3D-CADデータを活用した3DCGアセット化の作業プロセスとは

vol.138

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Text by 中尾慎

SPEAKER スピーカー

設計・製図作業やその管理・共有をスムーズにできるCADデータのうち、3Dで作成された「3D-CAD」データは2DのCADデータよりも汎用性が高く、広告やカタログ、動画、Web上のリアルタイムコンテンツなど多彩なアウトプットを可能にします。しかし、3D-CADから高品質なアウトプットを生み出すためには、3D-CADデータを精度高く3DCG化する必要があり、技術が必要です。

今回のウェビナーでは、アマナのCGI Asset Sec.マネジャーである鵜飼美生と、チーフクリエイティブプロデューサー・CGI conciergeの宮下広臣が、アマナで実践している3D-CADデータの3DCG化の手順や注意点などを解説しました。

3D-CADを活用して「ワンソースマルチユース」を実現する

3D-CADは、多くの企業やブランドコンテンツやマーケティング用のデータとして活用されていますが、その最大のメリットは、「ワンソースマルチユース」という点です。

3D-CADデータを活用することで、そのデータから製品の形状(アウトライン)データを読み取り、効率的に、かつ静止画だけでなく、動画やweb用のコンテンツなど、多様な製品3DCGを作成できます。

このとき、設計データである3D-CADデータから、ハイポリゴンまたはローポリゴンの3DCGデータを作成し、それぞれをさまざまなコンテンツに展開させていくことができます。いままでは商品画像やビデオ撮影など別々に実施していたことを一括して行えるようになるなど、3D-CADデータの活用は業務プロセスの改善やDX推進といった点でも有用な技術であるといえます。

3D-CADから3DCGモデルデータ作成時のポイント

ウェビナーでは、3D-CADデータを3DCG制作用のデータにコンバートするアマナのCGI Asset Sec.マネジャーを務める鵜飼が、3D-CADから3DCGモデルデータ作成のフローにおけるポイントを解説しました。

アウトプットにあわせてポリゴンデータを使い分ける

3D-CADデータはNURBSという曲面で作られたデータのため、このままでは3DCGソフトで扱いづらく計算時間もかかります。そのため、ポリゴンという平面の集合体データに変換してから3DCGモデルデータを制作します。

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ポリゴンデータは「ハイポリゴンデータ」と「ローポリゴンデータ」に分けられ、それぞれポリゴンの面の分割数が異なります。ポリゴンデータは、アウトプットするコンテンツの種類に応じて分割数を変えなければなりません。

例えば、広告やCMなど精細なビジュアルに使うためには、寄りにも耐えられる分割量の多いハイポリゴンデータが必要です。一方、リアルタイムコンテンツに使うための3DCG制作には、軽量化のために分割量を抑えたローポリゴンデータが適しています。

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ハイポリゴンをローポリゴンに変換するリスク

ハイポリゴンからローポリゴンデータへの変換を無理に行うと、面が破綻したり形状が崩れるといったエラーが生じます。この場合は手作業でモデリングすることになり、結果的にコストが増えるというデメリットがあります。

以下の画像はいずれもハイポリゴンをローポリゴンに変換したことで生じたエラーです。一見きれいに見えるデータですが、細かく確認すると、羽の途中で面のつなぎが悪く壊れていたり(下図赤枠)、側面と天面の間に隙間ができていたり(下図黄色枠)、丸穴のエッジが引っ張られ筋が出ていたり(下図青枠)と、さまざまなエラーが確認できます。

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3D-CADデータがあれば、NURBSでハイポリゴンとローポリゴンを別々に設定して書き出すことできるため、手作業によるモデリング作業を減らすことができ、コスト削減につながります。

CGビジュアル制作の基本ワークフローと注意点

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上図のカメラの3DCGビジュアル作成を例とした、3D-CADデータから3DCGビジュアルを作るためのアマナの基本的なワークフローは以下の通りです。

①事前確認・3DCG制作資材受領
②3DCGモデルデータセットアップ
③質感設定
④仕様チェック(形状・色・質感など)
⑤アングルハント
⑥ライティング
⑦レンダリング
⑧2Dレタッチ
⑨チェック→納品

このうち、特に「④仕様チェック」と「⑤アングルハント」は手戻りを防ぐために重要なステップです。例えば部品形状が違うと発覚すれば①に、色や質感が違えば③に戻ってやり直さなければなりませんし、ライティング(⑥)をしてからアングルを変えると、ライティングをやり直さなければなりません。このような手戻りを起こさないためにも、④⑤は関係各所に十分確認をし、承認を得てから進める必要があります。

