙です。表紙は書店さんで横並びに展開されているなかで、目立ってなんぼ。光るものがないと買ってもらえるかどうかのスタートラインにも立てないので試行錯誤してつくっています。
タジリ:ムック本によって世界観が少しずつ違うのは、ターゲットに合わせてつくっているからですかね。
皆川:はい。例えば、猫好きクリエイターたちによるプロジェクト「Cat’s ISSUE」とともにつくったムック本『The Cat’s ISSUE』では、猫も入るボストンバッグを付録にしました。「猫ちゃんが入れる」ことが一眼で分かるようにバッグと猫が並んだ写真をメインに置きました。書店さんで表紙を見る瞬間というのは、1秒あるかないか。まず気付いてもらうために、アイコニックな写真や目を引くカラーリングが大切になります。
タジリ:興味を引くための相当な仕掛けがあったわけですね。
皆川:売れた企画にはそれぞれ理由があります。他にも、先ほどお話しした「イル ビゾンテ」のバッグは何がポイントだったかというと、本革のパッチです。
本社があるイタリアからこの革パッチ部分を提供していただいて商品化できました。イルビゾンテさんはヌメ革をブランドの象徴としています。プロパー品のレザーバッグと全く同じ素材で経年変化が楽しめるのに、手頃な価格でお得感もあり、売れ行きが伸びました。
タジリ:そのようなプラスの提案は、ブランドと皆川さんどちらから話をするんですか?
皆川:ブランドさんからそういったお話をいただけることもありますが、企画を推進するのが編集者の仕事なので、「こんなことできませんか?」と思ったことは駄目もとでも私から提案します。
タジリ:次はその本をどうやって広げていくかということで、売りにつなげるための仕掛けをお伺いしたいと思います。
皆川:マルチメディア編集部は、「multimedia_tkj」というアカウント名でインスタグラムを運営しています。約1年前と時流に遅れての開始でしたが、1年間で2万6000人のフォロワーが付きました。
アカウントを開設してくれた同僚と自分の2名で投稿をしています。世界観や文章など、トーン&マナーをできるだけ統一するため、限られた人数で更新しています。インスタグラム画面が本屋さんの店頭のようなイメージで、表紙がパッと並んで分かりやすいので、宣伝ツールとしてインスタグラムとの相性は良いと考えています。
タジリ:インフルエンサーに依頼することもありますか?
皆川:大学生や主婦の方でも何万人ものフォロワーを抱える、影響力を持つ人が日本全国に増えています。そういう方々にムック本を献本し、気に入ったら紹介していただけるようにお願いしています。
タレントさんに献本して紹介していただくことも初期は試みましたが、そうするとある程度のお金がかかってしまう。もともと予算が限られているので、小さな影響力でもムック本を「欲しい」と思っていただける一般の方に献本した方が有効と考えています。
私たちのアカウントへのコメント欄で最も多い質問のひとつが「このバッグどこで買えるんですか?」なんです。つまりその商品がムック本の付録で、書店で買えるということを知らない方がたくさんいるということです。ムック本の知名度はまだまだですし、伸びしろがあるんです。インスタグラムを活用して地道に広めていくことを大事にしています。
タジリ:これまで書店での販売にとどまっていたムック本ですが、最近はどうやら新しい動きが出ているようです。「展開力」についてお話をお伺いできますか?
皆川:先ほどもご紹介した『LOVE! 佐賀』というムック本は、東京と佐賀をつなぐ春秋航空さんが出来栄えを気に入ってくださって、販売期間終了後に付録を除いたブックを機内誌として採用していただきました。
もともと、佐賀県に観光客を呼びたいということで、知事直下の精鋭チームが東京に発足しました。そこで、宝島社の広報部に話が来まして、焼き物好きを公言していた私がムック本の編集担当に任命されました。
タジリ:地方や行政と組んだパターンは初めてですか?
