リアルとバーチャルの垣根を超え、未来をひらくコミュニケーションとは

vol.114

リアルとバーチャルの垣根を超え、未来をひらくコミュニケーションとは

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Sonoko Senuma

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana Brand Communication Day 2023 Spring」が2023年5月24日、25日と2日間にわたり開催されました。8つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎えたトークセッションや講演、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「リアルとバーチャルの垣根を超え、未来をひらくコミュニケーションとは」の回を紹介します。


メタバースや、ブロックチェーン、生成AI等に代表されるテクノロジーが加速度的に進化するなか、これからの社会では、どのようなコミュニケーションが生まれるのでしょうか?
「未来をひらく『コンセプトと社会実装』の実験場」をテーマに掲げ、NTTコミュニケーションズ株式会社が2021年10月に開始した事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」。社会課題を起点に、ビジネス課題の解決に向けた取り組みを行っています。本セミナーではその「OPEN HUB」代表の戸松正剛氏を迎え、「OPEN HUB」にて外部カタリストも務めるアマナの児玉秀明とトークセッションを行いました。ファシリテーターはアマナの阿部澪が務めました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™』スタジオから配信を行いました。

なぜ、いま「事業共創」が必要なのか?

戸松正剛(NTTコミュニケーションズ/以下、戸松):OPEN HUB は弊社が提供する事業共創のプラットフォームです。昨今の企業価値は社会課題の解決にどの程度貢献しているかで計られます。私たちは通信技術を基盤にしたデジタルソリューションによって、そのサポートを行なっていきたいと考えています。OPEN HUB には「人・技・場」という3つのコンポーネントがあります。事業共創を支援する社内外の400人以上のスペシャリスト、デジタルテクノロジー、そしてリアル拠点とバーチャル空間、それぞれの拠点が、サポートの要です。

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OPEN HUBのWebサイトはこちら

コミュニティ会員は現在2万人に迫り、コロナ禍でセミクローズであったにもかかわらず、大手町の拠点「OPEN HUB Park」には1年間で1300社3000人の方々がいらっしゃいました。いまオンゴーイングで400以上の共創プロジェクトを回しているという状況です。

児玉秀明(アマナ/以下、児玉):昨今よく耳にする事業共創とは、いわばコミュニティづくりだと言えるでしょう。企業にとってコミュニティは「第五の経営資源」とも言われています。世の中の多様化・複雑化が一層進む現代では、一社だけで何かを成し遂げることは極めて難しい。「共創」はそんな中から生まれてきた時代のキーワードだと思います。そして、この共創に不可欠なのが人のつながりですから、これからは「人が中心」ということになってくるんだと思います。

まさに戸松さんたちの「OPEN HUB」は、それを体現していると言えるんじゃないでしょうか。さまざまな専門分野を持つ400名のカタリストの知見・体験・人脈が、プラットフォームを通じて顧客の経験や思考と重なり合い、新しい価値が創造されていく。事業共創とはそのようにして成立していくべきものだし、それは最終的には確かなブランディングにつながっていくものだと思いますね。

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(左から)アマナの阿部澪、NTTコミュニケーションズの戸松正剛さん、「OPEN HUB」の外部カタリストを務めるアマナの児玉秀明。

戸松:「なぜ、いま事業共創が必要なんですか?」。この質問はよく聞かれますね。ただ、揚げ足をとるわけではないのですが、事業共創が「いま突然」必要になったわけではなく、おそらく昔から必要だったと思うんですよ。事業共創が必要な理由は大きく3つです。1つは、当たり前なんですが、一社や一個人にできることは限られているからです。児玉さんがおっしゃったように、いま残されている解くべき課題は、どれも複雑過ぎて一社だけではどうにもできない。2つ目は、テクノロジーの進化が速過ぎて立ち遅れていく企業がほとんどだからです。そして3つ目は、資本主義の苛烈な「競争」で摩耗しあった結果、社会の課題について落ち着いて考える機会が失われつつあるから。これらの3つをクリアするために、事業共創が必要とされているんだと思います。

