先行きが見通せない今の時代、企業単位だけでなく、一人ひとりがこれからのビジョンや行動指針を考えるために読んでおきたい本を、アマナ社員が紹介。思考停止せずに進み続けたい人へ向けて、さまざまな視点でお伝えします。
昨今耳にすることが多い「イノベーション」という言葉。「イノベーションを起こすにはどうすればいいか?」「イノベーションを起こす人材はどのような人か」。そういった声が多く聞こえるようになりましたが、イノベーションはゴールではなく、あくまでクリエイティブな取り組みの結果、生まれてくるものです。
『The Myths of Innovation(イノベーションの神話)』(Scott Berkun/O’Reilly Media)では、ビジネスや科学、テクノロジーなどさまざまな分野において、どのようにしてイノベーションが生まれるのかが実例を提示しながら解き明かされています。重要なのは、イノベーションが生まれたその地点だけについて考えるのではなく、どのようなプロセスがあったのか、ということです。
アイザック・ニュートンが、家の庭でりんごが木から落ちるのを見たことで、万有引力の法則の証明にたどり着いたというのは有名な話ですが、りんごが木から落ちるのを見れば、誰もがその発想に至ったわけではないでしょう。それまでニュートンが積み重ねてきた知識や経験があったからこそ、「りんごが木から落ちる」という事象と万有引力を結びつけることができたのです。
私は今、アマナでアートディレクターとして、企業の課題や目的をふまえ、どのようなビジュアルを作るか考える仕事をしています。学生の頃はCG制作を専攻していましたが、あるとき数日かけて行っていたCG制作でのトラッキング作業(※)が、AIによって2分で完結しているのを見て、衝撃を受けました。産業時代には1つの技術を極めることが重視されましたが、今はあらゆる作業がAIに代替される時代。すべての技術が置き換わるわけではありませんが、CGのトラッキング作業は自分がやるべきことではない、プロジェクトをディレクションできる存在にならなければと決意しました。
自分だからこそできることをやろうと思ったとき、その人らしさは“経験の豊富さ”に裏打ちされます。先のニュートンのように、たくさんの情報をインプットしたうえで、実践的な経験を積みながらも、それらを自分の視点からどう編集するかを考えなければなりません。その繰り返しが、クリエイティブな発想を生み、振り返ったときに「イノベーション」と呼べるものになっているのだと思います。
“Trust the Process(プロセスを信じる)”。そのことを、強く意識することができた1冊です。
この本を紹介した人
株式会社アマナ アートディレクター
グラフィックとUIデザイナー、CGアーティストを経て、現職。様々なデジタル媒体において、グローバル展開をふまえたデザイン性の高いアートディレクションが得意。
世界中が新型コロナウイルスで混乱の渦に巻き込まれた2020年。予想だにしない状況に多くの人が困惑し、その日一日を生き抜くことに追われる日々が続いています。コロナ禍以前から「VUCAの時代は未来を予測するのが難しくなっている」と言われてきましたが、実は感染症の流行や、そこから派生する事態を予想していた人が少なからずいるのです。そうした人々は、さまざまな分野のデータを取り入れ、そこから未来を垣間見ています。
『2030年の世界地図帳』(落合陽一/SBクリエイティブ)では、デジタル経済圏の地政学にもとづくさまざまなデータを元に、GAFAMによる世界支配を推進するアメリカや、一帯一路で経済圏を拡大しようとする中国、SDGsやパリ協定を通じてイニシアチブを発揮しようとするヨーロッパ、未開拓の市場で独自のイノベーションを生み出すインド・アフリカといったサードウェーブの戦略をひもとき、多様化する世界の行方を知ることができます。
本著で、“これからの「世界」について考えるうえで重要な鍵”とされているのが、多くの企業が取り組もうとしているSDGsです。ではなぜ、多くの企業が取り組もうとしているのでしょうか?
