vol.141
画像生成AIの発展には目を見張るものがあり、生成AIを活用したクリエイティブ制作に期待が寄せられています。一方で、生成AIは政府でも議論の途上の領域であり、画像生成AIのトラブルを見聞きする機会もあります。画像生成AIのメリットとリスクを正しく把握することが、企業での生成AI活用の第一歩となります。
アマナが開催した本ウェビナーでは、イメージングディレクター・ビジュアルコラボレーターの堀口高士とコンスタンス・リカ、そしてリーガルマネジメントより野口貴裕が登壇。画像生成AIを活用してブランドのクリエイティブを制作した事例紹介と、画像生成AIにまつわる3つの疑問を取り上げ、法的な位置づけと実務視点での注意の双方を解説しました。
堀口とコンスタンスが所属するクリエイティブチーム「EVOKE」は、アマナの中でいち早く生成AIを取り入れました。
コンスタンスは8年前に当時のAIの研究成果を見て、人間によるビジュアル制作に危機感を持ったと述べます。AIの技術が進化し誰でもAIを使えるようになった現在、「ビジュアルコミュニケーションが画一化し『らしさ』が失われているのでは」と指摘します。
そこで、EVOKEは時代の波に乗ってAIを活用しながら、AIが抱える画一化の課題を乗り越えて、ブランドの本質を伝えるためのクリエイティブプロセスを確立しました。
ウェビナーでは、日光で天然氷やメープルシロップなど自然に寄り添ったプロダクトを作っている「四代目徳次郎」の事例をもとに、EVOKEのプロジェクトの概観が紹介されました。本記事では、そのうち四代目徳次郎が手がけるクラフトコーラ「日光コーラ」を例に解説します。
EVOKEでは、3つの要素からなる「ビジュアルシステム」を採用し、プロジェクトを実行しました。
ビジュアルシステムは、以下のステップを繰り返しながらビジュアルを作り上げていきます。
①ラーン・アンド・ディスカバー:クライアントの思いやメッセージをヒアリングし、商品やサービスを言語化
②ビジュアルスケール:商品・サービスの持つ特徴や印象をビジュアルに変換
③ムードボード:ビジュアルスケールに基づき、商品・サービスのムードボードを生成AIを用いて作成
まずは、ブランドをより深く知るために顧客へのヒアリングを行い、商品・サービスやブランドが何を大切にしているのか、どのような思いがあるのかを引き出します。その結果、四代目徳次郎が大切にしているのは「日光の山を地域を守り、いただける恵みを未来の世代にまで繋いでいきたい」という思いであることが明確になりました。
顧客へのヒアリング後は、さまざまなクラフトコーラを飲み比べて味を言語化します。甘い、苦いなどの味覚や、飲んだときにどのような気持ちが呼び起こされるか(ノスタルジーを感じる、歴史を感じるなど)、といった複数の観点から味を評価・言語化することで、クラフトコーラが持つイメージを明確にし認識を統一します。
続いて、アマナと日本カラーデザイン研究所が協同で制作したエモーショナルスケールを用いて、「プリティー/キュート」「モダン/アーバン」などのさまざまな感性言語に対する「森」のイメージを可視化しました。
このアウトプットをベースに、ビジュアルスケールを制作します。クラフトコーラであれば、キーワードとなる「コク」「味わい」「スパイス感」の程度をパラメーターに落とし込み、ビジュアルで表現する際の明暗や彩度、密度などのレベルを可視化します。
最後に、前述のビジュアルスケールをもとに、画像生成AIを利用してムードボードを作成しました。
ムードボードは通常、既存素材を用いて作成するものですが、既存素材の使用によって以下のような問題が生じるという課題がありました。
・イメージ通りの素材がない
・トンマナが一貫していないため最終的なイメージを想像しづらい
・ラフイメージの作成コストが高額になる
そこで、画像生成AIによって生成した素材を用いることで、上記の課題を解決しました。以下が、生成 AIによるアウトプットを使用して構成したムードボードです。
