今日、さまざまな業界でCGを活用することは、もはや当たり前のこととなっています。もちろんモビリティ業界でも大活躍。CGなくして、自動車に関連するさまざまなビジュアル制作はかなわない時代になりました。
画像生成AIの出現により、モビリティのビジュアル制作はAIが代替するのではないかとの予測もある中で、なぜCGが活用されるようになったのか、モビリティ業界は今後、CGに何を求めるのかなどについて、鼎談を実施。デザインジャーナリスト/自動車評論家で日本自動車ジャーナリスト協会理事を務める千葉匠さんと、モビリティCG制作を専門に行うアマナの「croobi(クロオビ)」チームのリーダーでCGクリエイターの坂本直樹、アマナのプロデューサーの鈴木健哉の3名が語りました。
――まずはモビリティ業界とCGの歴史についてお伺いしたいと思います。CGはいつごろから導入されたのでしょうか
千葉匠さん(以下、千葉):広告でCGを使うには、開発側がデータを持っていないと使えないですよね。では、なぜ開発側でデータ、いわゆるCADデータを持つようになったのかというと、そもそも自動車の設計やデザインは非常に手間がかかるものなんです。なので、いちばんの狙いは「開発効率を高めたい」というところにあります。
自動車部品は金属をプレスして成型するのですが、最初はデザイナーが作ったデザインから木型を作り、その木型を組み合わせて立体化したものをデザイナーがチェックしてOKなら、さらに木型をベースに金型を作る、ということをやっていました。これだと精度の問題もありますし、そもそも手間ひまがかかりすぎる、効率化したい、というところが動機としては大きかったのではないでしょうか。CADデータを利用するようになったのが80年代です。
坂本直樹(以下、坂本):CADデータを使用する以前の現場では、立体の完成形として見られるのはプレスが終わってからということですか?
千葉:いえ、最初にクレイ(粘土)モデルを作って完成形がわかるようにしてから、デザイナーが図面を起こすという手順を踏んでいたので、立体は最初に作っていました。CADデータ化されても、データを修正したらクレイモデルに反映・検証して、またCADデータを修正してということを行っているので、データだけで完結するようになったわけではないですね。
それでも90年代には、デザイナーのスケッチを3Dデータ化してレンダリングするデジタルモデラーという職種が生まれていました。画面の中で3D化されたスケッチを検討できるようになったので、スケッチ、つまりアイデアの段階で検討できるという革新が起こったのです。
――開発データが広告に転用されるようになったのはいつ頃からですか。
千葉:2000年代になって、カタログの画像のCG化が始まりました。それ以前のカタログ画像は、スタジオで自動車の前端から数十センチ単位でピントを動かしながら、それぞれのピントごとに露出を変えて撮影するという、相当地道に大量の撮影を行っていたと聞いたことがあります。
鈴木健哉(以下、鈴木):私はCG時代の前に撮影にも携わっていたのですが、それに加えて、ホイールはホイールでライティングを変えて撮ったり、ウィンドウはウィンドウで別に撮ったりと部分ごとの撮影もあって、だいぶ細かいことをやっていました。映り込みがあってもアウトですし、撮影はかなり気を遣う工程でした。
――広告分野でも効率化の要請があったということですね。
千葉:そう思います。そこで広告でのCG化への挑戦が始まったのですが、やはり最初は従来の撮影に比べるとかなり落差のあるできあがりで、デザイン部門では相当問題視されるスタートだったようです。それでもCG化する必要性がある、という判断だったのでしょう。
――そうした試行錯誤が、「フルCGでできるようになった」という状態になるまでは、どれくらいの時間がかかったのでしょうか。
千葉:静止画から始まり、続いて動画のCG化という流れですね。
坂本:私がアマナのまだ「croobi」という名前になる前のチームの仕事を見たのが2008年頃ですが、そのころにはもう動画を作成していましたね。とはいえ、CMで使っていたかどうか……。ともかく気がついたらいつの間にかCGを使うのが当たり前にはなっていたと思います。
CM撮影では、発表前の自動車を国内で撮影するのはなかなか難しいので、海外に持っていく必要があります。ただ運ぶだけでコストも手間もかなりかかってしまうので、何としてもCGを用いたいという要望がありました。あとは、天候や季節などの制約もありますよね。春に発表する新車の広告は、実際に春に間に合うように撮影しないといけないですし、晴天の撮影を予定していても雨が降ってしまったなんてことも起こりえます。
千葉:CGだとこんな表現ができるからやろうということよりも、広告制作上のさまざまな制約をクリアするのがCGだったということなんですね。
――撮影を効率化すること、撮影の制約をクリアすることがスタートだからこそ、撮り下ろしと同じように見えるハイクオリティが求められたということでしょうか?
