サッポロビールと考える、「いいオウンドメディア」って何?

vol.118

サッポロビールと考える、「いいオウンドメディア」って何?

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Yushi Kaku

オウンドメディアを立ち上げたはいいものの、運用が回らない、なかなかわかりやすい成果が出せない、といった理由から運用継続を諦めてしまう企業も少なくありません。
オウンドメディア「CHEER UP!」を率いるサッポロビールの杉浦若奈さんをゲストに迎え、アマナのエディター・タジリケイスケ、アマナのプロデューサー熊本容子とのトークセッションの中で、「いいオウンドメディア」とは何かを考える本ウェビナー。

そもそも、何のためのオウンドメディアなのか?社内の情報を吸い上げてコンテンツに落とし込むために、担当者はどう立ち回るべき?など、担当者が直面するリアルな悩みをトークテーマに、オウンドメディアを社内外にうまく機能させていくための方法を探りました。

オウンドメディアに求められる役割とは?

タジリケイスケ(アマナ/以下、タジリ):サッポロビールさんはオウンドコンテンツをいくつか持っていますよね。どんなビジョンや目的を持って、それぞれのメディアを運営されているのでしょうか?

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サッポロビールの杉浦若奈さん。

杉浦若奈(サッポロビール/以下、杉浦):弊社の主なオウンドメディアは3つあります。すべての情報のポータル(入り口)となる「公式ウェブサイト」があり、その中にエンタメコンテンツとして「CHEER UP!」と「SAPPORO STAR COMPANY」があります。

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杉浦:これらの運用体制なんですが、弊社内の専門チームのほか、外部パートナーとの連携が大切になってきます。さまざまなコンテンツをいくつかのチームが制作していく中で、これらがバラバラに動いていてはパフォーマンスが向上しません。PDCAサイクルを回して効率化を進めながらコンテンツ間で現状をシェアし、どんな連携が可能か考えていく必要があります。弊社では、その全体戦略を私が所属するチームが策定しています。

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タジリ:昨今、企業はウェブサイトやSNSなど、さまざまなメディアを持っています。それらが増えた分だけお客様とのタッチポイントは増えるのですが、メディアごとにトーンやマナーが異なっていると弊害もありますよね。「企業としての世界観が伝わらない」「ターゲティングのズレ」といった問題を抱える企業もしばしば見受けられます。サッポロビールさんは、このあたりをどのように意識されていますか?

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アマナのタジリケイスケ。

杉浦:おっしゃる通り、情報の質やビジュアルの統一性はブランディングの大切な要素だと思います。私たちは常に「企業の名前が連想されるようなオウンドメディア」であることを目指しています。サッポロビール“の”オウンドメディアとして認知されるようなコンテンツ展開を通して、お客様の多様なモチベーションに丁寧に答えていく。そうすることで企業/メディアとしての信頼を醸成できると考えています。

ファンとは誰か? 読者との向き合い方

タジリ:オウンドメディアには必ず読者がいます。しかし、そのモチベーションは千差万別です。ブランドのことを今から知ろうとする人もいれば、熱烈なファンもいるはずです。サッポロビールさんは主に後者に向けた情報を発信していますが、どんなことを心がけているのでしょうか?

杉浦:私たちのオウンドメディアにおけるファンとは「サッポロビール好きな仲間」のことを指しています。ブランドのファンとは何か、という問いに答えるのって難しいですよね? 私もそうでした。そこで発想を変えて「人はいつブランドのファンになるのか」と考えるようにしたんです。そうやって思い至ったのが、ある商品やサービスに対して「私、これ好きかも」と気づいたときにその人はブランドのファンになるのではないか、という仮説でした。

私たちが用意するべきは、お客様がこの商品が好きだと気づく「きっかけ」です。オウンドメディアはそれに適したツールであると思います。きっかけは、お客様の求めに応じて提示するものではなく、お客様が求めたときすでにそこに存在していないといけません。ユーザーの行動と趣向を分析して「好き」のきっかけになりうるものを用意し、読者を待っているのがいいオウンドメディアのあり方かなと思います。

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オウンドメディアは何に「真価」を発揮するか

タジリ:読者のニーズ調査やコンテンツ開発はどのように行われていますか?

