米国のIndustry Dive社が、「短期主義はマーケティングを殺すのか?」と題して「Brand-to-Demand」についての記事を発表しました。コロナ禍が一段落し、企業と顧客とのコミュニケーションにも新たな価値観が構築されつつある現況において、今後のコンテンツマーケティングでは、
・ROI(投資利益率)重視により、企業は短期的な成果を求めるように。
・不確実性の時代に必要なのは長期的な関係構築。
・短期と長期、2つの視点の両立が企業成長のカギ。
がポイントになると解説しています。
企業のマーケティング活動には、常に「成果」が求められます。
これまで、企業のマーケティング活動においてはデータに基づいて効率よく成果を出し、投資に対する効果(ROI)を高めることが至上命令となっていました。昨今のコロナ禍においては、成果に直接つながらない広告予算やマーケティング予算が削減され、より短期的な収益に直結するセールス活動にシフトする企業も多く見られました。
その一方で、長期的なブランディング活動の重要性も再認識されつつあります。ガートナーのレポートによると、33%のCMOがデータドリブンマーケティング(アナリティクス)よりもブランド戦略を優先していることがわかりました。
では、短期的な成果と、長期的なブランド構築、どちらが企業にとって重要なのでしょうか。答えは、両方です。マーケターは、どちらか一方に偏ることなく、両者の長所を組み合わせた統合的なマーケティングアプローチを取る必要があります。
企業のマーケティング活動における「短期主義」、すなわち短期的な成果を重視する考え方は、データドリブンマーケティングやパフォーマンスマーケティングの隆盛により、長年マーケティングのトレンドとなっていました。昨今、この対極概念である長期的なブランド構築の重要性が叫ばれ、「短期主義」のあり方が活発に議論されています。
Warcがマーケティング担当役員を対象に行った調査によると、この「短期主義」は最大の課題として認識されており、回答者の70%が、パフォーマンスマーケティングへの過剰投資を指摘していました。短期的な成果を出すことは、キャッシュフローやオペレーションの観点から、企業にとって当然必要なことです。しかし「短期主義」とは、言い換えると「長期的な視点の不在」であり、ROIやKPIに傾倒しすぎた結果、近視眼になってしまった状態を指します。これにより、ボトムファネルへ予算を集中投下し、マーケティングキャンペーンは刈り取り施策が中心となり、以下のような問題が生じます。
・リードの量は多いが、質が悪い。
・見込み顧客の数が少ない。
・見込み顧客へのセールスアプローチのタイミングを誤る。
企業やマーケターにとって、このような問題は避けたいものです。ROIに寄与するリードジェネレーションやセールスアクティベーションは、マーケティングにおいて非常に重要な役割を担っていますが、それ単体では最大の効果を得られません。重要なのは、ブランド構築のための活動と組み合わせて行うことです。多くの企業は、展示会や新製品の発売キャンペーンなどに多額の投資を行います。しかし、これらの効果は一過性のものです。ブランド認知やブランド想起につながる投資を怠ることは、大きな機会損失となります。即効性のある活動に振り切るのではなく、見込み顧客に対してもアプローチできるように戦略を立てましょう。
ここで大切なのは、こうした見込み顧客のブランドロイヤルティを高める活動は、決して1日や2日で終わるものではないということです。時間をかけて、適切なタイミングで接点を作り出すことが重要です。
企業の多くは、四半期ごとの業績が重要視され、株式市場からは四半期ごとに業績に対するプレッシャーを受けます。このような状況で、企業は目先の顧客獲得のためのマーケティングキャンペーンに集中せざるを得なくなります。こうして、「数字を追いかける」ことに徹してしまうのです。
ROIに達成期限を設けることは得策ではありません。アプローチや戦術によっては、効果が出るまで時間がかかることがあるからです。しかしこれが現場レベルでは、経営者から成果を求められ、最先端のテクノロジー(いわゆるマーテック)に飛びつき、日々の効果測定に追われることとなります。ブランド構築は効果が測定しづらいことから、軽視されてしまうのです。ROIアプローチは、プレッシャーから解放され、経営陣に対してわかりやすい数字を並べることができる魔法でもあり、持続可能性を犠牲にする毒でもあります。
未曾有のパンデミックにより、企業のマーケティング活動に対する見通しは、楽観と悲観が入り混じった混沌としたものになっています。デジタルチャネルへの投資増加、D2Cとeコマースの台頭、販売サイクルの長期化、購買意思決定者の増加、ユーザーによる「セルフサービス化」など、購買プロセスはますます複雑化しています。ユーザーは消費活動に対してさらに慎重になり、情報を巧みにフィルタリングするようになってきています。
ユーザーがよりブランド自体の価値に目を向けるようになっている一方で、コンテンツのコモディティ化によって情報過多に陥り、その結果、ユーザーとのエンゲージメントが希薄になっているケースもあります。先行きが不透明な状況にあるからこそ、統合的なマーケティングアプローチによりユーザーと長期的な関係を築くことが不可欠です。
BrandZの2020年のレポートによると、世界の主要ブランドは、COVID-19による経済的、社会的、人的な影響を受けたにもかかわらず、過去1年間でブランド価値総額が6%増加し、これをブランド構築戦略による成果と評価しています。
