vol.152
ビューティ業界では、美と健康を統合したホリスティックなトレンドが加速しており、最新トレンドを常に追い把握することは、ビューティ業界にかかわる企業にとって欠かせません。
世界中のマーケットの潮流をリサーチ・レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」では、ビューティ領域をスキンケア、メイクアップ、ヘアケア、フレグランス、ボディ&パーソナルケア、サプリメントの6カテゴリーに分け、複合的にトレンドを調査・分析。
今回のウェビナーでは、STYLUSの秋元陸氏が登壇し、6カテゴリーのうちスキンケア、ヘアケア、サプリメントについて、昨今のトレンドやマーケットの傾向について解説しました。
スキンケア領域は、トレンドのサイクルが非常に早いのが特徴です。マーケットは着々と大きくなっており、今ではビューティマーケットの45%程度をスキンケア領域が占めるほど。その市場規模は今後も拡大していくことが予想されます。
昨今のスキンケア領域の大きなトレンドのひとつが、アンチエイジングです。アンチエイジングは以前から存在しているキーワードですが、ここ数年で「アンチエイジング」というワードが持つ意味が変化してきました。
従来、アンチエイジングは「加齢(エイジング)に対抗する(アンチ)」という意味で、日本ではいつまでも若々しさを保つことが重視されていました。しかし、この1、2年は「健康的に年齢を重ねていく」という意味で使われはじめているのです。
アンチエイジングの対象も変化しています。これまでのメインターゲットは30代でしたが、秋元氏は「今後はミレニアル世代と呼ばれる人たちを追いかけ続けていくようなアプローチが増えてくると予測されます」と解説します。
例えば、「美魔女」をキーワードに50代女性にアプローチしていたとしても、ユーザーが年を重ね60代に差し掛かる頃になると、キーワードに対する反応は小さくなります。このような傾向から、ある一定の年齢層をターゲットに若さを求めるアプローチをするのではなく、「年齢に応じた健康的な美しさ」での訴求にいろいろなブランドが舵を切っているのです。
スキンケア領域で新たに注目されているのが、「パフォーマンス×ビューティ」や「アクティブビューティ」と呼ばれるカテゴリーです。
日本国内ではまだマーケットはさほど成長していませんが、海外では美容とフィットネスの関連性やマーケットが大きくなり続けています。例えば、スイミングをした後に使うための化粧水や、日焼け予防効果の高いリップバームなど、フィットネスと組み合わせて使用するスキンケアアイテムが登場しています。
スキンケア領域では、ターゲットがα世代まで拡大しつつある点も注目です。子どもたちは、SNSなどを介してラグジュアリーブランドに触れる機会があることから、スキンケアに興味を持ちはじめるタイミングが他の世代よりも早まっているという調査結果があります。
α世代はマーケットのパイは小さいものの、これから18歳、20歳、20代前半とビューティマーケットの主要顧客に育っていきます。見込み顧客育成のためにα世代へのアプローチを行い、ブランド認知を取りに行くという手法も考えられるでしょう。
ヘアケア領域は、マーケットとして急成長しています。分子レベルで髪を治療するなど、リペア系の切り口が増えており、多くのヘアケアブランドが、髪や頭皮を「顔の延長の肌」という考えをベースにアプローチを行っている点がこの領域の特徴です。
従来は、髪自体に栄養を与えることでコシやハリを生み出すようなアプローチが主流でしたが、近年は頭皮と髪を含めた頭部全体のスキンケアをヘアケアとして提案するアプローチ手法が主流です。
例えば、Act+Acreが手掛ける「Stem Cell」シリーズは、更年期の抜け毛対策をターゲットにしています。髪の毛をケアするだけでなく、頭皮に栄養を与えるホリスティックケア(自然治癒)商品を展開するなど、スキンケアとヘアケアを両立するブランドもあります。
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ヘアケア領域では、フケ対策も対象です。頭皮の乾燥やシャワーの水質、気候などの影響により頭皮が乾燥することでフケが生じるという原因から、乾燥対策にフォーカスしたプロダクトが登場しています。
世界的に見ると、水質や気候が原因で「髪が傷むから髪を洗わない」という女性は多く、特にヨーロッパは顕著です。ヘアケアブランドは彼女たちをターゲットとし、髪にダメージを与えないヘアケアの啓蒙に力を入れています。ヘアケアマーケットそのものが拡大していくことで、頭皮ケアも大きな話題となることから、ヘアケアそのものと頭皮ケアの両軸でアプローチをかけていく流れが、ヨーロッパやアメリカでは大きくなっているのです。
