ART for OFFICE 次世代オフィスには、アートを! 新たな体験価値を創造するワークシーンの実態

vol.96

ART for OFFICE 次世代オフィスには、アートを! 新たな体験価値を創造するワークシーンの実態

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Ayumi Okubo

昨今働き方が変わり、オフィスに行く意味、オフィスの役割も変化しています。 出社か、在宅か、といった選択権が社員にある今、これからのオフィスには、そこでしか得られない新たな創造価値を生み出すしかけが必要です。 アマナ、TokyoDex、コクヨの共催で行った本セミナーでは、しかけの1つとして注目されるアートをテーマに企業の導入背景や、実際の効果を実例を含めたトークセッションを行いました。

ビジネスの世界でアートの注目度が上がっている

酒井希望(コクヨ/以下、酒井):昨今、ビジネスシーンで「アート」という言葉が盛んに取り沙汰されています。少し前にはデザイン思考に注目が集まっていましたが、いまでは「アート思考」「アートシンキング」であったり、「デキる経営者は美術館にいく」なんてことも言われています。いま、ビジネスシーンでアートに注目が集まっているのはなぜでしょうか?

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(左から)コクヨの酒井希望さん、TokyoDexのダニエル・ハリス・ローゼンさん、アマナの岡本崇志。

岡本崇志(アマナ/以下、岡本):端的に言えば、アートシンキングを経営に取り入れることが「ビジネス上のリターンにつながる」からです。こうした認識は海外を中心に広がりを見せ、いま日本のビジネスシーンにも波及してきています。

アートマーケットの規模はコロナ以前から右肩上がりに伸びているというデータもあります。こうした背景には、富裕層の世界的な増加やNFTの隆盛、若い経営者層がアートへの関心を高めていることなどが要因としてあると言われています。

ダニエル・ハリス・ローゼン(TokyoDex /以下、ダニエル):ここに1枚のスライドを共有したいと思います。これは「デザインとアートの違い」をごく簡単にまとめたものです。ただ、両者の違いを語り出すとキリがなく、またこのスライド1枚で語り尽くせるものではないことは、あらかじめ申し添えておきます。あくまで私の個人的な研究成果であり、個人的な意見ということでご参考までにご覧いただければ幸いです。

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ダニエル:ビジネスシーンでアートマーケットに注目が集まる一方、イノベーションという言葉も喧伝されていますよね。このイノベーションにつながる有効なトレーニングツールこそ、私はアートだと思っています。さて、ここでデザインとアートの違いについて少しお話ししましょう。デザインは問題解決が目的とされている場合が多く、そのアウトプットは1つの明快なソリューションだと言えます。一方、アートは、ある課題の答えではありません。言うなれば「問い」そのものがアートなのです。ですから、アートは見る人によって答えが違う、つまり解釈を呼び込むものであり、無限に広がっていく想像の旅のスタート地点のようなものです。イノベーション、つまり新しい価値創造に関心が向かうビジネスシーンにおいて、アートに注目が集まるのは自然な流れだと思います。

なぜ、日本のオフィスにアートが必要なのか?

酒井:アートと聞くと、少しハードルが高いように思えて気おくれしてしまいますよね。ともすると、ワークシーンからは縁遠いもののように感じてしまいがちです。しかし、別の言葉を経由すると、ビジネスとアートは「非常に相性がいい」ということに気付かされるんです。つまり、最近ビジネスの世界で言われていることって、アートの世界で以前から言われていたことと同じだとわかるんです。

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酒井:昨今のビジネスシーンでは、例えば「自由な発想/イノベーション」とか、「心理的安全性を担保することでコミュニケーションを活発化させよう」とか、「指示待ち型ではなく自律型のワーカーでありたい」とか、そういった理想が盛んに掲げられています。掲げた理想を、このチャートの右側にある「理想の状態」に持っていくのは、いくつかのバイアスのせいで非常に難しい。しかし、この理想の状態って、アートが持っているパワーそのものだと思うんですね。

先ほどダニエルさんは、アートは「問いそのもの」とおっしゃいましたが、「答えを探すのではなく、問いの投げかけこそ重要だ」という話は最近のマーケティング分野でさんざん言われていることと同じです。また、みなさんご経験あると思うのですが、会社の中で「いや、僕はそれ嫌いです」と発言することってほぼ不可能に近いじゃないですか(笑)。ただ、そこにアートを1枚噛ませることで「意見不一致でも会話が成り立つ環境」が社内につくれる可能性があるわけです。アートを介することで上司と部下、先輩と後輩であっても関係なく「俺はこれいいと思うんだけど」「いや、僕はダメだと思いますね」という会話は成り立ち得ると思うんです。

ビジネスの理想がアートであるというよりは、アートが持っている世界観にビジネスがやっと追いついてきたという感じがします。ワークシーンにいきなりアートの世界観を打ち立てるのは難しいですが、その理想のシンボルとして、なにかアートワークをインストールしてみると効果があるんじゃないかなと個人的には思います。

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酒井希望さん。

岡本:酒井さんのおっしゃる通りですね。先行き不透明な世界において、答えではなく、問いとしてのアートが必然的に求められてきたのが現在だと思います。想像力や美意識のよりどころとして、アートを企業が求めているということなんでしょうね。

アートを導入する企業は「なぜ」「どこに」取り入れるのか?

