オイシックス・ラ・大地が選ばれ続ける理由:ブランドを作る「顧客のための企業理念」

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オイシックス・ラ・大地が選ばれ続ける理由:ブランドを作る「顧客のための企業理念」

meetup

Text by 徳尾厚

SPEAKER スピーカー

8月28日に開催したリアルイベント「THE MEET UP vol.2」では、「食の現在と未来:ブランドに求められる新たな価値」をテーマに、2つのセミナーとワークショップを通して「食」マーケットの現在と未来を展望しました。

冒頭のセミナーでは、オイシックス・ラ・大地株式会社の大熊拓夢さん(コーポレートコミュニケーション部 部長)を招き、経営統合しながらユーザーを増やし続けている同社の魅力を、企業理念が作り上げる世界観から分析しました。ファシリテーターは、アマナの佐藤勇太(エグゼクティブ・ビジネス・プロデューサー)が務めました。

オイシックス・ラ・大地の企業理念

大熊 拓夢(オイシックス・ラ・大地/以下、大熊):オイシックス・ラ・大地は「これからの食卓、これからの畑」と題し、以下を企業理念として掲げています。私たちは、この企業理念を非常に重要視しています。

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オイシックスは2017年に「大地を守る会」と、2018年に「らでぃっしゅぼーや」と経営統合しました。これらのブランドはそれぞれの安全基準を持ち、全国の生産者さんとつながり、ユーザーに食品を定期でお届けする「食のサブスクリプション」を行っている点が特徴です。他にも、2016年には高齢者など買い物困難者向けの移動スーパー「とくし丸」、2019年にはアメリカでプラントベースのミールキットを提供するパープルキャロットを子会社化するなどしています。

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ブランドを1本化しないのかと聞かれることもありますが、それぞれ提供している価値が異なり、顧客層が被らないため、ブランドを分けて運営しています。

社員への理念の浸透が「選ばれる」ブランドを作る

佐藤 勇太(アマナ/以下、佐藤):オイシックス・ラ・大地は、すごい勢いでユーザーが増えています。ここに「選ばれるブランド」のヒントがあるのではないかと考えています。選ばれるブランドに求められる価値と、その価値を伝達・提供していくためには、何が必要だとお考えですか。

大熊:非常に難しい質問ですね。私はブランディングというのは手段のひとつであり、目的が達成されるのであればブランディングの必要はないかもしれないと考えています。

ただ、物や情報が非常に溢れてきている中、ユーザーはさまざまな選択肢がある中で、購入の意思決定をしています。ブランディングをすることでまずは選択肢に上がり、その中で選ばれ、使い続けてもらう。多くのサービスの中から他と比べずに使い続けるという体験を積み上げることが、意思決定し続けてもらうことにつながります。その点で、ブランディングは重要になります。

240828_meetup 0027.jpg左:佐藤勇太(アマナ/エグゼクティブ・ビジネス・プロデューサー)

企業理念を体現するための「行動規範」

佐藤:やはり目的というのは、先ほどご共有いただいた企業理念が全てなのでしょうか。

大熊:そうですね、企業理念は非常に重要です。この企業理念は、経営統合のタイミングで刷新しました。以降は、「いかにメンバーに企業理念を浸透させるか」を考え、さまざまな施策を行っています。

例えば、企業理念を体現するための行動規範を作成し、「こういうことを体現するのが、オイシックス・ラ・大地を表現すること」という考えを7項目にまとめました。従業員が社員証などと一緒に持ち歩けるように、小さな冊子にして配布しています。

行動規範は、半年に一度の人事評価にも関連します。各自が行動規範をどれくらい体現できたかを、評価に反映するのです。また、7項目のうち時期的に重視したいものをピックアップして、それを体現できた社員を表彰する制度も設けています。

体験を通して企業理念を理解する「体感主義」

大熊:そのほか、「これからの食卓 これからの畑」という企業理念に合わせ、産地を体験する研修と、お客様の食卓を理解する研修を行っています。畑で収穫体験をしながら生産者と会話して、どのような思いで作物を作っているのかを感じ取ります。エンジニアや経理、人事など、部署に関係なくどの社員も参加できる仕組みです。

