2026年Clio Awards(クリオ賞)受賞作品に見る、ブランド体験と「実装型クリエイティブ」の最新トレンド

2026年Clio Awards受賞作品に見る、ブランド体験と実装型クリエイティブの最新トレンド

世界有数の国際広告賞として知られる「Clio Awards(クリオ賞)」。広告、デザイン、デジタル、OOH、PR、ブランド体験など、幅広い領域のクリエイティブを対象に、世界各国の優れた作品を表彰しています。

近年の受賞作品を見ていると、広告はもはや「印象的なメッセージを届けるもの」だけではなくなっています。生活者が実際に参加できる体験、社会の中で機能する仕組み、プロダクトやブランドの価値を再解釈するアイデアなど、より立体的なコミュニケーションが評価される傾向が強まっています。

2026年のClio Awardsでも、その流れは鮮明です。ブランドが社会的な議論や日常の不便、医療や子育ての課題、人と人とのつながりといった具体的な文脈に入り込み、メッセージを体験や行動へと変換する作品が目立ちました。

一方で、AIをはじめとするテクノロジーの活用も、単なる話題化ではなく、課題解決やブランド価値の「社会実装」に向かっています。さらに、効率化や自動化が進む時代だからこそ、人の手によるクラフトや、ブランドの思想を映し出す制作プロセスにも改めて注目が集まっています。

本記事では、2026年Clio Awardsの受賞作品から6つの事例を紹介しながら、これからのブランドコミュニケーションに求められる視点を読み解きます。

2026年Clio Awards受賞作品の紹介:6つの先進事例

1.Tecate:「Gulf of Mexico(Bar)」

社会課題/ブランド体験

出典:@LLLLITL/Tecate – Gulf of Mexico Bar (case study)

 メキシコのビールブランド「Tecate」は、「メキシコ湾(Gulf of Mexico)」という名称をめぐる政治的・文化的な議論を、ブランドアクションへと転換しました。

同キャンペーンでは、単に意見を表明するのではなく、「Gulf of Mexico (Bar)」という実在性のあるリアルな場(バー)を立ち上げることで、自国の文化的アイデンティティを可視化しました。地名をめぐる硬質な議論を、生活者が実際に訪れ、語り、共有できるカジュアルな体験へと変換した点に、この施策の特徴があります。

Tecateは、メキシコの人々にとって身近なビールブランドとして、社会的な出来事に対して“ブランドらしい反応”を示しました。政治的なメッセージを前面に出すのではなく、ユーモアと体験設計を通じて、自国の文化や誇りを守る姿勢を表現しています。

2.SHIPS:「CRAFTMAN.SHIPS」

デザイン/周年事業

出展:@SHIPSchannel/【SHIPS 設立50周年】「CRAFTMAN, SHIPS 青いまま進む」アニメーション動画

日本のセレクトショップ「SHIPS」が、ブランドの50周年を機に制作された映像作品「CRAFTMAN.SHIPS」。

特徴的なのは、デジタルエフェクトや3DCGに頼らず、「刺繍」によるストップモーションアニメーションでブランドの世界観を表現している点です。糸、布、縫製といったファッションブランドにとって本質的な要素を用いながら、膨大な時間と職人技(クラフトマンシップ)をかけて映像をつくり上げています。

この作品は、ブランドのこだわりを言葉で説明するのではなく、制作手法そのもの(プロセス)によって示しています。効率化や自動化が進む時代において、あえて人の手による表現を選ぶことで、SHIPSが半世紀にわたり大切にしてきた「ものづくりへの姿勢」をエモーショナルに伝えています。

3.Moncler:「Warmer Together」

ストーリーテリング/ブランド体験

出展:@moncler/Warmer Together with Al Pacino and Robert De Niro

プレミアム・ダウンジャケットで知られる「Moncler(モンクレール)」 の「Warmer Together」は、ブランドが持つ「暖かさ(Warmth)」という価値を、機能面だけでなく情緒面へと広げたキャンペーンです。

同ブランドのプロダクトは、過酷な寒さから身体を守る高機能ウェアとして知られています。しかし本キャンペーンでは、その暖かさを、人と人との関係性や長く続く友情と重ね合わせて描いています。

