この連載では、世界中のマーケット潮流をリサーチ・レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の日本法人でカントリーマネジャーを務める秋元陸さんに、同社のグローバルレポートに基づき、企業の広報・マーケティング担当者が知っておくべきトレンド情報を解説していただきます。
第6回のテーマは、パッケージングの素材やデザインの側面から、環境問題の解決に貢献しようとする動きについての概要と分析です。
さまざまな企業が環境問題と向き合っていますが、プラスチックの削減という点では2025年が1つの大きなポイントになるといわれています。
日本のコカ・コーラシステムは2025年までに全てのペットボトルへのサステナブル素材の使用を目指しており、ネスレは2025年までに包装材料を100%リサイクル可能あるいはリユース可能にすることを目指しています。このように「2025 年までに、○○を達成する」という目標を掲げている企業は複数存在しています。それが今では、あともう1年もないところまできてしまいました。
プラスチックの廃棄量のデータに注目してみると、2022年を2019年と比較しただけでも600万本もの廃棄物が出ていることがわかっています。そのほとんどが化石系燃料を原料としているのですが、実際のところ、2025年にリサイクルなどの目標を達成することは難しい状況だといわれているのです。
だとしても、2025年になって「達成できませんでした」と謝れば済むわけではないので、2024年は今まで行ってきた対策などを振り返って検証する年になり、取り組みの改善や新たな方策を考えることになるでしょう。そのときに、パッケージングの素材やデザインの変更が意味を持ってくるという、3つの観点から見ていきましょう。具体的には、顧客体験なども含めたパッケージングシステムの進化、代替プラスチックの今のトレンド、そしてデザインが果たす役割という3点です。
パッケージングシステムについては、生活者の意識改革を含めた取り組みが始まっていますが、やはりドラスティックな改善のためには国レベルでの規制をかけざるを得ないという流れになってきています。
特に、環境意識の高いEUでは、すでに2030年までにEU内のすべてのパッケージングを完全にリサイクル可能なものにすることや、ペットボトルや缶のデポジット制度を義務化することがルール化されました。そして、再利用にあたっても、製品を直接覆っている一次梱包なのか、それをまとめてカバーする二次梱包なのかによっても、細かく規定が設けられています。
一方、アメリカでは州ごとの法律が独立して制定されていますが、たとえばカリフォルニア州は、2032年までにすべてのパッケージングをリサイクル可能としたり、土に還るものにする、もしくは詰め替え可能なものにしたりするということを義務づけているわけです。
そして、2032年を越しても、使い捨てのプラスチックの容器などを作り続けているブランドには、生産者責任プログラムが用意され、それに参加して、リサイクルのインフラを支援するための手数料的なお金を支払うことが義務付けられます。つまり、カリフォルニア州の例では、ルールを厳守するか、守れなければお金を払うという方向にシフトしているということです。
欧米に比べると中国は遅れ気味ですが、それでもスーパーマーケットで陳列される野菜などの生鮮食料品のラップを巻く回数を減らしていくようなところから、規制がかかりつつあります。こうした動きの理由としては、地域別にプラスチック廃棄物の量を見たときに、一番多いのは世界中のプラスチック梱包の41%を占めている北米・南米のエリアで、アメリカが19%、ブラジルが13%となっていたり、ヨーロッパ全体で24%を占めていたりいるためです。アジアは21%ですが、中国だけで12%を占めています。
このように国や自治体レベルでの規制がある一方、ヨーロッパでは業界単位での取り組みも行われ始めました。フランスではフードサービスや飲食業界がレストランでの使い捨てのパッケージを禁止しようとしていますし、ドイツではウーバーのようなデリバリーやテイクアウトも含めて、すべての食品流通業者やレストランが再利用可能なパッケージングを提供することになっています。
このような意識の高まりは、先に触れた2025年の目標もありますが、データの可視化が進んだことの影響も大きいですね。たとえば、スウェーデンのスタートアップ企業が開発した「The 2030 calculator」というツールでは、ブランドが自社の製品についてそのカーボン排出量のデータ計算を行うことができます。その結果、ROSEというワインメーカーは、ミニボトルで提供していたワインを、よりリサイクルしやすいアルミ缶に変更しました。企業の環境負荷が実際に株価にも影響する可能性があるため、このような変更を積極的に行っていくことがトレンドにも現れるようになってきているわけです。
ファストフードレストランやリカーショップでも、このようなリユースできる容器を積極的に取り入れていますが、容器にメッセージ的な言葉やかわいらしい蓋が付いていたり、再利用可能なボトルと共にお酒のリフィルサービスを用意したり、ボトルにリフィル可能であることを示すラベルを貼るなど、使って嬉しくなるような工夫を施すことがトレンド化しつつあります。そして、環境に配慮したライフスタイルにシフトしていきたいという生活者の根強い声に応えるためにも、企業は、利便性や機能性に加えて楽しさやかわいらしさを重視する傾向が見られるのです。
