CDOセッション:組織の創造性を最大化せよ 医療ITの巨人エムスリーから紐解く

vol.137

CDOセッション:組織の創造性を最大化せよ 医療ITの巨人エムスリーから紐解く

Portraits of the three speakers

Text by 北島翔太

SPEAKER スピーカー

顧客のニーズや期待の多様化、企業が取り組むべき課題の複雑化などの現状に立ち向かっていくため、今、企業や組織に必要とされているのが「創造性」です。では、創造性を持つ組織は、どのように作り上げていくのでしょうか。

今回のウェビナーでは、クリエイターと日々仕事を共にするアマナの山根尭と杉山諒が、エムスリー株式会社のCDO(最高デザイン責任者)である古結隆介さんに、エムスリーの取り組みとともに、企業が創造性を発揮するためのヒントをうかがいました。

企業に創造性が求められる4つの要因

山根 尭(アマナ/以下、山根):世界経済フォーラムが2023年4月に発表した「仕事の未来レポート」で労働者に求められる10のスキルが記載されていますが、「創造性思考」は2位に位置しています。今後のAIの普及などによってますます人間の「創造性思考」は重要度を増していくと言われていますが、そもそもなぜ創造性が求められているのでしょうか。それは、企業が直面する4つの課題が背景にあると考えられます。

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まず1つ目、現代の顧客のニーズや期待はさまざまであり、そのインサイトを見抜く力が企業には求められています。顧客が欲しいものをそのまま出すのではなく、顧客自身が気づいていないことを理解し、新しいサービスや商品を提供していく力が求められているといえます。

2つ目は、課題の複雑化と問いの枯渇化です。事業やソリューションは社会的な課題に対して企業が提示する解決策であり、この解決する力というのは企業にとって重要です。ただ、現代は「問いが希少化されている時代」であり、優秀な人材が解きたくなるような問いを設定する力も必要だと考えます。

3つ目は、1社や1部署で解決できる課題が少なくなってきていることです。その場合、外部の知見などを取り入れたり、社内組織をコネクトしたりといった能力が求められます。

最後は、デジタル化が進む現代では、企業やブランドは顧客との長期的な接点を持ち続けなければならないという点です。単に使いやすいだけではなく、顧客に感動価値すらも与えられるようなユーザーエクスペリエンスを提供できる力が重要といえます。

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山根尭(アマナ/クリエイティブサイエンティスト)。

これらの能力には、創造性が必要不可欠です。経済産業省が創造的人材を育成する支援を行っているように、日本企業の競争力を高めるためにも、創造性のある組織を作ることは急務であるといえます。

創造的価値を生み出し続けるエムスリーのデザイン組織

山根:お話したとおり、創造性はあらゆる組織や職種に必要とされるものですが、特に大企業では組織構造の問題などで創造性が発揮できないということも多くあると考えています。そこで、本日は経営層であるエムスリーの古結さんにお話をうかがえればと思います。古結さん、まずはエムスリーと、エムスリーのデザイン組織の活動についてご紹介をお願いします。

古結 隆介(エムスリー株式会社/以下、古結):エムスリー株式会社は、主に医療領域でさまざまな課題を解決している会社です。私たちのミッションは「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」。特に不必要な医療コストを1円でも減らすことという点は非常に具体的で、私自身も大好きなミッションです。

エムスリーのユーザーは主に医師で、日本全国の医師の9割が会員です。エムスリー全体で70以上の事業を展開しており、我々デザイン組織だけでも20のプロダクトに携わっています。

医療IT業界を常に牽引するエムスリーが大事にする「スピード」

古結:経営的な側面で、また、デザイン組織でそれぞれ大事にしていることは以下のとおりです。

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これらを大事にしつつ、特にデザイン組織としてはさらに「スピード」を大事にしています。これは、期待されているような時間軸を超えたスピードで価値を生み、提供するということです。

杉山 諒(アマナ/以下、杉山):それは、医療業界の内側にいるエムスリーにとってはまだまだ解決すべき課題がたくさんあるからこそスピードが大事、というような文脈なのでしょうか。