杉浦:私たちはお客様の心理ステップにあったコンテンツの整理・開発を進めています。この心理ステップは「得したい」「知りたい/理解したい」「参加したい」の3つの段階的なニーズを想定しています。得したいというニーズを満たす最も端的な方法はメルマガです。定期的かつタイムリーな情報発信によって、どこよりも早くブランドの情報を届けることができます。さらに知りたい・理解したいというニーズを満たすには記事コンテンツを主体にしたメディアが必要です。私たちのオウンドメディアで言えば「CHEER UP!」ですね。商品の概要以上の“ストーリー”を届けることで、より深くブランドの世界観に触れてもらうことができます。そして、参加したいというニーズに応えるのが「SAPPORO STAR COMPANY」です。リアルでのイベント参加や体験を通じて、ブランドとユーザー、あるいはユーザー同士が繋がる場を提供しています。

タジリ:ユーザーコミュニティをつくることの意義・価値について、サッポロビールさんはどのようにお考えですか?

杉浦:ユーザーとブランドのリアルな接点を設けることで、得られる情報の質と量が変わってきます。「お客様の本当の声」を聞けるのは、こうしたコミュニティのいちばんの価値と言っていいのではないでしょうか。たしかに、イベントは成功/不成功の指標があいまいで、KPIの設定が難しい部分もあります。しかし、ブランドがより良い商品やサービスを届けるためにはお客様の声が不可欠ですし、オウンドメディアの品質向上にも欠かせません。数字には表れてこない「重要な情報」が手に入るという点では、ユーザーコミュニティづくりは他にない意義と価値を持っていると思いますね。

タジリ:実際にユーザーコミュニティのお客様とふれあうことで、企業と顧客の「意識のずれ」みたいなものは認識されますか?

杉浦:意識のずれは、想像以上に実感しますよ(笑)。それに驚かされてばかりです。例えば、お客様に喜んでいただきたい一心で地域限定商品やノベルティなどを提供しているのですが、その認知がぜんぜんされていなかったとか……。コミュニティのイベントに毎回参加してくださるコアなファンの方から「え、そんな商品があるんですか?!」と言われたときは愕然としましたね。PRや販促が足りていなかったのかと感じるとともに、造りっぱなしにならないよう「届ける」の届け方の解像度を上げていく必要があると痛感しました。これはモノだけに言える事ではなく、イベント実施に対してもそうで、参加できなかった人たちに対しても実施した内容を「伝える」アプローチも大切と考えています。発信した情報がターゲットに届いているか否か、ちゃんと確かめるにはリアルに会って聞くのがいちばんです。他にも企業活動のブラッシュアップに資する貴重な情報がたくさん得られますから、意識のギャップに驚きつつも、手応えを感じています。

「いいオウンドメディア」ってどんな状態?

タジリ:アマナとしてさまざまな企業のオウンドメディアをサポートしてきましたが、みなさんを最も悩ます難題が「いいオウンドメディアって何?」「どんな状態だったらいいの?」という問いです。

オウンドメディアが企業のビジョンや魅力を発信できているのは大前提。その上で問われるのがメディア自体のユニークさ・クリエイティビティです。それらを表現するにはまず、優れた知見と感性を持ったクリエイターやエンジニアのサポートが不可欠です。また、できたメディアをスムーズに運用するためにはエディトリアル(編集力)に長けたパートナーが必要ですし、メディアを企業の内外でどう活用していくかプランニング・管理する人材も必要です。これらが準備されて初めて、KPIの策定に進めて、データに基づく具体的な数字の話ができるようになります。

言われてみれば「そうだよね」と思えることですが、これらをすべてのステークホルダーが完璧に理解した上でオウンドメディアを運用している企業はほとんど無いと言っていいでしょう。また、これが理解できていて「理想的な状態」が明らかな場合でも、予算や人材に課題があったり、トップダウンによる想定外の方針変更など、現実はなかなかうまくいかない。何かが欠けていて、理想とのあいだにギャップが生じているという企業もあるでしょう。サッポロビールさんはいかがですか?