今回のウェビナーではこれらのワークフローのうち、「①事前確認・3DCG制作資材受領」と「②3DCGモデルデータセットアップ」について詳しく解説しました。

スムーズな進行のために重要な「①事前確認・3DCG制作資材受領」

作業に取り掛かる前に、以下の4つの項目について確認します。

・CG化の実績の有無と要望(課題)
クライアントにCG化の実績があるかないか、またCG化する上での要望をヒアリングし、課題に応じてサポートします。
 
・制作内容
制作ボリュームとスケジュール、納品形態などを確認します。

・商品情報
商品の仕様だけでなくコンセプトやターゲット、訴求ポイントなど、ビジュアル表現のための参考情報が必要です。

・制作に必要な資材と支給予定日 
3D-CADデータや版下データ、色と質感の参考資料の支給予定日を確認します。制作指示書を用意しておくと、確認事項の漏れがなくコミュニケーションが取りやすくなります。

同時に、必要な素材をクライアントから入手します。この段階で受領する「3DCG制作資材」とは、以下の4点です。

・CADデータ
アマナに素材を提供する場合には、以下の3つのパターンのうちいずれかのCADデータを手配いただきます。

パターンA:3D-CADデータ(ネイティブフォーマット)
CADデータを活用したCG制作を行う場合、3D-CADデータを提供いただくことが最も望ましいです。このとき、CADデータとともに、必ず「CADソフトの名称」「CADソフトのバージョン」「トップアセンブリのファイル名(Fusion360とRhinocerosの場合は不要)」をテキストファイルで提供していただきます。データ容量が、1ファイル1GB以上になる場合は分割して、ご提供ください。

パターンB:3D-CADデータ(互換フォーマット)
パターンAのデータ提供が難しい場合には、互換フォーマットでの3D-CADデータを提供いただきます。ネイティブフォーマットから互換フォーマットに変換する際にデータが破損するケースがあるため、2種類の互換フォーマットがあると安全です。データ形式はSTEP+Parasolid、もしくはSTEP+ACISを推奨します。データ容量が、1ファイル1GB以上になる場合は分割して、ご提供ください。

パターンC:2D-CADデータ(図面)
パターンA、Bのいずれも手配が難しい場合には、2D-CADデータを提供いただきます。ただし、この場合は図面から3DCG制作をするため多くの工数がかかります。データ形式は、DXFもしくはDWGでご提供ください。正しいデータが開けているか確認するためにこれらのPDFも一緒にご提供ください。

・デザイン仕様書
デザイン仕様書とは、各部品の色や質感が記載された指示書です。稼働部がある場合は、稼働軸や稼働範囲がわかる資料、内部構造をビジュアライズする場合は、内部データの指示書も必要です。仕様書の準備が難しい場合は、現物を取材して対応することも可能です。

・版下データ・サイズと位置情報
製品にプリントされるロゴや文字、ラベルデータなどの版下データは、アウトライン化されたIllustratorイラストレーター形式またはPDF形式が必要です。ロゴや文字の位置やサイズが版下にない場合は、位置とサイズがわかる資料を別途提供いただく必要があります。

・色と質感参考資料
色および質感の参考資料は、デザイン仕様書通りに色や質感を再現するための見本として用います。色チップやモックアップ、既存の製品などが該当しますが、準備が難しい場合は現物を取材して対応できます。

「②3DCGモデルデータセットアップ」で最適なモデルデータを用意

必要な素材が揃ったら、3D-CADデータをCG制作に最適なモデルデータへセットアップします。

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ここでは、次の8つの作業を行います。

1. データの事前確認
2. 最適なポリゴン変換
3. データの確認・報告
4. 3DCGモデルデータ調整
5. エッジのR化
6. 版下のオブジェクト設定
7. UV展開・調整
8. リグ設定

それぞれ以下で詳しく解説します。

1.データの事前確認
まずはデータ自体を事前に確認します。データが破損していると、制作側では修正できません。その場合には、再度CADデータを準備いただくよう報告・依頼をします。

2.最適なポリゴン変換
3D-CADのNURBSデータを、最適なポリゴンデータに変換します。ここで重要なのは、データの容量を抑えつつ、パーツのサイズや形状に合わせた最適な面の分割量を決めて変換することです。

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3.データの確認・報告
仕様書やモックとCADデータを比較して、過不足や破損してる部品があれば、関係部署へ報告と依頼をします。また、この時にCADデータや必要な資材に対しての確認項目に沿って、チェックを行います。

4.3DCGモデルデータ調整
次に、3DCGモデルデータを細かく調整します。

・面の向き(法線方向)の統一
面の向きが揃っていない場合はビジュアルの表現に影響するため、すべての面が同じ向きになるように整理します。

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・陰面・不要物の除去
陰面(設計作業過程で使用されたデータ)や、ビジュアライズに影響のない内部構造データなどを削除。データを軽量化することで、CG制作の作業効率がアップします。

