「Immersive Museum TOKYO」の大迫力の没入(イマーシブ)体験を生み出す、アマナのCG制作を解剖

Immersive museum

360度、全方位に展開される絵画の世界。この没入感(=イマーシブ)こそ新時代のデジタルアート体験!と話題を呼んだ「Immersive Museum TOKYO vol.3」が、東京・新宿で開催されています。

今回のテーマは、「印象派と浮世絵~ゴッホと北斎、モネと広重~」。日本が初めて参加したパリ万博で注目を浴びた浮世絵はジャポニズムブームのきっかけとなり、モネやセザンヌ、ゴッホといった印象派の画家たちに大きな影響を与えました。印象派と浮世絵との出会いがどんな変化をもたらしたのか、「Immersive Museum TOKYO」では映像と音楽でその世界観を体感することができます。

vol.1、vol.2に続いて、今回もアマナのクリエイターたちが映像制作に参加。浮世絵の色の再現やCG制作、レタッチといった、クリエイティブ制作の裏側を紹介します。

関連記事:

vol.1:Immersive Museum 印象派 IMPRESSIONISM
vol.2:Immersive Museum TOKYO 2023 ポスト印象派 POST-IMPRESSIONISM

印象派と浮世絵の関係性を8つのシーンで表現

これまでの「Immersive Museum TOKYO」は日本橋三井ホールにて開催されましたが、vol.3はベルサール新宿南口へと会場が変更に。イレギュラーな事態において、vol.1とvol.2で映像制作と画像提供の実績があるアマナに再び制作参加への声がかかりました。

vol.3は、印象派の絵画と浮世絵の関係性を8つのシーンで構成しています。アマナが担当したシーンは、以下の4つ。

SCENE 02:ゴッホの浮世絵コレクション
SCENE 04:東洋と西洋
SCENE 07:ゴッホと浮世絵
SCENE 08:印象の夜明け

「vol.1のテーマは『印象派』、vol.2は『ポスト印象派』、vol.3は『印象派と浮世絵』ということで、西洋画に加えて浮世絵も取り扱う今回がいちばん難易度が高かったという印象があります。ただ前回・前々回同様に作品画像の提供をアマナが担っていたこともあり、どの画像が映像を制作していく上で適しているのか、期間内にどこまで制作ができるのか、といった判断を社内で素早くできました」(アマナ/プロデューサー・高野映里)

「制作にかかった期間は2カ月ほど。会場の規模が変わったことで投影する画像のサイズも変わり、前回と同じ絵であっても美術館でスキャンした新たな画像は前回と色味が違ったので、その調整なども行いました。CGディレクターを2名立てて、スムーズに進行させました」(アマナ/CGディレクター・佐藤翔太)

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当時の浮世絵の色、どう再現するか?

イメージングディレクターの仕事は「どう表現したらいいのだろう?」を具現化することだと、アマナの丸岡和世は語ります。vol.1から参加している丸岡に、今回のイメージングディレクションのポイントを聞きました。

「vol.3のストーリーでは、ゴッホが浮世絵を見て感銘を受け、その技法を自分の絵に取り入れたことを表すシーンがあります。その際、現存する古い版画の色ではなく、当時のゴッホが見たと思われる色を再現することが求められたのですが、誰も見たことがない色をどうやって再現すればいいのか?と頭を悩ませました。

そこで、日本画や版画の歴史を独自にリサーチ。版の重ね方や当時使われていた顔料の種類といった技術や知識を掘り起こし、劣化した色が本来はどんな状態だったのかを想像して再現しました」(アマナ/丸岡)

画像制作の際の指針とするために、内部用に資料を作成。当時の顔料の色合いをデジタル上で表現するための掛け合わせ値を策定し、当時の絵師や摺師の意図を想像しながら色のバランスを調整し、絵を読み解いていきました。

「劣化して褪色した絵は、全体を一律に彩度アップさせるとバランスが取れなくなります。スマホの画像調整のようにはいかないですね。時代の経過で抜けた色や明度の落差を考えながら、どのような色を目指せばいいかを体系化しました」(アマナ/丸岡)

色味の再現として目指すべき方向性が決まったことで、その後の画像レタッチが格段に捗りました。

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内部共有用に作成した資料。あくまでも色調整のための簡易的なリサーチと仮説でなされており、学術的な検証はされていません。

