「浅間国際フォトフェスティバル2023 PHOTO MIYOTA」が、豊かな自然が広がる浅間山の麓、長野県御代田町を舞台に、7月15日(土)から9月3日(日)にかけて開催されています。今年度のテーマは「イメージの実験場」。新しい技術を用いた表現や逆に古典技法に立ち戻った手法の作品、ダイナミックなスケールやユニークな支持体を用いた展示インスタレーションによって、時代と向き合う作家たちの実験的な姿勢を見ることができます。開催を記念して、第1回から本フェスティバルのキュレーターを務めている『IMA』編集部のエディトリアルディレクターの太田睦子とCo-Curatorであるアイヴァン・ヴァルタニアンによる対談を行いました。今年で第4回を迎える浅間国際フォトフェスティバルに込める2人の想いと意図から、フォトフェスティバルを実施する意義、またその魅力と見どころを掘り下げます。
──今回、「イメージの実験場」をテーマにした理由を教えてください。
アイヴァン・ヴァルタニアン(以下、アイヴァン):写真が「情報化」してきていることが大きな理由ですね。10年以上前に写真がデジタル化し、さらにその後の10年で写真家がジャンルを超えた挑戦的な制作方法を試すようになりました。イメージそのものが複雑な構造になっている時代なんです。
近年、写真を撮るという行為は、単なるイメージを撮影するだけに留まらず、撮った瞬間から全世界と繋がるようになりました。「情報化」というのは、SNSを通してイメージの共有とそれに対する反応が起きることで、あらゆる企業や団体、個人がそのイメージに対するリアクションを記録し、身の回りの環境や生活習慣、価値観などがデータ化され消費者につながっていくことを言います。1枚のイメージには誰がどのように撮り、誰によってどう受け止められたのかといった情報がすべて含まれているんですね。そんな時代だからこそ、改めていま現在、写真がどんな立ち位置にあるのか、どんな存在なのか考える時期だと思い、アーティストと共に作品に向かい合いました。
──今回参加している作家は20作家、23展示ですが、作家の選定基準は何ですか?
太田睦子(以下、太田):アーティストたちは常に新しい表現を模索しているので、フェスを始めた頃と比べると作風もどんどん変容してきていますね。今回はAIを使うアーティストも参加していますし、こんな時代がやってくるとはほんの6年前のフェスティバルの第1回には思っていませんでした。
アイヴァン:あとは作家のインスタレーションに対する関心は年々高くなっていると思います。
太田:そうですね。写真は長い間、平面での展示が主流でした。でも最近は個展で映像を使う人やインスタレーションを積極的にする人も増えたし、写真フェスティバルなどではセノグラフィー(舞台美術)という考えが浸透している印象です。立体作品を取り入れたり、作品を大型にしたりするのも、6年前と比べて写真家たちの関心が高まっていると感じます。
アイヴァン:写真と写真の関係をそれぞれが考えているんです。グレゴリー・ハルペーンは今回出展している写真家たちの中でも一番保守的だと思われる作家ですが、そんな彼でも展示では写真を壁に均一に並べて見せるのではなく、上下や大小の抑揚をつけたり、家の形をした立体物を作ったり、展示空間を作ることが常に頭の中にあって、それを表現しています。
太田:あとはスキャニングやプリントの技術が飛躍的に進化したことも、アーティストの表現の幅を広げているし、世界的にフォトフェスが普及してきた1つ理由だと思います。以前は布や大きなメディアにアーティストが納得するクオリティでプリントできなかったですから。
──今回の浅間国際フォトフェスティバルの見どころを伺えますか?
アイヴァン:ぜひ解説テキストを読んだ上で、それぞれの作品を鑑賞してもらえると嬉しいです。今回の展示は、コンセプトや言葉が鑑賞のポイントになっている作品がほとんどなので、一見しただけだとわからないものがほとんどだと思います。
太田:開催初日にガイドツアーをしたんですけど、参加者の方々もツアーを聞きながらだとさらに作品が深く理解できて、面白く見えると言ってくださいました。
──作家さんたちは写真だけではなく、言葉での表現もされているのでしょうか?
太田:現代アートではコンセプトやプロジェクトの目的を理解する上で、言葉はすごく重要です。私が浅間国際フォトフェスティバルをやる上で大切にしているのは、写真に詳しい人が見ても面白いと思ってもらえる作品でありながら、同時に写真に興味のない人でも誰がもが面白いと思うような見せ方であることです。ギャラリーや美術館とは違った形で、作品を前に鑑賞者がもっと自由に楽しめる、裾野が広がっていくような体験の場にしたいと思っています。
アイヴァン:アーティストが企画を作って、期間や素材、被写体を決めて作品を作るときの重要な素材がテキストなんです。でもバランスが難しい。写真は頭を使わないと理解できないし、分析が必要な作品がほとんどです。
太田:フェスティバルで出会った写真を通して、さまざまなことを考え、対話するきっかけが生まれるといいな思います。ニュースを読むように社会や世界を見ることができる作品もあれば、まだニュースには出てこないような未来を示唆してくれる作品、さらには生と死といった普遍的なテーマを考えさせてくれる作品もあります。フェスティバルのいいところは、パブリックな場でみんなが視覚的、体感的にも写真を楽しめるところ。理解や視野が広がる、常識や価値観が少し変わる、そういうことがフェスティバルを起点に起こっていくはずです。
──今年はTHE ROWやマツダが協賛企業として名を連ねていますね。これまで美術館の展示やアートフェスの協賛は新聞社や出版社が多かったように思いますが、最近は代わりにメゾンブランドや一般企業の名前を見ることが増えてきた印象です。協賛する企業の傾向や変化があれば教えてください。
太田: 11年前にアート写真雑誌の『IMA』を始めたとき、共感してすぐにお仕事をご一緒してくださった企業の多くが、海外のファッションブランドでした。逆に日本企業は、アートは自社の事業には関係ないとか、売り上げにもならないと。しかしここ数年で日本企業にも、アートに何かコミットしたいと思っている企業が増えたと思います。
企業が社会の一員として認めてもらって事業活動を継続するためには、経済活動だけでなく、安全性の担保や地域への貢献、人や環境への配慮などが当たり前に求められますよね。それと同様に、文化的な生活を市民に約束することも企業の重要な役割だ、納税と一緒くらい大事なことだというのをアート活動に熱心な外資系金融企業がおっしゃっていたのですが、本当にその通りだと思うんです。社会に文化でも貢献し、利益を還元していく企業が支持されていくのではないでしょうか。
アイヴァン:いま、ファッションブランドは多くの予算を写真やアートに費やしていると思います。80年代頃からアニエス・ベーがパイオニアとなり、欧米ではそれに続くような形で広がっていった。いまやアートがコミュニケーションツールの1つになりましたよね。
──これから浅間国際フォトフェスティバルに行く方々へメッセージをお願いします。
アイヴァン:今回、安齊重男さんと大辻清司さんの作品をアマナコレクションから貸し出して展示しています。アートは突然現れるものではなく、作家自身が手を動かして物作りをしていて、それは写真も同じです。写真家もある過程を経て作品を生み出しているので、それを意識していただければ嬉しいです。
太田:すべてがヴァーチャル空間で完結してしまう時代において、リアルな場所に身を置くことで得られる体験は、とても貴重なことです。
その場作りを、御代田町という自治体と地元の方々、サポートしてくださる企業、参加してくれるアーティスト、制作するアマナ、そして鑑賞者が皆で実現していく。さらに今回は初めてkonstという、軽井沢の社会福祉施設で障がいを持ちながら活動を続けるクリエイターたちとアトリエリスタと呼ばれる支援員とが創作を行うアトリエのご参加も叶いました。今後、より一層さまざまな方々を巻き込みながら継続していくことが大切だと思っています。鑑賞者の方々には、このフェスが、自分の想像の範囲内から飛び出し、刺激を受けるきっかけにしていただけたら嬉しいです。
撮影(人物):大久保歩(アマナ)
撮影(展示風景):佐藤万智弥(アマナ)
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