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杉浦:理想と現実のギャップには日々苦しんでいますね(笑)。オウンドメディアの「いい状態」も手探りの中で見つけようとしています。

オウンドメディアが無くても企業は存続します。にもかかわらず、私たちがオウンドメディアを立ち上げた理由は「お客様にもっと喜んでいただきたい」という思いに尽きます。それは言い換えると「お客様のことをもっと知りたい」「お客様の喜びを一緒に喜びたい」という思いの現れが、私たちのオウンドメディアだということです。この思いに照らしたとき、私たちのオウンドメディアの「いい状態」とは「お客様の声を直接聞く機会になっていること」だと言えそうです。

より一般的な話をすれば、オウンドメディアの運営者が「これこそ読者に喜んでもらえる情報だ!」と確信して発信できている否かが、状態の良し悪しを測る一つの指標になるんじゃないでしょうか。ただ、それがPV数につながっていないから「喜んでもらえてないんだ……」とがっかりするのも早合点だと思います。数値と指標は大事ですが、それはお客様の喜びを測る指標では必ずしもない、という点には注意が必要です。検証の方法は他にもあるはずです。要するに、まずは情報の価値を発信者自身が信じること、そしてそれらの効果を正しい仕方で検証することが大切だということです。そうすることで、自社のオウンドメディアの「いい状態」が見えてくるんじゃないかなと思います。

インナーコミュニケーションを「何のため」にするか

タジリ:自分たちが発信している情報に対する確信は、なによりも大事だと思いますね。要するに、自社に対する「愛情」を抜きにして、いいオウンドメディアはできない。企業の提供する価値が必ずお客様の喜びにつながると信じられなければ、その情報は熱量ゼロの単なる“事業紹介”に過ぎないでしょう。

一方、その「愛情」を共有するのはお客様だけでなく、同じ企業で働く社員のみんなだったりもします。つまり、オウンドメディアはインナーコミュニケーションの促進材としても機能し得るわけですが、その点で苦労や課題はありますか?

杉浦:社内の情報共有はリソースの有効活用につながりますから、もちろん初めからオウンドメディアをそれに活かしたいと思っていました。しかし、情報が向こうからやってくるわけもなく、あらゆる部署の担当者に話を聞いて回るのは大変でしたね。もう、そこはパッションでなんとかしていくしかない(笑)。

オウンドメディアを社内で認知させることも、それこそ地道な活動が必要です。しかし、社内で認知されていないものを、社外で認知させるのはおそらく不可能に近いでしょう。社外のファンがワクワクする商品やサービスは、社内のみんながワクワクしていなければ出来ないと思います。つまり、オウンドメディアは社内外にワクワクを伝播させる媒介なんですね。インナーコミュニケーションはあくまで中途的な目標で、その先に目指すのはサッポロビールに対する「期待感」や「好き」を企業の内と外で共有することなんです。

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タジリ:おっしゃる通り、オウンドメディアは対外向けのメディアでもあり、インナーブランディングのツールでもあります。そのことを意識して活用しているサッポロビールさんは流石だなと思いますね。また、オウンドメディアの機能を担保するのは企業に対する「愛」だと、言い切ってもいいですか?(笑)

杉浦:そう、言い切りたいですね!

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アマナの熊本容子。

熊本容子(アマナ):杉浦さん、タジリさん、本日はどうもありがとうございました。オウンドメディアの役割と価値について、詳しく知ることができました。

オウンドメディアについてお悩みの企業様に向けて、サッポロビールさんの「CHEER UP!」でもご利用いただいているアマナのサービスについてご紹介します。「amana Content Marketing」では、戦略策定からチーム構築、コンテンツ制作、効果測定まで、コンテンツマーケティングの導入・オウンドメディアの運用に関する課題解決をトータルサポートしています。

また、セッションの中でも話題になったように、オウンドメディアにはインナーコミュニケーションの充実が欠かせません。アマナでは社内メディア(デジタル社内報)専用のプラットフォーム「XBOARD(クロスボード)」を提供しています。企業ビジョンやナレッジの共有をはじめ、社内コミュニケションの活性化をサポートするツールです。無料トライアルも受付中ですので、ご興味のある企業様はぜひお問合せください。

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コンテンツマーケティングの本場であるアメリカで、業界を牽引するリーディングカンパニーであるIndustry Dive。国内唯一の独占パートナーであるアマナがその集合知を活用し、成果へと繋がるコンテンツマーケティングをサポートします。
企業が抱える課題に沿って、戦略策定からチーム構築、コンテンツ制作、効果測定まで、コンテンツマーケティングの運用をトータルで支援します。

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