創造的なチームを創る:厄介な問題に立ち向かう越境人材を考える

vol.134

創造的なチームを創る:厄介な問題に立ち向かう越境人材を考える

two speakers

Text by 高橋恭輔
Photo by 五十嵐拓也

企業の新規事業立ち上げや既存事業拡大、さらには日々のプロジェクト進行において、今、「創造性のある人材や組織」が求められています。事実、2023年4月に世界経済フォーラムが公開した「今後5年で労働者に求められるスキル」のランキングでは、「創造性思考」が2位にランクインしています。では、「創造的な人材や組織」は具体的にどのような人材や組織を指すのか、またどのようにしてそのような人材や組織をつくることができるのでしょうか。

今回、さまざまなクリエイターたちと仕事をともにするアマナの山根尭と杉山諒がスピーカー、武野綾香がファシリテーターとして登壇し、自身の経験をもとに「創造的な人材や組織」をつくるための方法を考えました。

「既存のものをつなぎ合わせる」ことで創造性が生まれる

杉山諒 (以下、杉山):経済産業省が「創造性人材の育成支援」を行っているように、近年、「創造的な人材や組織」が求められています。「創造的な人材や組織」の定義とは、基本的には「新しく価値を生み出していける人材・組織」といえます。ただ、全く何もないところから新しいものは生まれません。スティーブ・ジョブズの有名なフレーズのひとつ「Connecting the Dots」のように、「既存のもの」同士を組み合わせることで「新しいもの」が生まれると考えられます。

さらに、 創造的な人材や組織を作るための方法として、以下の仮説を立てました。『価値創造』を結果として生み出したいのであれば、そこにたどり着くまでにはさまざまな観点があり、その要素(下図)を積み上げていった先に、目的とする『価値創造ができる人材や組織』が生まれるのではと考えています。

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山根尭(以下、山根): 一方で、創造性とは一体何かと考えた際に、脳科学的な視点と創造的な活動を行っている人々の思考を探る視点があります。たとえばiPhoneを例とすると、デザインは日本の美術作品から着想を得たとされていたり、iPhoneの機能は電話と音楽とインターネット通信の組み合わせであったりと、既存のさまざまなものをつなぎ合わせた結果生まれたイノベーションであるといえます。

日本を代表するクリエイティブディレクターである佐藤可士和氏の発言からも、イノベーションには既存のもの同士を繋ぎ合わせる思考が必要であることが伺えます。彼は、「創造性は僕自身が新しい情報やアイデアを付け加えることではなく、答えはクライアントの中にあり、自身はそれを紐解くためのコミュニケーションをするべき」と述べています。まずクライアントやユーザーが持つ問題提起や課題があり、それに対して自身の経験や知見をつなぎ合わせること、これが「創造性で求められること」といえるのではないでしょうか。

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山根尭(クリエイティブサイエンティスト)。

創造的な人材・組織が求められる社会的背景とは

山根:新しい価値を創造する人とは、「他者の価値観を揺さぶり、影響を与えることができる人」です。

世界経済フォーラムが2023年4月に発表した「仕事の未来レポート」によると、労働者に求められる10のスキルの中で、「創造性思考」は2位に位置付けられています。AIの普及が進む中、人間の創造性がますます重要視されています。

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そのほか、創造性思考が重要視される背景として、以下3つの社会的背景が考えられると言います。

●経験経済の台頭

●加速する創造的破壊

●厄介な社会問題にあふれている社会

「経験経済の台頭」とは、モノがあふれるこの時代において、単純なモノの機能的価値だけでは顧客のニーズを満たすことは困難であり、ユーザーが商品・サービスを通して得られる経験が重視されていることを表します。これはBtoCだけでなく、BtoBでも同様です。スペックでサービスや商品を語るのではなく、UXデザインなど、「なぜそのサービス・商品が大切なのか」を語ることで、顧客(クライアント)の感動を揺さぶる「感動価値」を提供できると考えられます。

「加速する創造的破壊」とは、新たな技術やAIの進化により、既存事業が一気に陳腐化してしまうことを意味します。

そして、「厄介な社会問題にあふれている社会」とは、昨今、世の中が従来のアプローチでは対処しきれない問題にあふれている状況であることを表します。

今は問題に対してそもそもどうアプローチすればよいのかわからない、正解も解決方法もわからない、さらに問題を解決した状態がどうであるかもわからないような時代。多くの企業の方たちが、常に問題に対して取り組んでいるけれど、達成した感覚が得られない状態を経験していると思います。

