vol.161
毎年アメリカで開催される「Content Marketing World」は世界最大規模のコンテンツマーケティングカンファレンスです。2024年は「ひらめき」や「刺激」を意味する「Spark」をテーマに、3日間で多数のフォーラムを実施。マーケターやコンテンツ制作者、企業の広報担当者などがマーケティングの最新動向について学びました。
今回のウェビナーは、アマナでコンテンツマーケティングアドバイザーを務める野口洋人がContent Marketing World 2024の内容を振り返りながら、2025年のトレンドについて考察しました。
Content Marketing World 2024では、各界を代表するゲストがプレゼンテーションを行い、マーケティング業界の参加者が新しい知見や発見を共有しました。「Spark」をテーマにした2024年で、特に際立ったトピックは「生成AI」「脱SEO」「B2Bの一般消費者化」の3点です。
2024年は12月にChatGPTの最新モデルがリリースされるなど、AIプロダクトのリリースが目立ちました。生成AIは文章作成、データ調査、画像生成などそれぞれ得意分野があります。コンテンツ制作で実用できるレベルまで成長した各AIサービスの特徴を把握し、どこをAIに任せ、どこを人間が担当するか、役割分担が重要になってきています。
生成AIはプロンプトを入力するだけでテーマに沿った文章を作成できますが、野口は「実際にこれは企業として伝えたいことなのか。オーディエンスのニーズに合致しているのか。そういうことをAIは考えられない」と指摘します。
ビジネスの現場ではタイムパフォーマンスを求める「ASAP(As Soon As Possible=できるだけ早く)」という考え方が浸透しています。しかし、コンテンツ×AI活用では「As slow As Possible(できるだけ時間をかける)」という新しい「AsAP」が生まれています。
生成AIを使用することによって、コンテンツは容易に生成でき、業務効率は大きく向上するでしょう。しかし、戦略であったり、後述のコンテンツプランニングプリズムの3つの要素であったり、「コンテンツマーケティングの肝要となる部分は、人間が時間をかけて考えなければならない(=AsAP)」と野口は強調します。
Google検索でもAI活用がなされ、検索結果画面のトップに、Googleの生成AI「Gemini」による検索に対する回答が表示されるようになりました。これにより、ユーザーは検索結果ページから上位サイトをクリックして表示する必要がなくなり、ゼロクリックで情報を得られるようになりました。企業は今後、SEO重視のコンテンツ作成から脱却する必要に迫られているといえます。
マーケティングに押し寄せる変化はAIだけではありません。B2Bは企業と企業のビジネスですが、企業の担当者(バイヤー)にもデジタルネイティブ世代が現れています。バイヤーの購買行動はB2Cに近くなり、一般消費者化しつつあります。これからはB2Bビジネスであっても、toC同様の施策が求められ、バイヤーの目に留まるような独自性を押し出したコンテンツ制作をする必要があるといえるでしょう。
生成AIによるコンテンツ制作の変化、SEO重視から脱却したコンテンツ、B2Bの一般消費者化と、マーケティングを取り巻く状況は現在進行形で変化しています。しかし、コンテンツ制作の手法や機能が充実しても、それがユーザーニーズに合致していなくては意味がありません。
マーケティング調査機関による調査結果から、マーケターとユーザーでコンテンツに対する課題や不満にギャップがあることが分かりました。
2023年と2024年の調査結果を比較すると、「オーディエンスに対して適切なコンテンツを作れていない」「一度作ったコンテンツを再利用できていない」という課題はいずれも改善傾向にあることがうかがえます(下図)。
しかし一方で、2024年に大きな課題として浮かび上がったのが「期待したアクションを促すコンテンツを作れていない」という点です。ユーザーにリーチするコンテンツは作れていても、コンテンツ内でユーザーがホワイトペーパーをダウンロードしたり、問い合わせフォームを送信したりといったアクションやCVに繋げられていないのです。
B2BコンテンツはB2Cと比較して、ユーザーが商品を認知してから購入にいたるまでのジャーニーが複雑です。コンテンツのどのような工夫がユーザーに狙ったアクションを引き起こすのか、何が効果を上げているのかが分析しづらいといえるでしょう。
マーケターが「ユーザーに合うコンテンツが作れている」傾向が高まっているのに対して、ユーザーは2023年から2024年で「コンテンツがニーズに合致していないと感じる」割合が13ポイント増え、悪化傾向にあることが分かりました。
さらに、「コンテンツにアクセスするためのステップが多すぎると感じる」という不満も21ポイント増加。例えばホワイトペーパーをダウンロードするためのフォームへの入力項目が多い、目的のコンテンツに辿り着くためのクリック数が多いなど、コンテンツを大事に温めすぎてユーザーの元に届きづらくなっているなどが要因と考えられます。