ダニエル:弊社は今年、経済産業省(METI)とコラボレーションして、省内の壁面にアートを導入しました。まず私たちは「METIらしさとは何か」という非常に大きなテーマを掲げて、ワークショップを開催するところから始めました。コロナ禍ということもあってオンラインで、お互いが思うMETIのイメージをビジュアルを通して共有していきました。

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経済産業省(METI)の事例はこちら

ダニエル:結果、社会を前に進める“手”をモチーフに制作された大胆なアートワークが導入され、省内の雰囲気が一気に変わりました。ここに毎日通う人たちは、当たり前ですが何かしらの気持ちの変化はありますよね。それは必ずしもポジティブなものでなくてもいい。「あんまり好きじゃないな」というネガティブな反応でもいいんですよ。なぜなら、その小さな意見の表出から「なぜ、これがダメなのか」「じゃあ、どうすればいいのか」というディスカッションが生まれるからです。もしそんな議論が生まれたら、アートの導入は成功だと言えるでしょう。

アンケートによる調査を実施したところ、アートを導入したことで、モチベーションの上昇やエンゲージメント力の向上、ストレスの減少など、さまざまな点で改善が見られました。その中でも私がいちばん大事なポイントだと思っているのは、外からの評価が変わることです。「経済産業省が、よくこんな大胆なことをやりましたね!」と言ってもらえること、それが最も重要なことだと思います。おそらくその評価は「国の機関がここまで積極的にチャレンジをするなら、ウチの会社も思い切ったことをしてみようかな」という社会の意識改革にもつながるでしょう。アートは、エクスターナル/インターナルを問わず、企業のブランディングに非常に有益だと言えます。

酒井:いまの若い人材は、企業を業績だけで評価しません。その企業の環境や雰囲気が重視される風潮があるなかで、アートがインストールされているだけで、自由に議論できる空気やイノベーティブな風土があるんだろうなと判断してもらえます。そういったブランディングは定着してきた感がありますよね。とはいえ、アートのインストールの効果って数値化しづらいですし、自社の既存のイメージや雰囲気を大きく変えてしまうので、導入を迷っている企業も多いと思います。

本来であれば、アートの本質を理解した上で導入するのが理想ですが、日本のビジネスシーンにはそういう文化がまだ根付いていません。ですから、まずは方便として、例えばワークショップから始めて「みんなでやりました」という既成事実をつくり、それを足がかりにアートの導入を始めてみるとか。あるいは、レンタルアートのようなサービスを利用してじわじわとオフィスにアートを導入していくとか、さまざまな導入の方法が考えられます。日本のビジネスシーンにアートという言葉は浸透つつありますが、まだまだインストールには壁がある。すでにアートを導入した企業は、どんな方法をとったのでしょうか?

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三菱UFJキャピタルの事例はこちら

ダニエル:三菱UFJキャピタルの導入事例をご紹介します。この会社のコンサバティブなイメージに反するような大胆さで、意外に思われる方も多いのではないでしょうか? この導入の背景には「おもしろいオフィスを作らなければ、おもしろい人は集まらない」という考え方がありました。三菱UFJキャピタルはファンドですから、やはり若いスタートアップにお金を貸したいわけなんですよ。そのためには、こういうおもしろいスペースを作らないといけない。そして、これを毎日見る社員のみなさんの気分も変わります。

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CBRE Japanの事例はこちら

ダニエル:これは CBRE Japan のオフィスです。以前は殺風景で、仕事に必要な最低限のものしかオフィスにありませんでした。しかしその壁面に、このように巨大なアートを導入しました。いきなりこんなことをすると驚く社員もいるかもしれません。しかし実際にCBREから聞いてみると、アート導入以後、「会社の環境が良いから入社したい」と回答した新入社員の割合は8割を超えているそうです。それ以前は10%程度だったといいますから、かなり大きな変化ですよね。やはり良いオフィスを作れば、いい人材は集まってくるんです。それは同時に、オフィスの様相が社内外に対するブランディングに大きく影響することを意味します。

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ダニエル・ハリス・ローゼンさん。

酒井:アートの導入は日本ではまだまだ難しいとはいえ、オフィスの壁を中心に徐々に広がりを見せているんですね。今回はワークシーンにアートが導入された事例をご紹介しましたが、社内外の印象や評価、自社に対するイメージに大きな変化をもたらすのがアートです。ダニエルさんの実践とリサーチから、そうした変化はインタナーナルブランディング、あるいはエクスターナルブランディングに好影響を与えるということはご理解いただけたかと思います。自社のワークシーンを変えたい、アートを導入されたいという企業のみなさんにとって、本日のお話が少しでも参考になれば幸いです。


アマナにおけるアートに関する取り組みについて

五感で感じられるさまざまな写真体験ができるアートフォトの祭典「浅間国際フォトフェスティバル」の詳細はこちら
コクヨとアマナが共同開発した「ARTBOARD」の詳細はこちら
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