このような問題に立ち向かうためには、組織は分析思考だけでなく、クリエイティブ思考やデザイン思考のような「創造的なアプローチ」が求められているのです。

残された難題を解決するため、企業に創造性が求められる

杉山: では、前述の「厄介な社会問題」とは何を示しているのでしょうか。
下図のように、以前は課題が山積みでモノや情報が不足した時代でした。しかし、時代が進んだ今、すでに解決された問題や利用可能な情報も多く、「個人や企業の価値」が何なのか見えにくくなっています。

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多くの課題が解決された現代において、残された2大イシューは「地球との共存」と「人口減少社会」です。これはひとりの個人では解決できない難題であり、かつ、解決の難易度が高い分、企業にとってもビジネスになりにくいといえます。

このような大きな難題が残された社会で、企業には「今までと同じビジネスをしていて良いのか」という問いが突き付けられています。これに対処するためには、従来とは異なる考え方や新しい価値を生み出す創造性が必要です。

創造的な組織をつくるために

山根: 組織全体で創造性を向上させる方法は、以下の流れが基本です。
 
1.個人が問題意識、違和感を持つ
2.問題意識、違和感を共有しやすい環境をつくる
3.議論や対話、ディスカッションを活発に行う
4.ディスカッションからアクションにつなげる
5.アクションを評価してさらなる改善案へ

特に重要なのは、「1. 個人が問題意識、違和感を持つ 」ことです。

これは、日常的な事物に対して問題意識や違和感を抱くことだけではなく、たとえば上層部から定義された課題に対しても「そもそもこの課題でいいのか」と深掘りする姿勢を指します。具体的には、その課題を解決することで、ユーザーやクライアントに「どういう感情の変化をもたらしたいのか」を考えます。彼らのマイナスな気持ちをゼロまで引き上げるのか、さらにプラスにしてハッピーにさせたいのか。問題解決によって目指すべき感情の変化を紐解いていくことが重要です。

 

個人の感情にアクセスするトレーニング方法

山根: 続く「2.問題意識、違和感を共有しやすい環境をつくる」に必要なのは、心理的安全の場を確保することです。

そして、「3.議論や対話、ディスカッションを活発に行う」では、心理的安全だけでなく、個人に「自身の考えを相手にどう受け止めてほしいのか」を考えてコミュニケーションを図ることが求められます。つまり、「伝える」ではなく「伝わる」を意識してディスカッションしなければなりません。

アマナでは、日常的に自分の考えを伝えるトレーニングを行うことが重要だと考え、「センスメイキング」という取り組みを導入しています。

センスメイキングは、以下の流れで行います。

1.アートやブランド、サービスなどが描かれたカードを用意し、個人の感性に基づいて「好き・嫌い・どちらでもない」に分類(個人ワーク/5min)

2.分類した理由(好きな理由、嫌いな理由)を「感性シート」に記入することで、個人の感性に向き合い言語化する(個人ワーク/10min)

3.チーム内で共有する(チームワーク/10min)

このようなワークを通じて、個人個人が自身の感情へアクセスするトレーニングを行います。自身がよく使っているサービスはなぜ心地よいと感じるのかなど、自身の感性を紐解くことで、問題提起に対しても自分の意見に自信を持って述べることができるようになります。

実際、ワークショップの前にこのトレーニングを行うかどうかでディスカッションの活発さに大きな差が現れました。

組織に求められるのは「解きがいのある課題設定」と「個人の意見を受け止めること」

杉山: 「4.ディスカッションからアクションにつなげる」では、社内だけではなく社外も巻き込むようなアクションにつなげるために、組織は、優秀な人材が取り組みたいと思う「解きがいのある課題設定」をしなければなりません。

組織の創造性を高めるこれら一連の流れを実施するにあたって、組織は「個人の考えや創造性を抑制しないようにすること」が重要です。組織をリードする人は変わったアイデアや突飛な意見であっても、まずはいったん受け止め、肯定します。そうしないと、個人は自身の意見を発言する意欲を失ってしまいます。その意見がすぐに価値にならないものであっても別の視点を開拓するきっかけになることがあります。

