“使える”生成AIサービス:STYLUS Trend Topics②

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この連載では、世界中のマーケット潮流をリサーチ、レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の日本法人でカントリーマネージャーを務める秋元陸さんに、同社のグローバルレポートに基づき、企業の広報・マーケティング担当者が知っておくべきトレンド情報を解説していただきます。第2回のテーマは、ビジネス界から教育現場まで、幅広い影響をもたらしている「生成AI」です。

高まる企業の関心と懸念

生成AIの話題は、SXSW(※注1)など国際的なカンファレンスのセッションでも数多く取り上げられていて、私たちが生成AI関連の事例をレポートすることも、この半年でぐっと増えてきました。

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https://www.sxsw.com/より

注1:「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)」…毎年3月に米国テキサス州オースティンで行われている大規模なカルチャーイベント。元々は1987年に音楽祭としてスタートしたが、その後、映画祭やテクノロジー系の見本市なども含めて拡大し、現在に至っている。

ChatGPTは日本でも注目を集めていて、日常的に使用されている方も多いと思いますが、私たちがよく使うのは、ChatGPTによく似たPerplextyというサービス。ChatGPTと比べても、最新の情報までカバーしていて、検索エンジンのように使うこともできるので便利です。

企業によっては、ChatGPTをはじめとした生成AIサービスの業務における利用を、一時的に止めているところも少なくありません。理由は、よく知られているとおり、入力した情報が学習に使われることから生じるセキュリティの問題や、ChatGPTの場合は特に、情報のソースや整合性についての疑問からストップがかかることが多いようです。

その点において、Perplextyでは回答の末尾に情報ソースが表示されるので、確認が必要な場合にはソースを見て情報の整合性を担保することができます。日本語対応がまだ不十分(※注2)なところが難点ですが、業務にも十分使えるツールの一つです。

注2: Perplextyは日本語でも利用はできるものの、英語のほうが検索精度が高い。また、日本語で質問しても、回答が英語で行われることがある(原稿執筆時点)。

生産性と、仕事の付加価値を高める生成AI

生成AIの話題が盛り上がると、「AIの台頭によって仕事を奪われるのではないか」とか、「なんらかの作業がAIによって置換されるのではないか」といった声が聞かれます。そうした議論の中で私たちが常々感じているのは、「そもそも生成AIは、使う側のセンスが非常に大事」ということ。

つまり、こうしたAIツールを使いこなせる人は、仕事を奪われることなく、逆に生産性を高めて、付加価値も高い仕事をしていくものと考えられます。AIに対して指示を出す際の、いわゆるプロンプトエンジニアリングに長けているような方です。

たとえば、「ビールの広告に使えそうなビジュアル」をお題にDALLEMidjourney AIといった画像生成AIサービスでビジュアルを作ってみると、イメージに近いものもあれば、もう少し雫が滴るようにしたい、というものも含めてさまざまなバリエーションが出てくるわけです。その中の1つを選んでさらにバリエーションを作らせてみたり、良さそうなものがあれば拡大したイメージを生成させてみるといったことを繰り返しているうちに、なんとなく自分のイメージに合うビジュアルを画像生成AIに作らせるには、どのようなプロンプトにすればよいのかということがわかってきます。

このように生成AIのツールを使えば、デザイン系の仕事に従事する新人でも、ごく短時間で10個でも100個でも異なるパターンを作ることが簡単にできますが、それが実際に使えるレベルのものになるかは、与えるプロンプトのセンス次第です。 

大切なのは、作り手の明確なイメージ

もう少しプロ向けのツールでは、Wonder StudioというAIツールもありますが、これは実写にCG映像を合成するようなときに使われるものです。

https://wonderdynamics.com/より

これまでCGのキャラクターをあたかも人間のように動かすためには、生身の人間が全身黒タイツに身を包み、動きをトラッキングするためのボールをいくつも装着した状態でモーションキャプチャデータを取り、それをもとにCGに動きをつけることで映像制作する必要がありました。しかし、こうしたAIツールを使うと、3D撮影した人物にキャラクターを紐づけるだけで、CGアニメーションをリアルな世界に融合できるのです。

ここでAIが何をしているかというと、リアルな人物とCGキャラクターの縮尺の調整や、これまでCGスタジオのスタッフが手作業で対応していたキャラクターと背景の境目部分の細かな修正などで、それらを自動で一気にこなしています。

音楽系の生成AIツールでいえば、SOUNDRAWといったサービスもあって、曲の長さとテンポを設定して、ジャンルや雰囲気を選択するだけで、例えば「アップテンポでハッピーな、15秒の曲」というものができあがってくるわけです。

このように、静止画でも映像でも音楽でも、生成AIのサポートによってどんどん作れる環境になってきています。そのため、とりあえず何かを作るということは簡単にできるようになりますが、ここから先のブラッシュアップや、よりイメージに近づけていく作業のためには、やはり作り手側の明確なイメージやセンスが必要になってくるところと言えるでしょう。

最後に面白い例を紹介すると、AIによる合成音声もかなり進歩しています。話すスピードなどはもちろん、トーンやニュアンスも簡単に調整できるようになりました。

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AIを活用したテキスト読み上げツール「Natural Reader」。

例えば、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーの声を演じていた役者さんは、自分の若いときの声をAIのデータソースとしてディズニーにライセンス提供しているそうです。年齢とともに声が変わったり、将来的にもし亡くなったとしても、回想シーンでダース・ベイダーを登場させたいようなときに、AIが実際の彼の声で喋らせることができるようになるわけです。

イノベーションを加速させる生成AIツール

The Brainy Insightsの調査によると、「ジェネレーティブ人工知能市場は、2032年に1880億ドルになる」と予測されており、マーケットは確実に大きくなってきています。

懸念点はすでにこれまでに指摘されている通りですが、これからどのように適用していこうかというスタート地点に立っていると言えるでしょう。

私たちのようなイノベーションアドバイザリーでは、例えば「2090年の京都はどうなっているだろう?」といった未来予測に関するご相談を受けることもありますが、それを具体的に説明するには、まだ誰も見たことのない、実在しないイメージが必要になります。そうしたイノベーション領域と生成AIは非常に相性がいいと感じています。

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Midjourney AIによる2090年の京都のイメージ生成例(筆者がMidjourney AIにて作成)

基本的に、AI自体はいろいろなことができる便利なものなので、一般の人たちにとっても、クリエイティブなアイデアを具現化するためのツールとして幅広く浸透していくものと考えています。

AIというと、一見ロジカルで左脳的な力が物を言うと捉えられがちですが、実は右脳的な創造性を養っている人のほうが、AIを活用する仕事のシーンでは価値が発揮できるのではないか、というのが私たちの見方です。実際に触ってみて、そういった右脳的なセンスが問われるということを実感していただくのが、生成AIを理解する早道だと思うのです。

文:大谷和利
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ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。

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