例えば、メープルシロップのムードボードに使用したいカエデの葉からシロップが滴る画像は、既存の素材を探してもイメージに合致するものは見つかりません。画像生成AIでビジュアルを生成することで、顧客との認識の統一やイメージのすり合わせがスムーズに行えるようになります。
生成AIによるアウトプットを用いて作成した以下のラフイメージをもとに、日光の地で撮影を実施。
日光の大地の中でクラフトコーラを味わう表現や、森の神秘感の表現など、最終に近いラフイメージがあることで、撮るべきクリエイティブのイメージが顧客やスタッフ全員で合致した状態で撮影に臨めます。
こうして、以下のクリエイティブが完成しました。いずれも、ラフイメージをブラッシュアップさせたような仕上がりです。
「最終的な調整でも、ビジュアルスケールなどが役立った」とコンスタンスは話します。例えばビジュアルスケールで「クラフトコーラの喉越しは柔らかい」と言語化できていたため、背景に写る荒々しい滝の水の動きを、柔らかく見えるように加工しています。そのほか、クラフトコーラが持つ「スパイス感」は、コーラの周りに小枝を追加で配置することで表現しました。
さらに、メープルシロップのクリエイティブでは紅葉を表現するために、生成AIを用いて背景を作成。生成AIで作成した背景に、撮影したメープルシロップの商品そのものとシズル感を合成しています。
前述のとおり、生成AIをクリエイティブ制作に用いることは、低コストでイメージに合致するビジュアルを生成できる上に、顧客との認識の統一やイメージのすり合わせをスムーズにします。
コンスタンスは、本プロジェクトで画像生成AIを利用し「いろんな切り口を見つけるパートナーになりうる」と気づいたと話します。ただイメージに合致したビジュアルを生成するだけでなく、制作過程でAIによって生み出されたイメージが新たなインスピレーションにつながり、自分のアイデアを拡張できます。
このように、実際のアウトプットそのものに生成AIを使うのではなくアウトプットを制作する過程で生成AIを活用することで、制作進行をミニマムにしたり、新たなイメージの創出につながったりといったメリットを得られるのです。
AIの活用はますます進んでいくと予想されますが、同時に、安全に、正しく利用する方法を検討する必要があります。ウェビナーの後半では、アマナのリーガルマネジメントの野口が、画像生成AIの著作権のポイントとAIガイドラインの必要性について解説しました。
生成AIは、世の中のさまざまなデータを学習し、新たなコンテンツを生み出します。ウェビナーでは、画像生成AIにフォーカスし、その著作権について、よく議論される3つのポイントについて解説がなされました。
・著作物をAI学習に利用することの可否
・生成された画像の著作権の所在
・生成物が既存の著作物と似ていた場合の判断
著作物の利用について著作権法では、「著作物は思想または感情を享受させる目的でなければ必要と認められる限度で利用できる」(30条の4)と述べられています。
例えば、私たち人間が映画を観て心を動かされることなどが「享受」に当たります。AIに著作物を学習させる行為は「享受」ではなく、情報解析が目的となるため、原則は学習のための著作物の利用は可能と考えられています。
ただし、条文には「著作者の利益を不当に害する場合は利用できない」という但し書きが付いています。例えば、AIの学習用のデータを販売しているサイトから、データを購入せずサンプルをAIに学習させた場合、学習用データの著作者の利益を不当に害しているといえるでしょう。
さらに、「非享受目的と享受目的が併存する場合」は著作者の許諾が必要です。
既存の生成AIに数枚の画像を追加学習させて、その画像と同じ創作的表現の影響を受けた生成物を出力する技術がありますが、このような利用を行う場合は非享受目的と享受目的が併存している状態であると考えられ、画像の著作者の許諾が必要だといえます。
基本的に、AIが自律的に生成したものは、著作物にはならないと言われています。