また、素材面でも、何回でも使えるシリコーンであるとか、清潔感のあるメタリックなアルミ、あるいはパステル系のポップなカラーで下地にベージュをあしらった色を積極的に使う商品が増えてきています。
さらに代替プラスチックの分野では、海藻から作られた新素材で、最終的に土に還るものも出てきていますが、どうしても量産性とコストがトレードオフになるため、それを解決する研究も進んできました。そのアプローチにも個性があり、たとえばLoliwareでは、海洋素材のプラスチックでありながら既存の生産設備を利用できるようにしているので大きなインパクトがありますし、Haeckelsは微生物からバイオポリマーという素材を作っています。同じ海洋由来の素材でも、いかに高級感を出すかという点に注力しているNotplaでは、時計のケースなどに応用して黒っぽいマットな質感を実現しました。
それからバイオマスという素材もよく使われていますが、これまでは生産時に大量の水が必要な点が問題でした。ところが、Tracelessという会社は、そうした環境負荷も抑えつつ品質も価格も従来のプラスチック製品に匹敵するようなバイオマス素材の研究開発を進めているので、代替プラスチックとしてこれから注目を集めるようになる可能性があります。
一方では、菌糸を使って靴や小物のパッケージングを作っているThe Magical Mushroom Companyという企業もあります。キノコは6日か7日程度で栽培できますし、できた梱包材は結構丈夫で、乾燥した状態で保存すれば30年くらい持つと言われています。そもそも代替プラスチックの生産が環境に負荷をかけてしまっては本末転倒ですので、海洋由来だったり、農業の副産物のバイオマスであったり、生育の早いキノコの菌糸を使ったりすることが重要になってきています。
先ほどのリサイクルやリユース性を訴求するものと、代替プラスチックを使用していることを訴求するものでは、デザイン的にも少し違ってくるのが興味深いですが、代替プラスチックの場合にはカラーリングがダークな色合いになる傾向が見られます。というのは、現時点の代替プラスチックはまだコストがかかりがちなので、その分を生活者に転嫁するときの体験価値として、高級感に落とし込もうとしているためです。
つまり、機能性や価値が同じだとしても、環境に配慮していたり、新しい素材を提供していたりするために、少し金額が高くなってしまうことを許容できる生活レベルの人たちに対して、それを所有することで得られる優越感や満足感、充足感のようなものを提供してあげられるように、代替プラスチックを利用している製品は、比較的高級感のある質感やシックな色合いを取り入れるケースが増えていると言えます。たとえば、石のような質感を持った詰め替えボトルがありますが、これは骨董品のような美しさや高級感を提供することで、自然を美学として捉えた少し高尚なアイテムとして位置付けてもらうようにしているということです。
またLouis Vuittonは、草間彌生さんのようなアーティストとコラボして、インスタ映えするような記念パッケージを提案したことがあり、他のメーカーの製品にもポップでかわいいものが少なくありません。使う人が満足できることを考えた結果、いろいろな素材や質感が試されていて、ちょっとレトロなものやサイケデリックなものも出てきています。I Am On Edgeというブランド名などは、まさに「私は最先端」という意味ですし、新しいことにチャレンジしている生活者を応援するような要素が、パッケージデザインにも反映されてきていると言えるでしょう。
実は、閉塞感のある時代には遊び心のあるポップな色や形が話題になる、ということが定説化していて、新型コロナウイルスなどの影響を受けたこんな世の中だから、日常的に使うものにそういうかわいらしいデザインを施すことで、いろいろな人に長く愛されるものを提供できると考えられていたりします。
世の中がインフレになっていることもありますが、一度買ったら長く使い続けるという価値観がかなり強くなってきました。英語では、「Buy Once, Use Forever」と言いますが、買ったものを長く使い続けるほうが環境負荷が少なくてエコですし、企業同士も競い合うよりコラボレーションによって持続性を高めようとしています。業界をまたぐ協業やブランドのコラボによって、お互いの強みを掛け合わせ、より良いものを生活者に提供していこうとする流れが、今の主流なのです。
デザインにしても、単にカワイイとかカッコイイということではなく、素材やその先のサプライチェーンまで含めたインフラとして考えることが重要になっています。つまり、パッケージを作るときの環境への配慮に加えて、使用後にどのように回収されて再利用や廃棄されるのかというところまで含めてのデザインということなのです。
今後、企業はここで取り上げたようなことを念頭にパッケージやデザイン開発を行っていくことが、何より大切になると言えるでしょう。
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文:大谷和利
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