本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
企画や施策を動かす前に、情報収集や計画づくりに時間をかけるのは自然なことです。ですが、準備を重ねるほど判断が鈍り、かえって前に進めなくなる場面もあります。本書で触れる「回避術」は、条件がそろうまで待つのではなく、不完全な状況でも進める道筋を探す考え方です。第2回では、計画しすぎることで生まれる停滞と、動きながら精度を上げる進め方を考えます。
〜本コンテンツは、書籍『どうにかする めちゃくちゃな状況で「圧倒的な結果」を出している人と組織の思考法』(パウロ・サバジェ著、水谷淳訳・ニューズピックス刊)から一部を抜粋・編集したものです(この記事は第2回/全4回)。
No.1:仕事で直面した困難な状況を解決する「4つの回避術」とは何か
No.3:新しい企画が通る組織は「正しさ」より「試せる余白」を持っている(6月3日公開予定)
No.4:企画を前に進める人は、内容だけでなく「誰を巻き込むか」を先に考えている (6月4日公開予定)
経営戦略の違いによって、回避術が促されることもあれば妨げられることもある。あなたの組織で回避術を活用するには、「効率的で長期的な計画を立て、階層的な意思決定をおこない、状況に関する完全な情報を集める」という古い考え方を葬り去って、別の戦略を取り入れる必要がある。その戦略とは、計画を立てすぎず、柔軟に意思決定し、思いがけないチャンスを最大限に活かすために「方向転換(ピボット)」と「積み重ね(スタック)」をおこない、より大きな成果をどうやって上げるかを見極めることだ。
計画立案にこだわりすぎると、回避術を実行に移せなくなってしまう。多くの人や組織は、合理的な計画を立てて包括的な評価をおこない、論理的に実行するほうが、臨機応変に動くよりもいいと考えている。何度も目にしてきたとおり、こうした組織はいくら崇高な目標を持っていても、複雑な問題から抜け出すための計画を立てられないものだ(※1)。
プロジェクトが大げさな約束をぶち上げたり、過剰な予算を費やしたり、おそろしく長引いたりするのも、計画にこだわりすぎることで説明がつく。またあまりにも多くの人が、すぐそばに転がっているチャンスを活かせない理由も、そこにある。人は、自分(または家族や組織)のために立てた計画に従うことに時間とエネルギーを使いすぎて、自分には何ができるのか、何をしたいのかを自問することをないがしろにしてしまう。
心理学研究によると、人は計画にこだわる一方で、長期的には行動したことよりも行動しなかったことを後悔するほうが多い。ビジネスチャンスに乗り損ねたとか、大学に行かなかったとか(※2)。要するに人は、失敗自体を後悔するよりも、行動し損ねたことを後悔するものなのだ。
人は計画にこだわりすぎて、新たにわいてきたチャンスをふいにするだけでなく、計画を立てる行為そのもので損をする。
決断を迫られたとき、とくに、キャリア選択や投資など、難しい決断を迫られたときには、頭で考えすぎて抜け出せなくなりがちだ。イギリスの小説家イアン・マキューアンが言うには、「重要な意思決定をした瞬間の心というのは、1つにまとまった理性の声ではなく、あたかも国の議会のようなものだ(※3)」。二の足を踏み、はるか遠くの未来に目を向けて、説明できないことを説明しようとし、ときには自信のなさを過剰なこだわりで覆い隠してしまうのだ。
最初からあらゆる細部にいたるまで予想して決定を下そうとするのではなく、自分やまわりの人に、とりあえずは小さな一歩を踏み出すようけしかけること。カナダの教育者ローレンス・J・ピーターが言うように、「問題の中にはあまりにも複雑で、それについて決断をしないためだけでも、高い知性と大量の情報が必要なものがある(※4)」。だから、完璧な情報を追い求めるのをやめて、とにかく行動を始めること。
回避術は、入念に計画されたアプローチと比べて時間もリソースも少なくてすむので、失うものもはるかに少ない。そのため、事業全体を考えなおさなくても、うまくいくことをどんどん積み重ねていき、うまくいかないことは簡単に切り捨てていけるのだ。
しかも回避術は、自分がよく理解していない問題に対しても使うことができるし、むしろそういう場合に適している。
システム変革の専門家は、「任務を遂行することよりも健全な状態を目指しなさい」とアドバイスする(※5)。健康な人生を送ることが目標なら、体重を5キロ落とす計画を立てるかもしれないが、体重を減らしたからといってすべての健康問題が解決するとは限らない。自分の身体を変えるには、どういう状態が健康なのかを絶えず見なおす必要がある。
たとえば、集中的なトレーニングプログラムは膝のけがにつながりかねない。タンパク質中心の食事を長期間続けていたら、何年も経ってから肝臓を壊すなど、いまはまだ予想できないさまざまな問題に見舞われるかもしれない。
だとしたら、体重を減らすという目標はあきらめるべきなのか? もちろんそんなことはない。しかし体重の数値だけでは、将来の健康状態は予測できないし、すべきでもない。
究極の目標にこだわってそれに向けた計画を立てるのではなく、現実を受け入れてさまざまな道筋を試してみること。すぐれた計画を立てれば一件落着、などということはないのだ(※6)。
※1:さらなる情報については以下の文献。Senge, The Fifth Discipline[『学習する組織』]; Rittel and Webber, “Dilemmas in a General Theory of Planning;” Ackoff, Addison, and Carey, Systems Thinking for Curious Managers; Ney and Verweij, “Messy Institutions for Wicked Problems.”
※2:これらの研究の一例については、以下の文献。Thomas Gilovich and Victoria Husted Medvec, “The Experience of Regret: What, When, and Why,” Psychological Review 102, no. 2 (1995): 379–95, https://doi.org/10.1037/0033-295x.102.2.379.
※3:Ian McEwan, Solar (London: Jonathan Cape, 2010).[『ソーラー』、村松潔訳、新潮社、2011年]
※4:Laurence J. Peter, Peter’s Almanac (New York: William Morrow, 1982).
※5:このアイデアは何人ものシステム変革の専門家によって取り上げられていて、社会に影響をおよぼすことを目指すいくつかの慈善組織、たとえばオミダイア財団に利用されている。さらなる情報については、以下の文献。Peter Senge, Hal Hamilton, and John Kania, “The Dawn of System Leadership,” Stanford Social Innovation Review 13, no. 1 (2015), https://doi.org/10.48558/YTE7-XT62.
※6:Roy Steiner, “Why Good Intentions Aren’t Enough,” Medium, Omidyar Network, May 12, 2017, https://medium.com/omidyar-network/why-good-intentions-arent-enough-698b161435f0.
(この記事は第2回/全4回)
No.1:仕事で直面した困難な状況を解決する「4つの回避術」とは何か
No.3:新しい企画が通る組織は「正しさ」より「試せる余白」を持っている(6月3日公開予定)
No.4:企画を前に進める人は、内容だけでなく「誰を巻き込むか」を先に考えている (6月4日公開予定)
▼書籍紹介
オックスフォード大学サイード・ビジネススクールで教えるパウロ・サバジェ氏が、世界各地の非営利組織の実践をもとに、正攻法では解けない課題にどう向き合うかをまとめた一冊です。人手・時間・予算が限られた現場で成果を生み出している組織に共通する「4つの回避術」を軸に、現場起点の課題解決を考えます。
▼書籍情報
書名:どうにかする めちゃくちゃな状況で「圧倒的な結果」を出している人と組織の思考法
著者:パウロ・サバジェ
訳者:水谷淳
出版社:ニューズピックス
発売日:2025年12月27日
https://amzn.asia/d/08R3vqri
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