古結:おっしゃるとおりで、医師は基本的に時間がありません。1分1秒でも患者さんと話をしたいけれど、その時間を確保することすらも難しい。たとえば開業医であれば経営者としての顔も持っていて、経理や人事業務にも携わらなければならないんです。患者さんが受付で待つあの長い時間を少しでも減らすために、多忙な医師に早く楽になってもらうために、我々は素早くサービスを提供する。それを使命に日々業務にあたっています。

創造的人材の活躍は、企業にあらゆる効果をもたらす

山根:ここからは、創造的人材が活躍することで企業活動にどのように機能するのか、ということを具体的に紐解いていきます。以下は、ある調査機関によるレポートから抜粋したもので、創造性が企業活動に及ぼす文化的な効果と、創造的人材の導入による影響がまとめられています。

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組織の創造性を発揮するカギは「ユニークさ」

山根:まずは上の3つから見ていきたいのですが、創造的な文化を持つ企業はそうでない企業にくらべて財務パフォーマンスが高く、業界内でリーダーとして認識される可能性が高いと言われています。まさにそのとおりで、エムスリーは業界内でもリーダーですし、すごく好調な収益を上げています。ただ、デザイン組織が生まれる前からエムスリーは創造性の高い組織なんだろうなと感じているのですが、古結さん、その辺り含めてお話うかがえますでしょうか。

古結:そうですね、先ほどお話した「エムスリーが大事にしていること」によって、創造性を発揮できるのではないかと思います。特に、我々が大事にしている「ユニークさ」、人真似ではないものを作りましょう、ということが関係しているのかなと。

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古結隆介さん(エムスリー株式会社/CDO)。

ユニークさとは「面白おかしい」ということではなくて、近い表現は「独自の」や「スペシャリティ」など、いわゆる「オリジナリティ」ということです。二番手、三番手でやっていくというのはあまり良しとしない文化があって、「オリジナリティ」を目指すところの過程で、創造性が発揮されていくものなのかなと思います。もちろん、リサーチをしたり、競合他社を見るなどのプロセスを否定しているわけではなく、ソリューションとして提供するものに関しては、やはり「ユニークかどうか」というフィードバックや、それを考えるプロセスを大事にしています。

山根:特に医療業界で「世の中にないものを」となると、嫌がられることもあるのではと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

古結:それは本当にその通りです。医療業界には長年培われてきた文化や安心安全を守る法律があり、新しいものを持ち込むことはなかなか難しいんです。「現状が大きく変化する=時間をロスする」という意識が非常に強い。

ただ、そこを理解した上で信頼関係をどう積み重ねていくか、ということがビジネスやデザインの力が発揮できる部分だと考えます。先ほどの「大事にしていること」でも挙げていた「小さく作って大きく育てる」という文化はここから来ていると思います。例えば、医療領域にAIのような新たな技術を持ち込むとしても、まずは小さく「こういうこともできそうなので一緒にやりませんか」と、徐々に信頼貯金を積んでいきます。ちょっとずつインパクトを大きくしていく。「共によくしていく」というような感覚です。

デザイナーや創造的人材が加わることでスピードが上がる

山根:次に、下3つも見ていきます。デザイン思考を導入した企業では、問題解決力が高まり、プロジェクトの完了速度が向上するといわれています。エムスリーはまさにスピード感を大切にしている組織だと思いますが、デザイン組織が加わることでこのような影響があるのでしょうか。

古結:問題解決のスピードを上げるためにはソリューションを突き詰めていくことが重要ですが、デザイナーの役割は、俯瞰的にそのソリューションが本当に適切かどうか、問いを立てることだと思います。

一見、突き進んでいくことが速いように見えるかもしれませんが、長期的に見ると、早い段階で施策を打って最適なソリューションを見つけることの方が、結果的には速かったりします。これを、ビジネスチームのみなさんと進めるようにしています。スピードというのは、短距離走のようにただ速いだけではなく、マラソンのように長期的に見て速い、ということも重要だと思うので。

