2026年のADFESTが掲げたテーマは「Human+」でした。アジア太平洋地域のクリエイティブを見渡すこの広告賞が、今年あらためて焦点を当てたのは、テクノロジーそのものではなく、それを通じて人にどんな体験や行動を生み出せるかという点です。ADFEST自身も、「Human+」を人の創造性や共感、意味ある行動を支えるための視点として位置づけています。
ブランドの仕事が、メッセージを届けるだけで完結しないことは、いまや多くの現場で実感されているはずです。理解しやすいか、自分ごととして受け取れるか、動きやすいか。そうした体験まで含めて設計することが、これからのブランド体験ではますます重要になっています。
そこで本記事では、ADFEST 2026の受賞作のなかから6作品を取り上げ、「Human+」というテーマを手がかりに読み解いていきます。表現の巧みさだけでなく、人との関係のつくり方に注目しながら見ていきたいと思います。
「Human+」という言葉は、解釈の幅が広いテーマです。だからこそ、受賞作をただ眺めるだけでは、技術の新しさやアイデアのおもしろさに目が向いて終わってしまいがちです。今回の記事では、そうした表面的な見方ではなく、ブランド体験設計という観点から6作品を見ていきます。
そのとき、手がかりになりそうなのが次の3つの視点です。
情報を届けることと、人を動かすことは同じではありません。受け手が理解しやすいか、ためらわずに行動できるかまで含めて設計されているかを見ることで、作品の意味は変わってきます。
ブランドの思想や信頼、安心感のような価値は、そのままでは伝わりにくいものです。それがどのような体験や接点に変換されているのかも、「Human+」を読むうえで重要な視点になります。
AIやデータ、音声、デバイスなどの技術は、それ自体が価値になるわけではありません。人の感情や判断、行動にどうつながっているのかを見ることで、技術の役割が見えやすくなります。
ここからは、この3つの視点を手がかりに、ADFEST 2026の受賞6作品を見ていきます。
今回取り上げる6作品は、表現としての完成度はもちろん、それぞれが異なるやり方で「Human+」を形にしている点が興味深い事例です。大がかりな技術実装もあれば、店頭の小さな工夫から生まれた仕事もあります。だからこそ、何を使ったかではなく、それを通じて人にどんな状態をつくっているかを意識しながら読むと、見え方が変わってきます。
出典:@TheApichai/Nikka Whisky’s brand refresh by Dentsu Inc Japan takes an unconventional approach to whisky bra
作品名:No Labels
クライアント:Nikka Whisky
エージェンシー・国:Dentsu Inc. Tokyo/日本
部門:Print & Outdoor Craft Grande、Design Gold など
価格や産地、熟成年数といったウイスキーのラベルだけでなく、飲み手側の見方まで問い直し、「誰もが自分らしく楽しめる」という思想を視覚表現に落とし込んだ作品です。酒類広告に多いシズル表現ではなく、光と影、色彩の重なりで世界観を立ち上げています。
・Target
ウイスキーに対して既存のイメージや属性ラベルを持つ生活者、ならびに新しい飲み手層。
・Message & Action
価格・産地・熟成年数といったウイスキー側のラベルだけでなく、年齢・性別・社会的属性といった飲み手側のラベルも外す、という発想から構想された作品です。実装では、形の異なるボトルに光を当て、背後に変化するシルエットを投影。さらに人物のシルエットも取り込みながら、「Savour the Joy of Life」というメッセージを、説明ではなく視覚体験として伝えています。
・Insight for Brand Manager
ブランドの姿勢を伝えるとき、要素を足して語ることが最善とは限りません。何を削ぎ落とし、どこに表現の精度を集中させるかによって、ブランドの考え方がより強く伝わることがあります。
出典:@famima_no
作品名:Save Me
クライアント:FamilyMart
エージェンシー・国:The Breakthrough Company GO/日本
部門:Creative Strategy Gold、Commerce Silver など
値下げ商品に貼られる小さなシールを、単なる価格訴求ではなく、思わず手を伸ばしたくなる感情のサインへ変えた施策です。食品ロスという課題を、店頭で反応できる接点へ落とし込んでいます。