個人のオールライフと組織のゴールを一致させる

 杉山: 越境学習を通じて「越境人材」となることで、個々人の多角的な視点が養われると考えられます。

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杉山諒(プロジェクトデザイナー)。

ビジネスだけではなくテクノロジーやクリエイティブ分野においても、多角的な視点が求められています。

「越境人材」とは、たとえば出向、兼業、副業、プロボノなどで異なる産業、組織を越境して活動することで、複数の領域を掘っていく人物を指します。越境した活動により個人に新たな視点・視座が身につき、結果的に個人や組織に多様な視点をもたらし新たな創造性を生み出すのです。

しかし、必ずしも組織のメンバー全員が越境学習を行う必要はありません。個人一人ひとりが仕事だけでなく、趣味や人間関係、社会貢献、知性、家族など、さまざまな側面を持つ生活を送っています。副業や出向をしなくても、個人は本来、複数の領域やコミュニティに参加する越境人材であるといえるのです。

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組織の創造性を向上させるために大切なのは、組織が個人一人ひとりのオールライフを受け止める風土を育むことです。仕事だけでなく、趣味や家族、健康状態や人間関係などを含めた個人のオールライフと組織のゴールが一致する環境を作ることで、自然と新しいドットがつながり、まさしく「Connecting the Dots」のように新しい価値創造ができる組織を運営できるでしょう。

組織メンバー全員が創造的である必要はない

杉山:組織にとって創造性が重要である一方、メンバー全員が創造的である必要はありません。創造性は少なからずすべての人が持っているものの、創造性が必要とされる業務ばかり得意なメンバーだけで構成された組織では、事業は成り立ちません。

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武野綾香(クリエイタープロモーションサポート)。

事業を継続・拡大させていくためには、同じゴールを目指しつつ「生産性を上げて売上を生み出すべき組織」と、「チャレンジしていく組織」を分ける必要があります。つまり、創造的な人材とそれ以外を得意とする人材をバランスよく採用・育成していくことが、事業運営をする上で求められるのです。

社内へのブランディングがアウターへと広がる組織を目指す

杉山:その組織が創造的であると候補者が認識していれば、自然と創造的な人材からのエントリーが集まるでしょう。その認識形成のためには、ブランディングが不可欠です。

ブランディングとは、企業がユーザーに対して「こう思ってほしい」と考える内容と、ユーザーが「この企業をどう思っているか」が一致する状態を作ることです。企業がブランドビジョンや、ビジュアルルールなどをまとめたガイドラインを設定し、それを基にコミュニケーションを統一することがブランディングの基本といえます。

アウターコミュニケーションではなく、社員に向けたインナーコミュニケーションをきちんんと行うことが重要です。SNSを通して人間関係が多様に紐づいている現代では、まずは社員に向けたブランディングをし、社員からの共感を得た上でアウターに染み出していく。このプロセスを踏むことで、社内外で共通認識を持った人材の採用・育成が叶います。

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アマナの創造性人材循環プログラム「Great River」

山根: アマナでは、クリエイティブが必要とされている組織に創造性の高い人材を派遣するサービス「Great River(グレートリバー)」を提供しています。プロジェクトの戦略から実行、抽象から具体までを担えるプロフェッショナルな「越境人材」を企業や組織に派遣することで、社会全体で創造性を循環させていきます。

企業がプロジェクトを外注するにあたっては、コンサルティング会社にはプロジェクトの「戦略」部分を、制作会社には「実行」部分をアウトソーシングするといったように、「点」での依頼が基本です。しかし、越境人材であれば、プロジェクトの戦略から実行まで、さらには実行後のフィードバックを行い、その結果をもとにまた戦略を立てる、といった「面」でプロジェクトをアウトソーシングすることができます。

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グレートリバーでは、プロフェッショナルな越境人材を1人派遣するだけでなく、その人材がもたらす成果や効果を最大化するために、アマナのプロデューサーやプランナーがサポートを行います。たとえばプロフェッショナルな人材が編集の知識を有している人物であれば、アマナはデザインに関する知識を提供し複数のプロフェッショナルな視点からプロジェクトを遂行します。

なお、本サービスで派遣するプロフェッショナルな人材は、ただ専門性やスキルの高い人材ではなく、アマナ独自の審査基準で選んだ「高い創造性を持つ」人材です。彼らを組織の状況に応じて適切に派遣します。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

Great River(グレートリバー)に関するお問い合わせはこちらから

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未来を構想し創造的な課題解決を目指す創造性人材を提供し、企業のクリエイティブな体制構築を支援する人材提供サービスです。GreatRIVERを通して、社会全体で創造性が循環することを目指します。

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