企業は、マーケティングやブランディングの予算を削減する前に、一度立ち止まって考える必要があります。こうした状況では、ブランド構築への戦略的投資によって基盤を固めることが重要です。経済活動が再開し始めるにつれ、不確実性に対応するための持続可能な成長戦略の重要性が再認識され始めています。
長期的なブランド構築(ブランドマーケティング)と短期的な成果(デマンドマーケティング)のどちらか1つを選択するのは誤りです。両方を行う必要があります。企業の長期的な成長には、短期的な成功が必要です。なぜならば、ビジネス活動を経常的に続けるためには収益が必要だからです。しかし、長期的なマーケティング戦略がなければ、短期的な戦略は何の根拠もないものになり、成功したとしても打ち上げ花火のように一過性のものになってしまいます。
・ブランド構築を重視しすぎると、たとえセールスパイプラインの強化はできたとしても、企業にとって必要な利益を生み出すのには時間がかかる。
・短期的な成果を重視しすぎると、顧客の育成がおろそかになり、適切なセールスアプローチができない。
統合的なマーケティングアプローチによって、オーディエンスとの接点を最適化し、効果を最大化させましょう。
企業の持続的成長のためには、短期(セールスアクティベーション)と長期(ブランド構築)の両方の戦術を組み合わせつつ、相互に効果を高めるために一貫したアプローチを行うことが重要です。2013年のIPAの調査でも、この重要性は紹介されています。このアプローチが今になって広く支持されるようになったのは、業界の現状を反映していると言えるでしょう。
マーケターはこの10年間、目に見える成果を出すことに砕身してきましたが、近年、見込み顧客のリストが使い物にならないこと、ブランドの価値が低下していることにようやく気づきました。理由は明確です。ROIを追求する一方で、顧客を育成することをおろそかにしていたからです。
この状況を打開するために必要なのは、ブランド構築とパフォーマンスマーケティングのどちらか一方を優先することではありません。ブランドの特性やビジネス目標に合わせ、ブランドマーケティングとデマンドマーケティングの両方をバランスよく行う必要があります。ブランド構築が既にうまくいっている場合、セールスアクティベーションに舵を切る必要があるかもしれませんし、逆も然りです。ブランド戦略とデマンド戦略は本来相互補完するものですが、全く別々の活動として切り分けていたために、どちらも犠牲になってしまっていました。双方がそろって初めて、大きな成果を生み出すことができるのです。
市場調査会社フォーカスビジョンの2020年のレポートでは、B2Bの平均的なバイヤージャーニーにおいて、ベンダーへの問い合わせ完了までに13のコンテンツが消費されていることがわかりました。ブランドとデマンドの中間にはまだ開拓されていない機会が存在しています。この機会を逃さないためには、コンテンツが必要です。
コンテンツは、ブランド戦略とデマンド戦略の仲介役となり、両者を橋渡しする役割を持っています。ユーザーのニーズに合わせたコンテンツを制作し、適切なタイミングで適切なチャネルに提供することで、コンテンツマーケティングの一貫性が高まり、価値のあるものになります。
一方、ブランド構築のためのコンテンツ提供は、より長期的な取り組みとなります。ブランドマーケティングにおけるコンテンツは、広告キャンペーンでは伝わりきらない企業の実質的な価値を伝えるストーリーテリングの役割を持っています。一方、デマンドマーケティングにおいては、ユーザーのモーメントに合わせた情報提供を行い、見込み顧客をより質の高いリードに育成する役割を持っています。
企業のマーケティング活動を促進し長期的な成長に導くため、マーケターはブランドとデマンドの両方に投資を行う必要があります。ブランド構築によって製品やサービスに対する需要を創出し、リードジェネレーション戦略によってブランドへの好意度の高いユーザーをアクションにつなげることができます。
ブランドマーケティングとデマンドマーケティングを統合し、目標や成果の達成のために一体となって取り組みましょう。コンテンツを活用することで、ユーザーのストーリーを定義し、キャンペーンの価値を高め、ファネル全体を通じて意味のあるインタラクションを生み出し、見込み顧客を育成しましょう。
不況や社会の変化、消費者行動の変化に対応し、ROIを長期的に高めていくためには、これまで述べてきたような取り組みが必要不可欠です。
短期的な成果にのみフォーカスすることはとても簡単です。一方で、長期的な視点に立ち、ブランドとデマンド両方の戦略で持続的な成長を実現するのには、時間がかかるかもしれません。
あなたはどちらを選びますか?
元記事「Is Short-Termism Killing Marketing? 」は、2021年3月10日にspringboardに掲載されました。
この記事は、studioIDのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、studioID@industrydive.comまでお願いいたします。
文:野口洋人(アマナ)
デザイン:中村圭佑
amana Content Marketing
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コンテンツマーケティングの本場であるアメリカで、業界を牽引するリーディングカンパニーであるIndustry Dive。国内唯一の独占パートナーであるアマナがその集合知を活用し、成果へと繋がるコンテンツマーケティングをサポートします。
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