ただ、その大義をかかげて事業を進めていくにあたって問題というか、危うさを感じる場面もあります。実際のところ「事業共創をやっていくんだ」と旗を立てている人が、組織内で冷遇されているということはままある。会社から新規事業を立ち上げてくれとか、SDGsに資する事業を進めてくれと言われて、奮闘している人たちは少なくないと思います。しかし、彼らは社内の既存事業を担っている社員からすれば「あいつら1円も稼いでないくせに、何やってんだ?」と思われる存在なわけです。組織の中ではどうしても、既存事業を支えている社員の方が影響力を持ちますから。「OPEN HUB」の裏目的は、そうやって冷遇されがちな、しかし新しい価値を生み出そうとする人たちを少しでもサポートすることなんです。

ビジネスパーソンが知っておくべき「ブランドコミュニケーション」の考え方

戸松:ブランドコミュニケーションを含むマーケティング一般を考えるとき、イメージしやすいのは「B to C」だと思います。ここについては、すでにさまざまなメソッドやセオリーが存在します。しかし、一方で「B to B」におけるブランドコミュニケーションについては考えられる機会がまだまだ少ないように感じています。これを考える上で、僕個人が意識している点は大きく3つあります。

1つは、その企業/ブランドの「らしさ」をどう打ち出すかということ。企業やブランドをかっこよく見せることがブランドコミュニケーションではありません。それらが「何を提供し、何を解決しようとしているのか」ということが、キャラクターとセットで、顧客やビジネスパートナーに伝わるか否かが重要です。2つ目は、エクスペクテーションのコントロールです。たくさんお金をかけて素敵な広告を作るのもいいんですが、期待値を上げるだけ上げておいて、実力が追いつかなかったときの受け手の絶望感は案外大きい。とくにB to Bの場合、取引額が大きいだけに、その損失は何十億という規模にもなりかねません。ですから、ブランドの価値を発信していく上で、エクスペクテーションのコントロールは結構大切だったりします。

3つ目は、じつはこれが一番重要なんですが、インナーコミュニケーションの充実です。あるリサーチによれば、法人企業の調達担当が何をもってそのブランドを好ましいと判断するかというと「営業マン」なんですよ。つまり、そのブランドの営業担当に対する評価が、ブランド全体の評価を決定づけると言っても過言ではないわけです。だからこそ、そのブランドの価値を「内」に向けても発信する必要があるんですね。自分たちが何をしていて、どんな課題を解決しようとしているのか、ちゃんと理解してもらわなくてはいけない。これは個人的な意見ですが、外に対する発信の倍ぐらい、内に向けた発信をしたほうがいい。逆にその点を徹底すれば、対外的なブランドコミュニケーションでいい結果を得やすいと思います。

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児玉:戸松さんがおっしゃった「らしさを表現する」ということ。これは言葉を変えれば「可視化」ですね。企業やブランドのらしさを可視化していくとき、そこにクリエイティブの専門家が関わるか関わらないかで、表現されることは大きく違ってくると思います。また一方で、企業やブランドが「こんな世界観を伝えたい」と思っていても、クリエイティブが悪いとそれは伝わりません。そう考えると、ブランドコミュニケーションにおけるクリエイティブの重要性も自ずと明らかになってくるのではないでしょうか。

「B to B」のブランドコミュニケーションにありがちなのは、自社のプロダクトやサービスの機能や質の高さを喧伝する方向に走ってしまうことです。しかし、本当に考えるべきは「いかに共感を得るか」です。そのためにはクリエイティブの力を借りるのが得策でしょうね。

