vol.190

企業価値が顧客に届かない原因は、発信量の不足ではありません。Web、営業資料、展示会など複数の接点が個別に設計されることで、顧客は企業を断片的にしか理解できず、「選ばれる理由」が伝わらなくなっているのです。
本セミナーでは、企業価値を「どう伝えるか」ではなく「どう理解されるか」から設計する「意味デザインメソッド」を、コミュニケーションプランナーの稲田貴雄とプランナー/コピーライターの坂内洋亮が解説。企業の理念を市場で機能する「顧客が選ぶ理由=WHY」へと再設計する手法を紹介するとともに、住宅設備・産業用ロボット・高機能樹脂の3業界を題材にした実践ワークの内容をレポートします。
稲田貴雄(以下、稲田):皆さんの会社では、営業現場で、以下のような状況に陥ってはいないでしょうか。
稲田:コミュニケーション施策を尽くしているはずなのに、なぜか期待した成果に繋がらない。価値の高い商材を持ち、企業情報も整理され、競合との差別化も明確にしているにもかかわらず、このような状況になるケースが多くあります。
企業が本当に設計すべきは、スペックの提示ではなく、顧客の理解プロセスです。特にBtoB企業は自社のポテンシャルを一方的に語りがちで、顧客が何を求めているかを言語化することが疎かになりがちです。導入後の「意味(=顧客の成功体験)」が設計されていないから、顧客は未来を想像できない。結果として、比較の軸がスペックや価格に集約されてしまうのです。
重要なのは、顧客は商材を買うのではなく、成果が生まれる未来を買うということです。
稲田:顧客理解は「WHY」で接続される、と私は考えています。顧客にはニーズがあり、企業はそのニーズに応えるためにスペックを提示する。これは当然のコミュニケーションです。しかし大事なのは、その間にある「顧客が選ぶ理由」を言語化できているかどうかです。
稲田:顧客からすれば「選ぶ理由」、企業からすれば「提供理由」。この双方をひとつの言葉でくくることができれば、非常に強いコミュニケーションになります。これがWHYです。
ここで注意していただきたいのは、WHYは理念の言い換えではないということです。理念は企業の存在思想であり、内向きの言葉です。一方、WHYはその思想を「顧客が選ぶ理由」として機能させる言葉。理念から直接事業に結びつけようとすると接続が弱くなるのは、理念が企業側の主観で語られているからです。理念と事業をつなぐWHYが言語化されてはじめて、顧客はその製品を選びやすくなります。
稲田:実在する企業の事例で考えてみます。まず、タイムレコーダーや就業システム、駐車場ゲートシステムなど時間管理機器としてのブランド力とシェアを持つアマノです。コーポレート理念は「時間と空気のエンジニア」ですが、勤怠管理システムという事業に絞ったとき、この理念だけでは顧客には伝わりません。
そこでWHYとして「働く世界を変える」を設定しています。顧客のニーズである「複雑な制度を制御したい」と、企業のスペックである「業界最高峰の処理性能」を、このWHYが接続しているのです。
稲田:もう一社、富士フイルムの例も見てみましょう。
写真フィルムの技術を起点に、医療や高機能材料へと事業を転換した富士フイルムのコーポレート理念は「Value from Innovation」です。ヘルスケア・医療イメージングの領域では、WHYとして「世界は、ひとつずつ変えることができる」を掲げています。
顧客のニーズ「より正確に、より早く、安全に診たい」と、企業のスペック「フィルム技術を多産業へ展開した精密制御技術」を、このWHYが明快につないでいます。
稲田:以上をまとめると、「意味デザイン」とは、企業の理念を市場で機能する「選ばれる理由=WHY」へ再設計し、そのWHYを軸に顧客の理解プロセスを構造化することです。
稲田:ここからは実践ワークとして、業界ごとにWHYを考えてみましょう。ご自身の業種とは異なる業界かもしれませんが、一度考えてみることでWHYへの理解がより深まります。
坂内洋亮(以下、坂内):ワーク1の題材は、理念に「安心がつづく、持続可能な住環境へ」を掲げる住宅設備メーカーです。
市場環境としては、少子高齢化による住宅着工の減少、省エネ規制の強化、価格競争とコモディティ化が進んでいることが挙げられます。顧客はハウスメーカーや工務店、ゼネコンといった施工会社に加え、住宅オーナーや購入検討者も含まれます。
彼らのニーズをシンプルに構造化すると、「未来の変化に耐えられる住まいが欲しい」というところに集約されます。それに対して企業が提供しているのは、可変性・耐久性・省エネ性を備えた住宅設備です。このニーズとスペックをつなぐWHYは何でしょうか。
【参加者による「WHY」例】
・家族の未来へプレゼント
・世代を超えて安心が続くインフラへ
・バトンを未来へつなぐ
・将来も安心できる住まいを
・100年住宅
