KPI達成がゴールになっていないか?本来の目的を見失わない方法

ナラティブデザイン
本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。

事業化のフェーズに入ると、KPIや資金調達などの数値目標が重視されるようになります。しかし、それらが目的化してしまうと、本来の動機や社会的意義を見失うことがあります。本書『ナラティブモデル』では、数字とナラティブのバランスを保ちながら事業を成長させる視点を提示します。最終回となる第4回では、目的と手段を取り違えないための考え方と、事業化におけるリスクとの向き合い方を紹介します。


〜本コンテンツは、書籍『ナラティブモデル』(酒井博基著・武蔵野美術大学出版局刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第4回/全4回)。

No.1:なぜ人は「物語」に共感するのか?ブランド価値を生むナラティブの力

No.2:事業が「ロジック集め」になっていないか?成功を左右する〝確信〟という土台

No.3:アイデアは消えても「イシュー」は残る。変化に強いビジネスのつくり方


事業化検討のプロセスで起こりがちな目的倒錯

ナラティブモデルを通じて生まれたイシューやストーリーは、事業化検討のフェーズに入るときこそ、本来の動機や意義を失わないために注意が必要です。なぜなら、資金調達やKPI(重要業績評価指標)が持つ力は、プロジェクトを前に進める一方で、手段を目的に転化させやすいからです。資金を集めること自体が「成功」と見なされてしまったり、数値目標の達成が達成感へとすり替わったりすると、最初に抱いた「なぜこのイシューに取り組むのか?」という問いが薄れてしまいます。

まず心に留めたいのは、数字はあくまで物語を実装するための指標であり、本来の動機を語るストーリーそのものではないという点です。例えば、「月間ユーザー数10万人達成」をKPIに掲げると、この目標達成だけを追いかける動きが生まれがちです。しかし、その背後には「なぜそのユーザーにサービスを届けたいのか」「どんな社会的価値を生み出すのか」というナラティブがあるはずです。

ここで大切なのは、定期的に自分自身やチームに「なぜこの事業を続けるのか」「このイシューと私たちのストーリーはどうつながっているのか」を問い直すことです。この問い直しが動機の鮮度を保ち、数字偏重による目的倒錯を防ぎます。

そして、動機や意義をチーム全体で再確認する場を定期的に設けることも大切です。月次ミーティングの冒頭で創業ストーリーを振り返ったり、メンバー一人一人に「今日、誰にどんな価値を届けたか」をシェアしてもらったり――こうした小さなルーティンが、数字と物語をつなぎ止める役割を果たします。さらに、外部ステークホルダーとの対話でも、自社のナラティブを語ることを怠らないようにしましょう。投資家やビジネスパートナーに対しても、「この事業を通じて社会にどんな選択肢を増やしたいのか」を明確に伝えることで、計画書の数字以上に共感と支援を引き出せるかもしれません。

結局のところ、事業化検討フェーズはナラティブを試すと同時に、数字とのバランスを取る鍛錬の場でもあります。あなたの物語が持つ力とそして数字が示す成果、その両方を健やかに育てることで、真に社会にインパクトをもたらすビジネスへと成長させることができるでしょう。ぜひ、このプロセスを通じて「目的と手段の適切な関係性」を見失わないようにしてください。

事業化における自分にとってのリスクを問い直す

ナラティブモデルを実践し事業化を進める際、プロジェクトの外的リスクだけでなく、自分自身が抱えるリスクを正面から見つめ直すことも欠かせません。金銭的な負担や時間的制約、評判への影響は誰もが想像しやすいビジネスリスクですが、それ以上に「やらなかった後悔」という機会損失も、見過ごせない大切なリスクです。ナラティブモデルでは、この「自分にとってのリスク」をナラティブと結びつけ、恐れを学びのテーマへと変換することを提案します。

まず、自身のナラティブとリスクを紐づけることから始めましょう。例えば、あなたが「過去に見過ごした顧客の声を大切にしたい」というナラティブを持っているなら、その実践に伴う金銭的負担や時間的投資は、「顧客理解を深め、事業の本質をつかむ」という学びに直結します。一方で、「もし挑戦しなかったら、自分の信じる価値が社会に届かない」というもどかしい感情もリスクとして捉えることで、その両面を天秤にかける視点が得られます。ここで大切なのは、リスクをネガティブにのみ評価するのではなく、あなたのナラティブを前進させるエネルギーとして再定義することです。

次に、社会が〝責任が取れる範囲〟までしか挑戦を許さないという制約を、むしろ資源と捉えてみましょう。例えば、大きな借入や大規模投資をせずとも、小規模なモデルケースやパイロット版を通じて市場反応を探ることで、想定外のリスクを限定的に抑えつつ学びを得ることができます。クラウドファンディングを利用するのも一つの方法です。事前に共感を呼ぶナラティブをしっかり語り、支援を募ることで、資金調達と同時に顧客ニーズへのフィードバックを早期に得られます。これは「まずは小さく始める」ことで事業化へのリスクを最小化しつつ、ナラティブのリアルを検証するスマートなアプローチといえるでしょう。

さらに、リスクには金銭・時間・評判以外にも、「人間関係の摩擦」や「自己効力感の低下」といった心理的な要素も含まれます。事業化の過程では、ステークホルダー間の利害調整や社内外のコミュニケーションでジレンマが生じやすく、ここでのストレスを過剰に恐れてしまうと、あなたのナラティブに根差した挑戦が萎んでしまうかもしれません。そうならないためには、あらかじめ「何を最優先し、どこまでは妥協可能か」を明文化し、関係者と共有することをおすすめします。これにより不確実性を減らし、摩擦が起こった際の対応軸を常に手元に置くことで、心理的安全性を高めることができます。

このように、事業化における自分にとってのリスクを問い直し、ナラティブと紐づけて再解釈するプロセスは、あなたの物語をより強固にし、同時に長期的に持続可能なビジネスを育むための重要なステップです。恐れをただの障壁にせず、学びのテーマへと昇華させることで、あなた自身とあなたのストーリーを社会に新たな価値として届けていきましょう。


(この記事は第4回/全4回)

No.1:なぜ人は「物語」に共感するのか?ブランド価値を生むナラティブの力

No.2:事業が「ロジック集め」になっていないか?成功を左右する〝確信〟という土台

No.3:アイデアは消えても「イシュー」は残る。変化に強いビジネスのつくり方


▼書籍紹介

地域、大学、自治体の共創プロジェクトを多数手がけてきた著者が、「ナラティブ(物語)」の視点から価値創造のプロセスを体系化した一冊です。戦略やコンセプトを一方向的に伝えるのではなく、人や社会との関係性のなかで意味を共創していくための考え方を、理論と実践の両面から学ぶことができます。

▼書籍情報

書名:ナラティブモデル
著者:酒井博基
出版社:武蔵野美術大学出版局
発売日:2025年10月30日
リンク:https://www.musabi.co.jp/books/b463177/


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