プロダクトの性能を直接的に訴求するのではなく、ブランドが提供する感情的な価値を丁寧に表現している点が印象的です。高級感やファッション性だけに寄せるのではなく、人間的な温度感を軸に据えることで、ブランドの魅力をより広い文脈で伝えています。

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4.Ziploc:「Preserved Promos」

モバイルコマース/プロダクトイノベーション

出展:@LLLLITL/Ziploc – Preserved Promos (case study)

家庭用保存袋ブランドの「Ziploc(ジップロック)」による「Preserved Promos」は、期限切れになった他社の食品関連のクーポンやプロモーションを、新たな買い物体験につなげる画期的なモバイルコマース施策です。

多くの生活者にとって、使い忘れたクーポンは小さな損失感を生むものです。このキャンペーンは、そうした日常の中にある不満に着目し、期限切れのプロモーションを自社の新しい割引へと変換(保存)できる仕組みを設計しました。

具体的には、ユーザーが手元にある「使用期限切れのクーポン」の写真を専用サイトにアップロードすると、そのクーポンは米国全土の80以上の小売チェーンで使える新しい割引としてアップサイクルされます。使えなくなったはずのクーポンが、より広い利用可能性を持つ割引として再生される点が、この施策の革新的なポイントです。

割引を適用するための唯一の条件は、カートに「Ziploc製品」を入れること。Ziplocはもともと、食品などを「保存する(Preserve)」ための商品です。その機能価値を、食品だけでなく、「生活者が失いかけていたお得感や購買機会の保存」へと拡張した点がユニークです。プロダクトの機能と購買体験を結びつけた、実用性の高いアイデアだといえます。

5.Stella Artois:「Claustrobars」

OOH/ブランド体験

Stella Artois OOH

出展:https://www.dandad.org/work/d-ad-awards-archive/stella-artois-claustrobars

出展:@OneTvStudio/STELLA ARTOIS LANZA CLAUSTRO BARS

ベルギーのプレミアムビール「Stella Artois(ステラ・アルトワ)」の「Claustrobars」 は、混雑したバーで人々が肩を寄せ合うように過ごす状況を、ブランド体験として描いたアウトドア広告(OOH)です。

都市のバーでは、隣の人との距離が近く、身動きが取りづらい場面も少なくありません。本来であればネガティブ(窮屈)に捉えられがちなその状況を、Stella Artoisは「それでも、親しい仲間と共にあるその一杯には、何者にも代えがたい価値がある」という文脈に置き換えました。

洗練されたビジュアルだけでブランドを語るのではなく、生活者が実際に感じている場の空気や感情をすくい上げている点が特徴です。少し不便で、少し窮屈だからこそ記憶に残る。そんなリアルな飲用体験を、ブランドへの愛着・ブランドへの価値につなげています。

6.EUROFARMA:「Baby Minder」

AI活用/医療・社会課題解決

出展:@Eurofarma/Baby Minder: tecnologia pioneira identifica condições neurológicas em bebês

ブラジルの製薬会社「EUROFARMA」が開発した「Baby Minder」は、乳幼児の微細な動きをAIで観察し、神経疾患の早期兆候を医師に知らせることを目指した医療支援プロジェクトです。

乳幼児は、自分の体調や違和感を言葉で伝えることができません。そのため、日々の動きや反応の変化をどのように捉えるかは、保護者や医療従事者にとって重要な課題です。

このプロジェクトでは、AIを単なるプロモーションの話題化のために使うのではなく、観察や診断を支援する具体的な仕組み(プロダクト・サービス)として活用しています。テクノロジーの新しさそのものではなく、それが「誰のどのような不安や負担を軽減するのか」に焦点が置かれている点に、現代的な意義があります。

2026年Clio Awardsに見るクリエイティブトレンド

2026年のClio Awards受賞作品から見えてくるのは、広告表現が「伝えるもの」から「社会や生活者の中で機能するもの」へと、さらに重心を移していることです。

かつてブランドコミュニケーションでは、いかに印象的なメッセージを掲げるか、いかに美しいビジュアルで記憶に残すかが重視されてきました。もちろん、表現の強度が重要であることは今も変わりません。しかし今回の受賞作品を見ると、優れたクリエイティブは、単に見られるだけでなく、生活者の行動や感情、社会的な文脈に入り込み、何らかの体験や仕組みとして成立していることが分かります。