圧倒的な没入感を生んだ、CG制作の技術

vol.3で特に目を引いたのは、まるで飛行しているかのようにヨーロッパと江戸の街並みを交互に突き抜けていくシーン。「SCENE 04:東洋と西洋」は、額縁が世界をまたぐゲートの役割を果たし、ドローンに乗ったまま時空を超えて絵の中の世界を旅しているような気分になります。この演出をCGで作成したのが、アマナのCGディレクター・増田啓人です。

「平面の絵を3Dにモデリングして、木や建物などの立体物を全部描き起こしました。シチュエーションごとに風景を作り、それらを全部つなげるとカメラが一本道を進んでいるかのような映像が完成します」(アマナ/増田)

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制作中のモデリング画像。

印象派絵画と浮世絵を交互につなげていくため、街並みのパース感が違和感なくつながるように注意しながらCG作成を進めていったそう。元の絵の構造を維持しつつ、パース感に狂いが出ないようにさまざまな絵をつなげていくのは、かなり骨の折れる作業でした。

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2枚の絵のパースの検証。

「印象派絵画と浮世絵の遠近法が違うのではと心配していましたが、つなげてみたらどの絵も同じような比率で描かれていて、無理なくつなげることができました。西洋の絵師も東洋の絵師も、同じパースで描いていたんですね。また、映像を投影する壁の比率は横長ですが、浮世絵は縦位置のものが多くて、それを横長の画面にする際に、来場者に違和感なく見ていただけるアングルを探るのが難しかったです。
悩みましたが、結果的にはおもしろい構図に仕上げることができ、時間旅行を楽しんでいただけたと思います」(アマナ/増田)



AIを活用したアップスケールと画像生成



CG素材を制作したのは、アマナのCGディレクター・沼波奨悟。ポイントは2つあると言います。

① アップスケール
「すべての画像は実物よりもはるかに大きな壁面に投影されるため、それに耐えうる高画質にする必要があります。解像度が足りない画像についてはAIのソフトで修正し、アップスケールしていきました」(アマナ/沼波)

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浮世絵の色調や線の運びなどを考慮し、オリジナルの素材からAやBのような複数のアップスケールを作り、それぞれよき部分をミックスして解像度を上げた画像を完成させます。

②Photoshopの画像生成AI
画像の中を飛ぶような見せ方をしたり、たとえば波が寄せたり引いたりするような、絵画に動きをつける演出のために、一枚絵から背景を作っていく作業が必要になります。奥にある素材、たとえば空、島、森、川、並木、人、という感じで、以下のように描き出していきます。

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「絵の中では隠れている部分が多数あり、1つ1つを描き出すには見えない部分がどうなっているかを推測して補う必要があります。今回はPhotoshopの生成AIを使って人物などの隠れた部分を足し、さらに自分でも描き足しつつ不自然なところを修正して、切り抜いて着色していきました」(アマナ/沼波)

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左の絵のように、手前の人物と重なって見えない部分をPhotoshopの生成AIで補いつつ、全体像を描き出していき、右の人物像を完成させました。

こうした画像作成はAIを使うことでより精度が上がりますが、人の手による調整はまだまだ不可欠。CG制作とレタッチのスキルがあるクリエイターがいたからこそ、浮世絵という難しい題材でも違和感のない素材を作ることができ、また、「木や人物を増やす」といった場合にも対応が可能になりました。



ダイナミックな動きをプラスする、CGの作り方



「SCENE 07:ゴッホと浮世絵」では、「Immersive Museum TOKYO」のメインビジュアルにもなっているゴッホの『星月夜』と葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』が織りなす、迫力ある動きに見入ってしまいます。このシーンにおける没入感を生み出したのは、アマナのCGディレクター・佐藤翔太が作成した画像でした。

「『神奈川沖浪裏』を壁面に投影すると画像の範囲が足りないため、正面から左右に広がる2面から3面くらいのワイドサイズを作らなくてはならず、それがいちばん大変でした。レタッチで分解した素材を組み直し、細かく調整してワイド画面にしました」(アマナ/佐藤)

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ベースとなる、『神奈川沖浪裏』のレンダリング画像。

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完成したワイド画面の画像。

会場のサイズに合わせて、単に横長にしただけでは歪みやズレが出てしまうため、平面のまま絵を引き伸ばすのではなく、波の形を模した立体物に要素を置くことで、自然な立体感を出すことが可能に。丸いオブジェクトに貼り付けて、角度が変わっても違和感のない画像ができました。

