vol.117
事例徹底解剖! デジタル広告やSNSで、ブランドクリエイティブを効果的に発信するための方法
デジタル広告やSNSなどオンライン上で企業が情報発信する機会が増えています。オンライン上のコミュニケーションは数値化された効果を測りやすい一方、定量的なデータを優先するあまり、自社のブランドイメージにブレが生じてしまうといった悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
本セミナーでは、アマナのコミュニケーションプランナー・神田美咲と、デジタルプランナー・沼倉結菜が、ある大手化粧品会社で実際に行った、デジタル上でのクリエイティブ運用ガイドライン策定トレーニングプロセスを再現しながら、 ブランドとしての世界観を崩すことなく、効果的に情報発信していく方法をご紹介しました。
神田美咲(アマナ/以下、神田):本日は、企業のオンラインコミュケーション(デジタルマーケティング)が活発化している今の課題感を共有するとともに、実際にアマナが取り組んだ事例をモデルに、課題解消に向けたアプローチ方法をご紹介していきたいと思います。
沼倉結菜(アマナ/以下、沼倉):では私から、デジタルマーケティングにおける現状の課題感からお話ししたいと思います。
沼倉:まずは、ユーザーを取り巻く環境から。
ご存知の通り、インターネット上の情報は劇的に増加しており、すでに人が処理できる情報量を圧倒的に上回っています。そのギャップは広がるばかりで、ユーザーは意識的に情報を遮断せざるを得ない状況に陥っているとも言えるのではないでしょうか。デジタルデトックスというトレンドワードが象徴するように、「主体的に情報を取りに行く」というよりも「消極的に情報を選ぶ」というのが、情報過多時代におけるユーザーのスタンス。インターネット広告に対しても、クリックアクションが消極的になっているのではないかと考えます。
一方、情報を発信する側、デジタルマーケティングに従事されている方々を取り巻く環境はどうでしょうか。メディアの細分化や多様化するプラットフォームへの対応、個々人の価値観や文化的多様性への対応は今や必須です。デジタル特有のスピーディなPDCAが運用に求められ、クリエイティブに関しても、デザイン案の選定作業などが頻繁に起きているのではないでしょうか。判断するポイントが多く、担当者の意思決定を難しくさせています。
沼倉:このような環境下で見えてくる課題について、大きく分けて2つのケースがあると私は思っています。
沼倉:1つめは、数値による自動最適化やKPIのみを重視することで表出してくる課題です。例えば、CPAやCTRを重視した結果、どこか既視感のある、他社でも出しているようなビジュアルに落ち着いてしまったり、ブランドが伝えたいメッセージよりもユーザーが求める情報の掲示が多くなって、ブランド“らしさ”が薄れてしまったり。数値結果を求めてクリエイティブ改善を繰り返したものの、増えた工数やかかった時間に見合った成果が見られない、といった問題が起きているのではないでしょうか。
沼倉:2つめは、ブランド偏重によって起こる課題です。これは、ブランドが確立されている企業に多いと感じます。例えば、クリエイティブはブランド担当者の承認を逐一、得なければならない、スピーディなPDCAを回そうにも、工数が増えて時間がかかる…といった事態に陥るケースが見られます。さらには、ブランドからの発信に重点をおいた結果、画一的なコミュニケーションになってしまった、プラットフォームの個別最適ができない、新しい訴求が生まれない、その結果、ユーザーに相手にされない、理解されない……。こうした悪循環が生まれてしまうこともあるようです。
これまで、案件を通してさまざまなクライアントにヒアリングしてきましたが、業界・業種問わず、現場の課題感としてあげられるものの多くは、この、顧客コミュニケーションにおける2つのアンバランスが要因となって引き起こされていると感じます。
神田:デジタルマーケティングの現場で起きている2つのアンバランスをどう解消すればよいのか。ここからは、我々が実際に携わったケースを解剖しながら、考えていきたいと思います。今日お話するのは、ある大手化粧品会社(A社)の事例です。A社では、先ほどご紹介した2つのケースがまさに起こっていました。
A社は、ブランドイメージがしっかり管理され、綿密なVIルールに沿ってクリエイティブ制作が行われていました。しかし、長期的なデジタル広告配信においては、ブランディングを突き詰めるあまり、似たようなクリエイティブが増えて、見飽きられてしまう。いわゆる、クリエイティブの摩耗による広告効果の鈍りが見られるようになりました。逆に、数値を求めて媒体や訴求内容に沿った表現にシフトしていくと、VIルールからはずれ、A社 “らしさ”も失われていく。独自性のない表現になってしまい、ユーザーに届くのは広告投下量の多い会社という、身も蓋もない結果に終わるといったことが起きていたのです。