戸松:「B to B」のブランドコミュニケーションって伝統的にロジカルですよね。僕はそこに「エモーショナル」を加えたいんですが、これがなかなか理解されなくて(笑)。そりゃそうですよね。部品や素材を売っている現場に「感情」とか要るのかって話で。社会通念とは異なるので、理解されないのも仕方ないとは思っています。でも、僕はその部品や素材を取り扱うのが人間である以上、また調達するのが人間である以上、商材の売り買いは「好ましいと思える相手」としたいと考えると思うんですよ。C相手とは違って一度の取引で終わりではなく、長く付き合う相手だからこそ、感じ悪い人とは仕事したくないですよね。なので個人的には、ブランドコミュニケーションはもっと「感情」にフィーチャーするべきじゃないかなと思っています。

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児玉:私も長くコーポレートブランディングに携わってきましたが、例えば企業に「感性」と言ってもなかなか伝わらない(笑)。ですが、たとえ to B であれ、to C であれ、相手が求めているのは商品の機能だけではない。モノを選ぶときの判断は、もっと感情的で、感覚的なものだと思うんですよ。

戸松:エモーショナルに関して、もう1つ。「OPEN HUB」では、いま「孤独」を特集しています。社会が抱える孤独を掘り下げ、それを解決するためにデジタルで何ができるのかを考える、という企画です。デジタルのところは極めてロジカルな話なんですが、孤独それ自体はエモーショナルな課題なんですよね。やはり、ロジカルとエモーショナルをハイブリッドしていかないと、コミュニケーションの課題にうまく対処できない。孤独について言えば、高性能な道具ばかりを押し付けられても、それって本質的な「つらさ」を解決することにはならないんじゃないかなって。

私たちが目指すべき「スマートワールド」とは?

児玉:昨今、ジェネレーティブAIが話題ですね。例えば Chat GPT に「スマートワールドとは何か」と聞けば、すぐに模範解答が得られるでしょう。ここにおいて、私たちに突きつけられているのは「人間はこれから何をすればいいのか」という問題だと思います。もっと言うと、これに対して私たちはさらに問いを重ねるべきでしょう。つまり「人間が出す解答がAIと同じで良いのか」と。スマートワールドとは何かと尋ねるとき、AIの答えと、戸松さんの答えは少なからずズレますよね。そのズレについて考え、また問いかけ直すことが必要になってくる気がします。戸松さんはスマートワールドをどう考えますか?

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いま話題のChat GPTに聞いてみました。

戸松:僕がこの大きなテーマについて語るのは、少々おこがましいと思っているのですが、では、NTTコミュニケーションズに在籍する立場から、コミュニケーションを起点にお話させていただきますね。

歴史を紐解けば、人類のブレイクスルーポイントはいくつもあったわけですが、とりわけ大きいインパクトを及ぼしたのは「コミュニケーションの革命」だったと思います。発話によるコミュニケーションが言葉を生み、文字によって時間と空間を超えられるようになり、電信電話通信がその範囲を劇的に拡大しました。やがてその権利はインターネットの普及とともに民主化され、いまスマートフォンによって文字通り手元までやってきた。

なぜ Chat GPT に対して多くの人が戦々恐々としたり期待しているのかというと、これがいま話したコミュニケーションの歴史の延長線上にあるからだと思うんですよ。ようやく民主化された情報が、GAFAの専制的な状況によって手元から離れていくような感じを覚えている。情報はもはやWeb3.0をすっ飛ばして、AIに吸収されていくんじゃないか。そんな不安が拭えないからこそ、みんなが Chat GPT に過剰な反応を示しているんじゃないかと僕は思っています。

児玉さんがおっしゃる通り、ジェネレーティブAIの全面化の先には「人間は何をすればいいのか」という問題が待っています。先ほどの孤独の話もそうですが、テクノロジーが人間疎外をさらに助長する未来も全然あり得る。しかし、解決する未来もまたあり得るわけです。

私たちには通信に関して事業や研究を通して培ってきたコミュニケーションのノウハウがあります。しかし、自社だけで今言ったような課題が解決できるとは思っていません。だからこそ、多くのステークホルダーたちと一緒に、手の内にある道具をどう活かすかを考えていきたいですね。

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