ミラノサローネから学ぶ、2024年のデザイントレンドレポート

vol.136

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Text by 中尾慎

SPEAKER スピーカー
  • 秋元 陸 (スタイラス ジャパン株式会社)

毎年4月にイタリア・ミラノで開催される、世界最大規模のインテリア・家具の国際見本市「ミラノサローネ」。主催者の厳しい審査に通った企業のみが出展でき、万が一模倣品が見つかった際は即刻退去となるなど厳しい出展規制をすることで、世界最高峰といわれるクリエイティブの数々が一同に会します。ミラノ市内では、ほかに個人や企業、団体などの多くの展示が行われており、この期間は「ミラノデザインウィーク」とも称されます。

今回のウェビナーでは、世界中のイノベーションリサーチやトレンド調査を行っているイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の秋元陸氏が登壇。2024年のミラノサローネの様子から、最新トレンドをレポートしました。

家具からアートまで年々広がりを見せるイベント「ミラノサローネ」

「ミラノサローネ(ミラノサローネ国際家具見本市)」は、イタリアのミラノで毎年4月に開催される世界最大規模の家具とインテリアの見本市です。

2024年は4月16日から21日まで開催され、今回で62回目を迎えました。フランスのパリで開催される「メゾン・オブジェ」、ドイツのケルンで行われる「ケルン国際家具見本市」とともに、世界3大家具見本市と呼ばれています。

近年では、同時期にミラノの街全体で個人や企業、団体などの多くの展示が行われており、それらのイベントを包括して「ミラノデザインウィーク」とも称されます。ミラノデザインウィークの中では、家具やインテリア以外にも、建築やアート、ファッションブランドが出展します。

2024年も幅広い展示がなされたものの、「再利用可能な素材」「環境負荷の少ないメタル素材」「パーソナリティ性」「詩的なデザイン」など、展示にはいくつかのトレンドが見られました。ここからは、ミラノサローネで見られた家具やアートといったプロダクトだけでなく、ブランドの方向性や考え方にも影響を与えるような、デザイントレンドを紹介します。

再利用可能な素材でインテリアをデザインする「Made from Waste」

「Made from Waste」とは廃棄物を再利用して作ることで、サステナビリティにも大きく関連するデザイントレンド です。2024年のミラノサローネでは、アルミニウムや端材などをインテリアとして利用したり、廃棄物を再利用した展示が多く見られました。

・アルミニウムで素材のライフサイクルを延長

以下は、韓国・ソウルのクリエイティブスタジオ「Niceworkshop」が手がけた家具です。これは、建設現場で使用されるアルミの型枠を使っています。

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アルミニウムは比較的容易に再利用ができ、かつ長持ちするという特徴があるため、素材のライフサイクルを延ばすことができるデザインといえます。

・廃材や切れ端でクリエイティブを表現

2024年のミラノサローネでは、廃材や切れ端など、これまで廃棄してきたものを素材としてアップサイクルしたクリエイティブも多く見られました。

アメリカの高機能ファブリックブランドの「Sunbrella」は、テントなどに使われるテキスタイルを利用したクッションを展示。丈夫な布の切れ端をクッションの外側の部分に巻きつけることで、クッション自体の摩耗を防ぐというものです。

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以下は、イタリアの家具ブランド「Paola Lenti」と、日本のデザインスタジオ「Nendo」のコラボによって生み出された、廃材や切れ端を使ったランプシェードです。素材の再利用によって、エコなクリエイティブを表現しています。

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・日々触れるものは「エシカル」に「高級感」をプラス

近年、家の中でも特に1人きりになれるバスルームや、作業に没頭できるキッチンなどの空間が注目を浴びています。新型コロナの影響で人々が自宅で過ごす時間が長くなったこともあり、バスルームやキッチンを充実させたいというニーズが年々高まっているようです。

2024年のミラノサローネでは、ほぼ100%廃棄物をリサイクルした陶器の洗面器や(写真左/Vitra)、70%以上再利用されたセラミックと鉄で作られた洗面器(写真右/Kohler Westelab)などが展示されていました。

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このようなトレンドは「エシカル回帰」と表現されています。エシカルとは、人や社会、環境などに優しいものを選択する消費スタイルのことです。インテリアなど私たちが日々触れるものにエシカルを取り入れることで、「いいことをしている」「いい気持ちになれる」という体験を消費者に与えます。

