本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
新しいビジネスアイデアは次々と生まれますが、同じ速さで消えていくことも少なくありません。変化の激しい時代において重要なのは、アイデアそのものではなく「なぜそれに取り組むのか」という問い――すなわち〝イシュー〟です。本書『ナラティブモデル』では、個人のナラティブから生まれるイシューこそが、長期的な価値創造の羅針盤になると説きます。第3回では、イシューを起点にビジネスを育てていく方法を紹介します。
〜本コンテンツは、書籍『ナラティブモデル』(酒井博基著・武蔵野美術大学出版局刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第3回/全4回)。
No.1:なぜ人は「物語」に共感するのか?ブランド価値を生むナラティブの力
No.2:事業が「ロジック集め」になっていないか?成功を左右する〝確信〟という土台
No.4:KPI達成がゴールになっていないか?本来の目的を見失わない方法(4月6日公開予定)
激動の時代には、新しいテクノロジーや市場トレンドが次々と登場し、かつての成功方程式は瞬く間に色あせてしまうものです。だからこそ、「何をやるか」というアイデア自体よりも、「なぜ取り組むのか」という揺るがないイシューが、長期的な羅針盤としての価値を発揮します。イシューとは、あなたが心の奥底で抱く問いであり、例えば「高齢者の孤立を解消したい」「環境負荷を減らしながら地域経済を活性化したい」といった、変化の波に流されない普遍的なテーマです。
不確実性が増すほど、ビジネスアイデアは次から次へと生まれ、同じ数だけ消えていきます。市場調査やデータ分析で得たロジックからビジネスアイデアを追いかけても、その鮮度は長続きしません。しかし、イシューにコミットすると、変化に振り回されずに、むしろ市場の揺らぎを味方にできるのです。例えば、リモートワークの導入というアイデアは一時のトレンドになったかもしれませんが、「誰もが自分らしい働き方で人生を全うしたい」というイシューは、テクノロジーがどう進化しようとも変わりません。
イシューにフォーカスすれば、自ずとアイデアの検証方法も変わります。アイデアを追いかけるのではなく、イシューに立ち返りながら小さな実験を繰り返し、何が本質的に人々の心に響くのかを見極める――これがナラティブモデルが提案するアプローチです。そして、この過程を通じて築かれたイシューへの揺るぎないコミットメントこそが、長期的なブランド資産となり、同じ思いを抱く仲間たちを求心力で惹き寄せます。
「アイデアに期限はあるが、イシューは長続きする」といえるでしょう。だからこそ、市場の波に左右されず、あなたの物語に根差したイシューを明確に持つことが、変化の時代を生き抜く最強の盾となります。まずは、自分が本当に譲れない問いを言葉にしてみましょう。その問いこそが、揺るがないビジョンを支える羅針盤となり、あなたのビジネスアイデアを次のステージへ導いてくれるはずです。
ナラティブメイドなイシューは、そのまま抽象的な論点として掲げるだけでは具体的な行動に結びつきにくいため、ビジネスアイデアに落とし込むときは、「誰に」「何を」「どのように」という視点でスコープダウンし、解けるサイズに落とし込むことが大切です。まず「Who」――その課題を最も切実に感じているターゲットは誰なのかを明らかにし、「What」――彼らが直面している具体的な困りごとは何かを言語化し、「How」――最初の一歩でどんな価値を届けられるかを定めましょう。こうして問いを絞り込むことで、初動の提供価値がはっきりします。
次に、この小さなビジネスアイデアを実際に試しながら「学習ループ」を回すフェーズが始まります。小規模なサービス版やワークショップ、ミニマムなプロトタイプといった「触れるもの」を用意し、ターゲットとなるユーザーからのリアクションをできるだけ早く集めるのです。
そのフィードバックを基に仮説を更新し、改良を重ねる――この繰り返しこそが、ナラティブを失わずにビジネスアイデアの確度を高める鍵となります。例えば、新たな働き方のイシューをビジネス化する場合、まずは「週に一度、体験談を交換するオンラインサロン」を立ち上げ、その参加者の声を基に次の提供価値を設計するようなイメージです。
こうして小さな成功体験を積み重ねることで、自分のナラティブに裏打ちされたイシュー解決の確信が徐々に強化され、事業アイデアは着実に実行可能なものへと進化します。そして、スモールスタートの利点はコストを抑えつつ、失敗の学びを最大化できる点にあります。大規模な投資を前提にせず、まずは自前のリソースで「どれだけ心を動かせるか」を試すことで、後の資金調達や拡張フェーズでも説得力が増すでしょう。
ここで大切なのは、初動で得た学びを次の実験にどう活かすかという姿勢です。常に「この提供価値はイシューの核心に迫れているか」を問い続け、小さな一歩一歩を丁寧に踏みしめることが、ユニークなアイデアを確かな事業へと育む最短ルートといえるでしょう。あなたもまずは、解けるサイズの問いへ落とし込み、スモールスタートで学びのループを回してみてください。それが、あなたのナラティブモデルにおける次の大きな飛躍を生むはずです。
(この記事は第3回/全4回)
No.1:なぜ人は「物語」に共感するのか?ブランド価値を生むナラティブの力
No.2:事業が「ロジック集め」になっていないか?成功を左右する〝確信〟という土台
No.4:KPI達成がゴールになっていないか?本来の目的を見失わない方法(4月6日公開予定)
▼書籍紹介
地域、大学、自治体の共創プロジェクトを多数手がけてきた著者が、「ナラティブ(物語)」の視点から価値創造のプロセスを体系化した一冊です。戦略やコンセプトを一方向的に伝えるのではなく、人や社会との関係性のなかで意味を共創していくための考え方を、理論と実践の両面から学ぶことができます。
▼書籍情報
書名:ナラティブモデル
著者:酒井博基
出版社:武蔵野美術大学出版局
発売日:2025年10月30日
リンク:https://www.musabi.co.jp/books/b463177/
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