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・頂点・エッジの結合
ポリゴンの頂点やエッジの結合をします。例えばポリゴンのエッジが繋がっていないとほんの少しの隙間でも光が漏れてしまうなど、ビジュアルに大きな影響を及ぼします。どんなアングルであっても耐えられるデータにするためには、この結合作業が重要です。

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・質感ごとのデータ切り分け
仕様書やモックなどを参考にして、色や質感ごとにデータを切り分けます。ここで色や質感ごとにパーツを分離することでCG制作時の間違いが起こりにくくなり、結果的に効率アップにつながります。

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・不足パーツ・規格品などの追加
3D-CADデータに端子やケーブルなど規格品のデータがない場合は、資料や製品を参考にしながら別途モデリングして、追加・差し替えします。

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5.エッジのR化
3DCGデータの細かな調整が完了したら、R加工を行います。
金型用のCADデータには整形した際にエッジにできるRがついておらず、3DCGのリアルなビジュアル表現のためにRをつける加工をします。ただし、CGソフト内の設定で疑似的にRを表現できる場合は、この加工はしません。

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6.版下のオブジェクト設定
次に、プリント文字や刻印がある場合は、aiなどの2次元版下データを3次元データ化して、オブジェクトの上に配置します。フラットではない面に対しては、歪まないよう角度を調整しながら作成します。カラーバリエーションを作る際にも、この手法が有用です。

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7.UV展開・調整
製品に柄や模様がある場合は、歪まず破綻しないようにUV展開で調整します。例えばカメラのグリップ部分に革のテクスチャーを貼る場合は、平らに展開した状態にして(画像右)ドットの歪みがないように調整します。

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8.リグ設定
製品に稼働部分がある場合は、仕様書やモックなどの資料を参考にして稼働軸や稼働範囲を設定します。今回の例は非常に簡単なリグですが、例えば医療用のベッドなどは構造がとても複雑なためリグ設定にも時間を要します。

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詳細な機能説明や魅力あるイメージカットが作成できる

3D-CADデータを3DCGデータにして質感設定をすることで、さまざまな用途に流用できる3DCGが完成し、「ワンソースマルチユース」が実現します。これにより、実写ではできない機能説明や、魅力的なイメージカットを作ることが可能です。

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「土台となるモデルデータを精度高く丁寧に作ることで、3DCGを用いたライティングやアニメーションなどの演出に十分注力できるようになり、結果的に高品質なクリエイティブを作ることにつながる」と鵜飼は話します。

アマナの3D-CADデータ活用サービス

アマナでは、これまで培ってきたCG技術を提供できるソリューションとして、次の3つのサービスを提供しています。

・データコンバート&セットアップ
・CGモデリング
・CGコンサルティング

品質向上と効率化を実現する「データコンバート&セットアップ」

「データコンバート&セットアップサービス」は、3D-CADデータからCGモデリングとセットアップを行います。

3D-CADデータを3DCG制作に最適なモデルデータに変換し(3D-CADデータコンバートサービス)、事前にヒアリングした条件に則り質感やカラー設定を行ったデータを作成します(CGデータセットアップサービス)。精度の高いモデルデータを制作・提供することで、最終アウトプットの品質向上や制作フローの効率化をサポートします。

3D-CADデータがなくてもCGモデルデータを作成「CGモデリング」

「CGモデリングサービス」は、2D-CADの図面しかない製品や実物がない場合でも、図面からスキャンや計測を行いCGモデルデータを作成するサービスです。簡易形状データから、精度の高いCGモデルデータに作り直すことができます。

CG制作のワークフロー構築を支援「CGコンサルティング」

「CGコンサルティング」は、CG制作の効率化と品質向上をサポートするサービスです。

3D-CADデータを活用したCG制作の効率化と品質向上のためには、次の3つが欠かせません。

・最適なワークフローを整える
・クリエイティブに注力できるよう製品情報を管理する
・最適なディレクションのためにビジュアルのガイドラインを作成する

これらを構築できるよう、アマナの経験を活かしてサポートを行います。CG制作の際のワークフローや体制などの課題がある方は、ぜひご相談ください。

また、アマナのCGソリューションサービスの事例は「amana cgx」でも公開しています。あわせてご覧ください。

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amana cgxサイトでは、amanaのCG制作チームが手がけたTV-CMやグラフィック、リアルタイムCGを使ったWEBコンテンツなど、CGを活用する事で、クライアント課題を解決に導いた様々な事例を掲載。
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