水墨画家・與座巧さん、デジタルと水墨画の融合から見えるもの

水墨画にデジタル技法を加えて独特の表現を生み出す、水墨画家の與座巧(よざたくみ)さん。そのオリジナリティはどのように会得したのでしょうか。ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の社員という顔ももつ與座さんには、キャリアや表現に対する独特の考え方がありました。

ふと取ってみたのが「筆ペン」だった

──與座さんは現在、DeNAの社員として働いているんですよね。まず、これまでのキャリアを教えていただけますか。

與座巧さん(以下、與座。敬称略):今はDeNAのデザイン本部マーケデザイン部でアートディレクター/デザイナーとして働いています。並行して水墨画家としての仕事もしています。

もともとは、専門学校でグラフィックデザインを学び、卒業後デザイナーとして企業に入社しました。その後転々と会社を移りながら、デザイナーとしての幅を広げたいと思って、アートディレクターとして転職します。

そこで何年か働いていたのですが、ある日会社が解散状態になってしまったんですね。一人でやるのか、別の会社に転職するのかという岐路に立ったとき、ふと「イラストレーターとして名乗ってみようかな」と思って。

──ちょっと唐突ですね。

與座:実は、在学中に抱いていた将来の夢は、イラストレーターでした。でも授業をサボリまくった僕の成績では美大に行かせてもらえなかったし、当時の自分からすると、イラストレーターという職業はとても狭き門で敷居が高いというイメージで、すぐに踏み込む勇気がなかったというのも事実でした。自分の手を動かして絵を描くのは好きだったので、仕事をしながらもデジタルでイラストはずっと描いていたんです。会社を離れることになり、せっかく自分の責任範疇で仕事を始めるチャンスなのだから、思い切って肩書きを変えて以前からの夢であったイラストレーターを名乗るチャンスかなと。そこでフリーランスのデザイナー兼イラストレーターとして活動を始めます。

與座巧さんの水墨画「阪急うめだ本店コンコースウインドウ「新・日本の美意識」

阪急うめだ本店コンコースウインドウ「新・日本の美意識」作画

與座巧さんの水墨画。阪急うめだ本店コンコースウインドウ「新・日本の美意識」

阪急うめだ本店コンコースウインドウ「新・日本の美意識」作画

──イラストは独学ですか?

與座:最初は独学でしたが、2009年から水墨画家の土屋秋恆氏に、2013年からイラストレーターのウラタダシ氏に師事しました。

──水墨画に興味をもったきっかけは何だったのでしょう。

與座:あるとき、友人から何気なく「アナログやってみたら?」と言われて。今までずっとデジタルだったので、それもいいなと思ってそのときふと手にとってみたのが筆ペンだったんですよね。試しに描いてみたらすごくしっくりくるし、周りの人からの評判もいい。

──筆ペンがきっかけで水墨画に?

與座:筆ペンのタッチからすぐに水墨画に行き着いたという訳ではなく、そのときはまだぼんやりと和風のものを意識し始めたぐらいのニュアンスですが、原体験としてはこの筆ペンだったと思います。歴史ある文化をもつ水墨画を独学で突き詰めていくのは難しいと思っていたところ、当時から交流のあったウラさんのご紹介で、今の師匠にお会いさせていただけることになりました。それで今の水墨画の師匠が主宰する教室に通い始めました。

水墨画家・與座巧さん

與座巧さん:アートディレクター/イラストレーター/水墨画家。 デザインプロダクション数社にてアートディレクターとして勤務の後、2010年よりイラストレーターへ転身。2009年より墨閃会代表/水墨画家 土屋秋恆氏に師事し水墨画を学び、2013年よりウラタダシ氏に師事しイラストレーションを学ぶ。2017年より株式会社DeNA デザイン本部にアートディレクターとして参加。 土屋秋恆主宰「墨閃会」会員、デザインユニット「mokuva」メンバー。

 

アナログもデジタルも手段の一つ

── アナログからデジタルに移行する例はよく聞きますが、デジタルからアナログへというのは珍しいように感じます。

與座:そういったご意見はよくいただくんですけど、僕としては本当に意識していないんですよね。単純にアナログのよさとデジタルのよさ、そのどちらもがあって、作りたい表現によって使い分ける、というだけの話だと思うんです。

コンセプト次第では意図的に道具を選ぶというシーンも稀にありますが、基本的には最終的なアウトプットがどうなるかを主軸に考えて、手法を選んでいます。原画を近くで見られるようなシーンであればアナログのほうがより味わい深く見ていただけるかもしれないし、逆に最終のアウトプットがオンスクリーンなのであれば、デジタルで仕上げることもある。あくまでツールの一つという携え方をしています。

與座巧さん水墨画。グループ展「BLACK(paris)」出展作品

グループ展「BLACK(paris)」出展作品。

 

