vol.193

あらゆる生成AIツールが進化した今、プロンプトをコピーすれば、それらしいアウトプットは生成できます。しかし条件を少し変えるだけでトーンが崩れ、ブランドが変われば別物になる。その原因の多くは、プロンプトの単語はあっても、背後にある構造や設計思想が整理されていないことにあります。
本ウェビナーでは、国内外のブランドプロジェクトでAIクリエイティブを実装してきた、アマナのPrompt Architectであるコンスタンス・リカと、アートディレクターとしてAI活用を始めたばかりの大熊教子が登壇。ChatGPTとClaudeを中心に、コピーではなく応用できるプロンプト設計の思想を解説しました。
本レポートでは、大熊がリアルな現場の疑問をコンスタンスにぶつけるQA形式で、その内容を紐解いていきます。
ネット上には「このプロンプトで素敵な画像が作れた」「このプロンプトならこんな結果が出る」といった投稿が数多くあります。こうした共有文化において、プロンプトのテキストだけをコピーしても同じクオリティのアウトプットが再現できないのはなぜか。その理由は、生成AIだから毎回異なるものが出るということではありません。
LLMのアウトプットの質を決めているのは、入力したプロンプトのテキストだけでなく、そのLLMに蓄積された記憶と文脈です。Prompt ArchitectであるコンスタンスのLLMには、過去の無数の会話を通じてブランド戦略の考え方やクリエイティブブリーフの構造、良いアウトプットと惜しいアウトプットの境界線といった知識が蓄積されています。
このコンテキストを蓄積しているのが、LLMの記憶の仕組みです。LLMの記憶には2つの層があります。第1層はカスタム指示(Custom Instructions)で、「自分が誰で何を大事にしているか」を全会話に適用される固定設定として登録するものです。第2層はメモリ(Memory)で、過去の会話から蓄積された好みや傾向、文脈が格納されています。
カスタム指示やプロジェクトメモリ、リファレンスファイルといった情報が蓄積されていない生成AIは、同じプロンプトを受け取っても一般的な回答しか返せません。
LLMのアウトプットの質を決めているのはプロンプトのテキストだけではありません。どのモデルバージョン(Model Version)を選び、シンキングスタイル(Thinking Style)をどう設定するか。この2点が、プロンプト以上に結果を左右します。
ChatGPTには、GPT-4o/GPT-5/GPT-5 Thinkingというモデルがあります。
GPT-4oは直感的・会話的なスタイルで、クリエイティブな発想や予想外の切り口を出しやすい特性を持ち、ブレインストーミングの初期段階などに有用です。GPT-5は正確で簡潔、指示に対して堅実に答える実務向きのモデルですが、平均的な回答に収束しやすく、飛躍したアイデアを求める場面には向きません。深い分析や戦略立案には、市場調査からターゲット心理まで段階を踏んで考えるGPT-5 Thinkingが適しています。
Claudeも同様に、Haiku 4.5、Sonnet 4.6、Opus 4.6があり、使い分けが必要です。
高速・軽量なHaiku 4.5はアイデアの種出しや大量処理に、根拠を添えながらバランスよく答えるSonnet 4.6は提案の土台づくりに向いています。Opus 4.6は質問の裏にある意図まで読み込み、問い自体を再構成してから答える深い推論が特徴で、方向性が固まったうえで深く掘り下げたい場面に力を発揮します。
コンスタンス自身の基本的な流れは、ChatGPTで広く発散させたブレインストーミングの結果をClaudeにインポートし、収束・仕上げ・クオリティチェックへと引き継ぐというものです。モデルを固定して使い続けるのではなく、フェーズと目的に応じて使い分けることが、アウトプットの質を引き上げる鍵といえます。
「AIを育てる」とはどういうことか。コンスタンスはその方法を、3つの層に分けて説明します。
まず取り組みたいのが、ChatGPTやClaudeの設定画面にあるPersonal Preferencesです。AIのレスポンスに反映してほしい自分の思考スタイルや行動原則をここに登録しておきます。
コンスタンス自身は「常に多視点で考えること」「抽象的なプロンプトに対して必ず質問をすること」などを設定しています。全会話に適用される固定設定であるため、ここに何を入れるかがAIの基本的な振る舞いを決めます。
次が、プロジェクト機能を使った記憶の設計です。ChatGPTとClaudeにはいずれもチャットをフォルダ管理できるプロジェクト機能があります。
多くの場合、案件ごとにフォルダを分けて使いますが、コンスタンスはプロジェクトを「思考の型(自分のOS)」と「案件の実行」という2軸で設計することを勧めます。
思考の型プロジェクトには自分の方法論やフレームワークを長期的に蓄積し、案件プロジェクトは終了後にメモリをリセットします。ある案件で磨いたスキルを次の案件に引き継ぎながら、古い情報が混在することを防げるのがこの設計の利点です。
3層目は、会話の中でのフィードバックを通じてMemoryを育てる方法です。ブレインストーミングを行い、案を改善し、最終的にベストな案を選んだら、その理由をAIに伝えてからチャットを終了します。
特にAIとのやりとりを重ねていくなかで「この方法論だけは覚えておいてほしい」と思うときには、必ずチャットの最後にその理由を伝えるようにします。自分の判断基準や好みをAIの記憶に少しずつ蓄積させていくための習慣です。