坂本:もちろん最初からすべてをCGでというのは難しくて、始めは自動車だけ、あとから背景も、というように段階的にCG化されたんですね。ですので、CGのクオリティが上がった今でも、コストなどの制約も含めて「撮影できるものは撮影しましょう」と言っています。アナログ=撮影がもっている情報量を考えると「実写はやはり凄いな」というシーンも多々ありますから。
千葉:人物を入れたい場合は、撮影の方がいいですよね。
坂本:そうですね。実は人物もCGでという流れは生まれていますが、まだもう少し時間がかかりそうです。
鈴木:もちろん演出上、CGでしかできない、撮影では不可能なこともあるので、CGによって表現が広がったという面もあります。
――広告で培ったCGのクオリティは、実際の車のデザインにフィードバックされているのでしょうか。
千葉:デザインの現場ではCGのクオリティを高める努力が行われています。新車のデザインプロセスを取材させていただくと、特にインテリアのCGレンダリングについては「これ、立体モデルを撮影した写真?」と思うことが少なくありません。
インテリアの立体モデルをリアルに作り込むには、革や布を張り込んだり、テクスチャーを再現するなど、とても手間がかかる。クオリティの高いCGで検討を重ねて、モデルをリアルに作り込む回数を減らしているのだと思います。3DデータをVRで見て、よりリアルな環境で検討するということにも各社が取り組んでいます。とはいえ広告CGの世界で言う「フォトリアル」のレベルには、まだ到達していないのが現状ではないでしょうか。
デザインプロセスにおいてCGのクオリティを高めることのいちばんの意義は、経営者に正しい判断をしてもらうことだと思います。経営者にフォトリアルなものをプレゼンテーションすれば、より現実感を持って判断してもらえる。フォトリアルなCGを作り込むには手間がかかるので、なかなかそこまでできないのかもしれませんが、そこが解決されればデザイン現場でも、広告レベルのフォトリアルなCGが活用されるようになるでしょう。
もう1つ、デザイナーが広告CGから学べるのが、「表現」の部分だと思います。広告はそのクルマの魅力を消費者に伝えるために、背景の選び方や人の絡ませ方など工夫していますよね。経営者にデザイン提案するときのプレゼンテーションでも、そこは参考になるはずです。
――技術が進歩していけば、「手軽さ」というのは実現できるのでしょうか?
鈴木:技術の進歩の1つの面として、CGを生み出すハードウェアが高性能化している点が挙げられます。処理能力は飛躍的に上がっているので、「同じもの」であればもちろん早く制作することができると思いますが、処理できることが増えたが故に表現の要求が増えています。
コスト面で言うと、ソフトウェアやハードウェアそのものの価格が下がっているので、初期投資などのコストも連動して下がっているとは言えます。オープンソースのレンダリンングソフトウェアも出てきていて品質も高いのですが、業界のスタンダードにはなっていないのが現状です。
――CGに求めるフォトリアル・ハイクオリティな表現が、まだまだ業界が求めているレベルに到達できていないために、ソフトウェア・ハードウェアの高性能化はさらにクオリティを高めるところに活用されるということなんですね。
取材・文:秋山龍(合同会社ありおり)
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:松栄憲太(アマナ)
AD:中村圭祐
撮影協力:海岸スタジオ
amana cgx
amana cgx
amana cgxサイトでは、amanaのCG制作チームが手がけたTV-CMやグラフィック、リアルタイムCGを使ったWEBコンテンツなど、CGを活用する事で、クライアント課題を解決に導いた様々な事例を掲載。
CGクリエイターの細部にまでこだわる表現力と、幅広い手法によるソリューションサービスを紹介しています。