──與座さんにとっては、あくまでその表現に必要だったら使う、という感じなんですね。ちなみに、與座さんの表現のルーツというのはどこにあるのでしょうか。

與座:師匠である土屋秋恆先生と浦正先生の影響は言わずもがな、絵だけに留まらず、人生そのものに影響を与えてくださいましたが、他にもいろいろな方に影響を受けまくっているとは思います。それこそ最初は、漫画絵ですね。『ドラゴンボール』の鳥山明さんとか。小学生の頃はいつも鳥山先生の模写を描いて同級生に見せていました。

他には、イラストレーターで漫画家の寺田克也さんですね。中学生の頃に寺田さんの絵をよく見ていたんですが、当時読んでいた雑誌から、デジタルで描かれているというのを知って。僕はそこにすごく勇気をもらいました。デジタルで描いたイラストがこれほどまでに存在感をもつことができるなんて。

──憧れの人がデジタル技法を使っていた、というのはやはり自分のイラストレーターとしての歩み方にも影響を与えたのでしょうか。

與座:もちろん影響は受けていると思います。先人が作ってくれた道というのは、道しるべとして安心させてくれるものです。クリエイターに限らず、どんな仕事にも言えることかもしれませんが、「これが正解」というような答えのない道を進むときに、大きく成功した例を情報として知っていれば、少なくとも宇宙空間にほっぽり出されるような不安はない。

次第に先人の道とは少しずつずれて、「自分の道」というのを歩み始めるとは思うのですが、自分の道を考えるうえでも「自分の道のすぐ隣にはどういう道があるのか」を知っておくのは必要なことだと思いますよ。成功した事例を心の支えにしたうえで、じゃあ自分はどうしたいのか、と考えるんです。

水墨画家・與座巧さん

来た球を打ち返すことが「自分のタッチ」につながる

──自分の道を歩んでいこうと考え始めたのはいつ頃ですか。

與座:絵を仕事にしはじめた頃からですかね。それまでは、ずっと誰かの絵を真似して描いてばかりいたんですよ。今振り返るとそれも下積みだったとも言えるかもしれません。いろいろな人の真似をしながら、「ここはこういう風に描いているんだ」という気づきがあると、それは自分の技術になる。

その技術がどんどん増えていくにつれて、組み合わせ方によって自分のアレンジを作ることができます。全くないものをアウトプットすることはできないし、仮に偶然ポンと出たところでクオリティは低い。自分がもつ技術を組み合わせていくしかないんですよね。

絵を仕事にしてようやく、「こういう絵が求められている」というお題をもらうようになって、「だったら自分のもつ、この技術とこの技術を組み合わせれば表現できそうだ」と考えられるようになりました。

今でも、世の中に存在しないような、自分の知らないものを新たに作り出そうという気概はあまりなくて、相変わらず自分が覚えている風景や強く感じたことを表現するためにこの技術を組み合わせてみよう、という試行錯誤の繰り返しなんです。クライアントから来た球に対して、自分がもつ技術で全力で打ち返していく。それが積み重なっていくうちに、だんだんと自分のタッチというのが生まれてきたと思います。

與座巧さん水墨画。HOTEL RISVEGLIO AKASAKA ウォールアート

HOTEL RISVEGLIO AKASAKA ウォールアート。

 

──独自性をどう表現するか、悩んだことはありませんか。

與座:もちろん、そういった不安を抱いたこともありましたよ。ただ、自分らしさって自分でコントロールできることではないと思うんですよ。あくまで、過去にやってきたものの結果としてついてくるもの。だとしたら、そのときおもしろいと思ったものを描いていくしかないんです。だからといって、オリジナリティを意識しないというわけでもないのですが。

──自分らしさとかオリジナリティはコントロールして生み出せないからこそ、自分が好きなことをやるということですね。與座さんは、今DeNAの社員として働きながら水墨画家としての活動もしているということでしたが、今後ご自身の表現活動として目指すところはどこなのでしょうか。

與座:あまりカッチリと筋道立てて考えているわけではないですが、いろいろな技術に触れてみたいとは思っています。時代が進むにつれてさまざまな技術が生まれ、それによってアートの表現方法はいくらでも変わっていくと思うんです。鎌倉時代、墨と筆という当時の技術を使って生まれた絵画が水墨画であったわけですが、現代ではデジタルをはじめとしたさまざまな画法があり、選んだり組み合わせることで今の時代を象徴するような表現ができる、というように。

時代の技術の中で生まれるアートというものに興味があります。DeNAは、規模の大きな会社でありながら、さまざまな新しい事業に挑戦しているので、幅広い分野の技術に触れることができます。僕のいるデザイン本部は事業を横断的に関わっているので、そういう意味でも自分にとってプラスになると感じているんですよね。もっとたくさんのものを見て、そのうえで自分なりの表現を追求していきたいと思っています。

 

テキスト:園田菜々
インタビュー撮影:中橋広光(UN)

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