そして、2024年のミラノサローネでは、ただ廃材を再利用しただけではなく、天然の御影石のような手触りや重厚感を表現したクリエイティブにも注目が集まりました。たとえば以下は、バスルームのメーカーであるDuratによる、80%ペット樹脂のリサイクル材料で作られたバスタブや洗面台です。

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これらの素材は、コロナ禍前は「流行りのマテリアル」といった印象でしたが、近年は各社がそれぞれ注目しているマテリアルに「高級感」や「ラグジュアリー感」を持たせている例が多く見られています。

この傾向について、秋元氏は「近年は、一定の高級感を纏わせている例が非常に多いかなという印象があります」と話します。エシカルを自分だけの感覚的なものではなく、環境にとってプラスであり、かつ「高級感がある見栄えと体験」に昇華させてあげることに、各社こだわりを持って考えているという印象が見てとれます。

・3Dプリンターで木くずを固めて家具を造る

2024年のミラノサローネでマテリアルの観点から話題になったのは、木の切れ端や木くずを3Dプリンティングで固めて表現したプロダクトです。以下はEconitWoodが手がけたテーブルやランプシェードなどのインテリアであり、3Dプリンティングを用いて木くずを固め、複雑な曲線の表現に成功しています。

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レトロで重厚感のあるメタル素材がトレンド

2024年のデザイントレンドのひとつに、鉄やアルミなどのメタル素材が挙げられます。

メタルは環境負荷の少ない素材としてサステナブルの観点からも重視されており、2024年のミラノサローネでも、環境負荷に配慮した作品が多く並びました。展示後、再利用できる素材は別のものに使うよう誰かに託すなど、積極的に再利用して物の寿命をのばす取り組みが多く行われていました。

・環境負荷の少ないアルミニウムに注目

工業用アルミニウムを使用した棚や椅子やライトスタンド、パーテーションのほか(写真左)、ソファやテーブルなど(写真右)、アルミニウムを使用したプロダクトを展示するブランドが多く見られました。

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アルミニウムは長持ちすること、加工が容易なことに加えて軽いということも特徴です。エネルギー効率が高く、CO2排出量が低いことから、環境負荷が低いマテリアルとして注目されています。

・清潔感と未来感の共存

アルミニウムに限らず、メタル自体がデザイントレンドとして話題を呼んでいます。昨年のミラノサローネでも1970年~80年代のデザインが多く見られましたが、そこから派生するようにレトロブームが続いています。

たとえば、大きなネジを模したランプ(写真左/Muuto)や、下部が鏡面加工されたソファ(写真右/Baxter)などは、その代表といえます。メタルはレトロでアンティーク、清潔感と未来感が共存する表現を可能にすると、多くのブランドで採用されているようです。

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パーソナリティを取り入れてインテリアを表現する

2024年のミラノサローネで見られたコンセプトに関するキートレンドとして、秋元氏は「Personality Prioritised」を挙げています。これはダイバーシティの派生系といえますが、パーソナリティを優先する、工芸品に文化的背景を取り入れて価値を見出す、といったコンセプトです。

また、デザイントレンドとして、「ウェルビーイング」や「人の心を癒す」といった目的を内包するデザインも多く見られました。

秋元氏は「いま多くの人たちが疲れていて癒しや慰めを求めていることが、いろいろな業界の事例から見て取れます。デザインや住環境など手に触れるもの、目に見えるものは、人々の心にポジティブな印象を与えるものになってくると思います」と話します。

・自身のバックグラウンドをそのままデザインに落とし込む

具体的な作品として秋元氏が挙げたのは、イギリス在住のガーナ系のバックグラウンドを持つデザイナーが作った調理家具(写真左)や、オーストリア出身のアーティストによるウッドベニアの家具(写真右上)、中国人デザイナーによる民族工芸のような家具(写真右下)などです。

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これらは、デザイナーやアーティスト自身のバックグラウンドをそのままデザインに落とし込んでいる例です。このように、身の回りのアイテムに文化的背景を持つ作品を取り入れることで自身のパーソナリティを保つ、という動きがトレンドとなっています。

2024年のミラノサローネでは特に、新進気鋭の若手デザイナーがいろいろなカルチャーやバックグラウンドを取り入れたアイテムを制作していたり、ブランドがそういったものに価値を見出したり、という流れが強く見られました。