食卓を理解する研修は、パネルディスカッションのような形式で、お客様を招いてサービスの良い点や不便に感じることを直に教えてもらうものです。

佐藤:このようなユーザーヒアリングは、どれくらいの頻度で行っていますか。

大熊:コロナ禍で頻度は減りましたが、数ヶ月に1回くらいやっています。加えて、普段から「お客さまに聞く」ことを重視しています。何か分からないことがあるとお客様に電話したり、インタビューを設定したり、オンラインミーティングで「こういう商品があれば使いたいと思いますか」と質問したり、こういった活動は毎日のように行われています。生活や料理の困りごとを直接聞き取る姿勢が会社に根付いています。

佐藤:本当に「お客様主義」ですね。ヒアリングを通して、忌憚ない意見が出てくるものですか。

大熊:出てきますね。その時々のテーマに合わせてヒアリングするお客様を選ぶのですが、退会したお客様を呼ぶこともあります。

240828_meetup 0067.jpg大熊拓夢さん(オイシックス・ラ・大地株式会社/コーポレートコミュニケーション部 部長)

ユーザー目線の取り組みで継続利用を促進する

佐藤:今は、色々な企業がサステナビリティというキーワードに注目せざるを得ない状態ですが、これを体現することもブランドがユーザーに選ばれる要素になっているのでしょうか。

大熊:そうですね。使い続けてもらうには非常に重要です。2013年に始めたミールキット「Kit Oisix(キットオイシックス)」に関しても、もともと環境に配慮した食材を使用していますが、パッケージもバイオマス素材を使用しています。また、食材を必要な分量だけお届けするので「食材が余らなくて良い」と言っていただいています。

佐藤:日本では一般生活者がサステナビリティについてあまり意識していないと言われがちですが、消費者や生活者が少しずつそういう意識を持ち始めている印象はありますか?

大熊:サステナブルだから商品を選ぶというのはまだ一部のお客様に限られており、まだハードルが高いですね。ただ、使い続けてもらう理由として、こういう配慮をしていることは非常に重要なポイントだと感じています。

また、子供向けにフードロスをテーマにした授業などを提供しているのですが、小中学生はサステナブルネイティブなので、大人よりも意識が高いと感じます。

佐藤:興味深いお話です。子供向けの授業というのは、社会問題への貢献や企業的責任を果たすという側面もありながら、子供への食育によって、いずれユーザーになり得る人たちに対する「未来への投資」という意味合いもあるのでしょうか。

大熊:そういうところもありますし、子供が変わると親も変わるということもあるので、サステナブルへの意識付けは徐々にやっていきたいと思っています。

佐藤:ターゲットのど真ん中だけでなく、そこに影響を及ぼす人たちともコミュニケーションしていくのですね。

大熊:はい。このほか、お客さまはフードロスや資材の環境配慮への関心も高いので、大手食品メーカーと共同でアップサイクルの新商品を開発してフードロスを削減したり、配送用ダンボールを100%リサイクル紙にしたりと環境負荷軽減に配慮しています。

さらに、有事への対応も当社の強みだと考えています。コロナ禍では、学校が休校になって余った牛乳の応援販売や、レストランと組んで商品を販売しました。台風などの災害は多いので規格外になった農産物の商品化なども積極的に行っています。

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ユーザーの暮らしに寄り添う情報提供

佐藤:ブランドコミュニケーションというと、自分たちが情報をどう届けるかという視点に陥りがちです。しかし、本来はユーザーが欲しがっている情報やユーザーにとって有益な情報を、ブランドのメッセージと合わせてしっかりと届けていくことが大事だと考えています。オイシックス・ラ・大地では、ユーザーの知りたい情報をどのように収集し、見定めているのでしょうか。

大熊:商品やECサイト以外で情報を伝えるために、「Farble(ファーブル)」というサステナブルマガジン、いわゆる会員向けの会報誌を作っています。私たちのサステナビリティに関連する取り組みを紹介するのですが、「フードロスしない使い切りレシピ」など、できるだけお客様が欲しい情報に変換してお届けします。その会報誌でアンケートも定期的に行い、記事の反響データも蓄積しています。

佐藤:特にどういうテーマが好まれていますか。

大熊:やはり「お客さまの暮らしに関連する情報」が好評です。例えば、私たちはNPO法人と組んで古着の回収を行っていますが、その記事は反響がよかったですね。お客様が悩んでいた古着の処分方法について、「ここに送ればいいのか」という解決策を提示できたのだと思います。