世界の人口推移や年代別の人口比率、GDPの成長率やCO2の年間排出量といった膨大なデータを元に、あらゆる分野の学者が予測を立てて作られているSDGs。よく考えて設計されているので、SDGsを読み解いていき、理解すれば、現代~未来の社会課題の解決方法のヒントが見えてきます。その背景には多くの問題が複雑に絡んでおり、これからの社会や、社会課題を的確にとらえるには、全体を俯瞰して見る必要があります。未来の社会課題が見えてくれば、そこには必ずビジネスチャンスがあるのです。
不安定な時代だからこそ、自分の仕事に対して前向きに取り組みたいと思う人も多いでしょう。私もその一人。そのためには、まず”知ること”が大切です。特にSDGsは科学的に裏付けされているデータを数多く用いて作られているため、深く知れば知るほど、どのような職種であったとしても自分の仕事につながっていることを実感します。2030年、そしてそのさらに先へと向かうビジョンをつくるために、まずは知ることから始めてみませんか?
この本を紹介した人
株式会社アマナ SDGs Lead
シンクタンクのSE、IT企業に特化した広告代理店、出版社のマーケティング・PRを経て、現職。
様々なクライアントの課題解決だけではなく、企業がビジネスを通して社会課題を解決できるようSDGs Communicationを手掛けている。
ここ数年で日本にも広まった「デザイン思考」や「デザイン経営」といった、デザインをビジネスに取り入れる考え方。こうした言葉や概念が体系立てて語られる前から、経営とデザインを両立させ、50年近くグローバルで評価されるドメスティックブランドがあります。
『THE STUDY OF COMME des GARÇONS』(南谷えり子/リトルモア)は、1980年代にパリコレに衝撃を与え、今なお前衛を走り続けるブランド、コム・デ・ギャルソンについて深掘りした本。デザイナー・ 川久保玲さんのデザイナーとしての側面だけでなく、経営者として、どのような経営やマーケティング戦略を実践しているかを説いています。
私がこの本に出会ったのは、アマナの前職であるクリエイター育成の専門学校に勤めていたときのこと。コム・デ・ギャルソンは10代の頃から好きなブランドでしたが、ファッションデザイナーを志す学生のカリキュラムをつくるにあたって、学生たちが将来ファッションでビジネスをやっていくために、世界中を魅了し続けるブランドがどのように成り立っているのかを深く理解したいと思いました。
本著での一番の発見は、ブランドとデザイナーの精神が一致しているということです。コム・デ・ギャルソンとは、フランス語で「少年のように」を意味しますが、世の中を純粋にとらえながらも危うさや暴力性を内包していること、性別を超えて“人間らしく生きる”こと、強さと柔軟さを併せ持つことなど、あらゆる側面において、ブランドとデザイナーが表裏一体となっているのです。
川久保さんの思考の深さがデザインにもきちんと表現されていることから、本著ではファッションブランドについて取り上げているにも関わらず、洋服の写真は最小限しか出てきません。それほどまでに川久保さんが作り上げるブランドには、言葉で語らせる力があるのだと思います。
もう一つ特筆すべきは、川久保さんの経営者としての視点。経営とデザインの両立に悩むデザイナーも多い中、川久保さんは50年近く経営者としても力を発揮し続けています。それができる理由は、会社も自分のクリエイションの一部ととらえているから。
コム・デ・ギャルソンは決して大衆に向けて作られたファッションデザインではありませんが、自分のスタイルを追求する人、コンプレックスを抱える人に深く響き、世界中にファンを持ちます。その裏側には、デザイナー、デザイン、ブランドそれぞれの持つマインドがぶれることなく統一され、流行を追うのではなく、常に革新的なクリエイションを発信し続ける姿勢がある。ブランドとは、元来そのような存在であり、ファッションに限らず、多くのブランドや企業にも当てはまることなのではないでしょうか。
この本を紹介した人
株式会社アマナ プロデューサー
デザインスクールにてファッション学部のカリキュラム開発責任者を経て、2012年アマナ入社。現在はプロデューサーとして主に企業のオウンドメディアの立ち上げや記事コンテンツの企画制作、会社案内や商品カタログの雑誌化など、アマナの編集力をいかした案件に携わる。
撮影:小山 和淳(amanaphotography)
AD:片柳 満(amana)
文・編集:徳山 夏生(amana)