・インテリアに文化的背景を持つアイテムを取り入れる

一方で、空間全体のデザインでは、奇抜なアイテムばかりそろえるのではなく、居心地のよいシンプルな空間の中に民族的・文化的背景を感じさせるアイテムを取り入れるスタイルが多く見られました。

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心安らぐ詩的なデザインの表現

秋元氏は、ミラノサローネで見られたデザイントレンドのひとつとして、「Poetic Design Cues(詩的なデザインの表現)」を挙げました。代表的な展示を以下で紹介します。

・「太陽」からインスピレーションを得る

ひとつは、太陽からインスピレーションを受け作られた展示です(写真左上)。サウジアラビアのデザイナーにより作られたこの空間は、巨大なオーバーヘッドライトを中央に据えることで、あたたかな太陽の光が降り注ぐ様子を表現しています。

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・内省体験ができる空間

ほかには、アルゼンチンのアーティストによる「モザイクの壁画と特注の椅子を備えた瞑想のための12の椅子」という展示(写真左)なども詩的なデザインの表現のひとつとして挙げられます。この空間は「瞑想のための」と題されているとおり、視線が交わらないように配置された椅子に座り瞑想することで、内省を促すことをコンセプトとしています。

ほかには、中庭の曇りガラスのパネルを配置した空間(写真右)なども例として紹介されました。溶解して再度熱でつなぎ合わせた曇りガラスを配すことで、ガラスの向こう側が見えないようにしていますユーザーは、パネルの間を歩きながら、自分だけの空間を思い思いに過ごすという体験ができるのです。

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・安心感と秩序を与えるデザイン

空間だけではなく、プロダクト自体にも「詩的な表現」が見られました。

たとえば、ドイツのDuravitが手がけたシンクは、黄金比に基づいた高低差をつけて心が落ち着くサイズ・バランスを表現しています(写真左下)。ほかにも、Van Rossumによるベッドは、骨太で重厚感のあるフレームを用いています(写真右)。家具の一部を重厚感のあるデザインにするだけで、インテリア全体のバランスが取れ、安心感が得られる空間を作り上げます。

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「不確実性が高い世の中で、人々に家具や空間を通じて安心感を与えたいというメッセージが根底にあるのでは」と秋元氏は解説します。

光と色を用いた新たな没入体験

2024年のミラノサローネで空間全体を作品とする展示の中には、光と色を用いて演出をしているものも多く見られました。これらは、足を踏み入れた参加者に、新たな没入体験を提供します。

・五感で体験できる空間

Googleによる展示は、光と影を使った迷路です。この空間は、「Making sense of color」というテーマで部屋を聴覚と触覚、視覚、嗅覚などの五感に分けて表現し、参加者を迷路の中に誘います。色とりどりのライトに照らされた部屋を進みながら、五感を刺激する空間に没入していく、という体験ができます。

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チェコの照明家具ブランド「Precioa」の展示では、クリスタルのキューブをガラス張りの部屋に配置し、万華鏡の世界の中にいるような空間を表現しました。音とタイミングによって、クリスタルの色が変化します。

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秋元氏は「没入体験や五感をハックすることは、コロナ禍以降のミラノデザインウィークでは王道になっているかなと思います。音と色の表現は年々鮮やかになり、没入感もさらに強まり、行った人にしか分からない進化を年々遂げているような印象があります」と話します。

カラートレンドは「有機的な色合い」と「柔らかなビビットカラー」

2024年のミラノサローネで見られたカラートレンドは、昨年に引き続きベージュやグレーを貴重としたモノトーンがメインでした。しかし、今年は大理石など有機的な色合い・有機的な素材のものにベージュなどを混ぜて表現するものも見られるようになってきました。

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「今年は緑や黄色がファッションやメイクの領域でもトレンドのカラーになっていますが、ビビットになりすぎないようなトーンで落とし込んでいます。昨年のミラのサローネの中ではあまり見られなかった紫や青などの色鮮やかなものが、柔らかいトーンで入ってきたという印象です」と、秋元氏は話します。

ウェビナーで紹介したこれらの展示はほんの一部であり、2024年のミラノサローネでは、35ヶ国から1,950の展示が会場を埋め尽くしました。近年トレンドとなっている「再利用可能」「サステナブル」「ウェルビーイング」「没入体験」などのコンセプトやテーマを引き継ぐ展示が多く見られたものの、注目されるマテリアルが新たに生まれたり、カラートレンドに新たなニュアンスが追加されたりと、昨年の展示からさまざまな側面でアップデートがなされたといえるでしょう。

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