著作物とは、著作権法で「思想または感情を創作的に表現したもの」(2条の1)と定義されていますが、AI生成物はAIというプログラムが作ったものであり、人間の思想または感情を創作的に表現できないとされているため、著作物には該当しないと考えられています。
ただし、画像生成AIを人間の創作的な表現の道具として使った場合は、生成物はAIの利用者の著作物になると言われています。画像生成AIを創作の道具として使用したと認められるには、人間の創作意図があるか、または創作的寄与を行なったかによります。例として以下の条件が挙げられますがこれらを総合的に考慮して判断されます。
・生成のためにプロンプトを工夫した
・何度も生成のトライアンドエラーを繰り返した
・複数の生成物を作って選択した
・人間による加筆・修正をした
これはAI生成物に限らず、例えば人間がイラストを(AIを使わず)描いた際も同様ですが、著作権の侵害になるか否かは、「類似性」と「依拠性」で判断されます。
類似性とは、言葉通り「似ているかどうか」を意味します。一方、依拠性とは、「参考にしたかどうか」を指します。
生成AIの場合、依拠性については、AI利用者が学習データである著作物を認識していたと認められる、もしくはAI利用者が著作物を認識していないが、学習データに含まれていた場合に依拠性がある、との見解があります。
この類似性と依拠性の両方に該当する場合、著作者の許諾を得られていなければ著作権の侵害となります。
ただし依拠性が認められにくい場合でも、似ているだけでクレームを受けることもあるため実務では慎重に判断し、対応する必要があります。
生成AIの急速な進化の中、法整備も進められていますが、まだ現状ではトラブルとなるリスクも数多く潜んでいます。そこで重要なことは、そのリスクを把握した上で、社内で利用方針を定め、その方針に基づいて生成AIを活用していくことです。
アマナでは、ビジュアル制作においての知見を活かし、画像生成AIのガイドライン策定もお手伝いしています。
アマナにおいても画像生成AIガイドラインの策定を行っています。あくまで全体の概要になりますがご紹介します。
ステップごとに確認事項を設けており、すべてクリアしたもののみ利用可能としています。
ステップ1では以下の観点などから、使用する生成AIサービスの妥当性を確認します。
・商用利用可能か
・禁止事項はないか
・リスクのある学習データを使っていないか など
ステップ2では生成物の活用シーンを確認し、リスクを洗い出します。例えば社内のみで活用するのか、社外の不特定多数に公開するかで生成AIの活用リスクは大きく異なると思います。
そしてステップ3では実際に画像生成を行う際に確認すべきことをチェック。このチェック項目は世の中の炎上事例を踏まえてトラブルになりやすいポイントを盛り込んでいます。前述した四代目徳次郎のプロジェクトも、このガイドラインに則り制作されています。
生成AIを活用することで、クライアントとのコミュニケーションの精度が上がり、インスピレーションを得てクリエイティビティを高めることが可能です。しかし同時にさまざまなリスクも存在します。そのためにも各社でガイドラインを定め、生成AIの利用に関する正しい知識を会社全体で共有することが重要となるでしょう。
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EVOKE
EVOKE
CO-CREATING FUTURES.
amana inc.のクリエイティブチームEVOKE。
クリエイティブコラボレーションを通じて、目指す未来を描き出す。
最近は、AIを活用したクリエイティビティの拡張に力を入れている。
amana著作権勉強会
amana著作権勉強会
昨今、SNSやオウンドメディアなどでさまざまな情報コンテンツの発信が増えている中、それに比例してコンテンツにかかる権利トラブルのリスクも高まっています。アマナでは長年のクリエイティブ制作の中で培った著作権に関するナレッジを、セミナーコンテンツ『amana著作権勉強会』としてご提供。 さまざまなトラブル事例をもとに、情報発信を行う際、注意しなければならないポイントを解説します。