多くの企業がオウンドメディアを通した顧客とのコミュニケーションに取り組んでいます。自社製品やサービスの紹介、潜在顧客の掘り起こしなど、さまざまな目的でオウンドメディアは運営されています。バイオテクノロジー、抗体医薬を強みとする製薬企業である協和キリン株式会社でもオウンドメディア「MIRAI PORT」を立ち上げ、多様なコンテンツを配信しています。「MIRAI PORT」を立ち上げた目的や経緯をコーポレートコミュニケーション部の戸室みさとさんに伺いました。
抱えていた課題
・自社の活動である医療・医薬品の分野の情報発信には制限があった。グローバルに加え、国内の生活者とくに若年層の認知度が低かった
取り組みのポイント
・オウンドメディアを通し若年層の関心が高いSDGsを軸にコンテンツを提供。自社の活動に触れる機会を増やし、興味関心を抱いてもらう
成果
・これまで接点のなかった生活者の興味関心をうかがい知れる状態になった
・従業員が自社の事業に対する理解促進や社会とのつながりを意識するようになった
「MIRAI PORT」がスタートしたのは2019年6月。それまで、協和キリンでは企業のブランディングにおいて医療用医薬品を取り扱う企業ならではの課題を抱えていました。
医療・医薬品の分野には、広告や広報活動などにおいてさまざまな制約があります。また医療用医薬品(医者から処方される薬)を製造販売しているBtoBの会社であるため、どうしても一般生活者の企業認知が低くなります。中でもミレニアル世代やZ世代と呼ばれる若者たちからの企業認知度の低さが深刻でした。
どうすれば協和キリンの活動を効果的に伝え、企業認知度を高めることができるか。相談を受けたアマナが提案したのが、ミレニアル世代やZ世代からの関心が高いSDGsへの取り組みを通してブランディング向上施策を行えるのではないか、ということでした。
「その時に私たちが懸念していたのは、単に企業としてSDGsへの取り組みを発信するだけではメディアが提供する情報量として適切なものにならないのではないかということでした。アマナさんからのご提案で私たちが魅力を感じたのは、オウンドメディアでさまざまな記事に一般の方が接する中で、弊社の取り組みを紹介する記事にも興味をもっていただく仕組みでした」(戸室さん)
「MIRAI PORT」のサイト制作には、企画、デザインなど最初からアマナがサポート。さらにスケジュール管理や効果測定、コンテンツ制作については、アマナが提供するコンテンツマーケティング支援サービス「NewsCred」を活用しています。
国内外のメディアが制作するコンテンツをオウンドメディアに掲載できる「ライセンスドコンテンツ」を活用することで、時間とコストを抑えて質が高く、一定量のコンテンツを掲載することができます。またグローバルに向け情報発信を行う協和キリンにとって、英語コンテンツが豊富にあることもメリットでした。
「MIRAI PORTでは環境に関する記事、多様性やジェンダーに関する内容の記事もよく読まれています。2021年、弊社では中期経営計画を発表し、多様性のある組織を作っていくことをメッセージとして発信しました。MIRAI PORTの記事も日本語版、英語版ともにそこに沿ったものが多く読まれているので、弊社のメッセージが伝わりやすい環境にあるのではないかと考えています」(戸室さん)
ミレニアル世代、Z世代をターゲットにしたMIRAI PORTでは、SDGsに掲げられた17のゴールとそれを分類した“5つのP”のバランスを取りながらコンテンツを展開しています。これは2019年6月当初から変わらない方針です。
「コンテンツを選定する際は、そのコンテンツに触れた方が協和キリンに興味を持っていただけるかということを常に考えています。その結果としてPVやUUが増えるのはもちろんですが、ブランドサイトに訪れて協和キリンのことをもっと知っていただきたいと考えています」」(戸室さん)
現在、MIRAI PORTでは海外の話題を毎月5本、国内の話題を毎月2本掲載しています。さらに協和キリンの取り組みを紹介するオリジナル記事を月に1本掲載しています。
「コロナ禍が象徴的ですが、何かの事情でオリジナルコンテンツが出せない時期があっても、ライセンスドコンテンツを活用することで世の中はどういう分野に注目しているかを解析することができます」。この分析は次のコンテンツ選定の示唆になりますし、社内のどのような取り組みを紹介するのが協和キリンのファン獲得につながるかのヒントになります。これはオリジナルコンテンツの配信だけでは解析が難しかったと感じています」(戸室さん)
