テクノロジーとアートが企業活動にもたらす変化の予感

Photo:Koki Nagahama (C) 2016 Getty Images

テクノロジーカルチャーの祭典「MEDIA AMBITION TOKYO 2016」が、2月26日(金)から六本木を中心とした都内各所で開催されています。開催4回目となる今回も国内外から数多くのイノベーター、クリエイターが集結し、映像、音楽、パフォーマンス、トークショーなど多彩なプログラムが展開される予定です。

 

数あるプログラムの中からVISUAL SHIFT編集部が注目したのは、企業とアーティストのコラボによる都市実験の場「MAT LAB」。2020年とその先の未来を見据えたいま、テクノロジーの進化とアートとの融合は企業活動にどんな変化と可能性をもたらすのでしょうか。
2月27日(土)、会場である六本木ヒルズ 森タワーを訪れました。

スニーカーのように楽しむ電動義手「handiii / HACKberry」

Photo:Koki Nagahama (C) 2016 Getty Images

会場入り口から続く通路に展示された「handiii / HACKberry」は、若手エンジニアによるものづくりユニットexiii Inc.が開発する革新的な電動義手。パーツを3Dプリンタで出力して制御にスマートフォンを利用することにより、価格帯150万円以上の従来品に対して材料費3万円以内という低コスト化に成功。大幅な普及率アップが見込めるといいます。

実際に展示された製品はメカニカルな外観で、人肌の色を模して目立たないよう作られた既存の義手とはまったく異なるもの。指先にはICチップやマイクが組み込めるよう、機能面の拡充も図られています。exiii Inc.では開発データをオープンソース化するとともに、モニターの意見を吸い上げながら、スニーカーのように色やデザインを変えられる「他人がうらやむ」ような義手の開発を進めています。

障がい者支援という領域における、これまでにない製品の低価格化と、「ハンディキャップを補う」という視点から「デザイン・機能を楽しむ」「他人をうらやましがらせる」という大胆なコンセプト転換は、テクノロジーの進化がもたらすひとつの変化の兆しなのかもしれません。

アートが触発したプロモーションの進化形「MOON PARKA with SANSUI」

Photo:Koki Nagahama (C) 2016 Getty Images

続いて会場を進むと目に飛び込んできたのは、まるで宇宙服のような印象を受ける黄金色のウェア「MOON PARKA with SANSUI」です。これは、THE NORTH FACE × 山形県庄内のバイオベンチャーSpiber Inc. × 映像作家EUGENE KANGAWA によるコラボレーションで、「MOON PARKA」はなんと人口クモ糸を採用した次世代ウェア!東北地方の山々の厳しく美しい自然のイメージを描いた超解像度モノクロフィルムの映像作品「SANSUI」とともに、展示されています。

この展示で注目したいのは、映像作品の発表が先行して、その後に企業間の共同開発プロジェクトとの協業に至っているという点。アメリカ出身の映像作家EUGENE KANGAWAは、日本古来の山岳宗教・修験道にインスパイアされ、厳寒期の東北の山々を実際に歩いたのちに「SANSUI」を製作。その完成後、EUGENE KANGAWAと親交のあったSpiber Inc.とTHE NORTH FACEとの間で「MOON PARKA」の共同開発がスタートし、「SANSUI」はそのフィロソフィービジュアルとして使用されました。

企業が製品の特徴やコンセプトに沿った「モノありき」のプロモーションの一環としてアーティストやその作品を利用した例はこれまでにも多々あります。その一方で、アートが先行し、それに触発される形で企業間プロジェクトとの協業が展開され、一定の成果を生み出した本ケースは、企業とアートのコラボにおけるユニークな進化形といえます。企業側の視点に限れば、従来のプロモーション戦略からいったん距離を置いてアンテナを巡らせることが、場合によってはひとつの「戦略」となりえることを示す一例かもしれません。

この展示は、とりわけ大きな規模ではないにもかかわらず、多くの来場者が足を止めていました。なかでも印象的だったのが、プレス関係者とおぼしき数人の外国人の方が、カメラ片手にじっと展示に見入っている様子。テクノロジー × 審美的なアートの融合による、ユニークなプロモーション事例の効果の一端を、目の前で見た気がしました。

実用化に向けた開発段階にある「handiii / HACKberry」や、ある意味では偶然の産物ともいえる「MOON PARKA with SANSUI」を確固たる成功事例として捉えるのは、まだ早いのかもしれません。ただ、5年先、10年先を見据えた企業活動において、テクノロジーの活用とアート領域とのコラボレーションが有効なオプションとなる可能性は、今回の展示でも感じることができました。先端技術を活かし、異分野のエッセンスを積極的に取り入れる。そうした動きの延長線上に、これまでになかった新しいビジネスチャンスが拓けてくるのかもしれません。

「MAT LAB」では、導電性接着剤によるウェアラブル「FABOLOGY」や、自己認識と身体感覚をテーマにした体験型アート「The Mirror」などもあわせて展示されています。また、六本木ヒルズの他、Apple Store, Ginza(銀座)、IMA CONCEPT STORE(六本木)といった都内各所の会場でも、写真展やトークライブ、アーティストによるライブパフォーマンスなど様々なプログラムが開催されています。開催は3月21日(月・祝)まで。興味のある方はぜひ会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

開催情報

「MEDIA AMBITION TOKYO2016」

日程:
2016年2月26日(金)〜3月21日(月・祝)※開催期間は会場によって異なる
URL:
http://mediaambitiontokyo.jp/

TEXT:VISUAL SHIFT編集部 / All Photos:Koki Nagahama (C) 2016 Getty Images

KEYWORD キーワード

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる