ビジネスフィールドで高まるコンテンツマーケティングの重要性。しかしその実践は必ずしも容易ではありません。今回は、オウンドメディア「CHEER UP!」を率いるサッポロビールのマーケティング本部ビール&RTD事業部メディア統括グループ・杉浦若奈さんと、アマナでビジネスプロデューサーを務める熊本容子、そしてアマナのコンテンツディレクター兼エディター・タジリケイスケの3名による鼎談で、オウンドメディアを育てるコツとコンテンツマーケティングの活用法について語りました。
──まず、「CHEER UP!」の立ち上げ経緯を教えてください。
杉浦若奈(サッポロビール/以下、杉浦):サッポロビールには、「サッポロ生ビール黒ラベル」、「YEBISU」など、ビールテイストだけでも20以上のブランドがあり、それぞれブランドサイトを持っているのですが、ブランドによってはその存在自体がほとんど知られていないものがありました。それでもっと多くの消費者に情報へアクセスしてもらえるように、既存コンテンツを集約したポータルサイトを作りたいと考えたのが「CHEER UP!」を立ち上げたきっかけです。「コンテンツを通じて熱狂的なファンを創出する」という指針を掲げ、将来的には純広告とは違うアプローチで各ブランドの理解度を深めたり、広告予算をあまり持たないブランドがそこで情報発信をしたり、ブランドを主語としないオリジナルコンテンツで潜在顧客を発掘できるようなオウンドメディアへ成長させることが目標であったと、「CHEER UP!」を引き継いでいます。
熊本容子(アマナ/以下、熊本):最初は「ポータルコンテンツを改修したいので戦略スコープで何か考えてほしい」と、アマナにご連絡をいただいたのですが、どうすればいいのかと頭を悩ませました。
杉浦:もちろんアマナさんはコンテンツ制作のプロというところには信頼を置いていました。ただそれ以上に、実際のサイトのパフォーマンスを見ながら次にどのようなアクションをしたらよいかを分析してくれるという、NewsCredのCMAS(Contents Marketing Advisory Service)が面白そうだなと興味を持ったことがきっかけだと当時の担当者から聞いています。
熊本:はじめは、ユーザーがサイトの中でどういう行動をしているかウォッチして、傾向が見えてきたらオリジナルコンテンツを制作していきましょうという話になったんですよね。
杉浦:そうです。それで、コンテンツの数は増えているけれど、実際に読まれているのは一部の集客力の強いコンテンツに集中していることがわかりました。アクセス数の多いコンテンツの詳細を分析し、2カ月ほどかけて「CHEER UP!」全体のブラッシュアップを目指していったんです。
そうした分析の機会を得たことで、私たちが立ち上げ時に掲げていた「コンテンツを通じて熱狂的なファンを創出する」という指標が、実はあまり明確ではないことに気づいてしまって、改めて存在意義を考えようということになりました。
熊本:コンテンツマーケティングというには、トピックが少し雑多になりすぎていたんでしょうね。それ故の魅力もあったはずですが、当社からは、メディアとしての「顔つき」を作っていくのが必要ではないかという提案をして、コンテンツディレクターのタジリに声をかけました。その結果、「CHEER UP!」の第2フェーズとして、編集視点を入れてオウンドメディア戦略を見直そうということになりました。それがエディトリアルアドバイザリーというサービス。メディアストラテジー設定、ゴール設定、体制整理、編集方針と4つのカテゴリに分けて、オウンドメディアのあるべき姿を探っていったわけです。これまで各ブランドのブラックボックスになっていたところなども、明確になりましたね。
杉浦:そうですよね。「CHEER UP!」にはもともと各ブランドに媒体として活用してもらうという狙いがあったのですが、それぞれにいろいろな広告会社が入っていて提案もバラバラでした。このような状況では何のために「CHEER UP!」を立ち上げたのかわからなくなってしまうということで、マーケティング本部としては、まずはブランド担当者たちのリテラシー、特にコンテンツマーケティングに対する理解度を上げる必要があると考えていました。まさにそのタイミングでamana Creative Campの中からEditorial Campの提案をいただいて。思い返せばこのあたりから、アマナさんも「CHEER UP!」チームの一員のようになってくれましたよね。
熊本:特にSEOに関する施策を提案した際に感じていたのですが、サッポロビールの皆さんが、短期的な成果を追い求めるのではなく、目指すべきゴールを明確にした上で常に長期的視点考えられていたので、私たちもとても提案しやすかったです。私たちに提供される情報の密度が最初からずっと高くて、これも具体的な提案がしやすい要因になっていました。
──Editorial Campはどのように実施したのですか?