こうした課題の中、我々が導き出した答えは、「デジタル版ブランドガイドライン」の策定でした。まずは、デジタル広告という独特な世界の中で、ブランドらしさを保ちながらどこまで広告表現の幅を広げられるかを探る。そしてそれらを、ガイドライン化していくという取り組みです。
神田:なぜ、ガイドライン化なのかというと、実際にクリエイティブを制作するのが、外部パートナーというケースもあるからです。外部への委託にはディレクションスキルが求められますが、ガイドラインがあれば、スキルに依存することなく一定のクオリティが保てます。
神田:こうして始まった今回のプロジェクトは、4つのプロセスを踏んで行われました。
神田:まず最初に取り掛かったのは、ビジュアル表現上での“らしさ”を探る作業です。Co-Visualizationワークショップ(ビジュアルを使った対話で想いを引き出し、人々を巻き込むアマナ独自の共創プロセス)を開き、“らしさ”の境界線を探っていきました。これまでのA社の広告クリエイティブや、弊社が準備したさまざまな表現幅のクリエイティブを用いて、「これはA社らしい」「これはギリギリA社らしい」「ここまでいくとA社らしくない」などと話し合いながら仕分けをしていく。それと同時に、何がA社らしさを感じさせるのか、“らしさ”の言語化も行いました。その際「広告上で成果を出せるクリエイティブ」という軸を据え、カスタマージャーニーのどの部分で作用させるクリエイティブなのか、切り口やシーンを分類して可視化していくというのが、この作業における重要なポイントでした。
神田:ワークショップの次に行ったのは、媒体や訴求内容に合わせた表現の検討です。ここでの検討を経て、配信検証に進みます。ワークショップでは、“らしさ”が「ギリギリ保たれる」「ちょっとだけ工夫したら、らしくなる」といったクリエイティブを「迷いゾーン」として分類していました。A社の課題感として「いつも同じようなクリエイティブになってしまう」というのがあったので、表現の幅を広げるためにも、迷いゾーンにいるクリエイティブを積極的に抽出して検討。配信検証にあたっては、過去実績から導き出した広告効果が高いと思われる軸を立てました。迷いゾーンから拾い上げたクリエイティブの中には、これまで採用したことのない切り口もあったので、とてもチャレンジングな取り組みとなりました。
神田:テスト配信にあたっては、ワークショップで分類したクリエイティブの他に、検証する訴求軸をもとに表現幅を広げたクリエイティブを新たに制作し、追加しました。さらにはフェーズを3つに分けて、A社が課題としているクリック率に影響する要素・要因を検証。配信結果をもとに、検証幅を狭めたクリエイティブを複数制作して配信するというのを繰り返し、大局的な検証から近視眼的な検証へと深化させていきました。
神田:ワークショップと配信検証を経て、A社らしさと広告効果の高いクリエイティブは何かがわかりました。この結果をガイドラインに落とし込むのが最後の作業です。誰が見ても明快で、表現の幅が広がるガイドラインとなるよう「管理基準」「制作基準」「広告効果を高めるポイント」の3つを中心に作られました。制作したクリエイティブがOKかNGかを判断するための指針となる「管理基準」。NGだった場合に、何をどう変えればOK基準になるのか、制作する上でのポイントを解説している「制作基準」。また「広告効果を高めるポイント」として、テスト配信結果を分析して導き出した、“らしさ”を保ちながらクリック率を高めるためのポイントをまとめています。これらは実際の検証結果をもとに導き出されているので、細分化された事例が示された、数字的根拠のある実用的なガイドとなっています。
神田:今回のプロジェクトでは、ガイドラインという成果物のみならず、その過程において得られたことについても高評価を得ました。また、今後チャレンジしていきたいことのイメージも形作られ、広告表現のさらなる広がりに期待が高まります。
神田:本日は、デジタル広告やSNSにおいてブランドクリエイティブを効果的に発信するための方法について、事例をもとにお話ししてきました。顧客コミュニケーションで起こりがちな2つのアンバランスは、ブランディング、マーケティング、販促等々が個別最適だけを求めた結果、生じている課題なのではないでしょうか。まずは、企業とユーザーとの間で1つの大きなコミュニケーションを築き、そのくくりの中で個別最適をはかっていく。それが、ブランドイメージにブレを起こすことなく、顧客にリーチしていくポイントだと考えます。
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