乾燥対策にとどまらず、アンチエイジングや紫外線ケアもスキンケアとヘアケアで共通するトレンドです。髪の毛で隠れているけど頭皮も紫外線の影響を受けやすいと考え、顔に日焼け止めを塗るように、髪の毛にもUVプロテクションを振りかけるミストや、紫外線のダメージ補修トリートメントなどが登場しています。
TikTokなどのSNSでは「スキンサイクリング」という言葉がハッシュタグ化されて、皮膚の代謝に合わせたスキンケアの情報が広まっています。この流れは、ヘアケア領域にも訪れています。毎日同じケアをするのではなく髪の周期に合わせて適切なケアを行うべき、と啓蒙するのが「ヘアサイクリング」と呼ばれる領域です。
例えば、「シャンプーの使用が隔日であっても、頭皮マッサージなどの頭皮ケアを毎日することで髪の周期が整う」といったように、各ブランドがヘアサイクリングの必要性を訴えています。秋元氏は、「ヘアサイクリングを科学的に解説し、それに則ったケアをするというのは、一定のニーズがあります」と、ヘアサイクリングマーケットの可能性を示しました。
ウェビナーでは、ヘアスタイルのトレンドについても言及がありました。
ヘアスタイルやヘアカラーは定期的にトレンドが生まれますが、今は欧米を中心にボリュームのあるヘアスタイルが注目を集めています。ボリュームのあるヘアスタイルを作るためにはスタイリング剤が欠かせないことから、そこに着目し、環境に配慮したものや軽くて手がべとつかないもの、オーガニックにこだわったものなど、さまざまなスタイリング剤が登場しているのです。
「髪のボリューム」という点では、更年期障害を終えた女性も抜け毛や薄毛などで髪のボリュームについて悩みを持っていることから、彼女たちをターゲットとした市場も拡大しています。
「ヘアロス」や「ヘアシェディング」と呼ばれるトピックで、髪の毛自体をケアするものから、頭皮を刺激するプロダクトなどが該当します。
日本や中国などアジアでは、「医食同源」という考え方が浸透しています。しかし今、欧米でも「beauty from within」という、食事やサプリメントなどで必要な栄養素を摂取して内側から綺麗になろうという取り組みが、トレンドを確立し始めています。美容のためのサプリメント市場は、2031年までに90億ドル以上に成長すると見込まれています。
長寿や若返りといったアンチエイジングに関するサプリメントでは、NAD+という必須補酵素を摂取できる、Aramore社などが提供するサプリなどが挙げられます。体の中から老化を緩やかにしていくというコンセプトのサプリメントで、緩やかに健康的に年齢を重ねるサプリとして注目されています。
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他にも、心と体の健康が美容に影響するとして、ビタミンやカルシウムなどの栄養素ではなく、免疫力や集中力を高めるサプリメントも増えてきています。
ヘアケア市場の拡大とともに、育毛や髪の質を高めることを目的としたサプリメントも登場しています。
このようなサプリメントは、髪のハリやコシに悩む女性たちがターゲットです。秋元氏は、「妊娠・出産直後や更年期後など、ホルモン分泌量の変化で髪の悩みが生まれるタイミングを捉えていくことで、マーケットを盤石にしようとしています」と分析。
毛髪密度を増やしたり髪を強くするといったサプリメントのマーケットは、2030年までに年間14~15%近く成長を続けると見込まれています。
ビューティ領域は、時代や社会情勢の変化に柔軟に適応しながら、ユーザーのライフスタイルに合わせて進化し続けています。今回のウェビナーでは、6カテゴリーのうちスキンケア、ヘアケア、サプリメントのみをピックアップしましたが、ほかの3カテゴリーも含め、相互に作用しながら全てのマーケットが拡大を続けています。
各カテゴリーで続々と新しいマーケットやトレンドが登場をしていますが、秋元氏は「皆さんが今取り扱っている商品のうち、大きな改良をしなくてもパッケージやブランドコミュニケーションのラインを変えるだけでトレンドに適用できるカテゴリーがあるかもしれない」と提案します。進化を続けるビューティ領域のトレンドを追いながら、自社プロダクトが適用できる新たな可能性を模索してみましょう。
STYLUS
STYLUS
ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。