・Target
値下げ商品に接する来店客。
・Message & Action
消費期限の迫った中食商品に貼る値下げシールを、涙目のキャラクターとメッセージを組み合わせたデザインに変更しました。値引き情報の見せ方を変えることで、購買行動そのものを動かそうとした取り組みです。
・Insight for Brand Manager
社会課題に向き合うコミュニケーションは、理念を強く語ることだけでは成立しません。生活者が行動するその瞬間の気持ちをどう設計するかが、ブランドの姿勢を伝えるうえでも重要になります。
出典:@ADFESTOfficial /ADEST 2026 Grande of PR Lotus: “One Noodle” by BLKJ Havas, Singapore
作品名:One Noodle
クライアント:Haraku Ramen
エージェンシー・国:BLKJ Havas/シンガポール
部門:PR Grande、Design Bronze など
「ゲームを止めずに食べられるラーメン」という発想を、そのまま商品体験にした作品です。3.5メートルの一本麺というシンプルなアイデアが、一目で伝わる強さを持ち、話題化と来店動機の両方につながっています。
・Target
ゲーム中に食事でプレイを中断したくない若年層、とりわけゲーマー。
・Message & Action
Harakuは、3.5メートルの一本麺を開発しました。単なる話題づくりではなく、麺の強度や食べやすさまで含めて設計されていた点が特徴です。体験のインパクトと実用性を両立させることで、商品そのものがメディア価値を持つ設計になっていました。
・Insight for Brand Manager
人に話したくなる体験は、それだけでブランド資産になります。PRの設計では、情報量より先に「一言で伝わる体験の核」があるかどうかが問われます。
出典:@SuncorpAUNZ/Introducing Suncorp Haven
作品名:Haven
クライアント:Suncorp Insurance
エージェンシー・国:Leo Australia/オーストラリア
部門:Brand Experience Gold、Digital Craft Gold など
気候リスクや住宅データのように見えにくい情報を、生活者が自宅の問題として理解し、備えへ移せる形に変えたプラットフォームです。データを見せるのではなく、行動を促す体験へ組み替えています。
・Target
自宅の災害リスクに不安を抱えつつも、具体的な備えに踏み出せていない生活者。
・Message & Action
bushfire、flood、cyclone、storm などの自然災害リスクを住宅ごとに可視化し、その家に合った備えのヒントやレポートを提示するデジタル体験です。見えにくい気候リスクを、自分の家の問題として理解し、次の行動へつなげることを目指した設計になっています。
・Insight for Brand Manager
データは、可視化しただけでは価値になりません。生活者が「では何をすればいいのか」まで見える形に翻訳されて、はじめてブランド体験として機能します。
出典:@BBDO_Asia/Play the Dew – Case Film
作品名:Play the Dew
クライアント:Mountain Dew
エージェンシー・国:BBDO Guerrero/フィリピン
部門:Digital Craft Gold
ブランド名そのものを、見るものではなく、声に出して遊ぶものへ変えた作品です。名前の“音”を起点に参加型の体験をつくり、ブランド接点を遊びの場へ広げています。
・Target
ゲーム、SNS、ショート動画に親和性の高い若年層。
・Message & Action
Mountain Dew の通称「DEW」に着目し、「DEW」という発声をゲーム体験の一部に組み込みました。最終的にはTikTok上で音声入力型のゲームフィルターへ展開され、ユーザー自身が声に出してプレイに参加できるようになっています。
・Insight for Brand Manager
ブランド資産は、ロゴやカラーだけではありません。名前や音も、それが参加の入口になった瞬間に強い接点へ変わります。既存資産を“使われる体験”へ変換できるかは、今後の重要な視点です。
出典:@dentsu international india/Garuda Rakshak | DSP Mutual Fund | Dentsu Creative India | Case Study