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CG空間のキャプチャー画像。

「絵の再現性においてはダイナミックさを持ってほしいと監督からリクエストがあったので、その期待に応えたいと思い、本来の絵にはない部分もプラスしました。ワイドな空間に絵の要素を散りばめると、どうしても隙間ができてしまいます。『神奈川沖浪裏』については海面をどうしても作りたかったので、元々の絵にある素材(波や海面など)を組み合わせてワイドな絵を作りました。さらに波の動きに船の動きを連動させ、あちこちで大波が発生している様子など空間全体のレイアウトを手作業で整えていきました」(アマナ/佐藤)

海面と大波、船の動きの検証は、こちらの動画をご覧ください。

「SCENE 07」は、ゴッホの絵が多数浮かぶ中、場面転換するように『星月夜』と『神奈川沖浪裏』で空間が埋め尽くされ、その中に入り込んでいくという演出。「Immersive Museum TOKYO vol.2」で作成したデータも流用し、回転する動きを加えました。また、絵に使われている色を伸ばし、床面のストライプ模様を形成しました。

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床面の色構成を含めた会場全体の投影俯瞰図。

「『SCENE 07』はエンディング前のパートで、尺は5分。かなり長かったので、vol.2の画像を流用しつつ、3D映像を含む2D表現も織り交ぜて作成しました。演出の内容が多岐にわたり、なおかついろいろな要素を詰め込んだパートなので、監督が作った流れに沿って全体のスピード感や流れを調整し、レイアウトをしていきました。ダイナミックな動きをうまく表現できてよかったと思います」(アマナ/佐藤)


CG制作を支える効率化技術


「Immersive Museum TOKYO」の4つのシーンで活躍したアマナのクリエイティブですが、作業工程や画像点数が多かった今回はUSD(Universal Scene Description、ピクサー・アニメーション・スタジオが開発したプログラム)を導入して、効率化を図りました。

「USDは制作の新しいワークフロー(パイプライン)です。これまでCGの制作では複数のソフトを使用しており、画像の更新ややり直しが難しい場面もありましたが、USDがその架け橋となり、ソフト間でのデータの行き来がシームレスになりました。修正がしやすく、長尺のレンダリングも高速に行えるようになったことで、複数人での分業がよりスムーズになりました」(アマナ/増田)

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上は2つのソフトで同じ結果が共有できている画面。下は実際のソフトでレイヤー分けをしている作業画面。

インスタレーションの知見を有していたり、レタッチ技術やフォトグラファーとしての視点を持っていたりと、アマナにはいろいろなスキルを持ったクリエイターがいます。彼らがスムーズに連携し、ワンストップで案件に当たることができるチームワークがあるのがアマナの強み。公式アンバサダーの俳優・吉沢亮さんは、「ゴッホと北斎の絵が両サイドに出てくる演出はかっこよすぎたし、和の音楽と洋の音楽が混ざっている音とともに映像で2つが対比されているのが素晴らしくて、是非みなさんにも見てほしいです」と絶賛(プレスリリースより)している、「Immersive Museum TOKYO vol.3」。絵画に没入する新時代のアート鑑賞をぜひ体感してみてください。

イベント名:「Immersive Museum TOKYO vol.3 印象派と浮世絵 ゴッホと北斎、モネと広重」
期間:開催中~2024年10月29日(火)
会場:ベルサール新宿南口(東京都渋谷区千駄ケ谷5-31-11)
公式サイト:https://www.immersive-museum.jp/tokyo/
※入場はサイトより予約。座席に余裕があれば当日券あり。

<Immersive Museum TOKYO vol.3>(すべてアマナ)
プロデューサー:山本章夫、高野映里、菱田陽子
イメージングディレクター:丸岡和世
CGディレクター:佐藤翔太、増田啓人
レタッチャー:沼波奨悟、桜井なおみ
CGデザイナー:内山恭吾、蔦滉志

<画像提供>
ストックフォト:野副麻希子(アマナイメージズ)
クレジット: (c)Bridgeman Images / amanaimages,(c)Heritage Images /amanaimages,(c)Alamy Stock Photo /amanaimages

<記事制作>
取材・文:大橋智子

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