杉山:早く失敗するというか、早めにPDCAを回す、というようなイメージでしょうか。

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杉山諒(アマナ/プロジェクトデザイナー)。

古結:そうですね。そもそもPDCAをどう回していくか、ということさえもビジネスチームとデザイナーが一緒に検討できるようにしています。

山根:たしかに、デザイナーや創造性の高い人材が関わることで、早い段階でプロジェクトの根本的な課題感に気づけて、結果的に出戻りも少なくてプロジェクトがスピーディーに進んでいくということがあります。その場でそのような指摘を行うと、煙たがれることもあると思うのですが、非常に大切なことですよね。

古結:あとは、速さの面でいくと、さまざまなオプションを提案できるということもデザイン組織が加わることの強みですね。デザイン領域でのオプション、つまり付加価値です。自分たちの領域内で考えられることを付加価値としてつけることで、色々なソリューションを生み出せます。

山根:デザイナーや創造性の高い人材が加わることで、顧客満足度の上昇やイノベーション創出につながる商品・サービスの開発が増えると考えられますが、この点についてはいかがでしょうか。

古結:デザイナーや創造性のある人材がプロジェクトに参加することで、顧客との接点を持つだけでも、その場で付加価値が生まれると考えられます。創造性のある人材は、単に作るだけでなく、作った上で何ができるかという付加価値を考えることができる存在です。その付加価値を考えられるように、顧客と接点を持てる「場作り」を大切にしていますね。

目指すゴール次第で、創造性は育つ

杉山:「デザイン」という言葉はとても広義なもので、いわゆるコミュニケーションに携わるような方もいれば、新しいプロダクトを作る部分に関わっている人も色々いると思うのですが、エムスリーさんの場合はどうですか。

古結:できる範囲で「全部やる」というスタンスです。ブランドの中にはUXやCX、プロダクトがあってそれをプロモーションして、マーケティングをして、とさまざまな要素が含まれています。デザイナーが自身の役割に制限をかけずに、ブランドをより良くしていくためには何をすべきかを考え、取り組むんです。プロダクトやプロモーションを作ることをゴールとするのではなく、事業や組織のブランドをどう高めるか、というゴールを目指すことで創造性を発揮できるのだと思います。

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杉山:すごく本質的で素晴らしいと思いつつも、相当レベルが高い気がしています。エムスリーのデザイナーは、みなさんデザイナー出身の方なのでしょうか。

古結:いえ、本当にいろんな人がいます。雑誌制作でInDesignしか触っていなかったという方が今コーディングやプログラミングをしていたり、動画クリエイターでAfterEffectsしか使っていなかったという方が今は撮影や、ビジネスチームと共に企画立案をしていたり。ただ、両者ともに目指すゴールが事業や組織がどうしたら良くなるか、ということを考えているからこそ、創造性が豊かになって自身のスキルやできる範囲が広がっているのかなと思います。次第にアイデアも付加価値も増えていく、という形ですね。

「強み」を伸ばすことで創造性はさらに発揮できる

山根:創造性を発揮することは、特に日本の大企業などでは難しい場面もあり、組織構造的に創造性を生かせないことがあります。古結さんは、デザイン組織のリーダーでありながら、CDOとして経営側の立場でもあります。そのような立場で、組織で創造性を発揮するためにはどのようなことに注意したり、考えたりされているのかを教えてください。

古結:まず大切なのは、個人の強みを徹底的に伸ばし、その力を存分に発揮できる環境をつくることです。弱みを気にしすぎず、自分のできない部分は他人を巻き込んでいく、というのはエムスリーの文化でもあります。好きなこと、得意なことを突き詰めれば世界は広がっていくはずなので、企業としては強みを伸ばせる機会を作ることを大事にしていますし、さらによくしたいと思っています。

杉山:共感しかありません。人それぞれの強みの中に才能は眠っていると思っていて、その強みをどう生かすか、適材適所に飛び込めるかが重要だと考えています。エムスリーのこのような組織風土は元々あったものなのでしょうか。

古結:当社はあまり組織風土の言語化はしないので、文化として根付いていました。ただ、デザイン組織やエンジニアなど、「スペシャリティを持った人材というのはこうあるべき」という方向性や文化は最近できてきたものです。