トレンド1:生活者の実感から、ブランドの役割を設計する

特に印象的なのは、ブランドが扱うテーマの具体性です。社会的な議論、日常の不便、購買行動の中で生まれる小さな不満、医療や子育てに関する不安、人とのつながりに対する感情など、いずれも生活者にとって切実な文脈に根ざしています。

大きな理念(パーパス)を掲げるだけではなく、生活の中にある実感から出発し、そこにブランドがどのように関われるのかを具体的に設計している点が、今回の受賞作に共通する特徴です。

また、メッセージを広告枠の中で完結させるのではなく、リアルな場所、購買体験、プロダクト利用、映像表現、テクノロジーなど、複数の接点を組み合わせながら、ブランドの価値を立体的に伝える動きも目立ちます。生活者が実際に参加したり、利用したり、共有したりできる状態をつくることで、広告は一方的な発信ではなく、ブランドとの接点そのものへと変化しています。

トレンド2:テクノロジーは、話題化ではなく「実装」のために使われる

AIをはじめとするテクノロジーの使い方にも変化が見られます。新しい技術を使ったこと自体が評価される段階から、その技術によって何が改善されたのか、誰の負担や不安が軽減されたのか、実効性が問われる段階へと移っています。

つまり、テクノロジーは話題を生むためのプロモーション装置ではなく、ブランドが社会や生活者の課題に向き合うための「実装手段」として位置づけられつつあります。

これは、AI活用が一般化した現代において、今後さらに重要になる視点です。技術の新しさだけでは差別化が難しくなるからこそ、その技術をどのような課題に向け、どのような体験や価値に変換するのかが、クリエイティブの評価を左右していくと考えられます。

トレンド3:AI時代だからこそ、クラフトと「人間的な温度感」が再評価される

一方で、効率化や自動化が進む時代だからこそ、人の手による表現や、時間をかけて積み上げられたクラフトの価値も改めて注目されています。

手仕事、質感、偶然性、作り手の痕跡といった要素は、AIでは均質化しやすい表現に対する一つの対抗軸になっています。ブランドの思想や歴史を伝えるうえで、「どのようにつくったか」というプロセスそのものが、強いメッセージになる時代だといえるでしょう。

さらに、プレミアムブランドの表現にも変化が見られます。洗練された世界観を保ちながらも、 人間的な温度感や、生活者が共感できるリアルな体験と結びつけることで、ブランドへの親近感や信頼(ファン化)に繋げています。

ブランドの思想を、体験として形にするために

2026年のClio Awards受賞作品を通じて見えてくるのは、ブランドコミュニケーションにおいて「何を言うか」だけでなく、「どのような体験として届けるか」「どう実装するか」がますます重要になっているということです。

生活者の価値観や接点が多様化する中で、企業が自社の想いやブランドの個性を伝えるには、単にメッセージを掲げるだけでは十分ではありません。ブランドが社会や生活者とどのような関係を築きたいのか。その考えを、ビジュアル、映像、空間、デジタル体験、プロモーション施策など、さまざまな接点に落とし込んでいく必要があります。

アマナでは、ブランドの価値や課題を整理し、コミュニケーション全体の方向性を設計するブランディング支援を行っています。コンサルタント、プランナー、プロデューサー、クリエイティブディレクターをはじめとする多様な人材が、企業の課題に応じたソリューションを提案。さらに、アートディレクター、コピーライター、エディター、フォトグラファー、映像プランナー、CGクリエイター、レタッチャー、デジタルスペシャリストなどのクリエイターが、その思想を具体的な表現へと落とし込んでいきます。

ブランドの思想を、生活者に届く体験として形にすること。そのためには、戦略と表現、テクノロジーとクラフトを横断しながら、ブランドらしい接点を設計していく視点が欠かせません。

広告が単なる発信ではなく、生活者との関係をつくる体験へと変化している今、企業には、自社の価値をどのように可視化し、どのように社会や生活者の中で機能させるのかが問われています。Clio Awardsの受賞作品は、その問いに対する多様なヒントを示しているといえるでしょう。

アマナのサービス: 
プランニング&デザイン -ブランディング

文:小林拓美

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