作品名:Garuda Rakshak
クライアント:DSP Mutual Fund
エージェンシー・国:Dentsu Creative Gurugram/インド
部門:INNOVA Lotus、Effective Gold など
巨大な祭礼の混雑のなかで起きる子どもの迷子に対し、捜索と再会のプロセスを支えるために設計されたソリューションです。ドローンやリストバンドを使いながらも、狙いは技術の先進性ではなく、「確実に再会できる状態」をつくることにあります。
・Target
大規模祭礼の混雑のなかで、子供の迷子が起こりやすい現場。
・Message & Action
低周波無線、衛星追跡、リストバンド、ドローンを組み合わせ、通信混雑下でも運用できるよう設計された捜索ソリューションです。保護者がIDを読み取ると、ドローンが位置を特定し、地上チームへ情報を共有します。
・Insight for Brand Manager
社会課題に向き合うブランドにとって重要なのは、メッセージの正しさだけではありません。現場で本当に機能する仕組みをどこまで実装できるかが、信頼を左右します。
今回取り上げた6作品は、業種も手法も異なりますが、ブランド体験設計の観点から見ると、いくつか共通して考えたいことがあります。ADFEST 2026の「Human+」が示していたのも、技術や表現の新しさそのものではなく、それを通じて人との関係をどう設計するか、という問いだったのではないでしょうか。
ブランドの価値は、伝えたいことを整理するだけでは届きません。どの接点なら反応しやすいか、どんな形なら行動に移しやすいかまで設計されて、はじめて届くものになります。今回の6作品では、その“反応しやすさ”の設計が印象的でした。
思想や信頼、社会的意義のような価値は、言葉だけでは伝わりきらないことがあります。今回の事例が示していたのは、価値は説明するものというより、体験の質を通じて伝わるものだということです。どんな体験にすれば、その価値を自然に感じ取ってもらえるのか。この視点は、ブランド設計においてますます重要になりそうです。
AIやデータ、ドローン、音声入力など、使われている技術はさまざまです。ただ、今回評価されていたのは、技術を入れた事実ではなく、それによって人の理解や判断、参加のあり方がどう変わったかでした。技術活用を考えるときも、導入の有無より先に、どんな行動変化を生みたいのかを起点にしたほうが、ブランド体験としての精度は上がります。
今回の6作品を通して見えてきたのは、「Human+」が単に先端技術を取り入れることを意味する言葉ではない、ということです。ADFEST 2026がこのテーマで問いかけていたのは、技術やデータ、表現や仕組みを通じて、人との関係をどう設計し直すかという視点でした。
ブランドに求められているのも、「何を言うか」だけではありません。どんな接点で、どんな体験として価値を立ち上げるのか。つまり、ブランドと人との関係そのものをどうつくるかが、これからのブランディングではいっそう重要になっています。
そう考えると、「Human+」は技術導入の合言葉ではなく、ブランドが人にとってどんな意味のある体験をつくれるかを問い直すための視点だと言えそうです。これからのブランド体験設計では、何を足すかより先に、その接点で人にどんな変化を生み出したいのかを考えることが、より大切になっていくのではないでしょうか。
こうしたブランド体験を実務に落とし込むには、価値整理から接点設計、表現開発、実装までを切り分けずに考える必要があります。社内だけで整理しきれない場面も少なくありません。
ブランド全体の設計やコミュニケーションの見直しを進めたい場合は、アマナのブランディング支援がその出発点になります。ブランドの価値をどう整理し、どの接点でどう伝えるかを戦略と表現の両面から検討したい方は、こちらをご覧ください。
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また、AIや先端技術を取り入れながら、新しいブランド体験や表現の可能性を探りたい場合は、A³ | amana AI Architectsの資料も参考になります。技術導入そのものではなく、ブランド体験にどう生かせるかを検討したい方は、資料ダウンロードから全体像をご覧ください。
文:小林拓美
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