AIは自分の好みに最適化されすぎると、バイアスがかかり、やがて新しい提案をしなくなります。それを防ぐためには、フィードバックによる育成だけではなく、定期的なメモリの棚卸しをセットで行わなければなりません。
「あなたは私について何を覚えていますか」とAIに問いかけ、蓄積された記憶を確認し、不要なものは設定画面から削除します。
テキストAIと画像生成AIの決定的な違いは、メモリがないことです。画像生成AIにはプロンプト以外に情報を与える手段がなく、蓄積されたコンテキストに頼ることができません。その分、プロンプト自体の構造が品質を直接左右します。
ウェビナーでは、Adobe Fireflyを例にモジュール型プロンプトについて解説がなされました。
コンスタンスが画像生成AIのプロンプトに必要な要素として定義するのが、ATMOSPHERE(感性言語)、STYLE(スタイル)、SUBJECT / ACTION(被写体)、LIGHTING(ライティング)の4つのモジュールです。このうちATMOSPHERE・STYLE・LIGHTINGはブランドの世界観に基づいてあらかじめ固定し、案件ごとに変えるのはSUBJECT / ACTIONだけにします。被写体のみを差し替えるだけで、同じトーン・同じクオリティの画像を量産できるのが、このモジュール型プロンプトの強みです。
構造がない場合、「おしゃれな部屋に美容液を置いて」というプロンプトは担当者それぞれの解釈に委ねられ、アウトプットのトーンがばらつきます。モジュール型プロンプトはその個人差を排除し、誰が使っても再現性のある結果をもたらします。
Style ReferenceやCustom Modelsは便利な機能ですが、プロンプトには代替できない役割があります。コンスタンスはその理由として、下図の5点を挙げます。
他者の画像をStyle Referenceに使えばIPリスクが生じ、参照画像に引っ張られることでAIの解釈の余地が失われます。また、ツールが変わった際にも、言語化されたプロンプトは別の環境にそのまま持ち出せます。アウトプットの根拠を言葉で説明できることは、クリエイティブの現場において重要な意味を持つといえるでしょう。
画像生成AIのプロンプトは英語で書くことが基本ですが、日本語から英語への変換をAIに任せると、裏側でどう翻訳されているかがわからないブラックボックスが生じます。抽象的な日本語がそのままAIの翻訳機を通ると、意図とは異なる方向に解釈されることも少なくありません。
日本語の抽象的なインプットを、ブランドの世界観に沿った具体的な英語プロンプトへと自動変換するために必要なのが、Master Promptです。
翻訳の根拠も合わせて出力され、英語に不慣れなメンバーでも「なぜこう訳すのか」を理解しながら使えます。英語力に関係なく、組織全体で一貫した品質の画像生成を実現できる点が、Master Promptの最大の意義です。
このMaster Promptを設計・配布することこそが、Prompt Architectとしてのコンスタンスの役割です。Prompt Engineeringという言葉は広く知られるようになりましたが、Prompt Architectureはまだ一部の専門家の間でしか使われていない概念です。
コンスタンスはその違いを料理に例えます。Prompt Engineeringはレシピを書くこと、つまり1つの料理を1回だけ完璧に作ることです。対してPrompt Architectureは、キッチンの流れを設計し下ごしらえも用意して、誰でも料理できる環境をつくることだと言います。
この違いは、プロンプトの活用段階にも対応しています。1つの問題を1回だけ解決するのがScript、同じ種類の問題を繰り返し解決できるのがLibrary、そしてチームの誰もが問題を解決できる仕組みを設計するのがArchitectureです。
現状、多くのAI活用はScriptの段階にとどまっています。1人で使うだけであればEngineeringの発想で十分ですが、組織でスケールさせることを考えると、Architectureの思想が必要です。Engineeringが正確さと固定を重視する指示書であるとすれば、Architectureはニュアンスと余白を持たせ、使う人の学びを促す設計書といえます。
AIツールの選択肢は増え続け、1つのツールでできることも拡張し続けています。コンスタンスは、「AIツールが強力になるほど、構造なしに使うと高コストな混乱が増える」と、ここに2026年のパラドックスがあると指摘します。
複数のAIサービスを構造なしに使い続けると、できないことへの困惑が増えるだけです。一方、構造を持っている人はツールが変わっても応用が効き、新しい仕様に慌てることなく対応できます。プロンプトのコピペから一歩進み、構造を理解することが、今後のAI活用における加速の鍵といえるでしょう。
プランニング&デザイン|A³ | amana AI Architects
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ブランド戦略から表現設計、PoCまで一貫して支援します。
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A³|amana AI Architectsは、「AIの進化を、美意識の進化へ」というビジョンのもと、生成AIを“ブランドに最適化する”ソリューション「AI Creative Architecture」を核に、企業のブランド表現を次世代の制作基準へアップデートするプロフェッショナル集団です。