顧客ニーズが多様化する中、変革が求められている通信業界。通信キャリア最大手であるNTTドコモも、中期経営戦略の実行に向けて組織改変を行い、創業以来の大転換の中にあります。同社では昨年自社配信スタジオを新設し、情報発信にデザインの考え方を取り入れようと、「amana Creative Camp」を導入しました。導入の経緯と目指す方向性について、同社・広報部(現・ブランドコミュニケーション部)の今井康貴さんに聞きました。
通信環境やデバイスが進化する中で、情報を入手する手段が広がるとともに、誰もが手軽に情報発信できるようになりました。一方、時には間違った情報が流布してしまうことも。多くの企業は、世の中に正確な情報を伝える方法を模索しています。
コロナ禍でオンラインコミュニケーションのニーズが高まったこともあり、NTTドコモでは、2021年に自社配信スタジオを新設。オンライン記者発表会の拠点として活用するほか、新商品やプランの詳細をドコモ社員が自ら解説するYouTube動画配信をスタートさせ、情報発信の体制を強化しました。
情報発信の機会が広がる中、今井さんは、ひとつの課題に気づいていました。
「情報発信において、メッセージやストーリー、ニュースバリューといった言語情報には日頃より意識をしています。一方で、デザインの活用はまだまだできておらず、対外発表や展示会といった機会ごとにコンセプトを考え、プレゼンテーション等の細かい表現を検討している状態だったんです。
海外に目を向けると、多くのテック企業では発表資料、プレゼンテーションの手法、お客様をお招きする展示会のブースのつくり方など、あらゆるシーンでの表現やデザインに一貫性が見られます。より強いメッセージやストーリーを発信していくには、そうした考え方を取り入れていく必要があると感じていました」(今井さん)
事業領域の拡大、組織改編を通して企業の形が大きく変わっていく中、まずはコミュニケーションの根幹を担う自分たちの部署から変わらないといけない、今井さんはそう感じたと言います。
自社配信スタジオの構築と、以降のスタジオ運営をサポートしていた経緯から、アマナでは、今井さんの課題意識を改めてヒアリング。クリエイティブ思考を体系的に学びながら、実践的なスキルを体得できる「amana Creative Camp」を提案しました。
「ご提案いただいた時、『これはおもしろそうだ』と感じた一方で、画一的なプログラムでは、課題を解決するところまでは実現できないかもしれないという不安もあったんです。しかし、課題感をアマナの皆さんと掘り下げていく中で、不安要素をクリアにしながらプログラムを柔軟に組み立てていただきました。社内で参加メンバーを募る際にも、それが大きな安心感につながったのを覚えています 」(今井さん)
すり合わせしていく中で、最終的に「Design Camp」を軸としたプログラムを実施することに。今井さんは、実施を前に参加予定者にヒアリングを行い、そこで社員がさまざまな課題意識を持っていることに気づきます。
「私をはじめ『なぜ、今、デザイン思考が必要なのか』といった概念的なことから学びたいと考えるメンバーがいた一方で、記者発表資料などにすぐ応用できる具体的なテクニックを知りたいという声も多くありました。そこで、単にフォーマットをつくるということではなく、デザインの理由や効果まで見えて腹落ちするものにしてほしい、と要望をしました 」(今井さん)
結果、レクチャーをメインとしたDAY1と、レクチャー内容を踏まえて取り組む課題へのフィードバックをメインとしたDAY2の2日間のプログラムで実施することに。DAY1のレクチャー前半は、「ビジネスにおけるデザインの役割とは」と題し、アマナのクリエイティブエヴァンジェリスト・児玉秀明がデザイン思考を取り入れる海外企業の注目事例を交えて解説しました。
「デザイン経営が企業の競争力につながる、さらに経営目線で見た場合にデザインは手法を超えてマインドセットになる、という児玉さんのお話は印象的でした。企業にはデザイン思考が必要であることを改めて感じましたね」(今井さん)
DAY1レクチャー後半のタイトルは、「良い資料を作るためのデザインルール」。さまざまな企業のクリエイティブを手掛けるアマナのシニアデザインディレクター・鳥居真雄を講師に、どのように資料を構成すると相手に伝わりやすくなるかが語られました。
一般的に「デザイン」というと、センスや特別なテクニックが必要であると考えるはず。プログラム冒頭で講師の鳥居が、「情報デザインにセンスは不要」ということを伝えると、参加者からは驚きの声が上がりました。
情報デザインに必要なものは、「センス」ではなく「ルール」。特に「文字」「レイアウト」「色」の3つのポイントをおさえておくと、どんなアプリケーションでも相手に伝わりやすい資料を簡単に作ることができ、業務効率もあがります。
「特に印象的だったのは、『色の使い方』についてのレクチャーでした。資料作成の際、コーポレートカラーの赤(ドコモレッド)を多用していましたが、赤は“危険”“警告”というネガティブな印象を相手に与えることもあるという説明を受け、色の与える印象を考慮して資料での効果的な使い方を考えるべきだと感じました」(今井さん)
DAY2では、DAY1で学んだ内容を踏まえて、参加者が実際に日々の広報業務で使用する資料を作成し直し、それに対して講師からフィードバックがなされました。具体的にどの箇所を改善するとより情報が伝わるかを、実践で学ぶワークショップです。
伝えるべきポイントを強調するなど情報要素にメリハリを持たせ、読み手の視線の流れを意識した構成にすることで、印象が大きく変わります。実際にBefore / Afterで比較すると、情報デザインの必要性が視覚的に理解できます。
「我々が発信する情報には、5Gをはじめとする先端技術の話題も多く含まれます。記者や一般の方に仕組みなどを理解していただくには、テキストで説明するより、図解したりビジュアルで表現するほうが伝わりやすいケースもあります。
今回『Design Camp』に参加して、企業として一貫性ある見せ方をする大切さを学んだことはもちろんですが、複雑な技術をご理解いただくために、我々ができることはまだまだあるなと感じました」(今井さん)
プログラム終了後、参加メンバーの変化を今井さんも感じているといいます
「現時点では社外に向けたプレゼンテーションを全面的に刷新するところまでたどり着いていませんが、参加メンバー一人ひとりに具体的な改善提案があったことで、まず手元の業務から改善している様子がうかがえます」(今井さん)
今井さん自身も、社内資料制作時のパワーポイントフォーマットを作成し、部署内で共有。社内文書作成の効率化に役立てていました。
「社内資料のフォーマットは前例を踏襲する形で、長年同じものを使い続けていました。今回のプログラムを通して、デザインの必要性について部署の中でも共通認識ができていたので、私が作成したフォーマットの意図もメンバーの中で腑に落ちているようです」(今井さん)
そして、広報部の中での合言葉となったのは、「まずは広報から変わっていこう」。社外はもちろん、社内コミュニケーションも広報の役割であることを考えると、最初に自分たち自身が変わることで、新しい組織体系になったNTTドコモの情報発信も変わっていくことを期待していると話します。
「今回学んだ考え方、マインドセット、そしてテクニックやスキルを含め、コミュニケーション活動に生かし情報発信の一貫性を持たせていくことで、NTTドコモを一層強いブランドにしていきたいと考えています 」(今井さん)
文:高橋満(ブリッジマン)
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編集:高橋沙織(amana)
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