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役員もプロジェクトに積極参加

山根:エムスリーが組織として特徴的なのは、経営者が必ずプロダクト開発に関わっており、従業員の管理だけを行うマネージャーがいないと聞いたことがあります。このような組織構造が、創造性を発揮することに大きな影響を与えているのではないでしょうか。

古結:そうですね。自分の事業は子供のようなものなので、簡単に他人に預けることはできません。エムスリーの役員の多くは、自分が担当している事業の定例会議には必ず顔を出しますし、中には毎日フィードバックをする者もいます。私自身も何本かの事業やプロダクトを見ていますが、他の人に任せるということは考えられないですね。そういうことも、創造性を発揮し続けられる現場作りに寄与しているのではと思います。

杉山:私も、アマナで提供している「クリエイティブキャンプ」というサービスを通じてさまざまな企業の方と接する中で、合理化や標準化、マニュアル、オペレーションが進みすぎて、利益が十分に出るものの個人の創造性やアイデアを出す余白がない企業が多いと感じています。確かに、経営的な観点から見ると、合理化されていて正しいとも思うのですが、世の中のニーズも変わっていく中で、組織風土が硬直してしまっては、しなやかさに欠けてしまうのではないでしょうか。最近、このような話を立て続けに聞くことが多くなっていたので、エムスリーの取り組みは本当に素晴らしいと感じました。むしろ、私自身が元気をもらったというか、このような企業がたくさん増えるといいなと思いました。

社会全体で創造性の循環を目指す「Great River」

山根:私たちアマナでは、新たな取り組みとして、創造性人材を活用してより企業活動の推進をサポートするサービス「Great River(グレートリバー)」をスタートしました。クリエイティビティや創造性が求められている企業の多くは、リソースやノウハウが不足しているという課題があります。グレートリバーは、そのような課題を抱える企業に、創造性の高い人材を副業や専属など企業にあわせた形でお送りする派遣サービスです。アマナではグレートリバーを通して、社会全体で創造性が循環することを目指しています。

外部の創造性人材を登用するメリットとしては、以下の3つが挙げられます。

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ひとつは、通常の採用とは異なり、必要な時にすぐ創造性人材が採用できる点です。通常の採用だと最低でも3ヶ月は要してしまいますが、3ヶ月の間に企業活動の状況は大きく変わり、必要な人物像も変化してしまいます。グレートリバーは、アマナが有するプロフェッショナル人材のネットワークから、適切な人材をすばやく派遣できます。

そして、創造性人材を仲間にでき、創造性を組織に伝染させられるという点です。高度な創造性人材と長期的な関係を築き、組織内のメンバーとして動いてもらうことで、他の組織内メンバーにも創造性が伝染していい影響を与えます。

適切な創造性人材を素早く派遣し、最大限の効果を生み出す

グレートリバーは、以下の3ステップでサービスを提供します。

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まずは人材の選定です。我々アマナは、あらゆる企業の0→1、1→10、10→100に該当するさまざまなプロジェクトに携わってきました。この経験をもとに、企業が求める人材をヒアリングしながら適切にアサインします。

そして、提供する創造性人材は、先ほどお話したような「点」ではなく、まさにエムスリーで活躍されているような「面」を行き来できる人材です。

加えて、創造性人材を送り込むだけでなく、プロジェクトの戦略立案から実行までアマナが伴走支援します。アマナが持つメソッドやナレッジを提供することで、創造性人材とのシナジーを最大化することができます。このようなサポート体制を整えることで、企業のコミュニケーションや企業活動をさらなる推進もお手伝いさせていただければと思います。ぜひお問い合わせください。

古結:この取り組みもそうですが、戦略から実行までデザイン文脈での付加価値を求める企業が多くいるのだと実感しています。私たちエムスリーもデザイン業界のひとつの組織としてユニークな施策を打って参りますので、みなさんの日々の業務や組織運営の中で創造性を活用する方法としてぜひお役に立てればと思います。

SOLUTION

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あなたの組織に創造性を

未来を構想し創造的な課題解決を目指す創造性人材を提供し、企業のクリエイティブな体制構築を支援する人材提供サービスです。GreatRIVERを通して、社会全体で創造性が循環することを目指します。

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