コンテンツの二次利用や多数のプラットフォームへの展開を進めるマーケター側と、コンテンツへアクセスしづらくなっているという印象を持つユーザー側。このギャップをどのように埋めていくかが、ユーザー目線のコンテンツマーケティングを成功させる重要なポイントとなるといえます。
本セミナー内で、野口は、コンテンツマーケティングで重要視されている用語として「コンテンツオーケストレーション」を挙げます。オーケストレーションとは本来、管弦楽器をまとめて調和をとって演奏するオーケストラのように、点在する複数の物事を1つに編成して調整するという意味です。
これをコンテンツマーケに当てはめたものが「コンテンツオーケストレーション」であり、「ユーザーニーズを満たすコンテンツを、あらゆるフォーマットとチャネルで一貫性を持って発信し、1つの楽曲のように伝えていくアプローチ」を意味します。
セミナーでは、このコンテンツオーケストレーションを実行するフレームワークとして確立している「コンテンツプランニングプリズム」について、解説がなされました。
コンテンツプランニングプリズムは「Intent」「Information」「Interaction」という大きく3つの要素で構成されます。
「Intent」とは、コンテンツの目的や意図です。コンテンツ制作にあたって、その目的や意図について、マーケター側の目線とオーディエンス側の両者の目線から共通項を探り、明確化します。
例えば、マーケターにとってのコンテンツの目的は、認知向上や、「SDGs」など検索でヒットしやすいテーマを用いてリードを増やすことにあります。しかし、この目的を優先すると「ユーザーとつながるためのコンテンツ」を量産することになりかねません。
マーケターとユーザー、両者の「共通の目的」を探るには、以下の4つの質問が有用です(下図)。
今や、B2Bのカスタマーやバイヤーの7割以上がミレニアル世代やZ世代です。デジタルネイティブな彼らはPCよりもスマホに慣れ親しんでいるため、消費行動や検索行動も前の世代とは異なっていることを念頭に置きながら、Intentを整理しましょう。
続く「Information」は、どのようなフォームで、どういう具体的な性質を持つコンテンツを発信するかを考えるプロセスです。ユーザーにアイデアを与えるのか、情報提供なのか、データ開示なのか。アイデアであれば具体的なのか抽象的なのか、シンプルなのか複雑なのか。それぞれのフォームに対応する情報の伝え方を、整理していく必要があります。
コンテンツに適したフォーマットは目的によって変化しますが、昨今の調査ではSNSなどの短文テキストや画像、ショート動画などのショートフォームコンテンツや、ウェビナー/オンラインイベントに価値を感じるユーザーが多いことが分かっています。
これらの傾向も踏まえると、以下の5点が、Informationを整理する上で重要なポイントになるといえるでしょう。
最後の「Interaction」は、どのような文脈でユーザーにコンテンツを体験させるのかを考えるプロセスです。
具体的には、以下のような項目を考えながら、ターゲットユーザーに合わせてコンテンツ体験を設計します。
・ユーザーは何をしている時にコンテンツに触れるのか
・使用しているデバイスは何か
・どのプラットフォームからコンテンツにアクセスしているのか
・短時間で成果がほしいのか
・時間がかかっても深いインサイトがほしいのか など
例えば、PCを用いて仕事をしているユーザーであれば、資料はPDFが適していますし、ウェビナーへの参加もスマートフォンよりPCが多いでしょう。一方で、外回りなどの外出が多いユーザーであれば、移動中にスマートフォンでショート動画を見たり、Podcastの配信を聴いたりといった可能性も考えられます。
ユーザーが置かれているシチュエーションに合わせて、コンテンツの形態やプラットフォームを使い分けます。どこをタッチポイントにして、どのようなコンテンツに触れさせていくのかを十分に検討しながら、マーケティングのジャーニーを描きましょう。
アマナは、米コンテンツマーケティングスタジオであるIndustry Dive(インダストリーダイブ)と日本では唯一のパートナーシップ契約を締結。最新のグローバルトレンドを取り入れながら、コンテンツマーケティングを支援します。
単にコンテンツを制作するだけでなく、その根幹となるコンテンツマーケティングの戦略設計やユーザーニーズの把握、マネジメントツールを使用したモニタリングなど、トータルでサポートしています。コンテンツマーケティング運用に課題を感じている企業様は、お気軽にご相談ください。
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コンテンツマーケティングの本場であるアメリカで、業界を牽引するリーディングカンパニーであるIndustry Dive。国内唯一の独占パートナーであるアマナがその集合知を活用し、成果へと繋がるコンテンツマーケティングをサポートします。
企業が抱える課題に沿って、戦略策定からチーム構築、コンテンツ制作、効果測定まで、コンテンツマーケティングの運用をトータルで支援します。