POLAの事例に学ぶ|ブランドクリエイティブを効果的に発信するための方法

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woman wearing colorful sunglasses

Text by 泉田ひらく

SPEAKER スピーカー

消費者が受け取る情報が激増する現代、人々は意識的に自身にとって不要だと判断した情報を遮断する傾向にあり、多くのクリエイティブがターゲットユーザーの目に届かずに埋もれてしまうことが懸念されます。企業がブランドクリエイティブを確実にターゲットユーザーに届けるためには、ブランドらしさと広告効果を両立したクリエイティブを制作しなければなりません。

今回のウェビナーでは、アマナのコミュニケーションプランナー・神田美咲が登壇。ブランドクリエイティブの制作の中で、広告効果の追求とブランドイメージの追求の間で生じるジレンマを解決するためのフレームワークを事例とともに解説しました。

情報過多の今、マーケターに求められる「判断スピード」

情報社会の現代では、人々が1日に受け取る情報量は非常に多く、平安時代の人の一生分、江戸時代の人の1年分とも言われています。しかし、情報の流通量と実際の消費量には大きなギャップがあり(下図右図)、ユーザーの消費情報量は微増していますが、流通情報量の激増にはとても追いついていません。

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人間の処理能力には限界があります。そのため、提供される情報が激増すると、ユーザーはデジタルデトックスやアドブロックなどで意図的に情報を遮断するようになります。人々が情報を遮断し意識的に情報の取捨選択をするようになる世の中で、宣伝・マーケティングでは、いかにターゲットユーザーに情報を届けられるかが課題であると神田は指摘します。

ユーザーに情報を届けるための施策として、宣伝・マーケティングの現場では、各種SNSなどの多様なプラットフォームに合わせたクリエイティブを制作し、スピーディーにデザイン案を変更するなどの対応を迫られています。デジタルマーケティングの現場では判断する要素が多く、意思決定を難しくしているのです。

クリエイティブ制作の判断量が多すぎるという課題は、「メディアに合わせたクリエイティブ」と「ブランドに合わせたクリエイティブ」という2つのテーマが絡み合って生じます。

メディアに合わせたクリエイティブ

各企業がSNSなどさまざまなメディアに合わせたクリエイティブを制作し、数値的なKPIを追求していったとしても、他の企業と似たビジュアルに落ち着いてしまいがちです。これは、メディアそれぞれが持つ特性に合うように、自社と他社が自然と同じCVRを追ってしまうためです。

たとえばデジタル広告であれば、広告クリエイティブの目的はクリック率を上げることになります。そのためのベストプラクティスを実現しようとすると、クリエイティブ要素のサイズや配置が似通ってしまい、ユーザーにとっては既視感のあるクリエイティブが並ぶこととなります。

この場合、PDCAを繰り返してもほかの企業のパフォーマンスを越えることができず、コストと時間に見合わない成果となってしまいます。

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ブランドガイドラインに合わせたクリエイティブ

一方で、ブランドのガイドラインに沿ったクリエイティブを制作すると、さまざまな広告プラットフォームやメディアに掲載されるあらゆるクリエイティブが、同じような表現に留まってしまいます。

ブランド本位なクリエイティブはプラットフォームの特性にもユーザーにも最適化できておらず、ユーザーの目に留まることはありません。新しいクリエイティブが生まれなければデジタル広告は摩耗し、成果が出なくなります。

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このようにクリエイティブ制作において、メディアに合わせる方針とブランドガイドラインに合わせる方針は相反する関係にあるといえます。

事例徹底解剖!POLAのデジタル版ブランドガイドライン作成

前述のとおり、デジタルマーケターはさまざまな判断軸の中でそのクリエイティブが正しいか、効果的かの判断をスピーディーかつ大量に行わなければならない状況にあります。ブランドは、「多様なメディアへのフィット」と「ブランドらしさ」を両立させたクリエイティブを、どうスピーディーに生み出せるかという課題に直面しているのです。

ウェビナーでは、株式会社POLAの事例を挙げ、現場でクリエイティブ制作を自走できる環境を実現するための、デジタル版ブランドガイドライン作成の取り組みが解説されました。

「POLAらしさ」と広告効果のジレンマ

POLAは、「メディアフィット」と「POLAらしさ」の相反に課題を抱えていました。POLAのブランドらしさを追求すると、ブランディングが確立された企業であるがゆえに、どのメディアで見ても変わり映えのしない統一されすぎたビジュアルになってしまいます。

しかし、各種メディアに合わせたクリエイティブを制作しようとすると、POLAのVI(ビジュアル・アイデンティティ)ルールに当てはまらないというジレンマが発生していました。

