アマナには200人を超えるクリエイターが在籍しています。プランナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているのか、そのプロセスと思いを紹介します。
第4回に登場するのは、イメージングディレクター・ビジュアルコラボレーターである堀口高士(以下、堀口)です。2022年秋、アマナはビジュアルコンサルティングチームを発足。企業のインターナルな課題抽出から関わりながら、それぞれの潜在的な強みを可視化し豊かなコミュニケーションへと導いています。堀口は、そのチームの中心的な存在。企業の価値向上を目指す共創への思いと、ビジュアル活用する意義について聞きました。
――ビジュアルコンサルティングチームはどのような経緯で発足したのですか?
堀口:時代が急激に変化する中で、企業は多くの課題を抱えています。社会が成熟して差別化が難しくなっていますし、メディアが多様化し、グローバル化も進んで、コミュニケーションがより複雑化しています。その一方で技術の進化があり、DX推進が問われ、AIで画像が生成されるようになったもののその善し悪しの判断ができないとか、メタバースなどのVR技術を使って何をすべきかわからないなど課題は多岐にわたり、その背景には企業としての“あるべき姿”が描けないという共通した悩みがあります。
企業内の共通認識が社会とのコミュニケーションに発展していきますから、“あるべき姿”を社内で共有することは重要です。実は以前から、社内で統一したイメージが保てないなど、インターナルコミュニケーションに関わる相談を多く受けていました。そこでまずはインターナルな課題抽出に取り組むことから始め、アマナのビジュアル開発の知見を最大限に生かしながら、最終的なアウトプット、つまり広告ビジュアルやキービジュアルの制作まで伴走するチームを立ち上げました。コンサルティング後にどのメディアで展開するかは、写真や映像、3DCGに至るまで、あらゆるビジュアルを目的に応じて活用しています。
――自身にはどのようなスキルがあると感じていますか?
堀口:抽象的な概念を可視化するために、ファシリテーションして導くことです。多様な意見をまとめて構造化し、「これってこういうことですよね」と整理することが得意で、それをビジュアル思考で考えられるのが強みだとよく言われます。
――そうした強みは、どのように培ってきたのでしょうか?
堀口:仕事を通して身につけてきたと思いますが、学生の頃に相当数の石膏デッサンを描いたので、ある人からはその訓練によって物事を俯瞰して見る力が開発されたのではないかと言われました。確かに石膏デッサンを描くには、細部から書き出すと最終的にバランスが狂ってしまいます。まずは全体像を見てどこがキーなのかを把握し、日中の光の変化も計算した上で描き始めるのですが、そうして俯瞰して全体像を見る癖が今のディレクションの仕事にも生かされているかもしれません。
――そうして俯瞰して全体を見ながら、クライアントの課題にはどのようなプロセスで取り組んでいるのですか?
堀口:とりあえずアウトプットし、反応を得ながら整理していきます。それはビジュアルかもしれないしキーワードかもしれないし、問いかもしませんが、常に何かを投げかけながらやり取りします。そうしたプロセスを経ながら、「こういう感じですよね」と可視化してまとめていきます。
一般的なコンサルティングとの違いは、より右脳思考である点です。以前あるクライアントから、Aという商品の“らしさ”をひもといてほしいと依頼され、その際に「アマナさんにお願いするのは、ビジュアルドリブンで考え、進めてくれるからです」と言われました。その言葉に驚きましたが、アマナに求められているのはそういうことかと。僕らの強みは、プロセス自体をビジュアル活用しながら設計していくことだと確信しました。
――ビジュアルドリブンとは、具体的にどのようなことでしょう?
堀口:例えばある1枚のビジュアルがここにポンとあるだけで、イメージの共通認識が生まれます。あるいは写真を数枚並べることで、右脳が刺激され、目に入った情報からアイデアが生まれやすくなります。
図も同様で、図によって構造を整理することで新たな気づきがありますし、言葉も文字化すると視覚情報になるんです。そうしたビジュアルの特性や視覚効果を活用しながら皆の意見を引き出し、プロジェクトを進めていくのがビジュアルドリブンだと考えています。それには空間性やリアルな場作りなども含まれていると考えていて、視覚に入るあらゆる情報をうまく活用しながらプロジェクトを推進するのが僕たちの特性です。
――そうしてビジュアルを活用しながら企業の思いを可視化する上で、心がけていることはありますか?