皆川:『LOVE! 京都』や『LOVE! 熊本』というムック本を出していた前例もあります。
タジリ:すごくいいコンテンツを見つけましたね。全国47都道府県あるので、あと44回はできるわけですね(笑)。
皆川:そうですね。各県庁の広報部のみなさま、是非ご興味あればお声かけください(笑)。
皆川:先ほどご紹介した「moz」の『moz BIG BACKPACK BOOK』というリュック付きのムック本ですが、これがよく売れました。初版6万部が約1カ月で完売し、その後書店さんで重版はしていたんですが、ちょうど新しい販路を検討していたところ、セブンイレブンさんとお取り組みができることになりました。新鮮でおもしろいことができないだろうかという試行錯誤の結果、セブンイレブンさん限定の透明なパッケージにリュックを入れ、冊子も一緒に封入して陳列しました。
タジリ:付録が前面に出た、いままでのムック本と逆になった格好ですね。売上にも変化がありましたか?
皆川:はい。9万部が2週間くらいで完売してしまいました。書店さんで売れたスピードよりも2〜3倍早かったので、書店さんとコンビニエンスストアさんの客層があまり被っていないことが分かりました。
タジリ:普段はコンビニにムック本は置かれていないんですか?
皆川:部数が多くなると、コンビニさんにも入るようになるんです。編集側の希望としては、雑誌と同じように本棚に並べて目立たせたいのですが、厚みがあるので実際は棚の下の方に置かれてしまうことが悩みで、改善したい点でした。それを什器で一番目立つところに置いていただいたのが効果的でしたね。
タジリ:ここでも売れる仕組みを見つけてしまったと。
皆川:そうですね(笑)。
タジリ:これまで、ヒットを生むための5つの方法を聞きましたが、誰でも真似できることではないと思うものもあります。たとえば一日中ネットやSNSをチェックするなど、売れるための努力を厭わない印象ですが、そこまでモチベーションを保てている理由はどこにあるのでしょう。
皆川:10年編集を続けてきたなかで、企画会議でやっと通ったけど出してみたら売れなかったという経験もたくさんあります。売れた売れないでははかれない、目に見えない価値はもちろんありますが、やっぱり売れて数字で示されることで全員がハイタッチして純粋に喜べます。だから、「売れる物をつくる」ということが私にとって一番のモチベーションになっています。
タジリ:編集者だけの目線ではなく、営業的な目線も必要になりますよね。編集者は売れればいいけど、どちらかというと自分のつくりたいものがあって、それを社会に届けたいという想いの方が強いかなと。
皆川:残念ながら潰れてしまう書店さんもたくさんあります。「豊かな場所である書店さんを守りたい」と言うとおごりがあるかもしれませんが、実際そういう気持ちは編集部のみんなが強く抱いています。だからこそ、売れる良い物をつくっていかないとダメだと話しています。
タジリ:今後の展望は?
皆川:ムック本をつくっていると、いろいろなブランドのプレスの方や、キャラクターを育てている方などにお会いします。そこで、「こういう見え方をしてしまっているけど、本当はもっとこうしたい」というお話が出てきたりします。コンサルティングの目線を持った編集者として、お力になれることはなんでもしたいです。自分だけでなく、編集部員も力をつけていって、ブランドさんの価値向上がもっともっとできるといいなと思っています。
そして、ムック本をつくるだけではなくて、派生してイベントを企画したり、動画コンテンツをつくったりとおもしろいことを広く考えるようにしています。
タジリ:最後に、皆川さんからみて、ヒットを生み出すための最大の秘訣は何ですか?
皆川:私も昔はそうでしたが、「企画が通っても売れない」と悩んでいる後輩編集者がいます。「売れなかった」という事実だけで終わらせるのではなく、学びになる要素を見つけ、次に活かしていけば絶対売れるようになると思うんです。そのためには、本が出た後の細かい数字もしっかり見ていくのが大事ですね。
タジリ:「復習をする」ということもヒットを生み出す鍵なんですね。今日はありがとうございました。