企業価値を高める「ストライプ」流インナーコミュニケーション

今、企業内の連携を深め組織力の強化を図るインナーコミュニケーションが注目を集めています。従来の社内報のようなものとは異なり、社員参加型のコミュニケーションなどを通じて、社員の本気と行動を引き出していくものです。

そのインナーコミュニケーションにビジュアルなどをうまく活用し積極的に取り組んでいるのが、「アース ミュージック&エコロジー」などのアパレル事業で知られるストライプインターナショナルです。今回は、企業のインナーブランディングを支援する佐藤勇太が、人事本部長の神田充教さんに実際の取り組みについてお話を伺いました。

全社員のポートレートから会話が生まれる

佐藤(以下、佐藤):銀座にあるストライプインターナショナルの本部を訪ねて最初に驚かされたのは、エントランスにずらりと並んだ社員のポートレート。大きなサイズの写真に活き活きとした表情の社員が、各々いろいろなものを手にして写っています。

神田充教さん(以下、神田。敬称略):今回のポートレートのテーマは、“私の大切なもの”です。前回は、オフィスを移転したばかりでしたので、“私がこのオフィスで育てていきたいもの”というテーマで漢字1文字を書いてもらい、それを手にして撮りました。毎回、プロのフォトグラファーの方おふたりに2セット組んでもらい、丸2日かけて撮影しています。

“私の大切なもの”をテーマにした社員のポートレート

佐藤:このポートレートを始めたきっかけは?

神田:会社の急成長にともない社員も増え、お互いがだれかわからないような状態だったのです。そこでオフィスの移転を機会にして、顔と名前を一致させるだけでなく会話が生まれるきっかけがほしいなと。ポートレートを見て名前と顔と部署がわかるだけでなく、“私の大切なもの”といったプラスの情報があることで新たなコミュニケーションが始まります

佐藤:社内の反応はいかがですか?

神田:評判がよくて実際にいろいろなところで会話のきっかけになっているようです。“私の大切なもの”がテーマなので、例えばカメラなど持っているものが他の人と被るケースもあるのですが、部署が異なる人同士が共通の趣味で話が弾み、新たなつながりが生まれる機会にもなっています。社外の方からも“すごく明るい雰囲気の会社ですね”とよく言われます。個性あふれる社員が活き活きと働く職場であることを表現する手段としてもよかったと思います。

神田 充教 株式会社ストライプインターナショナル 取締役兼CHO 人事本部長 1971年神戸市生まれ。1994年東京大学法学部卒、1999年INSEAD MBA修了。P&G、マッキンゼー、ファーストリテイリング、アスクルを経て、2013年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)入社。2014年取締役就任。社長室、経営企画室を担当後、2015年よりCHO(最高人事責任者)人事本部長として人事全般と店舗管理を管掌。

佐藤:この全社員ポートレートだけでなく、ストライプインターナショナルのオフィスには、クリエイティブな設計・演出が随所に施されています。

神田:要所要所に飾られている現代アート作品、居心地のよさそうな本格的なカフェ&バーカウンター、そしてオフィスの中央には「未来妄想室」とネーミングされた“未来を妄想する”ためのガラス張りの部屋。ここで新規事業の企画会議などが行われ、新しいアイデアが生まれています。

受付に飾られている現代アート作品

左:オフィス中央にある「未来妄想室」/ 右:バーカウンター

アプリで全国の店舗をつなぎフラットにコミュニケーション

神田:こうしたオフィスでの取り組みだけでなく、もうひとつ見逃せないのが社員専用のアプリ「amily」(アミリー)です。
アルバイトを含むすべてのストライプインターナショナルの社員が登録でき、社内向けの情報や他部署の動向をいち早く知ることができるほか、部署や立場を越えて全社員がアプリ内でコミュニケーションを取ることができます​。

「amily」の画面。

神田:当社の社員は全国に展開している店舗のスタッフが大半を占めていて、店舗スタッフは基本的にそのお店の中で人間関係が完結するので、そのお店=会社になってしまいがちです。でも、みんなストライプインターナショナルの社員であり、店舗のスタッフだけではなく、もっとたくさんの仲間がいることを意識してほしい。それに店舗スタッフと本部スタッフとの結び付きも強めていきたかったのです。

そこで開発したのが社員専用アプリ「amily」。コンセプトは“世界一楽しい社員名簿”なんです。プロ野球の選手名簿のように一人ひとりの顔が見えて、社員みんなとつながることで店舗スタッフの孤独感を解消し、さらに社内でほめ合う文化を醸成する機能を持たせました

佐藤:社員同士でメッセージを送ることができる「パチパチ」という機能がユニークですね。

神田 “視察に来ていただいてありがとうございました!” 、“研修で久しぶりに会えてうれしかったよ”といった気軽なメッセージのやりとりができます。もちろん社長や役員にも直接送ることも可能です。気軽にメッセージを送ることで距離が縮まる気がしますよね。一人ひとりのパーソナルな情報も掲載されているので、例えば店舗に視察に行く際も事前にアプリで情報を仕入れていくので声をかけやすいんです。

また、このアプリで「ストライプTV」という動画版の社内報を毎週配信しています。社長が最近の会社のことを話したりするのですが、本格的な社内向けTV番組なので結構観ちゃうんですよね。そのほかにも「amily post」というご意見箱みたいな機能もあって、寄せられた意見を仕分けし各部署の責任者から回答を集めフィードバックとして月1回掲載しています。

左:神田さん、右:佐藤

佐藤:アプリがあるおかげでフラットなコミュニケ―ションが生まれますね。

神田:はい。これまでは、店舗のスタッフに直接メッセージを送る手段がなかったんです。メールアドレスも、各店舗用の物はあるけれど、それぞれのスタッフにはなく、例えば、視察の時に対応してくれたスタッフにお礼を言いたいと思っても、店舗用メールではそんなに気軽なやりとりはできないですし、かといってLINEを交換するのもハードルが高いわけです。

アプリを活用することで、こちらとしても会社の情報を伝えていくことができますし、社員からしても会社とのつながりが見えるツールとして機能しています。このアプリを通して全国の店舗の一体感が生まれていると思います。もう紙の社内報を配布しても、だれも見てくれないですから。

インナーファーストの組織だから結果をもたらす

佐藤:こうした取り組みに共通している“インナーファースト”といった考え方は、どこから生まれたのですか?

神田:2年前に会社の経営理念を変えたのがきっかけです。それまでは“お客様第一主義”というどこの会社でもやっていそうなものだったのですが、ストライプらしい経営理念はなんだろうと考えた末に“セカンドファミリー”にしました。社員同士、社員とお客様、社員と取引先と家族の次に大事な関係を築きたいというものです。そのためにインナーコミュニケーションに時間とお金をかけて積極的に取り組んでいます。

まずは“関係の質”を高めること。そうすれば自ずから”結果の質”の高い組織が生まれるのです。 結果の質を求めるのではなく、まず関係の質を高めることから始めることによって自ずから結果がついてくる組織を目指しています。 “仲良しこよしみたいなことをやって何の意味があるの?”って思う方もいるかもしれませんが、そうではないということをみんなが自信を持って言えると思います。

佐藤:インナーコミュニケーションにビジュアルやアプリをうまく活用することで、社員一人ひとりのモチベーションだけでなく、企業の価値そのものも高めることができるのを強く実感しました。“関係の質が結果の質につながる”という神田さんの言葉が印象的で、きっとほかの業界の企業の方にとっても共通する指針であり課題でもあるのではないでしょうか。

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