堀口:企業の潜在的な強みと、なりたい姿を結びつけることです。議論を進めていく中で、「こうありたいよね」みたいな話になると、自分たちの強みを忘れてしまいがちです。企業は強みに気づいていないことが多いですから、まずはそうした強みを僕たちが客観的に見て引き出した上で、その一直線上に理想像をリンクさせます。それが差別化に繋がります。
――ブランディングにも関わることですね。
堀口:そうですね。かなり密接に関わっていると思います。例えば“あるべき姿を描く”ためにビジョンに関する相談も多く、ビジョンの言語化と、その言語化されたビジョンをどのようなビジュアルにするかを一緒に考え社会に発信していきますから、ブランディングにも寄与していると思います。
――そうしたプロセスの中で、難しさを感じることはありますか?
堀口:日本の企業はどうしても尖らず丸くなり画一化されてしまいがちで、個性を立たせるのが難しいと感じます。欧米には全く新しいコンセプトを生み出し、その企業らしさを際立てていく文化があり、これからは日本企業も差別化していかないと生き残れません。僕たちはクライアントの“立たせるポイント”を見つけて、共に個性をあぶり出していくパートナーになっていきたいです。
――企業も自らビジュアルを活用していけますか? 今後ビジュアル活用は、社会にどのように貢献するでしょうか?
堀口:アマナでは以前から、ビジュアルコミュニケーションという考えを世に打ち出してきました。ビジュアルには、例えばパッとこの場の写真を撮っただけでも、光の雰囲気や置いてあるもの、時間帯など、ものすごく多くの情報量がありますし、伝達スピードが速いという利点があります。ですから言葉だけでなく、絵も融合させたコミュニケーション設計を社内のプレゼンテーションに生かしていくと、今までとは違う発想や、より潤滑かつスピーディなコミュニケーションが生まれると思います。
視覚情報の活用は会議の効率化を促し、時間の短縮にもなります。そのためにも、情報をまとめて伝える構造整理と表現方法を組み立てられる人が増えていくといいですね。時間に余剰が生まれると、個人の暮らしにもゆとりができますし、社会がより豊かになると思います。僕らは普段からビジュアルで会話しているのですが、今後、僕らのナレッジにあるそうした非言語コミュニケーションの仕組みを体系化し、よりわかりやすく伝えていきたいと考えています。
さらにビジネスパーソンには、ビジュアルの活用を通してクリエイティブの発想力も身につけてほしいなと思います。クリエイティビティの楽しさが、もっと社会に溶け込んでいくといいですね。
――クリエイティビティとは、何でしょう?
堀口:表現とは、人間の本能に近い衝動が一つのきっかけになって生まれるものだと思います。ただ、衝動にもいろいろあります。社会的な倫理から外れることがないように、理性を働かせながらワクワクするアイデアを出し合って、人間が有効に活用できるものに繋げるのがクリエイティビティじゃないかなと思っています。
それを養うには子供たちの環境や教育が大切ですが、最近はリスキリングも重視されていますよね。アマナには僕も関わっている「amana Creative Camp」という企業向けの人材育成サービスがあります。大人の学び直しも人生100年時代を迎えて大事ではないでしょうか。
――時代の先行きに不安を抱えている人も多いようです。
堀口:そうですね。今、本質的な力が問われていて、それには左脳的なロジックで積み上げることに加えて、もっと直感的に、感性をフルに活用しながら時代を感じる取る力が必要だと思います。非言語コミュニケーションもその一つで、僕もビジュアルを軸に感性が拡張されるようなコミュニケーションをもっと研究していきたいです。今後さらにグローバル化が進むと、非言語コミュニケーションへ一段とシフトしていくでしょう。
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取材・文:前田真里(レフトハンズ)
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:佐藤万智弥(アマナ)
AD:中村圭佑
撮影協力:海岸スタジオ
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複雑で先行きの見えない世界においては、 人本来の持つ創造性を解き放ち、主体性を持ち躍動できる人材が求められます。amana Creative Campでは、 再現性を持ったクリエイティブナレッジを提供することで、個の創造性を高めると共に、企業の競争力を高める文化創りへと導きます。