佐藤:「オイシックスがある暮らし」、つまり暮らしをどうデザインするかという点に主眼を置いているからこそ、食だけでなく関連する領域の情報も届けていくのでしょうか。

大熊:社内にソーシャルコミュニケーションの部署があり、私たちがどれだけ社会的な活動に積極的かをお客様に認知してもらうための施策を実施しています。そういう情報を知っていただける方が、ライフタイムバリューが高くなる傾向にあるようです。ECサイトの中だけだと伝えきれない情報を、会報誌や配送するダンボール、レシピカードの裏面などを使って、お客様にできるだけ情報を届けるようにしています。

佐藤:なるほど。ECサイトは購買、トランザクションに直結してしまうので、そこに至るまでのユーザーの意見や考えのデータを取得できない。そのために色々なところでコンテンツを届けて、その反応を巻き取りながら改善し、ブランドの伝えたいことを伝えていくのですね。

お客様に「伝わるデザイン」を作るクリエイターの育成

大熊:少し話は変わりますが、伝えたい情報を表現する仕掛けのひとつとして、デザインの内製化にも力を入れています。グッドデザインカンパニーの水野学さんに協力いただき、社内のデザイナーに向けて「クリエイティブアワード」を開いています。社内のクリエイティブ力を上げるために、デザイナーが水野さんと直接対話しながら作成したクリエイティブにフィードバックをいただくといった取り組みです。

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佐藤:創造性人材の必要性を感じて、育成や学習プログラムを重視されているのですね。

大熊:そうですね。私たちの商品にはさまざまな情報があるので、それをいかに魅力的に、短い時間でお客様に伝えていくかが重要です。そこを水野さんにご指南いただいています。

佐藤:多くの企業が、自社の創造力・クリエイティブ力をいかに上げていくかを注視しています。アマナにも、創造力を培うための思考法をフレームワーク化して提供する学習プログラム「amana Creative Camp」がありますが、BtoB・BtoCを問わず多くのお客様に利用していただいていますね。

オイシックス・ラ・大地では、企業理念を指針としながら何をすべきなのかというアイディエーションと意思決定をし、理念を体現・表現なさっています。これをやり続けられているのは、やはり企業理念が社内に浸透しているからでしょうか。

大熊:はい。企業理念をもとに、それぞれの社員が自分のセクションでいかに理念を表現するか、お客様に届けていくかを重視しています。商品を梱包するメンバーも、カスタマーサポートも、企業理念や行動規範を意識しながら仕事をするという考えが強いです。

今後は、グループ企業とさらなる価値の共創を目指す

佐藤:今後、オイシックス・ラ・大地ではどのようなことに挑んでいくのかお聞かせいただけますか。

大熊:オイシックス・ラ・大地について、知ってくださっている方と利用していただいている方の間にはギャップがあります。ここを埋めることがひとつの大きな課題だと考えます。そのためには、私たちのサービスが、自分に関係あるサービスだと思ってもらえるように認知を広げたり、プロダクトやサービスを増やしていくことが重要です。

例えば、今はファミリーのお客さまではミールキットを選び購入するのは女性ですが、夫とお子さんが料理しているというケースも増えています。今後は男性利用者も増えていくかもしれない。ライフスタイルの色々なタイミングで知っていただき、使っていただくことがひとつの重要なポイントだと思っています。

オイシックス・ラ・大地には、給食事業などを展開する「シダックス」、都市型八百屋「旬八青果店」や、買い物弱者向けの移動スーパー「とくし丸」、アップサイクルのお菓子を作る「HiOLI」など、グループ企業が増えています。グループ企業間で情報交換も含めて対話をし、うまくシナジーを発揮しながら、今後さらにブランド力を高めていきたいと考えています。

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佐藤:ありがとうございます。オイシックス・ラ・大地では、企業理念や会社の存在意義をどのように体現するかという問いに対し、「いかに表現していくかに尽きる」というヒントをいただきました。そして、ユーザーを巻き込みながら、ブランドの世界観をともに作り上げていくことに重きを置いているとも語ってくださいました。

ユーザーに使い続けてもらうブランドとなるためには、ユーザーの「食」そのものはもちろん、食を取り巻く「暮らし」に求められる情報を見つけ出し、ブランドの伝えたいことを乗せて情報提供する姿勢が重要であるといえそうですね。

大熊さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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