そこでアマナは、「デジタル広告で『ブランドらしさ』と『広告効果』のどちらも狙えるクリエイティブのガイドライン化」という新たなプロジェクトを提案しました。

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ステップ1:「らしさ」形成ワークショップ

デジタル版ブランドガイドライン作成のため、まずはじめにアマナ独自の「Co-Visualization」というワークショップを実施しました。

Co-Visualizationでは、POLAのメンバーが互いに意見を交わしながら、POLAの今まで使っていたクリエイティブや、アマナが新たに作成したクリエイティブをもとに「POLAらしさ」が保たれる境界線を探ります。

ワークショップを通して、「POLAはどの部署でもブランドに対する意識が高い方が多く、ディテールの話題になりがちな苦労があった」と神田は話します。異なるKPIを持つ部署の意見がぶつかり合う場面も見られたものの、ワークショップではあえて異なる部署のメンバー同士でチームを組むことで、建設的な議論を通して、部署間で判断軸のすり合わせを行うことができたと言います。

境界線が見えてきたら、境界を判断する軸をすべて言語化します。判断軸の言語化とともに、カスタマージャーニーを用いながら、POLAらしさが保たれると判断されたクリエイティブがどのマーケティングプロセスで使用できるものであるかも可視化しました。

ステップ2:検証軸の抽出

次にクリエイティブを「POLAらしい/らしくない」と「機能訴求/情緒訴求」の2軸で4象限に分けて分析を進めました。

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4象限にクリエイティブをマッピングすると、「POLAらしい」と「POLAらしくない」の間に生まれる「迷いゾーン」が可視化されます。この「迷いゾーン」に位置するクリエイティブのデジタル広告効果を測定し「ブランドらしさが保たれ、かつデジタル広告上でも効果が高いクリエイティブ」とはどのようなものかを、次のステップで検証します。

ステップ3:ビジュアル検証

ガイドラインの判断基準を裏付ける数値的な事実を獲得するために、ビジュアル検証を実施しました。

具体的には、「デジタル広告効果が高い=クリック率が高い」という仮説を設定し、デジタル広告のABテストを実施しました。各訴求パターンのABテストを3フェーズ程度実施し、クリック率が高まるビジュアル要素を掘り下げていきます。

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例えば、「王道感」を訴求したいクリエイティブAに対して、同様の「王道感」を表現したクリエイティブBとクリエイティブCの計3パターンのクリエイティブを用意します。

まず、フェーズ1ではクリエイティブA、B、CのABテストを実施し、「王道感」の訴求に適切なクリエイティブの方向性を検証します。そこでクリエイティブAが優位だった場合、クリエイティブBとクリエイティブCはふるい落とします。

続くフェーズ2では、クリエイティブAの要素を持った新しいクリエイティブA-1とクリエイティブA-2を制作し、3つを再度ABテストにかけます。ここではビジュアル要素などを検証します。クリエイティブA-1が優位だった場合、ほかの2つはふるい落とします。

フェーズ3も同様に、クリエイティブA-1の要素を持ったクリエイティブA-1-aとクリエイティブA-1-bを新たに制作し、ABテストを実施します。このフェーズではレイアウトの検証などを行います。

このように、大局的な検証から近視的な検証へと進み、もっとも広告効果の高いビジュアルを探ります。

ステップ4:明確なガイドライン策定

ステップ1と2で明確になった「ブランドらしい/らしくない」という判断軸と、数値的効果が出る表現の要素をブランドガイドラインに落とし込みます。

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ガイドラインの目標は「誰が見ても明快で、表現の幅が広がる」ことです。これはPOLA社内でのクリエイティブに関する判断量が多すぎるため、最低限は現場で判断できるようにしたいという思いを受けての目標設定です。

ガイドラインには以下の3点の項目を記載しました。

・管理基準:クリエイティブがOKか判断する基準
・制作基準:管理基準を満たすクリエイティブをどのようにして作るかの制作時のポイント
・広告効果を高めるには:広告効果(クリック率)が高める要素

1つ目は、現場で制作中のクリエイティブがPOLAブランドにとってOKかNGかを判断できるように言語化した管理基準です。クリエイティブの例も掲載し、現場で誰でも判断できるように明瞭に記します。

2つ目は、1つ目の「管理基準」を満たすPOLAらしいクリエイティブを作るためのアクションを示したものです。POLAブランドに即したクリエイティブを制作するためのフローをまとめました。

3つ目は、クリエイティブの中で広告効果を高めると想定されるポイントです。テスト配信結果を元に、クリック率が高まるクリエイティブの要素を記載しました。

これらの基準を盛り込んだデジタル版ブランドガイドラインは、現在POLA社内で、既存のVIの内容を再認識しつつ、よりクリエイティブ制作や広告ビジュアル選定時の具体的な判断軸として活用されています。
既にVIが整っているブランドにとっても、現場でよりスピーディーに意思決定をするための判断基準や、ブランドらしさと広告効果を保った新しいビジュアル表現を生み出すための基礎など、さまざまなシーンに有用できるガイドラインになるでしょう。