・サードプレイスよりファーストスペース など
稲田:WHYの原理はシンプルです。顧客目線で、顧客の究極の未来が描けていればそれでいい。難しい言葉を使う必要はありません。
坂内:今回の模範解答として設定したWHYは、「次の”住みたい”をつくる」です。ニーズは次世代住宅への対応力。生活者の視点を取り入れた言葉で訴求することで、理念「安心がつづく、持続可能な住環境へ」と事業を接続できます。
坂内:ワーク2は、理念に「ものづくりの未来を、技術で切り拓く」を掲げる産業用ロボットメーカーです。
人手不足の加速、生産現場の自動化ニーズの拡大、価格競争の激化。そうした市場環境の中、自動車メーカーや電子部品メーカー、食品工場といった顧客が抱える本当の課題は、人が採用できない、不良率を下げたい、生産性を上げたいというところにあります。
ニーズを構造化すると「生産の安定と進化の両立」、企業のスペックは「データと制御で製造を知能化」といえます。
稲田:ヒントとして考えてほしいのは、同じものを大量につくる時代はこれからも続くのか、少量多品種でも利益は出せるのか、というところです。つまり強い工場とは「速い工場」なのか、それとも「変われる工場」なのか。そこを突き詰めていくと、WHYが見えてきます。
【参加者による「WHY」例】
・制約を、強みに変える技術を
・止まらない進化を
・製造の進化論を加速する
・経営の選択肢を増やす
・ヒトが創造していく製造ラインへ
・一緒に何創る? など
坂内:こちらの模範解答のWHYは「可能性を、進化へつなぐ」です。顧客が求めているのは効率化ではなく進化であり、産業用ロボットは可能性の拡張装置である。そういった捉え方をすることで、より顧客のメリットをベースにした言語化ができます。
稲田:WHYの方向性には正解がありますが、それを表現する言葉の正解は一つではありません。顧客にとって意味があり共感される言葉であれば、それが正解です。
坂内:ワーク3は、理念に「素材から、製品の未来を創る」を掲げる高機能樹脂メーカーを題材にします。
顧客となる自動車・電子機器・医療・半導体の各業界が求めるのは、軽く強く、小さく耐え、環境にも対応しながら低コストという素材です。要求水準は高く、かつ市場では軽量化・小型化ニーズの拡大と環境規制の強化が同時に進んでいます。
ニーズは「設計制約を超え、競争力を生みたい」、スペックは「高強度・耐熱・精度の高機能材料」だといえるでしょう。
稲田:高機能樹脂の業界は常に技術進化を続けていますが、どの企業も非常にハイレベルで競り合っており、性能差が僅差になっているのが実情です。そうなると、選ばれる理由が企業体力や営業力だけになってしまいがちです。だからこそ、本質的なWHYに迫ることで、スペックを超えた価値を生み出せるかどうかが問われます。
【参加者による「WHY」例】
・やりたくても出来なかったことを実現します
・樹脂のその先へ
・設計の可能性を広げる
・設計の縁の下にいます
・あの会社がこっそりつかっているもの
・材料は縛りではなく、「拡張子」 など
坂内:かなり難しい題材ですが、皆さんさすがですね。「便利の隠し味」「勝てる素材で協力する」「開発力を高める素材力」など、素材の価値をうまく伝えようとする言葉が多く寄せられました。
WHYの模範解答は「勝てる理由を、素材から」としています。素材を競争力・差別化の源泉として訴求し、競争力のある製品づくりに欠かせないパートナーとして認識してもらうことで、より選ばれやすくなります。
稲田:今回のワークを通じて、意味デザインを導入することで何が起きるか、少し実感していただけたのではないでしょうか。
坂内:自社とは違う業界を題材にすると、戸惑ってしまい、すぐに言葉が出てこないと感じた方も多いと思います。しかし、今回のワークを通じて、WHYを言語化することの有益性は体感していただけたのではないでしょうか。
①市場環境、②顧客は誰か、③顧客の本当の課題。 この3つを整理することで、専門的な知識がなくとも、目指すべきWHYは必ず導き出すことができます。ぜひ自社の課題にも、このフレームワークを当てはめて考えてみてください。
稲田:WHYはゴールではなく、始まりです。コミュニケーションの前提部分が整ったとしても、そのWHYを御社のあらゆる接点で一貫した体験として設計する。そこまで踏み込んではじめて、企業の「選ばれる構造」が機能します。
今回のセミナーで興味を持っていただけたなら、ぜひ貴社の課題を私たちにお聞かせください。
今回のレポートで触れた「意味デザイン」や「WHYの言語化」を、貴社のビジネスに実装するためのサービスや関連資料をご紹介します。
企業の思想を可視化し、ステークホルダーに「選ばれる理由」をデザインします。
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