アマナには100人を超えるクリエイターが在籍しています。プランナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているのか、そのプロセスと思いを紹介します。
第11回に登場するのは、アートディレクターを務める有村公一(以下、有村)です。地方自治体や外郭団体が行うさまざまな地域ブランディングのプロジェクトに携わってきました。有村のプロジェクトへの関わり方を通して、ビジュアルコミュニケーションが地方創生になぜ必要なのか、どう役に立つのかを探りました。
――地方自治体との仕事とは、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
有村:自治体や、自治体の中にある特定施設、観光資源などのブランディングを行っています。私はアートディレクター及びデザイナーという立場なので、ロゴデザインや、キャッチコピー、プロモーションのためのポスターや動画などの媒体の作成に携わっています。
最近では、愛媛県宇和島市のガイドブック・リーフレットを作成しました。30代を中心とした子育て世代がターゲットで、 市の認知向上と、移住の検討誘発を目的とする冊子を作るプロジェクトですが、当初はその予定ではなく目的を達成するためのツールの提案からスタートしました。
なので、子育て世代が実際に移住を検討するまでのステップを明らかにして、それぞれで必要とする情報とは何かというところからガイドブックとリーフレット、加えてWebサイトへの誘導を行う、という提案に至ったのです。
――アマナが地方自治体のブランディングに関わるようになったきっかけはあるのでしょうか。
有村:北海道東川町との関わりがきっかけだと思います。東川町は写真文化首都「写真の町」と銘打って町作りに取り組んでいます。アマナは創業者がフォトグラファーだったことから、親和性があったのでしょうね。町おこしにアマナが協力する中で、2019年には「東川オフィシャルパートナー協定」を結ぶなど、「長い協力関係の中で地域に根ざしたブランディングに関わる構図」ができてきたのではないでしょうか。
東川町でアマナが関わった施策は、ロゴやWeb制作、町が販売する天然水のパッケージデザインなどですが、「町おこし」「地域ブランディング」という大きな観点で関わることができているので、事業単体ではない大きな視点から提案・制作を実施できています。
――「地域ブランディング」は、民間企業の商品・サービスでのブランディングとの違いはあるのでしょうか。
有村:ロゴやパッケージなどをデザインする、作成するという点では、民間企業の案件との違いはないかもしれません。ただ、事業予算が税金に基づく、つまり「営利」ではなく「地域に還元すること」を目的の事業だという根本的な違いは、そのまま取組み方の違いになると考えています。
民間企業でいうブランディングは、商品やサービスを利用する顧客や、顧客になり得る方々へ「知ってもらう」のが目的なので、「外」に向けての認知活動です。一方で地域ブランディングは、地域に住む方々に、自治体やそこにある施設・サービスを深く知ってもらい、地域をより好きになってもらう、誇りを持ってもらうということがスタート地点です。民間企業でいう、インナーブランディングの領域に近しい部分があるのかもしれません」
有村:もちろん「地域の特色を地域外の方にも知ってもらいたい」という外への意識もありますが、「大きなキャンペーンを行う」といった一過性の高い施策ではなく、住民の方に地域を知ってもらった結果、地域の方々と一緒に外向きの発信が実現するのを理想としているのが「地域ブランディング」だと考えています。
だからロゴ一つをとっても、住民の方々に受け入れてもらう必要があって、自治体の担当者を通してではあるものの、地元の方々の声や、行政サービスなどに関わる人々の思いといったものをしっかり取り込み提案・制作するという進め方になります。さらにロゴであれば、そのロゴを利用したガイドブックを作ったりと、「制作したものを使い続ける」ことになります。地域ブランディングでは、制作物は長い期間、住民に利用されることになります。それだけ地域に根ざせるものを作る責任があるということは、大きな特徴といえるのではないでしょうか。
――どのプロジェクトでも「地域に根を張る」ことを意識していると思いますが、特にやりがいを感じたものはありますか?
有村:私が鹿児島出身ということもあって、知覧特攻平和会館のロゴ制作・ブランディングの案件は印象に残っています。子どものころによく訪れていました。
もともとは、南九州市のブランディング施策をアマナが担当していたのがきっかけですが、博物館や市のみなさんが納得できないものであればロゴどころかブランディングの提案そのものを不採用という可能性がありました。
博物館は名前の通り、特攻という史実を知ってもらうための施設で、史実を知ってどう感じるかは来館者にゆだねるという館長さんの考え方や、知覧の町のみなさんの「戦争を起こしてはならない、恒久の平和を祈念する」という思いを受け止めた提案をする必要がありました。ただロゴを提示するのではなく、ロゴとは何のために存在するのかという根本的な説明から始めて、私たちがどのように考え提案しているのかの説明を丁寧に積み重ねていった結果、実際に戦争を体験されている、博物館で語り部としてボランティア活動をされている方々にも受け入れていただいたという経緯もあって、歴史の重みをロゴに反映させた体験は強く印象に残っています。
有村:アマナは営利企業なので、クライアントがどこであっても会社にとって利益を生み出しくということは間違いのないことです。その点では、地域ブランディングの仕事というのは大きなプラスを生み出しにくい仕事かもしれません。
「地域に根を張るものを作る」ためには、そこに住んでいる方とコミュニケーションを取り、信頼関係を培う必要があります。アマナは、トップレベルのビジュアル制作能力、コミュニケーションの企画実行能力がある会社だと私は信じていますが、地域ブランディングを通してトップレベルの成果物を地域の方々に利用してもらえるということは、アマナに、地域との信頼関係を作り上げることができる、継続的な協力関係を築いて住民サービスを理解したうえで必要なビジュアルを通した施策提案を生み出せるという力があるということの証左となるはずです。
さらに、信頼関係に基づく息の長い関係は、民間企業と築き上げることもできるのではないでしょうか。「ビジュアルの力が、誰かの役に立つ」ということを実現するという意味では、自治体と民間企業の仕事を分けて考える必要はないのかもしれません。
――地域ブランディングを必要とする自治体はまだまだ存在すると思います。今後はどのように活動したいと考えていますか
有村:地域ブランディングの案件は、その場所を実際に訪問することも含め、地域を理解するのにもどうしても時間が必要ですし、単発のイベントを実施して終わりというものではありません。継続的に地域の方と関わりを持ち、相談される、提案するという関係の中で、一つ一つの案件が生まれてくるという性質のものです。
協力関係、信頼関係を築くことができれば、非常に頼りにしていただけますし、継続しているが故に、頼りにしていただいた結果を実感しやすい面もあります。その分、大きな責任も感じるのですが、お互いの信頼関係の中で、より地域の方に愛される、自分たちのものだと言ってもらえるような成果物を作る、提案するということをしっかりと続けていければよいな、と考えています。
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取材・文:秋山龍(合同会社ありおり)
編集:大橋智子
撮影:秦和真
AD:中村圭佑
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