クリエイティブ判断軸をサポートするアマナの独自フレームワーク

ウェビナーで紹介されたPOLAの事例をはじめ、アマナではクリエイティブの判断軸をサポートするための独自フレームワークを提供しています。本フレームワークは、クリエイティブの「何を」「どこまで」決定するのかに応じて、柔軟にプロジェクトの範囲を設定することが可能です。

アマナのフレームワーク

クライアントに応じてプロジェクトを設計し、プロジェクトの軸と最終アウトプットを決定します。

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まず与件整理で課題を洗い出し、解決策としてのアウトプットの形式を検討します。

次に、プロジェクトを通して得られたビジュアルの判断軸は誰がいつ使うのかなど、使用シーンの認識を統一します。POLAのようにすでにVIがある企業では、既存のVIと本プロジェクトによるアウトプットとの棲み分けを事前に話し合います。このフェーズでどこまでを議論の対象にするのかをすり合わせておきます。

ビジュアルはさまざまな要素が絡み合って決定されます。要素は、ブランドの世界観(らしさ)を保っているか、どんな素材をビジュアルに落とし込むか、光やアングルなどの表現・演出はどのようなものが適切か、など、細かなものから大きなものまで多岐にわたります。それらをいくつかのレイヤーに分け、プロジェクトでどこまで言及するかを事前にすり合わせ、プロジェクトのボリュームやサポート内容を明確に決定します。

POLAの事例ではデジタル版ブランドガイドラインの策定を行いましたが、これはフルパッケージの例であり、例えば言及レイヤーのうち「世界観(らしさ)」の判断軸までを決定する、ビジュアル要素のみなのか、ビジュアル以外の要素にも及ぶのかなど、課題や目的に応じて、アウトプット求める内容を設定します。

これらの認識のすり合わせを経て具体的な内容を明確にしたのち、プロジェクトがスタートします。

フレームワークの3つの活用パターン

アマナのフレームワークは以下の3つのケースのように、密度の高いガイドライン策定にも、ライトな認識のすり合わせにも利用できると神田は話します。

・ケース1:クリエイティブの判断をスピーディにし、自走するためのガイドライン策定
・ケース2:社内の認識と数値的評価をもとにした判断軸作り
・ケース3:関係者間の認識のすり合わせ

ケース1はPOLAで採用したフルパッケージのパターンです。社内で自走できる状態を目標に、ワークショップ・テスト配信・ガイドライン策定までトータルでサポートします。

ケース2では、ワークショップですり合わせた認識をもとに検証を行い実務を進めていくパターンです。施策を実行・運用してみてから、ガイドラインの策定が必要か判断するパターンです。

ケース3は最もライトなパターンです。ワークショップのみ開催し、得られた共通認識をそれぞれの業務に活かしていただきます。クイックに各部署間の認識のすり合わせをしたい場合におすすめです。

POLAのデジタル版ブランドガイドライン策定の評価は

今回のプロジェクトを通して、POLAからは以下のようなレビューが寄せられました。

・ガイドライン作成を通して判断軸を具体化していくことで、既存のVIの再認識や理解がより深まった。
・さまざまなクリエイティブ表現を見て思考する中で、新たな表現や拡張性のある表現への気づきが生まれた。同時に、変更できない表現も知ることができた。

神田は今回のPOLAのプロジェクトを振り返りながら、「今後は、さらにブランドガイドラインの精度を上げたり、今回議論しきれなかった表現を検証したり、POLAの別のブランドのガイドラインを作成したりと、このプロジェクトをより広く、深くしていきたいといった話も出ています」と話します。

ブランド・ユーザー間のコミュニケーションからクリエイティブをつくるために

企業の規模が大きくなるほど、ブランディングやマーケティング、販促などの部門が個別にPDCAを回すようになり、個々の方針に最適化されたクリエイティブが制作される事例が見られます。しかし、ユーザーは部門ごとではなく、企業・ブランドが発信するクリエイティブとして情報を受け取ります。

ブランディングとマーケティングを分断して考えるのではなく、「本来は企業とユーザーの間でひとつのコミュニケーションとしてPDCAを回すべき」だと神田は話します。そのためには、ブランドらしさを保ちながら広告的な効果も得られるクリエイティブはどのようなものであるのか、ワークショップや検証を通してブランドの最適解を見つけていくことが重要といえるでしょう。

SOLUTION

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amana visualでは、フォトグラファー、レタッチャー、CGクリエイター、ムービーディレクターをはじめとしたビジュアル制作に携わるクリエイターのポートフォリオや、個性にフィーチャーしたコンテンツを発信中。最新事例等も更新していきます。

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