現在は3ヶ月に一度、協和キリンとアマナそれぞれの担当が集まる会議でデータ分析をもとにした振り返りを行っています。ここでKPIやKGIの変化などを共有するとともに、次の施策に向けてどういう方向性の記事を取り上げるかを議論します。さらに2021年夏頃からは週に一度の編集会議を導入しました。
「これまで、各担当者が受け持つオリジナル記事などの進捗はメールで確認していました。ただ、オリジナル記事を定期的に配信していくには密なコミュニケーションと企画アイデアのすり合わせの必要性を感じていた時期がありました。ちょうどその頃、アマナさんから定例会を設けるご提案をいただいたのです。メールではなく、打ち合わせの場を持ったほうが企画は進みやすいですし、お互いの思いを伝えやすくなりました」
2019年12月からは「MIRAI PORT」のTwitterアカウントを開設。個別の記事ごとに、どういう反応があるか可視化しやすくなりました。この情報はMIRAI PORTをどのように成長させるかのヒントになりました。2020年からはオーガニック検索からの流入を期待した記事制作にも取り組んでいます。今後はMIRAI PORTから協和キリンのブランドサイトへの流入を増やす施策にも力を入れていくつもりだといいます。そして、2021年からは掲載するコンテンツにアンケート機能が追加されました。
「アンケートは私たちが想定していた以上にご回答いただいていまして、嬉しく思っています。アンケートにお答えいただける方はSDGsへの興味関心が高い方が多いかと思いますが、さらにコメントも書いていただけるので、私たちのメッセージが届いていることが定量的にわかりすごく助かっています。多くの方からいただいた声をどのように生かしていくかを検討しているところです」(戸室さん)
コーポレートコミュニケーション部では、「MIRAI PORT」を用いて協和キリンのファンを獲得するとともに、社員に“今、協和キリンが何を大事にしているか”を発信することも目標にしています。
「多くの方々に協和キリンのファンになっていただくためには、働いている社員にも魅力を感じられるようなサイトでなければならないと考えています。発信する情報が、社員から好意的に受け止められるものだろうか、という視点は常に持っています。」(戸室さん)
社内の取り組みをコンテンツとして掲載する時は、バックグラウンドにあるストーリーを見せることを心がけているといいます。どの取り組みも短期的ではなく長い過程を経て形になったもの。従業員からは「自分たちがやってきたことを振り返るいい機会になったし、社会とのつながりをあらためて意識するきっかけになった」という声をもらうことが増えています。いずれは「この部署の取り組みを紹介してはどうか」と社内からも声がかかるように、「MIRAI PORT」を育てていきたいと戸室さんは考えています。
「MIRAI PORT」は2019年6月のスタートから3年目に入りました。この間に、協和キリンはSDGsが掲げる17のゴールに何を結びつけていけるかというスタンスも徐々にアップデートされているといいます。
また、医薬品にとどまらない価値の提供や事業展開、グローバル化の推進、気候変動への対応など、世の中の変化とともに弊社も大きく変わっていこうとしています。
「協和キリンが大切にしていることを、独りよがりにならないように客観的な視点を持ちながら情報発信していくことで、協和キリンの“現在”と“未来”を多くの方に知っていただく。MIRAI PORTをそんなメディアに育てていければと考えています」(戸室さん)
※この記事は、2021年12月24日にVISUAL SHIFTに掲載された記事を再掲載したものです。
文:高橋 満(ブリッジマン)
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編集:桑原 勲(amana)
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コンテンツマーケティングの本場であるアメリカで、業界を牽引するリーディングカンパニーであるIndustry Dive。国内唯一の独占パートナーであるアマナがその集合知を活用し、成果へと繋がるコンテンツマーケティングをサポートします。
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