タジリケイスケ(アマナ/以下、タジリ):各ブランドの担当者の皆さんがいつもエージェントからさまざまな提案を受けるのだけど、何をどうジャッジしていいかわからなくて困っている」という話を聞いていたので、実際に編集的な視点やスキルに触れていただくワークショップの機会を設けました。擬似編集会議を実施して、皆さんが考えたアイデアや企画に対して編集視点からフィードバックを行い、企業が発信したいことと読者が求めている情報には乖離があること、だからといってトレンドや興味のあることだけを追いかけてもオウンドメディアとしての役割は果たせないことなどを理解してもらえるように努めました。
普段からクリエティブに触れている方たちばかりで感度も高く、ワークショップの最終日にはそのまま企画化できるのでは、というクオリティまで洗練されたのは印象的でしたね。
杉浦:以前の「CHEER UP!」では、ブランドを中心とし、ブランドが伝えたいメッセージ、ブランドが展開したい形式が常に優先される傾向がありました。それにより、顧客を起点とした視点が抜け落ちていたように思います。ブランドが一方的に価値観を押し付けるコンテンツや、制作陣がコンテンツの完成に自己満足してしまうという状況も見受けられました。それがEditorial Campを経験したことで、お客様の目線に立ったコンテンツ制作について考えを巡らせるメンバーが明らかに増えたと感じています。オリジナルコンテンツの制作についてはこれからまさに本腰を入れていくところですが、最初のステップとして、チームメンバー全員の視点を揃えられたことが何よりの収穫でした。この新たな視点からのアプローチが、お客様とのより深いエンゲージメントにつながるといいですね。
タジリ:ありがとうございます。ここからコンテンツ作りを一緒に進めていくのがますます楽しみになりました。
熊本:コンテンツマーケティングとエディトリアルを組み合わせた施策があまりなかったので、少しチャレンジングな試みだとは思っていましたが、そのように受け止めていただいていて安心しました。
──「CHEER UP!」の現状の課題と今後の展望について教えてください
杉浦:当初、想定していた「既存コンテンツを集約したポータルサイト」という役割については十分に担えるメディアに育ってきたと感じています。最近は、「CHEER UP!」を頼ってくれるブランドも少しずつ増えてきました。一方課題としては、オウンドメディアとしてのさらなる成長といったところでしょうか。というのも、当社には「CHEER UP!」の他にもレシピサイトやファンサイトがあり、当然、SNSでの発信も行っているのですが、そことの連携や役割分担がはっきりしていなくてカニバリゼーションを起こしてしまっています。ブランド軸と販促軸という最初の方針からすると転換したように見える部分もあるのですが、今後はもう少しコーポレートブランディングに特化したコンテンツを増やしていきたいと考えています。熊本さんやタジリさんと話をする中で、「コーポレート軸で考えるのがしっくりくるんじゃないか」と思うようになりました。
熊本:ありがとうございます。私としては、御社は担当が替わられても継続的に施策を進めていることが本当にすごいと思っていて。いずれはサッポロビールさんだけで自走できるようにというのが我々の目指すところですが、これからもどうぞよろしくお願いします。
杉浦:タジリさんも引き続き、面白いアイデアをたくさんお願いしますね。なんでこんなに次々とアイデアが湧き出てくるのか不思議でしょうがないので、今度、一度、頭の中を覗かせてください(笑)。
タジリ:会社の規模が大きくなると、面白い提案をしてもなかなか受け入れてもらえないということも多いのですが、杉浦さんをはじめサッポロビールの皆さんはとても柔軟な思考をお持ちで、おかげでいまは新しいことをやろうという機運がとても高まっていると思います。どういうコンテンツがファンを喜ばせるか、また企業のファンを増やせるのかというところの検証はこれからも必要ですが、引き続き、いろいろな挑戦をしていきたいですね。
取材・文:石川遍
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:瀬沼苑子(アマナ)
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